その場にいた全員が息を飲んだ。スネイプは顔を楽しそうに歪ませながら、脱いだ透明マントを軽く振ってひらひらとさせる。ブラックが慌ててさっと立ち上がり、スネイプを睨んだ。
「ポッター。物の管理はちゃんとすることだ。……役に立った故、感謝するが……」
ハリーは信じられなかった。たとえ冗談や皮肉とはいえ、スネイプがハリーに『感謝する』? 強烈な違和感を、ハリーだけが覚えていた。スネイプは勝利を確信した風に、顔をほころばせている。
「諸君はなぜ、
スネイプの目がぎらりと光る。その眼光はルーピンを射抜いていた。
「いくつもの偶然があった……。最初の偶然はルーピン先生。貴様が脱狼薬を飲み忘れているのではないかと懸念に思ったことだ。幸運だった。実に。脱狼薬をゴブレットに入れて、貴様の居室に行き、机を見てみれば、何やら見覚えのある……そう、貴様が『処理する』と言った羊皮紙だ……それがあった。その羊皮紙に書かれていることを見て、吾輩は全ての謎が氷解するのを感じた……実に、いい気分だった。今年のポッターがやけにカンがよくなったのも、当時の悪ガキどもがホグワーツに勢ぞろいしていることも……全て、あの羊皮紙が知らせてくれた」
ルーピンはごくりと喉を鳴らした。彼にとって今の状況は最悪だった。カサンドラに悪い印象を持たれてしまったこともそうだが、よりによってスネイプに知られてしまった。
「吾輩は何度も……進言した。ルーピン先生は旧友のシリウス・ブラックを支援し、ホグワーツ侵入に手を貸していると。ルーピン先生……いや、ルーピン。動かぬ証拠というやつだ。まさか学生時代と同じ隠れ家を使うとは、さしもの吾輩でも予想がつかなかったが……」
「スネイプ先生、誤解なんですよ。その、ちゃんと説明させてください」
ルーピンの声は切羽詰まっていた。ルーピンがダンブルドアからの信頼を損なうことを恐れたのは、ホグワーツから追い出されたらまともな仕事なんてどこにもないからだ。スネイプと、そしてカサンドラが言えば確実にルーピンはクビになる。そうなれば……ルーピンにはみじめな未来が待っている。
「説明は不要。全て聞いていた。つまり、アズカバンに叩き込まれる者が一名増えたということだ」
「違う、私は……」
「ダンブルドア先生がなんとお思いなるでしょうなぁ……。こんなひどい裏切り、吾輩見たことがない……過去に一度だけしか。シリウス・ブラックの残酷な裏切りに匹敵する……」
「スネイプ先生、冷静になってください。学生時代の恨みで、無実の者をアズカバンに送り込むというのですか?」
返答は魔法だった。スネイプは杖の先から何本もの細い紐を生み出し、その紐をルーピンの要所要所に巻き付けた。口、手首、足首を縛られて、ルーピンは床に転がる。
「スニベルス!」
ブラックがスネイプに襲い掛かろうと足を踏み出す。その眉間に、スネイプは杖先を突き付けた。
「死にたいのならば好きに動くがいい。犯罪者に襲われれば……正当防衛が成立するゆえに」
」
状況は一触即発だった。
「……カサンドラ、貴様はどうする」
「といってもな。結局長々と学生時代の話をされてただけで……正直、どっちが無実かどうかってのはよくわからなかった」
カサンドラが言うと、スネイプは楽しそうに笑った。
「で、あろうな。この者たちは学生時代から人を慮るということを知らん。どうすれば人に伝わるのか……そんな基礎的なことすら考えたことがないのであろう。野生の獣のようだ」
「ずいぶん吠えるようになったな、スニベルス。ちゃんと使う呪文は勉強してきたのか?」
スネイプとブラックは絶対零度の冷たさでお互いを睨む。
「あ、あの、スネイプ先生」
「――ミス・グレンジャー。停学は覚悟できておるのだろうな?」
恐る恐るスネイプに話しかけたハーマイオニーに、スネイプがそっけなく言った。
「君も、ポッターも、ロン・ウィーズリーも……何を考えているのかね。許容される限界というものをこうも容易く超えられると、説教する気にもならん。わかったら君は黙っていたまえ」
「で、でも、誤解かもしれないじゃないですか」
「黙れと言っているのが、聞こえなかったのかね。誤解『かもしれない』? そんな
スネイプに怒鳴られ、ハーマイオニーはびくりと肩を跳ねさせた。
「……復讐は蜜よりも甘い……」
スネイプは視線をブラックのほうに向けて、せせら笑う。
「実に……素晴らしい『自白』だった。そうは思わないかね、カサンドラ。この犯罪者は、吾輩を学生時代に殺しかけたことを、ほんのカケラも悪いと思っていないのだ……。そんな人間の無実を信じる? 吾輩なら服従の呪文にかけられているかどうかを疑う」
カサンドラは首を縦に振った。
「まあ、『無実の善人』ってわけじゃないのは確かだろうな。有罪判決を覆すような証拠もないようだし……シリウス・ブラック。諦めて死ね」
「そうだとも。ブラック。貴様に待つのは死だ」
「はん。お生憎様。ただ……少し考えてみるべきじゃないか? 私が抵抗するよりも、大人しくついていくと言ったらどうだ」
「カサンドラの前で暴れられると思っているのなら、楽観が過ぎる」
「まあ、聞け。そこのネズミだ。ネズミ一匹だぞ?」
スネイプはせせら笑う。
「ネズミ一匹で、どこまでついてくるというのだ? 城までかね? よもや吾輩が貴様をそこまで生かしておくとでも思ったのかね? ホグワーツの領地に入った瞬間に、吾輩は吸魂鬼を呼ぶ。わかるだろう? 学生時代の再来だ……貴様に恋焦がれる数多の
「待て」
ブラックが焦ったように言った。その顔には明らかに焦燥が滲んでいた。
「聞いてくれ……ネズミなんだ……ネズミを見ろ!!」
だが、もはやスネイプは全く取り合わなかった。スネイプはカサンドラのほうを見た。
「この化け物は吾輩が運ぶ。この犯罪者を見張ってもらってよろしいかな、カサンドラ」
「ああ」
「まて……私は無実なんだ! お前にだって何度も説明しただろう!」
「私が説明されたのは学生時代の『おいた』だけだ。同情を引く手管はすごいと思ったよ。だがそれだけだ」
カサンドラはブラックの後ろに立って、その背にレオニダスの槍を突き付けた。
「この槍はバジリスクすら貫く切れ味がある。自分の体がバジリスクより頑丈かどうかを考えて行動しろよ」
「……クソッ! 後悔するぞ……! 真実を知らずに私を殺すつもりなのか!」
スネイプは満足そうに頷くと、床に倒れたままもごもごと何かを呻いているルーピンを魔法で浮かせた。部屋を出ようとしたところで、ハリーが立ちふさがった。
「ポッター、どきたまえ」
「僕は……ルーピン先生が悪人とは思えない」
スネイプは呆れたような表情をして、心底心配そうな声で言った。
「悪人に見える悪人が世にどれほどいると思っているのだ、ポッター? それだけは学んでいると思っていたのだが」
「ルーピン先生が僕を殺す気なら、いくらでもチャンスはあった……本当にブラックを手引きするなら、いくらでも。だって僕は吸魂鬼対策の訓練を何回も、二人っきりで受けてたんだ。そのチャンスを使わないなんて、あり得ないよ」
「浅はかに過ぎると気づかないのかね。全く、貴様の考えなしには呆れ返る! その状況で貴様が死ねば誰が最初に疑われるのか考えてから物を言っているのか!?」
ハリーが押し黙る。
「もうこれ以上はいい。どけ、ポッター!」
「学生時代に何かあったからって、それで二人も投獄するなんてどうかしてる! 恥を知れ!」
「黙れ! 口の利き方に気を付けろ!」
スネイプとハリーはますますヒートアップしていく。
「まて、二人とも、落ち着け。ハリー、犯罪者をそう庇うな。ルーピンの方は最悪アズカバンで済む」
「アズカバンで済む!? カサンドラ、そこがどんなところかわからないからそんなことが言えるんだ! 知ってたらスネイプがどんな悪辣かわかるだろうに!」
「これ以上問答する気はない! どけ! さもなくば無理にでもどかすことになる! 父親と同じ末路にならないように守ってやっているのに、感謝の一つもしないなど……!」
ハリーはもはや迷わなかった。
「『エクスペリアームス! ――武器よ去れ!』」
素早い呪文。しかもその呪文が飛んできたのはハリーの方向だけではなかった。ロンとハーマイオニーもほとんど同タイミングで武装解除呪文を放った。だが。
「――思い上がりだな」
「ロン! ハーマイオニー! お前ら何考えてる!」
しかし、ハリーの呪文はスネイプ自身に防がれ、ロンとハーマイオニーの魔法はカサンドラに切り払われてしまった。
「……私、せ、先生をこ、攻撃してしまった……な、なんてことを……」
「嘘だろ……不意打ちだったろ?」
「ああ、もう。後悔するくらいなら最初からやるな。ロン、不意を打つなら呪文を唱えたりするな。丸わかりだ。で、スネイプ、そっちは大丈夫か?」
「無論」
カサンドラにスネイプは向き直ると、ハリーのことを歯牙にもかけない様子で答えた。
「所詮は、戦闘の場に居合わせただけにすぎん。教師に勝とうなど、無謀が過ぎる」
「まったく。お前らそろいもそろって大人を何だと思ってる。まあいい。帰ったらお説教と減点、罰則……来年度か? どっちでもいい。覚悟しとけ」
「左様。では行くとするか」
「ああ。その前に、スネイプ」
カサンドラが申し訳なさそうに切り出すと、スネイプがあからさまに機嫌を悪くした。
「よもや、カサンドラ。貴様も彼奴等の話術にほだされたとは言うまいな?」
「いや、そうはいってない。ただ、一つだけ確かめておくべきなんじゃないかと思ってな」
「ネズミが人がどうか、かね」
「そうだ。スキャバーズが人かどうかは、まだはっきりしていない」
スネイプは鼻で笑った。
「カサンドラ。それが奴の手口だとなぜ気づかない? ロン・ウィーズリーのネズミが人であろうがそうでなかろうが、ブラックの判決が覆るわけではあるまい」
「まぁそうなんだがな。そいつを吸魂鬼に引き渡すのとは別だ。真実は知りたくないか?」
「真実? ブラックが無実の人間で、実はそこのネズミが全ての黒幕……そんな都合のいい真実が明るみになると?」
いや、とカサンドラは言う。
「正直そうはならないとは思ってる。だがなスネイプ。よく考えてみろ。ネズミ一匹と、『長年ネズミに化けてた人間』では意味が大きく変わる。より愉快な真実を知ってるんじゃないか? つまり……アズカバンに送る人間がもう一人増えるかもしれない。私が考えてるのは、ブラックとペティグリュー、どっちも裏切者で実は内部分裂だった……とかな」
「……ほう」
カサンドラの言葉に、スネイプがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「実に……それは面白い。ブラックはそこのネズミが『ピーター・ペティグリュー』だと思っているのだったな……もしそうなら、くくく、『マローダーズ』は一人残らずアズカバン送りというわけだ。確かにそれは愉快」
スネイプはじっと、ブラックを見た。
「好きに囀り給え。しかし、先ほどのような昔話をするようなら、話はこれで終わりだ」
スネイプに冷たく宣言されると、ブラックは観念したようにうなだれて、そしてじっとハリーを見た。
「……私が裏切ったんじゃない。ピーターが裏切った。奴が『例のあの人』に尻尾を振って、ジェームズとリリーの情報を売り渡した」
スネイプの目が興味深そうに細められる。続けたまえ、と静かに告げた。
「嘘だ」
ハリーが言った。
「『秘密の守り人』はブラック、あなただ! それに、自分で言ったじゃないか、自分が殺したって!」
「……黙り給え。そもそもポッター。貴様それをどこで知った? ……だが、それはもはやどうでもいい……」
催促するように、スネイプはブラックを睨む。ブラックはその鋭い視線をまともに受け止めることができなかった。
「……私が殺したも同然だ。最後の最後、私はジェームズとリリーに、ピーターを守り人にするように勧めたんだ。――……意外だろう? 誰もが私を守り人だと思うだろう。だが実は私は守り人ではないのだ。ゆえに、私を追う限り秘密は永久に、何があっても守られる……そのはずだった」
「……貴様!」
スネイプが信じられないような顔をして、ブラックに詰め寄った。
「そんな悪戯小僧のような理屈で! あの小物に最も大事な鍵をみすみす渡したのか!? ちょっと脅しつけるだけで全部秘密を売り渡しそうな、そんな人間に! あれは、リリーを守る秘密でもあったのだぞ!? それを、そんなぞんざいに扱ったのか!?」
「完璧なはずだった! だってそうだろう、誰がピーターが守り人だと思う!? ピーターに追っ手が行くわけがなかったんだ!」
スネイプは顔を憤怒に滲ませて怒鳴る。
「吾輩ならマローダーズ全員に襲撃をかける……! 貴様は、ホグワーツで悪戯以外を学ぶべきだった……!」
スネイプは杖を持って、ロンに詰め寄る。
「ロン・ウィーズリー! ネズミを出したまえ」
「え、ええ? せ、先生までそんなこと」
「とっととしたまえ!」
ロンはびくりと驚いて、ネズミを掴んだ手をスネイプの前に差し出した。
「……これでただのネズミだったら、ブラック。貴様に磔の呪文をかけてやる」
「自分がアズカバンに行くことはないだろう」
「闇の魔法使い相手ならば合法だ」
そういやそうだったな、とカサンドラは言った。スネイプはピクリとも笑わない。
「……この私がブラックの戯言に耳を貸すことになるとは、忌々しい……」
スネイプがネズミに杖を向ける。スキャバーズはひと際大きく暴れだす。スネイプが呪文を唱える。
すると、閃光が迸り。
信じられないことが起こった。
強制的な変身。ネズミの体が早送りをするように大きくなり、やがて小さな男になった。
小柄な男だった。ハリーやハーマイオニーと背丈はそう変わらない。色褪せた髪の毛はくしゃくしゃで、てっぺんに大きな禿げあった。皮膚はスキャバーズのように薄汚れ、とがった鼻や小さく潤んだ瞳はまだ若干ネズミっぽかった。小さく、荒く息をすることもよりネズミ感を増している。爆発事件の時に吹っ飛んだ左手の薬指は、第二関節から先がなかった。
「あ、ああ……せ、セブルス。ひ、久しぶり……シリウスに……リーマスも……」
「……実に、久しぶりであるな。知ってるかね、ペティグリュー。吾輩と貴様は魔法薬学の授業中に顔を合わせていたようだ」
「あ、はは、そ、そうみたいだね、セブルス。その、ああ、学生時代みたいだ」
スネイプの目はにこりともしていなかった。
「ピーター……久しぶりだな」
ブラックが飛び掛かろうとするが、すぐそばにいるカサンドラが肩を押さえつけて止めた。止めたカサンドラも、視線はピーターに固定されていた。
「本当に……スキャバーズがペティグリューだったんだな。12年か? どれくらい前から飼ってるんだ、ロン?」
「……おっさん……? 嘘だろ……? 夢……いや、幻……?」
カサンドラは肩を竦めた。しばらくまともに会話できるかどうかもわからない。
「『エクスペリアームス――武器よ去れ!』」
ハッと、スネイプが後ろを振り返った。ハリーに縄を解かれたルーピンが武装解除呪文を放ったのだ。全神経をピーターに向けていたスネイプは完全に不意を撃たれ、杖と一緒に吹き飛ばされた。壁に叩きつけられ、ぐったりとなった。
「おい、スネイプ! ルーピン! 何を考えている!」
「……彼に責任を負わせないための処置さ。我々は今から罪を犯す。……お願いだから邪魔しないでくれるかな、カサンドラ」
「何が言いたい」
ルーピンはカサンドラの脇を通り抜け、ピーターのすぐそばに近づいた。
「あ、ああ、リーマス」
「久しぶり」
「り、リーマス、君はし、シリウスの言う事を信じたり……しないよね? 知ってるだろう、あいつは私を殺そうとした、裏切者なんだ……」
「そう聞いていた」
ルーピンの声は冷たかった。少なくとも、スネイプに向ける物よりかははるかに。
「いくつかの事実をはっきりとさせよう。それだけでいいんだ」
「シリウスは私を殺しにやってきたんだ!」
ピーターはブラックを指さして金切り声を上げた。だが、誰もブラックの方を見ようとはしない。
「ジェームズとリリーを裏切ったんだ……私は敵じゃない、わかっているだろう、リーマス……」
そう言いながらも、ピーターの視線は部屋中をいったり来たりしている。小さな隙間、外に通じる穴。そんなものは存在しなかった。
「君にしかわからないことがあるんだ……答えてくれるね、ピーター」
「も、もちろんだよ、リーマス」
「なぜ、ネズミの姿に?」
「決まってる、シリウスが私を殺しにくるとわかっていた。だからずっと隠れることにしたんだ。恐ろしいじゃないか、例のあの人の手下が、僕の命を狙っているなんて!」
それは妙だな、とルーピンは言った。
「君の策は完璧に嵌ったはずだ……悲劇の主人公として、シリウスの目の前で吹っ飛んだ
「そ、そんなの簡単さ、リーマス。例のあの人がシリウスにアズカバン脱獄の魔法を伝授していたのさ」
「それを本気で言ってるのか、ピーター」
ブラックが歯をむき出しにして言った。
「そんなものが存在するなら、私以外にももっと脱獄囚が出てきていいだろう。お前は私がアズカバンから脱走なんてできるわけがないと確信していたはずだ……。隠れ潜んで『ただのネズミ』になる必要は何一つなかった……。お前が逃げていたのは私ではない。ヴォルデモートの仲間から逃げていたのだ! お前の情報が元でヴォルデモートが滅んだ。他の連中にとってしてみれば、お前は二重スパイか出来のいい暗殺者にしか見えなかっただろう。そう思われていることを悟ったお前は、誰もかれもから逃げ隠れることにしたのだ!」
「違う……いや、違わない。そうとも、私は例のあの人の手下から逃げてた……。当然だろう? 私は死喰い人筆頭のシリウス・ブラックをアズカバン送りにすることになったきっかけそのものなんだよ? 恐ろしい……きっと死喰い人が全員私の命を狙っている……そう思ったら隠れざるを得なかったんだ」
「私が死喰い人筆頭?」
ブラックはバカにしたような笑みを浮かべた。
「私が強者にへこへこするように見えるか? ……お前の裏切りを見抜けなかったのが不思議でならないよ。お前はいつもあっちへふらふらこっちへふらふら、その時の時勢に合わせて、所属するグループを変えていたな。学生時代は我々に、そして、ヴォルデモートが台頭してきたら奴に。ジェームズ達の情報を奴に話した時が、貴様の人生で最も輝かしい瞬間だったんだろうな。――忌々しい……!」
ピーターは何度も小さく違う、とかブラックは気が狂ってる、などと主張した。カサンドラにはぎょろぎょろと部屋を見回す様子が不審に思えて仕方がなかった。
「だが……ルーピン、妙なこともあるぞ。そこでロンがイカれてるところを見ればわかる通り、スキャバーズになってからのそいつを人間だと思った奴は一人もいない。つまり、どんなタイミングでハリーを始末しても、絶対に疑われることはなかった。――だがハリーは無事だ。そのことにどう説明をつける?」
「ああ! 聞いたかリーマス! そうだ、そうなんだよ! ほらハリーを見てご覧、彼は今初めて私を見たという顔をしている……! つまり、私が彼を害する気持ちなんてこれっぽっちもなかったという証明じゃないか! ああ、それに気づかせてくれるなんてなんて素敵な人なんだ! さすがはカサンドラ……! 秩序の守護者……」
ピーターは感極まって涙を流した。しかし、ブラックの表情は冷たいままだった。
「なぜか教えてやろう。
お前は、自分の利にならないことは何一つしない奴だからだ。忠誠の二文字すら頭に浮かんだことはないだろう。誰からも利益をもらえないのにハリーを殺して正体が露見するリスクを犯せるわけがない。情報が入ってくるであろう魔法使いの家に潜り込んで、ヴォルデモートが復活し、最高のタイミングでハリーを殺し、ヴォルデモートに取り入る瞬間をずっと待ってたんだ」
「そんなのは妄想だ……! アズカバンで彼はおかしくなってるんだ、なぁカサンドラ。僕は確かに隠れ潜んでいた。でもそれが悪いことかな、どう思う?」
カサンドラは苦い顔をして首を振った。結局、真実を口にしているのはブラックとピーターのどちらか。もう事件そのものも昔のことで、外部から検証することはできない。
……つまり、水掛け論でしかないのだ。
「結局、証明の手立てはない。お前がヴォルデモートの配下かどうかも、ブラックが守り人だったかどうかも、今となっては誰にもわからん」
カサンドラはどうしたものか、と悩みはじめる。子供達に目を向けると、ハリー達はもうすでにブラックのことを信じかけているようだった。確かに、状況は劇的だ。裏切者の殺人犯が『実は無実なんだ』と主張し、新しく浮上した容疑者はいかにもヤバそうな小太りの中年男。今年一年冤罪事件に立ち向かっていたのも相まって、冤罪だと主張するブラックにずいぶん同情的だ。
「……全く、こんなことが真実なんて……。パッドフット、君を信じなかった私を許してくれ」
「もちろんさムーニー。さぁ」
ブラックはルーピンと頷き合う。ルーピンも同じことを考えているようだった。
「一緒にこいつを殺そう」
ブラックは楽しげに、そう宣言した。