【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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守護霊の呪文

 殺意をにじませる言葉を聞いたカサンドラは思わず、子供たちの方を見た。

 

「――三人とも、私のそばに来い」

「で、でもカサンドラ」

「来い!」

 

 カサンドラが怒鳴ると、ロンとハリー、ハーマイオニーがカサンドラのすぐそばにやってきた。カサンドラはブラックとルーピンから三人を庇うように一歩前に出た。

 

「それで……ルーピン。お前の生徒が三人ここにいる。それでも殺すというのか?」

「もちろんだよ、カサンドラ。僕たちはするべきことをしなければならない……そうだよね、パッドフット」

「ああ……ムーニーの言う通り。薄汚い裏切り者を、消さなければならない」

 

 カサンドラは手にした短剣を握り直した。

 

「随分と過激じゃないか。優しいルーピン先生はどこに行ったんだ?」

「――こいつを殺したら、戻ってくるよ」

 

 ルーピンが杖を手に一歩前に出た。

 

「ひ、ひいっ!」

 

 ピーターは怯えた様子でカサコソと膝立ちでカサンドラの足元までやってきた。まだ人としての歩き方を思い出していないらしい。

 

「こ、殺させないでおくれカサンドラ……。そんなの間違っているだろう……?」

「近づくな」

 

 ピーターは今度は、ロンのすぐそばまでやってきて祈るように手を合わせた。

 

「ロン……私はいいペットだった……。そうだろう? 君のネズミだった……猫から守ってくれたように、あいつらからも守っておくれ……」

「僕……ホントに……ホントにお前を自分のベッドに寝かせていたのか!?」

 

 ロンはまだ現実が受け入れられていないようだった。カサンドラにも気持ちはわかる。イカロスの正体がもし小太りでチビの中年男性だったなら、この先果てしなき旅路が終わるまでワシ使いの名前は返上することも辞さないだろう。

 

「そうだ、そうなんだ……。優しくて慈悲深いご主人様……。私は君のいいネズミだった。そこの二人を説得しておくれ……」

 

 ピーターの哀願にもロンはフルフルと首を振るだけだった。

 

「ハーマイオニー……! 優しくて賢いお嬢さん……。哀れなピーターをどうか恐ろしい運命から救っておくれ」

 

 ピーターはハーマイオニーのローブに縋り付こうとする。ハーマイオニーは小さく悲鳴を上げて、カサンドラの影に隠れてしまった。

 

「ああ、ハリー」

 

 跪いて、ピーターはハリーに哀願した。

 

「君はお父さんにそっくりだ……お父さんのように、僕を守ってくれるよね」

「貴様、ハリーに話しかけるとは、どういう了見だ!?」

 

 ブラックが怒鳴った。その表情は憤怒に燃えている。

 

「どの面下げて、ハリーに命乞いしてるんだ!?」

「ハリー……きっと君のお父さんなら僕に情けをかけた……。そうなんだよ……優しくて素晴らしい人だった……」

 

 ルーピンとブラックが、なおもジェームズを語るピーターに痺れを切らした。大股でズンズンとピーターのところまで歩くと、その両肩を二人で掴んで引きずり倒した。ずるずると引きずられ、ピーターは激しくもがいた。ピーターが子供のように泣き喚く。

 

「ジェームズとリリーをヴォルデモートに売ったな」

 

 ブラックが最後の確認とばかりに聞く。ピーターは答えなかった。泣き喚いて、赤子のように首を振る。

 

「嫌だ……死にたくない……! 助けて……カサンドラ……! どうか助けておくれ……死にたくないんだ……! 死ぬのは嫌だ!」

 

 ストレートな命乞いに、カサンドラは顔を顰める。ちらりと子供達に視線を向けると、三人とも目を見開いて事の成り行きを見ていた。命乞いが覿面に効いているらしい。ハラハラとした様子で、三人ともカサンドラの服の裾を掴んでいる。

 

「死にたくないだと!? よくも、そんな……!」

「仕方がなかったんだ……! シリウス、どうかよく考えておくれ、シリウス……! 闇の帝王は、恐るべきあのお方は信じられないほどに悪辣な手を使うんだ……。恐ろしい……! 私は怖かったんだ! 死にたくなかった……! 拷問されるのも嫌だった。痛いのも苦しいのも嫌だった! 僕は、僕は例のあの人に無理やり」

「嘘を――吐くな!」

 

 ピーターの絶叫を、ブラックがさらに大きな怒声で遮った。

 

「お前は! お前はジェームズが死ぬ一年も前から、奴に内通していた! スパイだったんだ!」

「そうするしかなかったんだ!」

 

 ピーターは絶叫する。

 

「あのお方はあらゆるところを征服していた……逃げ場なんてどこにもなかったんだ。そんな帝王に抗って一体何になるっていうんだ、シリウス……。痛くて苦しくて死ぬような思いをして反抗して、それで何か得られるっていうんだ……!?」

「ふざけ……! 罪のない人々の命を守ることすら、ほんの少しも考えなかったのか!?」

「シリウス! 僕は僕の命が大切なんだ……! それの何が悪いっていうんだ! 君は知らない……! 僕は殺されてたかもしれないんだ!」

 

 情けない告白に、ブラックの顔から表情が抜け落ちた。

 

「なら死ね」

 

 子供達がゴクリと喉を鳴らした。

 

「友達を裏切るくらいなら、()()()()()()()()()。私ならそうした」

 

 ルーピンが完全な無表情で杖を構えた。

 

「――お前は知っておくべきだった。ヴォルデモートについたなら、僕らに殺されると。――さよならだ、ピーター」

 

 ルーピンは杖を振り上げる。もう二人は止まらないことを悟ったハーマイオニーが耳を両手で塞いで壁の方に顔を向けた。

 

「ルーピン」

 

 カサンドラが語りかける。

 

「事実はどうあれ、それは殺人だ。終わったら、自首するのか? 先生はもう辞めるのか?」

「……もちろんだよ、カサンドラ。どうせ……もう教師ではいられない。なら、ピーターを殺して、僕らは二人でアズカバンに入る。それで、何もかもおしまいなんだ」

「そうか。……ハリー、ロン、目を閉じてろ」

 

 嘘だろ、とロンはかすれた声で言った。

 

「と、止めないの?」

 

 ハリーが聞く。てっきり、カサンドラなら止めると思っていたのだ。

 

「止めて止まるもんでもないだろうし……。復讐を成し遂げなきゃどうにもならないってのなら、仕方ないだろう。まぁ、安心しろ。殺人鬼は間違いなくアズカバンに引き渡す。死体にしてでもな」

 

 何も安心できない。ハリーは思わず駆け出して、ルーピンとブラックの前まで出た。

 

「殺すのはダメだ!」

 

 ハリーは叫んだ。その声はかすれていた。

 

「なぜ? ハリー……。君も、そうしただろう? 私を……仇を取ろうとした。ああ、責めてるんじゃないんだ。さぁ、ハリー、こいつの顔をよく見るんだ……無様だろう? はは……。心配するな、ハリー。我々が魔法を使う。そいつの死に様をよく見て……笑ってやるといい」

 

 ブラックは、ハリーが同意して頷くと確信しているような物言いをした。ハリーはふるふると力なく首を振った。

 

「ダメだ……ダメだよ……! 僕が間違ってた。復讐なんてダメだ……!」

 

 ルーピンがハリーに語り掛ける。その口調は諭すかのようだった。

 

「ハリー、それはこいつが、いかにも弱そうで、無様に命乞いをするものだから、同情してるのかい? ハリー、ご両親が死んだ原因となった男がここにいる。そして、我々は勝手にこいつを殺す。君はただ見てるだけでいいんだ」

 

 ゾッとした。あんなにも優しいルーピンが、その目に狂気を宿らせて、復讐を成し遂げようとしていた。

 

「――ダメだよ、アズカバンに……そうだ、アズカバンにぶち込めばいい」

「聞いてただろう、ハリー。こいつは、親友の為に死ぬ勇気もない本物の碌でなしなんだぞ。ジェームズも、リリーも、そして君も。それどころか他の魔法使い全員よりも、自分の命を優先したんだぞ」

「それでも! 僕のお父さんは、友達が……親友が復讐に狂って、子供達の前で人殺しをするようになってほしくないと思うはずだ!」

 

 ハリーの言葉に、ルーピンとブラックは顔を見合わせ。それから仕方ないという風にため息をつくと、ゆっくりと、ピーターから離れた。すかさずピーターは這うようにして移動し、ハリーの背に隠れてしまう。

 

「ああ、ああ、ありがとう、なんて勇敢で素晴らしい人なんだ……。こんな私に……!」

「触るな、放して!」

 

 ハリーはピーターから離れると、カサンドラのそばに戻った。

 

「お前のために止めたんじゃない! 僕が二人をけしかける前に、その口を閉じてて!」

 

 ピーターは素直に口を閉ざしてコクコクと頷いた。13歳の子供の命令に一も二もなく従うその姿はいっそ哀れですらあった。

 

「さて」

 

 ルーピンが杖の先をピーターに向ける。びくりとピーターが肩を震わせる。

 

「縛るだけだ。ピーター、変身はなしだ。もしその手足がほんの少しでもネズミに変わったら、殺す。いいね?」

 

 コクコク。ピーターは頷いた。ルーピンの魔法で手を縛り上げられ、猿轡をかまされた。さて、とルーピンはスネイプの様子を見る。どうやら、まだ気を失っているらしかった。

 

「僕とブラックでピーターを見張る。スネイプ先生は……」

「……私が担ぐ」

 

 

 カサンドラはスネイプを米俵のように担ぎ上げた。

 

「もうこれ以上殺すだのなんだの、たくさんだ。帰るぞ」

 

 カサンドラの言葉を聞くなり、クルックシャンクスが前を歩いて、先導を始めた。

 洞窟までの帰り道、カサンドラはブラックに色々と話を聞いていた。

 

「そいつを魔法省に引き渡したら、お前は無実だと証明できるのか?」

「おそらくは。――それにしても、お前は何者なんだ? マグルと言っている生徒達が何人もいたが……」

「マグルだよ。その証拠に吸魂鬼の姿すら見えやしない」

「――そいつは羨ましいよ」

 

 ブラックはしみじみと言った。

 

「ああ、ハリー。私の汚名が晴れたなら、私は自由の身だ。私は君の名付け親であるからして――その、君さえよければ一緒に住まないか?」

「本当に?」

「ああ。もちろんだよ」

 

 ハリーは嬉しさでどうにかなりそうだった。ブラックの顔を見る。冗談を言っているようにはみえない。つまり、ハリーは本当に、あのクソッタレなダーズリー家から脱出できるのだ。

 

「そんな……こんなに嬉しいことってないよ! 住むよ、もちろん! いつ引っ越せる? 夏休みには引っ越したい!」

 

 ブラックは歓喜に顔を綻ばせた。

 

「本当に? こんな、アズカバンに10年いたような中年と暮らしたいって、本当にそう言ってくれてるのかい?」

「もちろん! ああ、なんて幸せなんだ!」

 

 ハリーは嬉しそうに笑った。カサンドラとしても、後見人がいるなら、その下で暮らすのがいいに決まってる。

 一向はホグワーツへの道を歩いていた。暴れ柳がそろそろ見えてくるというところでクルックシャンクスが飛び出し、幹の節に触れた。最初にカサンドラが洞窟から出て、暴れ柳の攻撃範囲外に出て、スネイプを下ろした。

 次にブラックがハリーと隣り合って外に出る。ロンとハーマイオニーが続く。そして最後に、ピーターを小突きながらルーピンが出てきた。

 

 全員が暴れ柳のすぐそばで一息ついていた。カサンドラはそろそろスネイプを起こすか、と思ったところで鷲の鳴き声が聞こえた。空を見ると、イカロスがカサンドラの上空を旋回している。雲が途切れ、満月が――。

 

「……あ」

 

 ルーピンがしまった、というふうに言った。びくり、と手足を痙攣させた。

 

「ルーピン?」

「カサンドラ……本当にすまない、薬を飲み忘れてたんだ……僕の理性はそう続かない……! カサンドラ、僕を……! 僕を殺してくれ……!」

 

 カサンドラは迷わずに頷くと短剣とレオニダスの槍を抜刀し、人狼へと化しつつあるルーピンに突っ込む。

 

「さよならだルーピン!」

 

 カサンドラの言葉を、ルーピンはもはや聞いていなかった。完全に化け物と化したルーピン――人狼は突っ込んでくるカサンドラに気付くと、その巨大に発達した腕を横薙ぎに振るった。その攻撃が見えていたかのようにカサンドラは急制動をかけて空振りさせる。時間感覚が引き延ばされる。

 カサンドラは猛然とルーピンとの間合いを詰めると、その右腕に短剣を振るった。皮を切り、肉を裂いたがそれ以上の追撃は出来なかった。即座に反応した人狼はカサンドラに大口を開け、噛み付こうとしたのだ。慌ててカサンドラは後退した。食らったら人狼になるという攻撃は、さしものカサンドラも安全のために大きく回避せざるを得ない。

 

「ルーピン!!」

「ブラック……!! みんな逃げろ!」

「でもカサンドラ! 先生を殺さないで!」

 

 ハーマイオニーが悲鳴を上げる。カサンドラは繰り返し叫ぶ。

 

「とっとと逃げろ! 早く!」

「ハーマイオニー、ロン、逃げよう! 邪魔になるだけだ!」

 

 ハリーはハーマイオニーの手を掴んで叫ぶ。3人は全力でその場から逃れようとする。ロンが足を止めて、ピーターの方を見る。ピーターがルーピンの杖を拾った。カサンドラは人狼に集中していて背後にまで気が回っていない。

 

「――ぐるる……ガァッ!」

 

 ブラックは変身して大きな黒い犬となった。人狼に飛びつくと、その首筋に噛み付いた。人狼は振り払おうともがき、暴れる。人狼は犬の胴体をむんずと掴むと、膂力に任せてカサンドラの方へと思いきり投げつけた。カサンドラは転がりながら回避すると、人狼に向けて駆け出す。

 

「はぁ、はぁ、はははっ!」

「なに!?」

「ピーター! やめろ!」

 

 ロンが杖を引き抜いてピーターに向かって叫ぶ。

 

「ははははは! あーははは!」

 

 嬉しそうな笑い声がして、そちらの方に目を向ければピーターがロンへと魔法を放った。カサンドラはロンの方へと駆け出し、飛来する魔法をレオニダスの槍で切り払った。その隙にピーターはネズミへと変身して逃げ出した。一瞬の変身。追おうにもすぐ後ろにはロン、目の前には人狼。その上夜も遅い。この状況でほんの小さなネズミを追って、始末することは不可能だった。

 

「クソッタレめ!」

 

 カサンドラは半ば折れた程度の長さの槍を構えて隙を窺う。ロンを背にしている以上、飛び出したりするわけにはいかない。

 

「ブラック!」

 

 投げ捨てられた衝撃から回復した黒い犬が、再び人狼に向かってとびかかった。体にしがみつく犬を引きはがそうと暴れる人狼にカサンドラは駆け出した。胴体はブラックがいるから狙えない。カサンドラは姿勢を低くして人狼の足元に滑り込むようにして移動すると、すれ違い様にアキレス腱をレオニダスの槍で撫で斬りにした。血が噴き出し、がくんと人狼が姿勢を崩す。

 人狼は遠吠えするように吠えると、黒い犬を引きはがして逃げの一手を打った。残った三本の四肢を器用に動かし、森の奥へと消えていく。黒い犬も人狼を追って森の奥へと行った。

 

「クソ……ロン、お前は先に戻ってろ」

 

 カサンドラは人狼の方を向きながら言う。

 

「か、カサンドラ、まさかわざわざ追っかけてまでルーピン先生を殺すっていうんじゃないよな?」

「ハリーとハーマイオニーが森の方へ逃げた。二人を見つけて守る。あいつの始末は二の次だ」

 

 ロンは目に見えて安堵した。

 

「じゃ、じゃあ早く行って二人を守ってやって! 僕は先にホグワーツに戻ってるから!」

「ああ」

 

 ロンはそう言って駆け出した。

 

「……イカロス!」

 

 カサンドラはその場でしばらく立ち止まって、周囲をイカロスに偵察させた。

 

「……()()()()()()()()()……!」

 

 カサンドラは必死に頭を働かせる。しばらく悩んで……そして、決断した。

 

「二人とも、頼むから無茶するなよ……」

 

 カサンドラは走り出した。

 

 ――人狼の足跡は湖のそばまで近づいていた。恐るべきことに子供の足跡もある。イカロスで偵察した限りでは、人狼はハリーたちとは別の方向に向かっている。だが、まだ油断はできない。

 

「やめろ、エクスペクトパトローナム……! エクスペクトパトローナム……!」

 

 湖のほとり。ガタガタと震えるブラックと、そのブラックを庇うようにして覆いかぶさり、何やら呪文を唱えるハリーとハーマイオニーが見えた。

 

「ハリー! ハーマイオニー!」

「カサンドラ、ダメ! 吸魂鬼が――何十体も……!」

 

 ハーマイオニーはそう言ったきりパタリと気を失ってしまった。

 

「吸魂鬼だと!? クソッ……! 見えないぞ……!」

 

 カサンドラの目に映るのはぐったりとした三人と、嫌に静かな湖だけだ。カサンドラは吸魂鬼の知識を思い出す。物理攻撃も魔法攻撃も効かない敵。どうすればいい。

 

「クソッタレめ!」

 

 カサンドラはハリーのそばに駆け出した。

 ゾワリと、心の奥底を撫でるような感覚が一瞬だけした。だが、見えない敵は一度軽くカサンドラの魂に触れたきり、ほんの少しも干渉して来ようとはしなかった。

 

「どういうことだ……。クソッ!」

 

 カサンドラはハリーの肩を掴んで揺さぶる。ほとんど反応がない。

 

「しっかりしろ! ハリー、お前の人生はまだこれからだ、幸せな記憶を思い浮かべろ! 恐怖に負けるんじゃない……!」

 

 カサンドラはハリーを励ます。ふと、その時。湖の反対側に人の気配がして、カサンドラはそっちの方を見る。

 

「……誰だ? ……ハリー……か?」

 

 その人影は杖を振るって、半透明の牡鹿を生み出した。湖中をまんべんなく移動すると、牡鹿はふっと消えてしまった。銀色に輝く動物。カサンドラはそれに見覚えがあった。ダンブルドアが使っていた守護霊の呪文。ざわざわとする変な感覚が完全に消えた。

 

「……もう、大丈夫ってことか?」

 

 カサンドラは気を失ってはいるものの呼吸は安定してるハリーを見て、言った。

ため息をつくと、カサンドラは周囲の警戒を続ける。さしものカサンドラもハリーとブラックを担いで移動はできない。人が来るか夜が開けて人狼が人に戻るまで待つ必要があるだろう。

 その時、がさりと音がした。

 

「誰だ」

「スネイプだ。警戒ご苦労」

 

 暗闇から陰気な黒ローブが現れて、カサンドラはホッとする。

 

「気絶から覚めたか。災難だったな」

「まさしく。しかし――何が起きた?」

「ああ、それはな……」

 

 カサンドラはスネイプに起きた出来事をスネイプに話す。聞いていくうちに、スネイプはだんだんと笑みを深くした。

 

「それはそれは……実に困難な現場だったろう。あのルーピンは……自分の病気が生徒に危険を及ぼすという意識が足りなかったようだな」

「まぁ、それはそうだろうな」

「そのような者は教師にふさわしくない。そうは思わんか?」

 

 カサンドラはスネイプのやろうとしていることを察して、深くため息をついた。

 

「――何する気なんだ」

「なに……吾輩が口を滑らせるだけだ」

「――」

 

 カサンドラはしばらく考える。

 

「私は……。ルーピンが復讐に走る姿を見て……こいつは教師でいることよりも殺人者になることを選んだんだな、と思っただけだ」

 

 思い出すのは、あっさりと教師としての一面を忘れ去って復讐に走る彼の姿。あの場にいたのがカサンドラだけだったらこうは思わなかっただろう。金次第で黙ってやっててもよかったかもしれない。だがあの場にはロンもハーマイオニーもハリーもいた。にも関わらずルーピンは目の前で人殺しをすることを選んだ。

 

「――重畳」

「人狼だから、じゃない。あいつはブラックと一緒になってペティグリューを殺すと決めた瞬間に教師を辞めた。それだけだ」

「ふむ。ならば、その時になって余計なことを口走らないでもらおう」

「はいはい。その代わりに私に話を振るんじゃないぞ」

 

 了解した。そうスネイプが言ったころに、ガサガサと何人もの足跡がやってきた。イカロスに偵察させると、どうやらダンブルドアや魔法省大臣のようだった。

 

「人狼じゃなさそうだな」

「そのようだな。カサンドラ。お聞かせ願えるかな」

「どうした?」

「貴様は……ブラックとルーピンの復讐を止めたか?」

 

 カサンドラは首を振った。

 

「いいや。お前も言ってただろう? 復讐は蜜より甘い。私にも覚えがある」

「ほう?」

 

 スネイプは興味深そうに眉尻を上げた。

 

「当時仲良かった小さな女の子が殺されてな。まぁ他にもいろんな理由があったんだが……。その子を殺した組織の人間を皆殺しにしたことがある。幹部50人近く、下っ端は100人くらい殺したか?」

 

 スネイプは頬を引きつらせた。多くても5人かその辺だと思っていたのに、出てきた数があまりに多かった。

 

「別の組織に旦那も殺されて……ギリシャにいたその組織も皆殺しにしたな」

「念のために聞いておく。それはいつの話だ?」

 

 カサンドラは苦笑する。

 

「2400年近く前の話だ」

 

 古代は随分と殺伐としていたのだな、とスネイプは思った。だが、想像以上の殺しっぷりを聞いてスネイプはほくそ笑んだ。スネイプの今からやろうとしていることの最大の障害が消えたも同然だと確信できた。

 つまり、カサンドラは復讐を邪魔しない。スネイプは嬉しそうに、作業を始める。ブラックの上に覆いかぶさったハリーをどかすと、ブラックの手を後ろ手に纏めて掴む。

 

「スネイプ、何を……」

「黙っていてもらおう」

 

 足音が大きくなって、ダンブルドアと魔法省大臣がやってきた。

 

「セブルス、カサンドラ。何があった?」

「吸魂鬼がここに集まっていることに気付いて来たのですが……」

 

 スネイプは薄ら笑みを浮かべてダンブルドアに報告した。

 

「校長先生。カサンドラと協力してブラックを捕まえました」

 

 カサンドラは思わずスネイプの顔をまじまじと見た。

 

「――なんと……! ハリーは、無事かの?」

「ああ。クソッタレな化け物に()()()()()気を失ってるみたいだが、命に別状はない。ロンを見かけたか?」

「彼の知らせで向かってきたのじゃよ。今彼はマクゴナガル先生が確保しておるよ」

 

 無事がわかって、カサンドラはほっと胸を撫でおろした。

 

「ならいい。とにかく早く移動するぞ」

 

 カサンドラは立ち上がってハリーを担いだ。ダンブルドアが怪訝な顔をする。

 

「何をそんなに急ぐのかの?」

「人狼と化したルーピンがうろついてる。もし出くわしたら私はルーピンを殺さないといけない。ダンブルドア、お前だってそれは避けたいだろう?」

 

 ダンブルドアは目を見開いた。

 

「なんと……セブルス、薬は……いや、それは後じゃ。皆のもの、ワシに捕まるのじゃ」

 

 ダンブルドアの指示に従い、全員が彼の服を掴む。

 

 バシン、と音がして、その場には誰もいなくなった。

 

 

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