【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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ハリー・ポッターとアズカバンの囚人

「ダンブルドア先生!」

 

 一番乗りはスネイプだった。憤怒に顔を一色に染め上げて、ツカツカとダンブルドアに詰め寄った。

 

「何かあったのかのう?」

 

 すっとぼけた様子に演技臭さはない。狸じじいめ、なんてことをカサンドラは思う。

 

「奴が……! シリウス・ブラックが脱走いたしました! ――あの、ポッターがやったに違いありません!」

「ハリーが? いや……無理だろう? あいつはずっとここにいた」

 

 カサンドラがそう言うと同じくらいに、ファッジもやってきたな。

 

「おお、校長先生。前代未聞です……! まさか我々の守りを突破するとは!」

「校長、カサンドラ、2人ならご存知のはずだ! あの……例の特別措置を!」

 

 ファッジがいる手前か、具体的なことは言わなかったが、スネイプはすぐにカラクリに気づいたようだった。

 

「あー、あれか。確かにその可能性はあるな……」

 

 カサンドラが扉を開けると、中で2人が話していた。

 ――妙に距離が近いしその割には顔には緊張が隠せてない。視線はキョロキョロと不安げに彷徨っているし、すがるような目をカサンドラとダンブルドアに向けている。どうやら2人はそこまで演技がうまいわけではないらしい。

 

「ハリー、ハーマイオニー、この部屋から出たか?」

「い、いえ! 出るなって言われたから、ずっとこの部屋にいたわ」

 

 その言葉に、そばで聞いてたスネイプがキレた。

 

「しらばっくれるな! この忌々しい……出しゃばり娘が! アレを使ったんだろう!? そうでなければ説明がつかん! お前たちだ! お前たちがやった!

 

 スネイプが叫ぶが、周囲の大人たちは冷ややかな目を向ける。

 

「まて、まて。スネイプ教授……」

 

 ファッジがスネイプを落ち着かせるように言った。

 

「アレだの例のなんとかだの……根幹にどうやらホグワーツの秘密が関わっておるようですが、そもそも彼女たちは未だに錯乱の呪文の影響下にあるのでは? 繊細な脱出劇など、とてもできるような状態ではない」

「な――!?」

 

 スネイプは驚愕に目を見開いた。

 

「さ、錯乱の、呪文ですと?」

「スネイプ教授自身がおっしゃったでしょう? そして私も、ハリー達の様子を見てそれを認めた。確かに不可解。詳しいことはわかりませんが、可能か不可能かで言えば、2人には可能なのでしょう。しかし、彼らは現在『まとも』ではないのです」

 

 呆然とスネイプはファッジを見た。すかさず、ダンブルドアが続けた。

 

「ならば、セブルス。疑わしきは罰せず。状況は確かに彼らがやった可能性が高い。それは確かにそうじゃ。

 

 ――しかしのう、残念ながら証拠がないのじゃ」

 

 ダンブルドアの皮肉っぽい言い方に、スネイプは頬を痙攣らせた。先程ブラックを追い詰めるために使ったロジックが全て裏目に出ている。今すぐにでも暴れ出したい気分だった。 

 ふむ、とカサンドラは悩む素振りを見せる。

 

「だがまぁ、怪しいのは事実か。ハーマイオニー、動くなよ」

 

 カサンドラはハーマイオニーに近寄ると、ネックレスを彼女から外し、砂時計の部分がファッジに見えないようにして、逆転時計をポケットにしまった。

 

「これで、もう心配はいらないってわけだ。今後もこんなことがあるたびにこの子らが疑われるのもかわいそうだ。こいつは没収。二度とこの子には貸し出さない。これでどうだ?」

 

 カサンドラはポケットの中の逆転時計を握り込み、ダンブルドアに手渡した。

 

「しかし……私は知っています! 奴らが……!」

 

 スネイプはなおも言い募ろうとする。だが、状況はあまりにもスネイプにとって不利だった。二人の無実を証明する、二人が『錯乱の呪文』の影響下にあるということは、スネイプ自身が言い出したのだ。ひっくり返すのは不可能だった。

 

「……このことを、吾輩が忘れるとは思わんことだ! 失礼する!」

 

 スネイプはそう言って医務室から出て行ってしまった。

 その背をファッジが呆れた顔で見る。

 

「マーリン勲章を逃して荒れるのはわかりますが、生徒に当たりますかね?」

「仕方ないだろう? もう少しで全部上手くいくって時にかっさらわれたんだ」

 

 カサンドラがいうと、ファッジははぁ、と深くため息をついた。

 

「そうですな、全部上手くいっていた――。あと少しだったのに……。もはや面目は丸潰れだ……。私の顔にも、魔法省にも泥を塗りおって……。では校長先生、カサンドラ。私はこれで。魔法省に知らせ、魔法界中から叩かれる仕事に戻らなければならないので!」

 

 ファッジはそう言うと肩をいからせて去っていった。つまり、何もかも上手くいったのだ。

 

「――結局、ダンブルドアはどう思ってるんだ? ブラックが無実だと?」

 

 関係者しかいなくなった医務室で、カサンドラが聞いた。

 

「――ワシはの、カサンドラ。罪なき者が処刑されるようなことがあってはならんと、そう思っておるだけなんじゃよ」

 

 ダンブルドアはにっこりと笑って、そう言った。

 

――1994年6月 校長室

 

 一年を通しての行事が全て終わり、あとは学年末の修了式を控えるだけになったころ。

 カサンドラはダンブルドアとお茶をしながら情報交換をしていた。

 

「――で、今朝のスネイプの発言が元でルーピンは自主退職……。まったく。スネイプが言わなきゃ来年も続ける気だったのか?」

「かもしれぬのう。そしておそらくワシは止めんじゃろうて。それほどまでに人材がいないのじゃよ。どうかなカサンドラ。今年一年で十分研修はすんだじゃろう? 来年からは――」

 

 カサンドラはため息をついた。

 

「駆け足がカリキュラムに入るが?」

「むう……。わかった、もうお主を教師には勧誘せぬことにしようかの。さて、そろそろ本題に入ろうかの?」

 

 カサンドラは頷いた。紅茶を一口飲むと、話を切り出した。

 

「結局、ブラックは逃げたままだ。来年からどうするんだ?」

「シリウスはもうホグワーツに侵入することはないじゃろう。つまり、普段通りじゃよ」

「それをどうやって生徒に納得させる?」

「簡単じゃ。ここは曲がりなりにも城じゃ。侵入経路と侵入方法がわかった敵は、もはや城に入ることはできん。具体的にいうと、ワシが許可した者以外、魔法による変身術は妨害されるようになった。生徒と教員以外ならばどんな手段を使おうとこの城で変身術を使うことは叶わん。人相手なら、お主が負ける道理もあるまい?」

 

 カサンドラはそれもそうか、と頷いた。

 

「わかった。それで、結局、あいつは無実なのか? 誰の話を聞いてもはっきりしなくてな」

「そうじゃ、ハリー達にも言ったがのう、ブラックは裏切ってはおらんかった」

 

 ダンブルドアは確信しているようだった。カサンドラにはそれが不思議だった。

 

「なぜ確信しているんだ? 正直、当時から裏切ってたなんて誰も覚えちゃいないだろう?」

「それがのう、過去の検証は可能なのじゃ。この部屋にあるとある魔道具を使えば……記憶の世界に飛ぶことができる。そこでワシはピーターとシリウスのどちらがスパイだったのかを検証した。――結果はわかるじゃろう?」

 

 二人に渡した情報で、どちらの方がより敵側に伝わりやすいか。

 ヴォルデモートに報告する時間と隙があったかどうか。

 死喰い人との戦闘での動きはどうか。

 そのような条件をいくつも設けて、過去を多角的に判断した結果、ダンブルドアはブラックが無実だと断定した。

 

「当時のことを正確に思い出せるのか。それならスパイのあぶり出しも簡単だろうな」

「うむ。じゃが……それはそれとしても、セブルスには悪いことをしたのう」

「ああ、ありゃ恨まれるぞ」

 

 カサンドラはここのところずっと機嫌が悪いスネイプのことを思って顔をしかめた。カサンドラだって復讐がなりかけていたところをすんでで邪魔されたら荒れるだろう。

 

「しかし……ワシは、セブルスではなくブラックを優先せねばならん事情があるのじゃよ」

「なんだ? 復讐はいけません、なんて綺麗事じゃ無さそうだが」

「うむ……。まぁ、お主には関わらぬ故、知らんでもよいことじゃとワシは思う。それでも知りたいかのう?」

「――いや、いいよ。どうせ過去のいざこざだろう? 脱走を許すほどの事情なのか?」

「そうじゃ。ああ、遠大な計画や、凄まじい偉業のための布石……そのようなものではないよ。ただ……そうじゃな、自分が作った組織に所属してくれた者を守りたい。そんな、俗っぽい理由じゃよ。老いぼれのジジイは、慕ってくれる者を無碍にはできんのでな」

「都合よく老人になるんじゃない。まったくそれもやりすぎるとロクなことにならないぞ」

「そうじゃのう、気を付けるとするよ……」

「まぁ、大体事情はわかった。そう言うことなら見つけても突き出すのはやめてやってもいいが……」

 

 カサンドラはダンブルドアを見た。彼はそれで変に察したらしい。

 

「うむ、口止め料のことかの?」

「いや違う。魔法省にはなんて報告する? 吸魂鬼はハリーを()()()()件で追い出しに成功したが……ブラックがうろついている以上、厳戒態勢は続けざるを得ないんじゃないか?」

「そうじゃの。しかし、魔法省にはワシから言うておくよ。指名手配を取り消すことはできんが……そこまで執拗に追う相手ではないことくらいだと理解してもらうことはできるじゃろう」

 

 相変わらず魔法界は適当だな。そう思いながらお茶菓子のスコーンを食べる。

 

「――のう、カサンドラ。ルーピンの見送りに行かんか?」

 

 カサンドラは渋い顔をした。

 

「できれば遠慮したいな。一度は殺すと決めた相手と顔を合わせるのは気まずい」

「しかしのう、これで最後になるかもしれんのじゃよ?」

「――ああ、わかったよ。見送ればいいんだろ?」

 

 カサンドラは紅茶を飲み干して立ち上がった。

 

「ほっほっほ。すまぬのう」

 

 ダンブルドアはカサンドラを連れて、ルーピンの居室に向かった。

 ルーピンの居室に入るとグリフィンドールの三人がいた。何やらハリーは何かをローブの中にしまっていた。

 

「ああ、ダンブルドア先生、カサンドラ。見送りに来てくださったんですか?」

「そうじゃよ。もう外に馬車が来ておるでな。ハリー達と話は済んだかの?」

「ええ」

「先生面して訓示でも述べてたのか?」

 

 カサンドラがちくりと言う。ルーピンは苦笑した。

 

「いや……真逆かな。ハリー達は最高の先生なんて言ってくれたけど……僕には過分だ」

「自覚があるみたいで何よりだ。――次の職場は決まりそうなのか?」

「……どうかな」

 

 ルーピンは不安そうだった。

 

「……食うに困ったら私のところに来い。一応、同僚だったんだ。食事ぐらいは恵んでやる」

 

 ルーピンは安堵したように微笑んで、カサンドラに手を差し出した。

 

「飢え死せずに済むってだけで救われるよ。カサンドラ、こんな僕のフォローを一年、本当にありがとう」

「……。生徒達は間違いなくお前をここ数年で最高の教師だと思ってる。いい授業をしてたからだ。……次の職場で挫けそうになったらそのことを思い出すといい」

 

 カサンドラはルーピンの手を握ると、しばらく握手を続けていた。

 

「――ありがとう、カサンドラ。君が同僚だったことは人生最高の思い出になると思う。先生、僕はもう行きます。見送りはここまでで結構です」

「よいのか?」

「はい。僕は一人でここから去ります。それがふさわしい」

 

 ルーピンはダンブルドアの返事を聞かず、ダンブルドアとカサンドラの間を抜けて廊下の奥へと歩いていった。

 

「……カサンドラ、ルーピン先生はいい先生だった。そうでしょ?」

 

 ハリーの言葉に、カサンドラは肩を竦めた。

 

「まぁ、生徒が思うんならそれが正しいんだろうな。大人がどう思おうと」

「僕らが……あのとき、過去でもっと上手くやってたら、ルーピン先生は先生を続けられたのかな?」

 

 ハリーの顔は暗く落ち込む。ダンブルドアがゆるゆると首を振った。

 

「ハリー。過ぎたものを考えてはいかん。あの場、あの時……お主らは最上の結果をもたらした。人を一人、生き物を一匹、恐るべき死の運命から救い上げたのじゃよ」

「運命――。……そうだ、運命! ダンブルドア先生、聞いて欲しいことがあるんです」

 

 それからハリーはトレローニーからもたらされた真に迫った予言について語った。

 

「ハリー、あの人の予言をまだ信じてるの?」

 

 ハーマイオニーは辛辣だった。カサンドラも似たような気持ちである。

 

「――ふーむ、それはそれは……。ハリー、トレローニー先生はもしかしたら、やったのかもしれんのう」

「でもダンブルドア先生、その、いつもみたいなインチキじゃないのか?」

 

 ロンが疑惑の表情で聞く。ダンブルドアはうーむ、と思案したままである。

 

「僕は……ピーターを殺すのを止めました。もしかしたらそれが例のあの人の復活につながるかも……! そうなったら僕の責任です!」

「いや、それは違う」

 

 カサンドラは断言した。

 

「未来は定まっていない。お前に助けられたことで改心し、普通の魔法使いに戻ることも奴にはできる。何もかもから逃れてただのネズミとして生き続ける道もな。その上でヤツがまだヴォルデモートのネズミを続けるって言うんなら、それはヤツの責任だ。ハリーに責任があるわけじゃない」

 

 ダンブルドアは頷いた。

 

「まこと、その通り。命を救うことと、救った命に責任を取ること。それは全く別のことじゃよ。救った命に責任が発生するのはのう、ハリー、ペットだけじゃ」

 

 ペットだったピーターに対して、随分と皮肉が聞いた物言いをするものだ。カサンドラは内心でキレているであろうダンブルドアに肩を竦めながら聞いた。

 

「死ぬほど苦労して会得した魔法を使ってやることがロンのペットだってのは、学生時代のヤツも思わなかったろうな」

「カサンドラ、お願いだからあいつが僕のペットだったっていう事実を思い出させるのはやめて。僕子供の頃、あいつと寝る前にキスしてたんだぜ? 悪夢だ――地獄だ……!」

 

 ロンは顔を俯かせてぶつぶつと何かを言い始めた。

 

「これは大変。ロン、お主は早急に新しいペットを迎え入れるべきじゃろうな。その、人が化けていないものを」

「校長先生までそんなこと言う! 僕の気も知らないで!」

「すまんのう。お詫びと言ってはなんじゃ、ワシからご両親に手紙を書かせてもらおう。お主にペットを買いたくなるような、心くすぐる手紙じゃ」

 

 ダンブルドアがいうと、ロンは納得したような表情になった。

 

「……ネズミ、犬、牡鹿、狼か。ダンブルドア、知ってたか?」

「いいや、うむ、流石としか言えんのう。ワシからも隠し通して習得するとは。知っておったら、10年前あれほどの想いをすることはなかったろうにのう」

「本当か? いい加減疑わしいぞ」

「ホグワーツの中で習得していたのなら、確かに悟ることはできたじゃろうが……。いくらワシでもホグワーツの外……『叫びの屋敷』にまで密に監視することはできんよ」

 

 ダンブルドアの悔しそうな声に、カサンドラは今回ばかりは本当だろうと考えた。

 

「では……ワシらはもう行くよ、ハリー。お主らはもう少しここで話していくかの?」

「いえ、僕らも――帰ります」

 

 ハリー達とカサンドラ達は、その会話を最後にそれぞれの居場所へと帰って行った。

 

――数日後 職員室

 

 カサンドラはウキウキとした気分で鎧を着込んでいた。もうすぐ学年末の汽車が出る。見送りに出てやらないと。

 

「カサンドラ」

「スネイプか。どうした?」

 

 装備が終わったあたりで、スネイプがカサンドラに話しかける。

 

「少し、聞きたいことがあってな」

「答えられることなら」

「貴様は、ポッターの親を裏切ったのはペティグリューだと思うのか?」

「ああ。ダンブルドアも確認したらしい。当時の検証を記憶が見れる魔法具を使って行ったらしいが……」

 

 スネイプはにぃ、と顔を凶悪に歪ませた。

 

「つまり、まさしく、リリーを裏切ったのはペティグリューなのだな?」

「ああ。ダンブルドアが耄碌してなきゃの話だが」

「そうか、そうなのか……」

「まあ、そういうことだ。だから私も……ハリーが復讐を止めようとするのを止めなかった。ハリー達の優しい気持ちを無碍にするほど、あいつが悪人ではないと思ったからな」

「幼少期の我輩を殺しかけることは存分に悪事だと思うのだがいかがかね?」

 

 カサンドラは気まずそうに頬をかいた。

 

「まぁ、それはそうだな。じゃあ、どうする? 今からブラックを探し出して消すか?」

「いや、いや……。我輩、真に消すべき相手を見定めたのでな、有象無象に構っている余裕などないのだよ……」

 

 スネイプはどうやらピーターに照準を合わせたらしい。小心者のネズミは、事が露見したせいでいろんなところから狙われるハメになった。裏切り者にはふさわしい。

 

「では失礼する。カサンドラ、また来年度」

「ああ、また来年度」

 

――

 

 ホグワーツ特急に乗り込んだハリーは、にまにました顔で手の中の手紙を読んでいた。ロンとハーマイオニーも、同じようにして手紙を覗き込んでいる。シリウス・ブラックからの手紙だった。

 

「……私間違ってなかったわ。ファイアボルトはシリウスからの贈り物だったのよ」

「呪いはなかったけどな」

 

 ロンとハーマイオニーが盛り上がる中、ハリーは手にしたホグズミード行きの許可証に書かれた名前をじっと見つめていた。

 

『私シリウス・ブラックは週末のホグズミード行きを許可するものである』

 

 今年一年、最も欲しかったサインが手元にある。それだけで来年度が心から楽しみだった。

 

「よかったわね、ハリー。これで来年は堂々と、忍びの地図も透明マントもなしでホグズミードに行けるわ」

「嫌味なヤツー。でもよかったのかよ、ハーマイオニー。ルーピンから渡されたアレ、校長に言わなくて?」

 

 カサンドラとダンブルドアがルーピンの部屋に入るほんの少し前。ハリーは忍びの地図と透明マントをルーピンから手渡されていた。ハーマイオニーなら目を釣り上げて報告するとロンは思っていたのだが。

 

「んー……。過去に行ってる間、透明マントがあればどれだけいいかってずっと思ってたわ。忍びの地図もよ。もし手元にあったら、私、今年一年常用してたと思う。先生に渡すなんて、ほんのかけらも考えなかったでしょうね」

 

 そんな自分を想像したとき、ハーマイオニーはハリーが持つ悪戯にも使える便利グッズを先生に報告する気がなくなった。

 

「それに、もう危険は去ったのよ。でもハリー、悪戯とか校則違反に使って没収されても、私は取り返すのを手伝ったりしないからね」

「僕も悪戯で使う気はないよ……」

 

 マルフォイにしたのは特別だ。普段のハリーは透明になって悪戯しようと思うほど悪戯心に溢れていない。

 

「でもさ、ハーマイオニー。時計のこと、なんで僕らに話してくれなかったんだ?」

「約束したのよ。誰にも話さないって」

 

 キッパリとハーマイオニーは言った。そろそろキングス・クロス駅が近い。ハリーの顔はだんだん暗くなる。

 

「ハリー、元気出せよ。楽しいこと想像しようぜ。今年はクィディッチのワールドカップだぜ? パパが魔法省で仕事してるからチケットはいくらでも手に入る。ハリー、見に行こう。な?」

「うん……でも僕また怒鳴られないかな……」

 

 ハリーは鬱々とした気持ちだった。

 

「ハリー、気にするなよ。ロクでもない育て親なんて脅しつけてやればいいんだ。僕には殺人鬼で逃亡犯のシリウスブラックが名付け親にいます。ってね」

 

 ハリーは実際にそう言った時のバーノンの反応を想像して、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「それは……うん、楽しそうだ」

 

 きっと上手くいくだろう。そうなったらきっと、今年一番マシな夏になるに決まってる。

 ハリーはバーノンが恐れ慄く顔を見るのが、今からでも楽しみだった。

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