【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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ダーズリー家

――1994年7月 ダーズリー家

 

 ウィーズリー家の人たちが約束の時間が来るというのに一向に来ないことにひやひやとしていたハリーだったが、カサンドラがリビングに現れたときは飛び上がりそうなほどうれしかった。本当に良かった。ダーズリーが嫌いそうな変な恰好や、変なことは絶対にしないであろう人が味方に来てくれたのだ。ハリーはもう何も心配事がないという風な心境になった。

 

「カサンドラ! いらっしゃい!」

「ああ、ハリー。元気だったか? ――ミセス、お招きいただき感謝する」

 

 カサンドラは柔和な笑みを浮かべてペチュニアの前に立つと、手を差し出した。

 

「え、ええ。その、あなたも、その、アレなの? 私が知ってるのと……ずいぶん違うわ」

 

 しっかりとアイロンされて、今すぐビジネスの場に出ても問題ないくらい『まとも』な恰好をしたカサンドラと握手しながらペチュニアが言った。

 

「私は違う。普通の人だよ。ああ、それから、私はロンドンで探偵事務所も開いていてな、何かあれば、料金次第で引き受ける」

 

 す、と自然な動作でカサンドラは名刺をペチュニアに渡した。まあ、まあ、とペチュニアはその名刺をまじまじと見て、丁寧にテーブルの上に置いた。ハリーは魔法界の関係者から渡されたものをおばさんが丁重に扱うところを、はじめて目にした。

 

「ありがとうね。困りごと……困りごと……そうね、ウチのダドリーちゃんが痩せろってお医者様から言われたの、食べたいものを食べさせてあげられないことが本当につらいのよ」

「ふむ、ダイエットか」

 

 カサンドラはリビングの隅で一張羅を着て縮こまるダドリーをちらりと見た。

 

「初めまして。私はカサンドラ」

「……だ、ダドリーだ。お、お前も僕に『何か』する気なんだろ!?」

「私はそんなことしない。何せ、依頼主になるかもしれないご婦人のご子息だ」

 

 ダドリーは未だ警戒を完全には解いていない。だが、ペチュニアと同じようにテーブルに座るくらいの落ち着きを取り戻したようだ。

 

「食事制限で痩せるのがつらいなら、運動をするのはどうだ?」

「なんで僕がそんなことしなきゃいけないのさ! 太ってて悪いことなんてなんにもないじゃないか!」

「そう思うか?」

 

 カサンドラは記憶を思い出すようなそぶりをして、それから少しずつ話し始めた。

 

「太った男が女にモテるかどうか、考えたことはあるか?」

「そ、それは……見た目より心だろ!?」

 

 ハリーとしては、心ならよっぽどダメじゃないかと思ったが、口に出したりはしなかった。

 

「そうか、ではダドリー。私が床を擦れるほどのよれよれのローブを着て、三角帽子をかぶって玄関に現れたら……果たしてお前の父親はドアを開けたか?」

「う……それは、開けなかったかもしれないけど」

「そういうことだ、ダドリー。見た目は重要だ。見た目が良くなければ心を見てすらもらえない。それにだ、結局は生き物なんだから、心より体を先に見るのは当然だろう?」

「でもパパはママと結婚できたよ?」

「お前のパパはそれだけ素敵な心を持ってたってことだ。これからの人生、そんな相手を待ち続けるのか?」

 

 ハリーはリビングにやってきているバーノンを見ながら、確かになんでペチュニアとバーノンは結婚したんだろう、とぼんやり思った。まさか心に惹かれたわけではあるまいし。

 

「……貴様、何を話していた」

「ご子息のダイエットについてだ。素敵な女性は痩せないとやってこないんじゃないか、と助言していたのさ」

「いいか、ウチのダドリーにそんな軽い女は相応しくない。余計なことを言うな!」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「そうか。なら、頑張って食事制限で痩せるといい」

「う……む」

 

 バーノンは顔をひきつらせた。

 

「ま、まあいい。それで、カサンドラ、他の連中はどうしているのだ? まさか遅れるって言うのに連絡の一つすらよこさんのか?」

「あー、まあ、そういうのに頓着しないのがああいう連中だからな」

「失礼極まる!」

 

 ふん! と叫ぶとバーノンはテーブルについて、新聞を広げた。

 

「カサンドラ、是非座ってくださいな」

「悪いな、ペチュニア」

 

 ペチュニアに勧められ、カサンドラは座る。

 

「探偵って……普段はどのような仕事を?」

「知ってる! 殺人事件を解決したりするんだ! ホームズみたいに!」

「いや、夢を壊すようで悪いがな、基本的には浮気の調査とかだ。地味で、つまらない。『探』る密『偵』ってやつだ」

「まあ! 殺人事件よりよっぽど面白そうですね」

「確かにな。浮気相手が妹とか姉とかだったときはもう最悪だな。包丁が出てきたこともあった」

 

 カサンドラはそれからペチュニアと過去に受けた依頼について盛り上がっていた。普段なら厳しい口調で色々文句を言うバーノンも、話題が話題だけに入りにくい。まさかこんな方法で口やかましいバーノンおじさんを黙らせるなんて、とハリーは心底感心した。

 だが、それも約束の時間を15分すぎるまでだった。ちらりと時計に目を向けたバーノンは、立ち上がってカサンドラに怒鳴りつけた。

 

 

「おい! あいつらはまだ来んのか!」

「――それで、いつものように黙らせ……ん? ああ、そうだな、さすがに遅いな……」

 

 カサンドラは目を閉じた。それから数秒、瞑想するように黙ると、カサンドラは首を傾げた。ダーズリー家上空にいるイカロスと視界を共有し、周囲の状況を探る。それらしい人影も、車もなかった。

 

「この周辺にウィーズリーたちはいないな……。全く、何をしてるんだあいつら……」

 

 ぴく、とバーノンがこめかみをひきつらせた。

 

「今、貴様、なぜそれがわかった!?」

「あー、カンだ」

 

 カサンドラはもっともらしく誤魔化した。

 

「な……か、カン!?」

「意外とこれがバカにできない。経験ないか?」

 

 バーノンは黙った。彼とて自分の会社を大きくするために、カンに頼らざるを得ない場面がなかったかといえば、嘘になる。

 

「――今はそれで納得してやるが、私の目の前で『ま』のつく言葉や、『まとも』ではないことをするのは絶対に、避けてもらおう!」

「わかってるよ」

 

 ふと、カサンドラは暖炉の方に視線を向けて、不思議そうな顔をした。暖炉がわずかに赤く光っているように見える。危険の兆候を『レオニダスの槍』が教えてくれているようだが、カサンドラにはなぜ暖炉が危険なのかさっぱりわからなかった。暖炉自体は板を打ち付けて封鎖されており、その暖炉の前に電気ストーブが置かれている。

 

「……なぜ暖炉に? いや、まあいいか。ペチュニア、ダドリー下がれ」

 

 カサンドラは立ち上がると、ペチュニアをかばう様に暖炉の方へと歩いた。次の瞬間。爆発したような轟音が暖炉の奥で響いて、ドサドサと思い何かが落ちる音がした。

 

「痛っ! フレッド! 戻りなさい! ダメだ! ふさがれてる……! 早く戻りなさい! ロンに伝えて……!」

 

 カサンドラは呆れたように肩を落とした。ちらりと振り向いてバーノンを見ると、顔を真っ赤にした彼が今にも噴火しそうな様子でカサンドラを見ていた。カサンドラは肩を竦めると、暖炉のそばまで歩いた。

 

「アーサーか?」

「この声は……カサンドラ!? 待ってくれ、何が、痛! ジョージ! 戻れ、戻れって! 場所がないんだ!」

「今すぐ戻って車で来い。暖炉は塞がってる」

「なんで暖炉を塞ぐんだ……? 信じられない!」

 

 そりゃ魔法使いがやってくるからだろうな、とカサンドラは理由を推測した。

 

「カサンドラ、これはなんだ!? 奴らは何をどうして暖炉の奥に出てきた!?」

「連中にとって瞬間移動はありふれてるんだ。だからと言って……全く」

 

 カサンドラは電気ストーブを動かして、暖炉を塞ぐ板をバンバンと叩く。

 

「聞こえるか、ウィーズリー」

「カサンドラ! クィディッチワールドカップだ!」

「わかってるから、とっとと戻れフレッド」

「戻れたら苦労しない……いてぇ! ロンか! ヤバいぞこのままどん詰まりでつぶれる!」

「カサンドラ、離れてくれ」

「いや、何をする気だ?」

「すまないがこの板を吹っ飛ばす」

 

 リビングに緊張が走った。

 

「待て、やめろ」

「だが……そうは言うが、仕方ないんだ。もう我々は戻れない。こんな、塞がれた暖炉の中じゃ煙突飛行粉も使えやしない……!」

「待てと言ってる!」

 

 カサンドラは暖炉から離れた。

 

「バーノン、聞いてたろ? このままだと暖炉が吹っ飛ばされる。板を引っぺがしていいか?」

「わ、私がそれを許可すると、本気で思ってるのか!?」

「お前の主義主張はよく知ってる。だからこそ、これは究極の選択だ。

 

 意地を張って暖炉を吹っ飛ばされて家が無茶苦茶になるか。

 諦めて封鎖を解除し、穏便に奴らを入れるか」

 

 バーノンは顔を真っ赤にしたまま、わなわなと拳を震わせた。ぎり、と歯を食いしばる音も聞こえた。

 

「ば、バーノンおじさん、ぜ、絶対にカサンドラに襲い掛かったら、ダメだからね」

「お前が――指図するな! 心配せんでもそんな『まとも』ではないことはせん! カサンドラ、穏便に、そいつらを入れてやれ!」

 

 了解だ、とカサンドラは頷いた。

 

「いいか、アーサー、今から板を剥がす。だから絶対に吹き飛ばすのはなしだ」

「わかりました。お願いします」

 

 カサンドラは板の端に手をかけると、ばり、と発泡スチロールを剥がすかのような軽い感じで釘打ちされた木の板を剥がしてしまった。その光景に、バーノンは目を見開く。べり、べり、と全ての板を剥がし終わると、ウィーズリー家の男4人が暖炉の中から転がるようにして吐き出された。

 

「あいたた……。おお! ハリーのおばさんとおじさんですかな! 私はアーサー・ウィーズリー。この夏、新学期までハリーを預からせていただくものです」

 

 アーサーは立ち上がってローブの埃を落とすと、にこやかに手を差し出した。一応彼はスーツを着ているが、それはくたびれていて仕立ても数十年前の古いものだ。カサンドラの握手には応じたバーノンも、アーサーの握手には応じなかった。

 

「ああ、うむ、それで、きさま、いや、ウィーズリー。私はバーノン・ダーズリー。その、とっとと連れて行ってくれればそれでいい」

 

 怒鳴りつけないよう必死に自分を抑えているのが、ハリーでもわかった。

 

「ええ、もちろんです。それにしても……まさか暖炉がふさがっているとは。この様子では冬は冷え込むのでは?」

「心配には及ばん。いいから――早くハリーを連れて行ってくれ!」

 

 急かすバーノンに、アーサーは若干たじろぐ。すさまじく怒らせているという自覚は全くないようだった。

 

「そうですね。ハリー、トランクの準備はできてるかい?」

「はい!」

 

 ハリーは廊下に置いていた荷物一式を持ってきた。その様子を見て、アーサーは満足そうに頷いた。ロン、フレッド、ジョージの三人は初めて入るマグルの家に興味津々だった。

 

「さて……なかなか、素晴らしいお住まいで」

「その失礼ですが。私はおたくとにこやかに話すつもりはないのですが」

 

 バーノンが丁寧な口調を続けているのはひとえに魔法使いが怖いからに他ならない。杖を抜いていないというだけで、バーノンの中ではアーサーもヴォルデモートも大した違いがないのだ。

 

「それは失礼……。ここにあるものはすべて『気電』で動くのですかな?」

「アーサー、『マグル学』なら私が開いてやるから、早く行くぞ」

「いやいや、カサンドラ……プラグに、電池に……ここは宝庫ですぞ」

「私の家にもあるから、そっちを好きなだけ見ろ。……誘惑してるんじゃないぞ」

「まさか! 私はモリーを愛していますよ」

 

 バーノンはちらりとカサンドラを見た。アーサーからかばう様に堂々と立つ彼女を見て、内心ほっとする。ピリピリした空気に、アーサーは会話をすることをあきらめたようだった。

 

「ふむ……実に残念だ。では失礼。火を熾さねば。『インセンディオ――燃えよ!』」

 

 アーサーが暖炉の方を向くと、杖を引き抜いて魔法を唱えた。ダーズリー家がひきつったような悲鳴を上げた。

 

「では、我々はこれで。行こうか、フレッド」

「うん、父さん……うわっ、しまった!」

 

 フレッドがポケットから手を出したひょうしに、中に満載されていたお菓子類が大量に床にぶちまけられる。

 

「ごめんなさい!」

 

 フレッドは謝って、急いでお菓子をかき集めて、愛想よく手を振った。アーサーが手に持った瓶の中から粉を一掴みすると、暖炉の炎に投げ込んで、『隠れ穴!』と叫んだ。同じようにジョージとロンが煙に消えた。

 

「おい、ダドリー」

 

 カサンドラはフレッドのポケットから零れ落ちて、回収から漏れたお菓子を拾うダドリーを見咎めた。

 

「そいつはやめた方がいい。あいつはとんでもない品を作ってるからな。体から何かが飛び出てきてもいいんなら食べるといい」

「ひいっ!」

 

 ダドリーは大げさにお菓子を放り投げると、お尻を押さえて座り込んでしまった。

 

「えっと、その……さよなら」

 

 ハリーがダーズリー一家におざなりに挨拶をすると、暖炉のそばまで歩く。

 

「おや……よろしいのですか? ハリーが挨拶したようですが」

「何がだ」

「――()()()とおっしゃいましたか? 甥が挨拶をしたのですよ? まさか――さよならも言わないなんて、そんなこと」

「ウィーズリーさん、いいんです」

 

 ハリーは何とも思っていないそぶりを見せて、煙突飛行粉を掴むと、隠れ穴へ転移した。

 

「……ハリーをどう思っていらっしゃるのか聞いても?」

 

 バーノンは答えなかった。彼の視線はアーサーが持つ杖に固定されていた。

 

「アーサー、どうでもいいだろう?」

 

 カサンドラはアーサーとバーノンの間に割り込むようにして言った。

 

「カサンドラ、しかしですね、ハリーがぞんざいに扱われているというのは……」

「アーサーの家では存分に普通の生活をさせてやればいい。それだけの話だ。魔法使いとそうでない人間の間は深い溝がある。知ってるだろう?」

「……そうですね。では失礼。では、カサンドラ、先にどうぞ」

「いや、私が最後に行く。瓶を貸せ」

「私はそこまで信用がないですか?」

「一昨年ルシウスと大通りでやり合ったこと、忘れてないからな」

 

 カサンドラが言うと、アーサーはバツの悪そうな顔をした。それから、手に持った煙突飛行粉(フルーパウダー)の瓶をカサンドラに手渡した。

 

「では、失礼」

 

 アーサーはバーノンの顔を見もせずにそう言って、隠れ穴へ転移した。

 

「……なんなんだ、あの連中は!」

「まぁ……あれでも『まとも』な人間に理解のある方だ」

「信じられん! あんな無礼を……! 奴らは玄関というものを知らんのか!?」

「知らないわけじゃないだろうが……まぁ、ウィーズリーにも理由があるんじゃないか? ああ、そういえばヴォルデモートの配下は殺す前にわざわざ家の扉をノックしてたって聞いたな」

 

 びくり、とペチュニアが肩を跳ねさせた。バーノンも眉を顰めてカサンドラを見た。劇的に反応した両親を見て、ダドリーが不思議そうな顔をした。驚いたのはカサンドラも同じだった。

 

「――知ってるのか?」

「……知らないわけないでしょう?」

 

 ペチュニアの声は震えていた。

 

「イカれてて……まともじゃなくて、ポッターのような常識知らずと結婚するような子だったけど……妹だったんです」

「……あの忌々しいポッターは『俺がリリーを守る』だなんて自信満々にほざいておった。義妹も、ポッターがそれをできると信じておるようだった。だが……そいつにあっさりと殺された」

「そうか……。私はもう行くが……。彼らにはもう少し気を遣うよう言っておく」

「私たちがポッターのおせっかいにどれだけ苦労させられたか知ってたら、そんな言葉は出てこないだろう」

 

 カサンドラは肩を竦めた。バーノンにとっては苦い思い出だ。リリーとペチュニアの不仲をなんとかしようとずいぶんとジェームズは『頑張って』くれた。ハリーの顔を見るたびに、その時のことが思い出されてしまうのだ。

 

「あー、そういえば、板はどうするか……」

「私たちでやっておくから、お前はとっとと消えてくれ!」

「悪いな」

 

 カサンドラは煙突飛行粉を一掴みした。

 

「『隠れ穴』!」

 

 ぐるん、とカサンドラは急旋回した。ぐるぐると視界が回る。目で追えなくなるほど視界がブレる。高速回転が終わると、そこはもうウィーズリー家だった。カサンドラが転移を終えると、にやにやと笑みを浮かべるフレッドが見えた。

 

「なあ、カサンドラ、あいつは食べたか?」

「やっぱり何か仕込んでたか。止めたよ」

 

 なんだよー、とフレッドは残念そうだった。

 

「何を仕込んだんだ?」

「新開発の商品、『べろべろ飴(トン・タン・タフィー)』さ」

「……商品?」

 

 言いながら、カサンドラはリビングに目を向けた。いつもの面々に加えて、赤毛が二人、増えている。

 

「まぁいい、あの二人を紹介してくれないか」

「ん、ああ、そうか。おーい、ビル! チャーリー!」

 

 ハリーと話していた二人はフレッドに呼ばれると、にこやかな笑みを浮かべてカサンドラの方に歩いてきた。

 

「ああ、あなたはもしやカサンドラ? 私はチャーリー。よろしく」

 

 カサンドラはフレッドとそう背の変わらない身長のチャーリーと握手する。その手はタコや水ぶくれがあった。袖口から覗く腕にもやけどの跡がいくつも見られる。ドラゴンキーパーの過酷さが如実にわかる風体だった。

 

「カサンドラだ。よろしく。一昨年は世話になったみたいだな。ノーバートは元気か?」

「元気すぎて困るくらいさ。ルーマニアのドラゴンのボスになりそうな勢いだ」

「そりゃハグリッドが喜ぶ」

 

 カサンドラはチャーリーの隣の美青年に目を向けた。燃えるような赤髪を伸ばしてポニーテールにしており、牙のようなイヤリングをしていた。服装も今風の若者らしくおしゃれだった。

 

「ビルだ。よろしく」

「ああ。よろしく」

 

 銀行員と聞いていたので、収入もすごいだろう。さぞやモテるのだろうな、とカサンドラは思った。家族の前で誘惑する様なことはしなかったが、二人きりだったら間違いなく誘っていただろう。それほどにかっこいい男だった。

 

「それにしても、新商品? 何か売り込むのか?」

 

 カサンドラが聞くと、フレッドは楽しそうに笑った。

 

「そうさ! 実績と信頼の悪戯専門店、『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』!」

 

 フレッドが朗々と語りだす。

 

「ダイアゴン横丁の一角、在学中ホグワーツ中を沸かせ続けた素晴らしい功績を持つ双子が、満を持して、そのノウハウとアイデアを詰め込んだ悪戯専門店を開店する! どうだ、カサンドラ」

 

 聞くだけでワクワクする様な売り文句にカサンドラの顔に笑みが浮かぶ。だが、リビングの奥からモリーの悲鳴が聞こえて、それどころではなくなった。

 

「フレッド! また私の前で『WWW(ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ)』について話したわね! 誰に言おうと、どれだけ認められようと、私は絶対に許しませんからね!」

「ママ! 僕らが店を開くことは、ホグワーツのいたずらっ子たちの希望なんだよ!」

「そんな希望、いりません!」

 

 モリーはずいぶんとお冠のようだった。カサンドラはリビングのテーブルに近づく。ジニーが頬を赤らめて『WWW』についてハリーに説明している。挨拶をしたいが、ハリーとのおしゃべりの機会を奪えばまた嫌われるだろう。

 

「ロン、ずいぶんとモリーは怒ってるみたいだな」

「二人が開発してきた悪戯グッズのリストと価格表が書かれた羊皮紙を見つけちゃってね。それだけならまだしも、今この家はまるごと『実験場』と化しててね……ほら」

 

 ロンが顎で指す方を見ると、モリーが杖を振るって……その杖の先がポン、と花のように裂けた。当然魔法は発動しない。

 

「何もかもに警戒しないといけないくらい悪戯グッズに溢れてるんだよ。カサンドラも気を付けてね」

「ああ、そうするよ。ただ……ロン、ずいぶん機嫌が悪そうだな」

「ん……なんで僕が機嫌が悪いか、すぐにわかるよ」

 

 ロンが言うか言わないか、規則正しい足音が階段からした。眼鏡をかけて迷惑そうな顔をしたパーシーが降りてきた。

 

「おお、パーシー。遅くなったが、卒業と就職おめでとう」

「ああ、カサンドラ。ありがとう。ただ、今は仕事中なんだ。できれば、静かにしてもらいたくて来たんだが……」

 

 カサンドラは肩を竦めた。規則にうるさくて常にピリピリしていたパーシーは、就職してさらに面倒になったらしかった。ロンが不機嫌になるのも無理はなかった。

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