【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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屋敷しもべ妖精

 ――1994年7月 イギリス郊外 クィディッチワールドカップ会場

 

 ウィーズリー家の夕食会から数日。カサンドラはイギリスの郊外、ワールドカップ会場にいた。

 

 他の魔法使いたちはバカ正直にテントの予約をマグルの管理人に申し出たらしいが、それはカサンドラにとってはありがたかった。一つや二つ管理外のテントがあっても気づかれない。魔法使いが曲がりなりにもルールを守り、マグルのカサンドラがルールを破るとは、なんとも世の中わからないものである。カサンドラは長袖のポロシャツとジーンズを着たラフな格好で、ウィーズリーのテントに向かっていた。大きめのトランクを持っているだけで、武器は一切携帯していない。ように見える。

 カサンドラがテントにつくと、アーサーが火を熾そうとマッチを擦っていたところだった。

 

「やあ、アーサー」

「ああ、カサンドラ。ラフな格好もお似合いですね。カサンドラ、火を起こすのは得意ですか?」

 

 カサンドラは鷹揚に頷いた。

 

「まぁ、それなりにはな」

 

カサンドラはマッチを擦ると容易く火を熾した。昔は人でも船でもとにかく盛大に燃やしたものだが、今はせいぜいがキャンプで焚き火くらいだ。

 

「木を隠すなら森の中……マグルに扮する魔法使いに紛れれば、マグルがいたって気付かれない。バレるのが怖かったが、この分だと問題なさそうだな」

 

 カサンドラは周囲を見回しながら言った。魔法使い達が慣れないマグル装に身を包んでいて、見ていてとても滑稽だ。

 どこで買ったんだと聞きたくなるような虹色のスーツを着た老婆や、フリルが山ほどついたゴスロリドレスを着ているハゲた中年男、日本のアニメ作品に出てくるエルフの格好をした女など、バリエーションは多岐に渡る。この様子ならもう少し「ハズし」た格好の方が紛れられたかもしれないな、と考えながらカサンドラはテキパキとキャンプの準備をする。

 

「カサンドラ、やっぱり昔もこういうことしてたの?」

 

 ハーマイオニーが興味津々で聞いてきた。14歳になろうとする少女は、少しずつ女としての特徴が強くなっている。背もスラリと伸びて、もう数年したら本当にいい女になるだろう。今だって、なぜチョウと人気を二分していないのかわからないくらいほど愛らしいのだから、大人になればどれほどになるか。カサンドラは楽しみだった。

 

「そりゃそうだろハーマイオニー。カサンドラが昔は普通の女の子でしたなんてあるわけないよ」

 

 そういうロンは少し髪を伸ばして、ずいぶんと若者らしくなった。もう子供とは呼べないだろう。顔立ちはアーサーを一回り、パーシーをほんの少しだけ子供っぽくした風で、本当にそっくりな家族だと実感させられる。

 

「いくらカサンドラでも、昔っからそんな『無茶苦茶』だったわけないさ。ね、カサンドラ」

 

 ハリーはウィーズリー家で食べさせてもらったおかげか少し肉がついて健康的に見えるようになった。それでもやはり栄養不足が祟って身長はそこまで伸びていない。顔立ちもロンに比べるとまだ幼く見える。

 

「まぁ……当時も流れの傭兵だったからな。実力があったから今よりもはるかに好き勝手やってた。その分、変な目で見られることもしょっちゅうだったな。

『なぁ傭兵、一晩いくらで売ってるんだ?』ってな具合にな」

「もう、カサンドラったら」

 

 ハーマイオニーが苦笑する。

 

「冗談に聞こえるだろう? だが当時外を出歩く女なんて娼婦か傭兵のどっちかだ。大抵は家にいて大事にしまわれてる。それに私は『男もどき』として需要があったらしくてな、付き合ってた男に逃げられたオッサンがドラクマ握りしめて『いくらでも払う、買わせてくれ』って言うこともあった」

 

 ハーマイオニーはますます興味をもったらしい。キョロキョロと視線を彷徨わせて黙りこくる男連中を余所に、二人は盛り上がる。

 

「信じられない――! 男の人同士で?」

「嗜みみたいなもんだ。それに、子供に『教え込む』のが大人の美徳みたいな風潮もあったな」

「え……?」

「入学当時のハリーくらいの年の男の子に『大人になるための授業』を施すんだ。もちろん教室はベッドの上だ」

「そ、そんなことが――」

「ああ。アルキビアデスとかはそれはもう何人もの子供と――」

「カサンドラ、歴史の授業はそのへんにして、食事を作りましょう」

 

 ワンダーランドに興味を抱いていたハーマイオニーだったが、青い顔をしたアーサーがやんわりと止めた。

 

「あ……悪いな。女子にこういう話をすると喜ばれるもんだからつい」

「いえ……」

「そんな話喜んで聞く女子がいるとは思えないんだけど?」

 

 ロンはわずかに声を震わせていた。

 

「どうかな? ギルデロイとハリーのツーショットは人気だったとだけ言っておく」

「僕、二度と、コリンに写真を撮らせたりしない。誓うよ」

 

 ハリーは絶望した様子で言った。男女の恋愛ですらよくわかっていないのに、男同士なんて想像したこともなかった。そして何より恐ろしかったのが、ハーマイオニーは特に否定しなかったのだ。

 

「まあ、女性はいつでも姦しいということだな、男子諸君。おや、そろそろ本格的に始まるみたいだ……」

 

 アーサーが空気を変えるようにある方向を指さした。すると、金色に輝く巨大なスタジアムがカサンドラの目にも見えるようになった。スタジアムの周囲には露店や公式グッズ販売など、とても賑わっている。

 

「おお。面白そうだな、行ってみるか」

「カサンドラ、お金は持ってるの? 私、お小遣いあんまり持たせてもらえなかったの」

 

 ハーマイオニーは残念そうに言った。

 

「その、去年の『危険な出来事』が原因で。ねぇ、パパとママになんて言ったの? 珍しくカンカンだったんだけど」

 

 聡明で成績優秀のハーマイオニーは親に怒られた経験がほとんどない。だが、今年度が終わってすぐ、カサンドラからの手紙を読んだ両親は今までにないというくらいハーマイオニーに怒ったのだ。

 

「なに、また死の呪文で私を誘き出すようなことがあった場合、ご息女の首から上をミンチにしても当方は一切の責任を負いませんと丁寧にお伝えしただけだ」

「う……ごめんなさい……私、あの時はどうかしてたの。今でも時々ふとした瞬間に悩むくらいなのよ」

「わかってるよ。結局、時間なんて弄るもんじゃないってことだ。さぁ、一緒に店を見てまわろう」

 

 カサンドラがいうと、ハーマイオニーは笑顔になった。

 

「ええ!」

 

 ロンとハリーも同じようにして露店を見て回る。公式タオルにタペストリー、有名選手のブロマイドにピンナップ写真。特に人気なのはブルガリアの最も若い選手、ビクトール・クラムだ。ブルガリアの露店には人だかりができており、グッズが飛ぶように売れている。

 

「クラムの人気はすごいな」

「そりゃそうさ! 今の世代で一番強いシーカーなんだぜ! しかもクラムはまだ学生なんだっていうから、ほんと、ああいうのを天才って言うんだろうな」

 

 ロンの言葉はごもっともだった。プロチームに成人したばかりでスカウトされるということは、学生時代……今もそうだが、学校のクィディッチの試合はさぞや活躍したのだろう。

 ハリーは双眼鏡を売っている露店に駆け寄った。うず高く積まれた双眼鏡の値段を見て、ロンがしかめっ面をする。

 

「10ガリオン? 信じられないよ」

「そう思うかい?」

 

 セールスの魔法使いが双眼鏡を掲げて言う。

 

「こいつの性能を知ったら高いなんて思わないさ。その場で録画、再生、スローモーションでの再生もお手の物……。その上、必要とあらば一コマずつの再生も可能さ。双眼鏡で、録画機能。んっんー……これはお安い!」

「四つくれ」

 

 カサンドラがいうと、他の三人が慌てたような顔をした。

 

「い、いいよカサンドラ。気にしなくて」

「こういう時は素直に奢られていろ。それでも気にするってんなら、お前ら三人とも、卒業までクリスマスプレゼントはなしだ。それでいいだろう?」

 

 カサンドラが三人に双眼鏡を渡しながら言うと、三人は嬉しそうに受け取った。

 

「わかった、カサンドラ! ありがとう! これでクラムのプレイが研究できるよ!」

 

 ハリーの選手らしい言葉に、カサンドラは笑みを深くする。

 

「さすがカサンドラだ、ありがとう! なあハリー、これズームってどうするんだ?」

「ここを回して……そうそう、ピントをこれで合わせて……うん、そうそう」

 

 ハリーとロンが仲良く話している中、ハーマイオニーは複雑そうだった。

 

「カサンドラ、ありがとう。でも……悪いわ」

「気にするな。さっきも言ったが、毎年クリスマスプレゼントを選ぶ手間が省けていい」

「……じゃあ、喜んで受け取らせてもらうわね。ありがとう!」

 

 ハーマイオニーはにっこりと笑ってハリーとロンの輪に入っていった。

 

「カサンドラ! 紹介したい人がいるんです」

 

 遠巻きに子供たちを見守っていると、アーサーに呼ばれて振り返る。そこにはアーサーとは別に二人の男性が立っていた。胸に大きなスズメバチのエンブレムが書かれたクィディッチ・ユニフォームを着た男性と、銀行マンのようにかっちりと高級なスーツを着た男性である。

 

「どうしたんだ、アーサー」

「紹介します、彼女はカサンドラ。今回の警戒に当たってもらっています。カサンドラ、ルード・バグマン、バーテミウス・クラウチだ。ルードはワールドカップの責任者で、クラウチは魔法界の外交関係を担っている」

 

 ユニフォームを着た男、ルードとスーツを着た男、クラウチの二人とカサンドラは握手をした。

 

「カサンドラだ」

「いやぁ、実に『らしい』格好ですな。ぜひ、そうぜひとも! クィディッチ・ワールドカップを楽しんでいってくださいな。マグルでクィディッチ観戦ができるなんて、あなたは幸せ者だ」

 

 ルードは楽しそうにでっぷりと膨らんだ腹を揺すって笑う。

 

「実力は確かだとダンブルドアから聞いている。期待している」

「まかせろ。『余計なこと』をする連中は今日、皆沈黙することになる。永遠に」

 

 獰猛な笑みを見せるカサンドラに、クラウチは若干慄いたようだった。

 

「……期待している。時に、カサンドラは語学堪能だと聞き及んでいるのだが、事実かね」

「ああ。といっても教科書を開いて勉強したわけじゃない。スラング交じりの下品な物言いしか知らない言葉もあるし、貴族でしか使わないようなかしこまった表現しか知らない言語もある」

「む……できれば通訳を頼みたかったのだが、そのような事情なら無理筋か」

「お抱えの優秀なのがいるだろ? そいつの仕事を取るわけにはいかない」

 

 クラウチは半ばため息をついた。

 

「そのような人材がいれば、私がマグルを雇うということを考慮すると思うか? 人がいないのだ……『協調』という言葉を知っている人間がな」

「そりゃご愁傷様。まぁ、頑張ってくれとしか言えないな」

「……ああ、応援ありがとう」

 

 ではこれで、とルードとクラウチは去っていった。

 

「対照的な二人だな」

「ええ、ルードはかなりおおらかな方で……クラウチは厳格な方です。特に、闇の魔法使いに対しては苛烈です」

「そんなツラしてたな」

「闇の魔法使いに対する闇の魔術の使用制限を撤廃したのも彼ですよ」

「ああ、悪人相手なら闇の魔術を使ってもいいって言うやつか」

 

 カサンドラはその法律を聞いたときは驚いたものだ。その法律の前時代的なものといったらない。暗黒期のヨーロッパ……いや、あるいは古代ギリシャくらいまで遡るかもしれない。それほど『古い』理屈で作られた法律だ。

 

「ええ。ですから……ああ、そうだ、改めて言う事ではないかもしれませんが、くれぐれも、『依頼』のことは子供たちには秘密にしておいてくださいね」

「ああ」

「ですから、遠慮は無用です。万が一にでも、諸外国に『まだイギリスは犯罪者の一味すら駆逐できていないのか』と思われるわけにはいきませんので」

「金はたんまりもらってる。ただ、かなり奇妙な状態になるのだけは覚悟しててくれ」

「ええ、もちろんです。では、私は子供たちと一緒に行きますが」

「私もご一緒しよう」

 

 それからカサンドラは試合の時間までゆっくりと店を見て回った。

 

 

 

――

 

 

 

 チケットに書かれた席は、貴賓席だったことを、カサンドラは席に座って初めて気づいた。

 

「なあ、三人とも。私はいい加減ダンブルドアを問い詰めていいと思うんだ」

 

 チケットに記された席にカサンドラが座ると、そこはなんとグリフィンドール三人と、ウィーズリー家の席の真後ろだったのだ。ダンブルドアはどれほどハリーと一緒にいさせたいのか。それほど危険なのか。

 

「あー、うん、僕らはカサンドラと一緒にクィディッチを見れてうれしいよ」

「そうだぜ、カサンドラはいつもは教員席だもんなー」

 

 ロンが残念そうに言った。

 

「でもカサンドラ、まさか、ワールドカップでもピッチに飛び降りたりしないわよね?」

「それは状況によるんじゃないか」

「カサンドラのダイブは毎年恒例だからね」

 

 ハリーの言葉に、カサンドラは苦笑する。その原因となっている本人に言われるとなんとも不思議な感じだ。

 

 

「貴賓席だけあって、結構なメンツだな」

 

 周囲を見てみると、マルフォイ一家や各国の首脳たち、はっきりいってカサンドラどころかウィーズリーたちでも場違いなんじゃないかと思うほどの面々がそろっている。観戦している人間ばかり見ても味気ないので、カサンドラは大盛り上がりのピッチに目を向けた。貴賓席から真正面に見えるように設置された巨大な黒板には、様々な宣伝が現れては消えていく。家族向けの安価な箒の宣伝やら、万能汚れ落としの宣伝など、いろんな層に向けたプロモーションがひっきりなしに表示されている。

 ハリーやロン、ハーマイオニーもカサンドラと同じように観戦席やピッチの観察を楽しんでいた。アリーナ全体が金色であることもあって、お祭り気分がほっといても湧いてくる。ハリーは自分たちの席の近くにエルフのような長い耳を備えた姿を見た。

 

「ドビー?」

 

 ハリーが思わず声をかけた。ハリーを半殺しにすることで命を守ろうとした屋敷しもべ妖精だと思ったのだが、席を立ってハリーの前に来た屋敷しもべ妖精はそもそも性別すら違って見えた。

 

「旦那様は……あたしのことを、今、ドビーとお呼びになりましたか?」

 

 カタカタと恐怖で震えた様子の彼女は、深く深く礼をしてからそう言った。ドビーの声は甲高かったが、彼女の声はぎりぎりで女性だとわかるような声質をしていた。どちらも甲高いのは違いないのだが。ロンとハーマイオニーが興味深そうに彼女を見つめる。一昨年嫌というほど目にしたハリーと違って、ロンとハーマイオニーは屋敷しもべ妖精を見るのは初めてだったのだ。

 

「ご、ごめん、人……うん、屋敷しもべ妖精違いだったみたい」

「ですが旦那様、あたしも……あたしもドビーを()()()()()!」

 

 体を震わせ、照明がまぶしいわけでもないだろうに顔を覆ってしまった。

 

「あたしは、ウィンキーと申します。旦那様は……あなた様は……」

 

 指の隙間がぱかりと開いて、ぎょろぎょろした目がハリーを見つめる。

 

「あなた様は、まぎれもなく、ハリー・ポッター様!」

「うん、そうだよ」

 

 ウィンキーの視線がハリーの全身をめぐり、そして前髪の隙間の稲妻型の傷をなめる。ハリーはその視線の動きにもう慣れっこだった。

 

「ドビーが、いつもあなた様のことをおっしゃっておりました。素晴らしい英雄だと!」

「こそばゆいなぁ……。ドビーは元気?」

 

 ハリーが聞いた。すると、ウィンキーは恐怖に震えていた体をさらに震わせた。

 

「冒涜です……! ああ、旦那様」

 

 ウィンキーはフルフルと気が狂ったかのように頭を振った。

 

「決して、決してあたしは旦那様を悪く()()()()()つもりはありません……。でもドビーに自由を与えたことは、ドビーのためになったのか、あたしにはわからないのでございます。ドビーは屋敷しもべ妖精を冒涜し続けているのでございます……!」

「ねえウィンキー、何があったの?」

 

 ハリーが不安になって聞いた。

 

「ドビーは自由に心を侵されたのでございます! 身分不相応の高望みをして、それが当然だと……。全く次の勤め口が見つからないのです!」

「え? ど、どうして?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ハリーはぽかんとした。お手当てってなんだ? ……お給料のこと? 

 

「それの何が……悪いの?」

 

 信じられない、という風にハリーは聞いたが、同じようなことをウィンキーも思ったらしい。顔をすっかり手で覆って、うつむいてしまった。

 

「屋敷しもべはお手当てなどいただかないのでございます! ダメだと、そんなことは考えてもいけないとあたしはドビーに忠告いたしました。どこかよいご家庭で落ち着きなさいと、どこもかしこもつらく当たる家ばかりではないと、そう忠告さしあげたのでございます! しかし、しかし旦那様、ドビーの心はもはや屋敷しもべ妖精とは言えないほどに変わってしまったのでございます!」

 

 ハリーはごくりと喉を鳴らした。自分がよかれと思ってやったことだったのに、それがドビーを狂わせてしまったのだろうか?

 

「あたしはドビーに忠告しなければならなかったのでございます! あたしたちが屋敷しもべ妖精の心を忘れて、それで、そんなに思いあがって、そうすればやがて小鬼みたいに『魔法生物規制管理部』のお世話になることになってしまうと、そう申し上げたのでございます!」

「その、ドビーはもう少し楽しい思いをしてもいいと思うんだ。もちろん、君も」

 

 ひいっ! と今度こそウィンキーは悲鳴を上げた。

 

「ハリー・ポッター様、偉大なる英雄様! 英雄様はあたしたち下々のことなどにご配慮くださる必要などないのでございます! 屋敷しもべ妖精は楽しんではいけないのでございます」

 

 きっぱりと、あるいは絶対の拒絶さえ滲ませてウィンキーは言った。

 

「あたしたちは言いつけられたことをするのでございます。あたしは高いところがとても、気が狂いそうなほどに怖く()()()()()()()()()()()が――」

 

 ウィンキーはほんの少しだけ、席の前端から覗く、遥か下にある地面を見てひゃっとすくみ上った。

 

「――ご主人様が『ここにいろ』とおっしゃったので、あたしはここに()()()()()()()()

「酷いわ」

 

 隣で聞いていたハーマイオニーが言った。

 

「高所恐怖症の人に、こんな高いところによこすなんて。どうしてそんなことをしたの?」

「ご主人様はあたしに席を取らせていらっしゃいます。ご主人様はとてもお忙しく……ご主人様のテントにご帰還申し上げたいのですが、それをしては屋敷しもべ妖精とはとても呼べないのでございます」

 

 ウィンキーはこれで話は終わりだとばかりに自分の……あるいは、ご主人様の席に座ると、小さく縮こまってしまった。

 

「あれが……屋敷しもべ妖精? なんか、変なんだな」

 

 ロンが言った。

 

「ドビーはもっと変だったよ。うん」

 

 ところどころ話し方が妙だったが、それでもドビーよりかははるかにましだった。

 

「……ハリー、私はそのドビーって言う人をしらないけど、自由にしてあげたことは絶対に正しいわ。あんなの……奴隷とどう違うって言うのよ」

 

 ハーマイオニーは嫌悪を顔に滲ませて言った。

 

「本当に妙な生き物だな。弱いわけでもないってのに」

 

 カサンドラが心底不思議そうに言った。

 

「へえ、屋敷しもべって強いの?」

「一昨年ルシウスを吹っ飛ばしたな」

「マジかよ」

 

 ロンが信じられないという顔をしてウィンキーの方を見た。彼女もそれくらい強いのだろうか。

 

「……お前たち、ああいうのをまっすぐ見つめるな。あの様子なら、自由にしても苦しむだけだぞ。――試合の前にマスコットのマスゲームがあるらしいな。それを見て楽しめ」

 

 カサンドラがチケットに同封されていたワールドカップのプログラムを見ながら言った。

 

「マスゲーム? わあ、僕マグルのも見たことないや」

「私はオリンピックで何度かテレビで見たことあるわ。魔法界のってどんなのかとても興味あるわ!」

「それはいつも見ごたえがある。楽しむといい」

 

 ハリーたちに合流したアーサーがロンの隣に座って言った。

 

「ナショナルチームが自分の国から何か……そうだね、不思議な生き物を連れてきて、ショーをやるんだ。毎年大盛り上がりさ」

 

 ウィーズリー一家が勢ぞろいして、しばらく時間が経った。その間、貴賓席にはいろんな人がやってきたので、そのたびにアーサーはあいさつに向かわなければならなかった。パーシーは父親が立ち上がるたびに飛び上がって直立不動になった。無理もないだろう。自分のボスのボスのボスみたいな人物だらけなのだから、組織に入りたての新人は緊張してかしこまることしかできない。

 試合が始まるまでもう少し、というところでハリーとカサンドラもよく知る人物が貴賓席に上がってきた。

 

「おや、ハリー、カサンドラ。ご機嫌よう」

 

 ルード・バグマンを連れた魔法省大臣、コーネリウス・ファッジだった。

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