【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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『許されざる呪文』

 ハリーたちは初の『闇の魔術に対する防衛術』の授業がある2日間、ホグワーツ中を席巻する授業の評価を耳にしながら過ごすことになった。凄いだのヤバイだのマジモンだなんだと、概ね好意的な評価に思えるが、その評価に半ば畏怖が込められているようにハリーには感じられた。ハーマイオニーは相変わらずせかせかと図書館通いを続けていたが、去年ほど切羽詰まった様子ではないのでハリーたちは特に何かを言うことはなかった。それどころか、占い学に向かうハリーたちに、

 

「あなたたちもあんなインチキ授業辞めればよかったのに」

 

 と言う余裕すらあった。

 実際に初の授業がある木曜日になるまで、ハリーたちは平和に過ごした。代わりとでも言うようにネビルが魔法薬学でポカをやらかしたが、まぁそれはいつものことだった。今年一発目の魔法薬学の授業で通算6個目の大鍋の底を溶かしてスネイプから『正しい罰則』、つまり居残り罰を受けるハメになった。ケナガイタチにされてバシバシ床に打ちつけられるのと樽一杯に詰め込まれた角ヒキガエルのはらわたを抜き出すのと、どちらの方が辛いかハリーには判断がつかなかった。ハリーは痛いのが嫌なのでヒキガエルの臓物抜きを選ぶだろうが、ネビルはどうだろうか。

 

「今年もスネイプは絶好調だな。なんであんなに機嫌悪いかわかるだろ?」

「今年の6月にあった『冤罪』のことでしょ?」

 

 『闇の魔術に対する防衛術』の教室に向かう道で、ハーマイオニーはネビルに手を綺麗にする呪文を教えながら言った。

 

「そりゃそっちもあるだろうけど、また『闇の魔術に対する防衛術』の教授になり損ねたからだろ? 向いてないって自覚しろよな」

 

 ロンが皮肉げに言った。

 

「どっちがどれくらい重いかっていう比率の話よ。私も、ハリーも、今年くらい大人しくしなきゃ。スネイプ先生に目をつけられてる……いいえ、恨まれてるって自覚しないと、とんでもない点数減点される羽目になるわよ」

「わかってるよ、ハーマイオニー。でも大丈夫、今年のトラブルはぜーんぶ三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)が引き受けてくれる。つまり僕には関係ないってことだよ」

 

 こんなに気楽な学校生活今までなかったよ、と言うハリーをハーマイオニーが気の毒なものを見る目で見る。

 

「――その、ハリー。それが普通なのよ?」

「そりゃハリーだって知ってるだろうさ。でもずーっとトラブルの方からやってくるんだぜ? そんな気持ちにもなるだろうさ。

 ……さ、ネビル、待ちに待った『闇の魔術に対する防衛術』だ。もう落ち込むのはやめろよな」

 

 ハリーたちは教室に入った。

 

――1994年9月 『闇の魔術に対する防衛術』教室

 

 ハーマイオニーを除く三人はかつてないほど神妙な様子で先生を待った。普段のハーマイオニーと同じように最前列に座り、羽ペンを用意し、教科書を開いて始業の鐘を待つ。

鐘が鳴ると同時に扉が開け放たれ、コツ、コツと特徴的な足音がした。ハリーたちは一斉に足音のした方を見る。

 

 ――ムーディである。

 

 彼は真っ直ぐに机まで向かう。鉤爪付きの義足が歩くたびにちらりと見える。恐ろしい魔法の目は相変わらず忙しなくグルグルと回り、時折生徒の方を見て静止する。

 

「しまえ」

 

 教卓についたムーディは振り返って生徒達の方へと向き直ると静かに宣言した。

 

「扉を開けた時点でこちらを向いていた生徒が少なすぎる……そんな状態でその本は過分だ。しまえ」

 

 ハリーには「警戒心が足りない」と言われたと思ったが、他の生徒……ネビルやロンなんかは何を言われたのかさっぱりわかっていないようだった。

 

「――よし」

 

 ムーディは生徒達が教科書をしまうのを確認すると、教卓に置かれた名簿を手に取った。魔法の目がグルグルと回り、しばらくすると名簿を元の場所に戻した。

 

「……それでは……まず、初めに。お前らは自分たちが『遅れている』と自覚するべきだ。もちろん、お前らが殊更怠惰であるとか、するべきことをしてこなかったとか……そういうことを言いたいのではない。ホグワーツの人間なら誰もが仕方ないと言うだろう。

 ルーピン先生とカサンドラ先生から引き継ぎの手紙をもらっている。沢山の魔法生物に対する対処、その他基礎的な防衛……。たった一年でよくやったと前任を褒めたいくらいだ」

 

 静かな低い声が、教室に響く。ムーディに対する恐怖が大きく、どんなお喋りな生徒も黙ってムーディの話を聞いていた。

 

「お前たちには呪文に対する知識が圧倒的に不足していると私は思う……。一年という短い時間で、魔法使い同士の戦闘というもののなんたるかを、伝授しよう」

「ずっといるんじゃないの?」

 

 ロンが思わず聞いた。ぎょろり、とムーディの両の目がロンを射抜く。ロンは思わず身を竦ませた。だが、ムーディはぎこちなく微笑んだだけで、怒鳴ることはなかった。

 

「ウィーズリー……。ロナルド・ウィーズリーだろう、え?

 お前の父上には先日随分と世話になった。礼を言う。――そして質問に対してはその通りだ。私は所詮引退した老いぼれ……。今年一年が終われば再び隠遁生活に戻る」

 

 さて、とムーディは言った。もはや世間話の時間すら惜しいという風だった。

 

「呪い……闇の魔術。形も効果も多岐に渡る。魔法省が言うところによれば私が教えるべきは反対呪文であり、その先ではない。違法な闇の魔術がどのような魔法かを、生徒たちはほんの少しも知らずに6年生まで『闇の魔術に対する防衛術』を受けることになる……貴様らそれが正しいと本気で思うか?」

 

 ムーディの言葉に、教室がガヤガヤとなる。

 

「6年生まで闇の魔術は生徒達に見せてはならんことになっている。お前たちは幼く、見るには早いと。

 ――だが私の意見は違う。もちろん、ダンブルドア先生の意見も私と同じだ。

 東洋の偉人はこう言った。『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』。戦いとは自分と同じくらい敵を知らねば始まらん。見たこともない敵や魔法を実戦でいきなり対処できると本当に思うのか? ん?」

 

 誰も頷いたりしなかった。わからなかった。

 

「今、お前らに呪いをかけようとする相手がご丁寧に呪いの名前と効果を教えてくれるとでも? ――もし教えてもらったのならばそれは欺瞞だ。恐るべき嘘だ。結局のところ真実は、呪いの見極めは自らの知識と経験によってのみ可能となるのだ」

 

 ゆえに、とムーディはラベンダー・ブラウンの方を向いた。びくり、と彼女は肩を跳ねさせる。

 

「ミス・ブラウン。私が話している時は宇宙のことなど気にする必要などない!」

「ご、ごめんなさい先生」

「――このように、知らなければ対処のしようがない。私の左目にかかれば机など衝立にもならん」

 

 完成した占い学の宿題――天宮儀を隣の席のパーバティに見せていたことを容易く見破ったことで、ムーディは『知らない』ことの恐ろしさを生徒に的確に示した。

 

「――まずは初級からだ。使えば最も厳しく罰せられる呪文は、何か?」

 

 ムーディの質問に何人かの手が上がる。ハーマイオニーはまあ当然として、ハリーとロンの手も上がった。ムーディは顔と右目を手の上がっている生徒達の間で行き来させる。魔法の左目は未だ、ブラウンを見ていた。長い選考の末、ムーディはロンを指名した。

 

「パパが話してくれたんですけど、『服従の呪文』っていう最悪な魔法があるって」

「その通り。お前の父上ならそう言うだろう。私でも同じことを言う。最悪の魔法だと。魔法省を手こずらせ、私が疑心暗鬼に陥り、数多の魔法使いを絶望のどん底に落とした魔法が『服従の魔法』だ……」

 

 ムーディは教卓の引き出しを開けて、一つの大きめの瓶を取り出した。ロンが引きつったような悲鳴を小さく上げる。

 瓶の中には大きな黒い蜘蛛が三匹、力なく詰め込まれていた。狭い瓶に入れられているからか、はたまた別の理由か、随分とぐったりしているようだった。ムーディは蜘蛛を一匹手で掴むと手のひらの上に乗せ、生徒達によく見えるようにした。

 

「念のため言っておくが、お前達がたとえ悪戯だとしてもこの魔法を唱えた場合……私はそいつを必ず殺す。アズカバンに行くことになったとしても、必ず。では行くぞ

 

『インペリオ――服従せよ!』」

 

 ムーディの魔法が蜘蛛に当たった。特別な変化は見られない。だが、行動にはすぐに現れた。尻から細い絹糸のような蜘蛛の糸を出すとふわりと浮き上がり、教卓の上に立った。糸を切って邪魔なものを取っ払うと、蜘蛛は足をピンと伸ばしてまるで人がするように後ろ宙返りをしたり、タップダンスをするかのようにリズムよく動かす。その奇妙な行動に、クラス中にクスクス笑いが起こる。ムーディはにこりともしなかった。

 

「面白いか? 面白いだろうな。多くの闇の魔法使いがこの面白さに取り憑かれた。だが私がお前らの誰かに同じことをしてもまだ面白いか?」

 

 笑い声が一瞬にして消えた。蜘蛛は足を小さく折り畳んで、微動だにもしなくなった。

 

「……完全な支配だ」

 

 ムーディは低く、唸るような声色で言った。

 

「意識が完全に術者へ服従する。この蜘蛛を私はどのようにもすることができる。窓から飛び降りさせる。水の中へ浸けて溺れさせる。誰かの喉に潜り込ませる。なんでもさせることができる。さてこの蜘蛛は泳げもしない水の中に飛び込むことに対して『いやだ』と思うのか……答えは違う。私が水に飛び込めと命じれば、この蜘蛛は喜んで水に飛び込むだろう。人に使っても同じだ」

 

 ギョロリ、とムーディの魔法の目が素早く生徒達を見回した。

 

「どんな屈辱的なことも、どんな悪事でも、命じられれば実行する。笑え。踊れ。土下座しろ。服を脱げ。誰それに呪いを放て。あいつを殺せ。自殺しろ。全て、喜んでやる」

 

 ムーディは昔に想いを馳せるような表情をして、続きを言う。

 

「闇の魔法使いは誰もがこの魔法を使った……。だから魔法省は誰が操られてて、誰が自らの意思なのか、判断する必要があり……そして、ついぞそれは出来なかった。服従の呪文にかけられていた……それは当時の闇の魔法使いにとって魔法の言葉だった。恐るべき言い訳だ。だがそれが嘘だと証明する方法は皆無だった」

 

 ハリーは苦い顔をする。聞いてるだけで気分が滅入るような話だった。

 

「だが……この魔法にはまだ救いがある。この魔法はかけられた本人が抵抗することが可能だ。並大抵の……凄まじき……精神力が必要になる。世界全てを失うことになってもその命令にだけは従えない。そんな確固たる、強固な意思が必要になるが。だが最もいいのは、そもそもかけられないことだ。先ほどのように物音がしたのに確認もしないようでは望み薄だがな。油断大敵!

 

 ムーディは最後に一言大きく怒鳴って、服従の呪文についての話を締めくくった。

 

「では次だ。他の呪文を知っているものは?」

 

 また、パラパラと手が上がる。ハリーはネビルの手も挙がったことに少し驚いた。ハーマイオニーもわずかに――隠そうとはしているが――驚いているようだった。

 ネビルが授業に積極性を見せるのは得意科目の『薬草学』のみで、他の科目はずっと黙っているのが常なのに、ネビルは思わずと言った風に手を挙げていた。

 

「ミスター・ロングボトム」

「……。――『磔の呪文』です」

 

 おずおずと、小さく、それでもはっきりとネビルは言った。

 

「ロングボトム、ロングボトム……。なるほどな」

 

 ムーディはふうむ、と、恐ろしい形相を心配げにした。だが、すぐにさっと表情を戻すと、服従の呪文にかけられ、ヘトヘトになった蜘蛛に肥大化呪文をかけ、握り拳よりも一回りは大きいサイズにした。

 

「説明はせん。――一目見ればわかる。

 

『クルーシオ――苦しめ』」

 

 蜘蛛は身体を縮こめさせた。ピクピクと痙攣し、のたうち回り、七転八倒した。誰がみても苦しみに、痛みに、地獄のような状況に置かれていることがわかった。

 

「先生、やめて!」

 

 ハーマイオニーがネビルの方を見て叫んだ。ムーディはネビルの顔が蒼白になっていることを見て、サッと呪文を取りやめた。カタカタと震えるネビルを、普段のように笑う人はいない。

 

「苦痛だ」

 

 ムーディは静かに言った。

 

「――ロングボトムの反応は過剰ではない。磔の呪文は誠に恐ろしい呪文だ。マグルの拷問器具を知っているか?『親指絞め機』、『審問椅子』、『苦悶の梨』。山のように恐ろしく、おぞましい器具が溢れている。だがこの魔法が使えれば古今東西ありとあらゆる拷問器具が不要となる。この授業をするにあたって、カサンドラ先生から体験談を聞いた。カサンドラ先生はこの魔法を食らって気絶したようだ。お前らならそれがどれほどのことか理解できると、そうおっしゃっていた」

 

 ムーディの言う通りだった。カサンドラが……気絶した?

 ハリーは一年生の時のことを思い出していた。『みぞの鏡』の奥に隠されていた気を失ったカサンドラ。それが磔の呪文によるものならば……その呪文はとてつもなく恐ろしいものになる。

 

「ひたすらに、苦痛を与える。この魔法では薄皮一枚傷つけることはできん。だが耐えることもできん。食らい続ければどうなるか……私の口からはとてもではないが言えん。そう言う魔法だ」

 

 生徒達はすっかりと萎縮していた。次の魔法を口にすることが恐ろしい。これから教卓の上にいる蜘蛛がどんな目に遭うか、それが薄々わかってしまったからこそ、恐ろしかった。

 

「――次の呪文を知っている者は?」

 

 ハーマイオニーですら、手を挙げなかった。

 

「――知らんわけではなさそうだな。『アバダ・ケダブラ』。

 死の呪文だ。防ぐことができず、当たれば死ぬ。そんな恐るべき魔法だ……」

 

 ムーディは杖を蜘蛛に向けた。

 

「『アバダ・ケダブラ――息絶えよ!』」

 

 緑色の閃光が、ムーディの杖から放たれた。

 吹っ飛ぶことも、身をよじることも、何か反応があったわけでもない。ただ、蜘蛛が死んだ。プツリと糸が切れたかのように全身から力が失われて、ピクリとも動かなくなった。

 みんなが呆然としていた。命がこんな簡単に失われるなんて、その呆気なさに、その呪文の恐ろしさに、みんなが瞠目していた。

 

「気分のいいものではない。対抗呪文はない。やろうと思えばなんとかすることはできなくはない。だが歴戦の戦士でも難しい手段だ。そして、死んでいること以外、この蜘蛛から異常が見つかることはない。これはただ対象に絶対の死を与える。そう言う魔法だ。食らえば必ず死ぬ魔法。それがこの呪文だ。

 

――ただ一人の例外を除いて」

 

 ムーディの目がハリーを見た。そして、その額にある稲妻型の傷痕を魔法の目がなぞるのを見た。

 クラス中の視線がハリーに集まっていた。

 

「――ぼ、僕は」

 

 その視線がいたたまれなくて、ついハリーは言った。

 

「カサンドラが死の呪文を弾いているのを、見たことがあります」

 

 マジかよ、と言う顔を全員がした。ムーディは感心したように、あるいはほんの少し畏れたような表情をした。

 

「――理屈の上では、たしかに不可能ではないと言った。死の呪文は他の攻撃魔法と同じく、対象に向かって放つ魔法だ。杖と、自分との間にうまく障害物を置けば、たしかに、理論上は防ぐことができる。

 だがそれはカサンドラ先生だからこそ、できることだ。お前らが自分でできるとは、ほんの少しも思ってはならん」

 

 ハリーは机の上の蜘蛛を見つめた。

 ――両親の死に様を初めて知った。

 ムーディがさっきの三つの呪文は『許されざる呪文』であるとか、『死の呪文』を使うにはそれなりの訓練と魔法力が必要だとか説明しているが、ハリーの目は両親と同じ死に方をした蜘蛛に釘付けだった。

 ホグワーツに通い始めてから、両親の死の瞬間を幻視する機会が増えた。

 ヴォルデモートが父を殺す……。ハリーを、自分を逃せと言い残して。

 次に命乞いをする母を殺した……。息子の代わりに自分を、と。闇の陣営に入るから見逃して、と。だがヴォルデモートは母を殺した。

 そして最後の仕上げとばかりにハリーに杖を向けたのだ。

 

「――だからこそ言う。油断大敵!

 

 ムーディが再び標語と共に叫んで、ハリーはようやくハッとなった。周囲を見れば誰もが同じようにして現実に戻ってきたかのような顔をしている。それだけ『許されざる呪文』の実演は衝撃だったのだ。

 

「よいか、そもそも呪文を使われる状況にならないことこそが肝要なのだ。()()()()()()()()()()()()()。これこそがお前達にとっての防衛術! 盾の呪文? 対抗呪文? 10年早い! では、これからは知識をまずは詰め込む。さあ、書きとれ」

 

 それからムーディは授業の終わりまで許されざる呪文の詳細な効果を黒板に書き出していった。自分のノートに『拷問』だとか『支配』だとかの悍しい文字が並ぶことにすら嫌悪を抱きそうなくらい、気分の悪い情報ばかりだった。

 

 授業が終わり、教室を出るとあれほど静かだったのはなんだったのかというほど皆がおしゃべりに興じた。

 

「あれが禁じられた呪文……? 闇の魔法使いはあんなことを人に対してやってたのか!? 蜘蛛相手でも最悪の気分になったってのに!」

「死の呪文は受けたらあんな風に死ぬんだ……あっという間だった!」

 

 思い思いに感想を語り合う中、ハリー達は無言で廊下を歩く。

 

「――ああ、()()()……はは、()()()、楽しい授業だったね」

 

 ネビルは上擦ったような声で、殊更に明るい口調を作って言った。聞いたこともないような早口だった。

 

「次は夕食? どんな…….はは、どんな()()()が出てくるのかな? 楽しみだねみんな」

 

 そう言いながらも、ネビルは誰も見ていなかった。明らかに様子がおかしいのはわかるのに、三人にはどうすればいいのかわからない。

 何が原因でそうなっているかも、それを聞いてもいいのかも、何もわからなかった。

 

「どうした四人とも、暗い顔をして」

 

 その時、ちょうど巡回していたカサンドラとでくわした。これ幸いとハリー、ロン、ハーマイオニーは事情を説明する。

 

「……許されざる呪文の実演か。聞いてはいたが、刺激が強かったみたいだな」

「カサンドラ、ネビルの様子が『磔の呪文』の実演からおかしくって……私たちどうすればいいのかわからないの」

 

 ハーマイオニーは縋るような声だった。友達が苦しんでいるのに何もできないことが悔しかった。

 

「ハーマイオニー……僕は何もおかしくないよ。そうさ、ただ実演されただけだ。さあ()()にしようよ」

「ん……。ネビル、メシはともかく、私の部屋でお茶でもしないか? 話したいことがいくつかある。来るといい」

「でも僕」

「安心しろ、血生臭い話はなしだ」

 

 カサンドラはネビルの手を引いて歩き出した。

 

「三人はもう行け。念のために言っておくが、余計なことを言いふらすなよ」

「わかってるよ、カサンドラ」

 

 三人は頷いた。

 ネビルがだんだんと落ち込んだ様子になるのを遠目で見て、三人は心配そうな表情で見送った。

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