【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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アサシンクリードオデッセイのネタバレがあります


インタビュー、真実

――1994年 11月 カサンドラの居室

 

「さてさて、カサンドラ。どうかわたくしの質問に答えて頂けるかしら? わたくし、マグルでホグワーツで働くあなたのこと、ぜひ皆さんに知ってもらうべきだと思っているの」

 

 ソファに腰掛け、カサンドラから出された紅茶をすすりながらスキーターは言った。すでに取材の準備は万端で、彼女の傍には羊皮紙と自動速記羽ペンが浮かんでおり、忙しなく文章を書いていた。

 

「私も、魔法界のマスコミ相手に言いたいことがあった。渡りに船だと思ってな」

 

 カサンドラは武器を傍に下し、敵意がないことを示してからソファに座る。

 

「まぁ! その伝えたいことってなんでざんしょ? ダンブルドア校長の理不尽な命令なんかがあったり……」

「いいや、魔法使いについてだ」

「これはまた、不思議なことを言い出すざんすね」

 

 拍子抜けしたように、スキーターは気落ちさせた。

 

「わたくし、これでも取材は自分の足でするタイプざんす。マグル生まれやマグルかぶれが魔法使いに関して言うことなんてひとつざんす。『このままだと魔法界はマグルに見つかり搾取される』!

 その度にわたくし、彼らを『死喰い人もどき』として糾弾してきたんでざんす」

 

 そいつはかわいそうにな、とカサンドラは思った。彼らなりに魔法界を思って警鐘を鳴らしたつもりなんだろうが……まぁたしかに完全な捏造ってわけでもない。『じゃあどうするの』と聞かれたとき、彼らの口からついて出てくるであろう対策が穏便なものとはとても思えなかった。結局は死喰い人とどっこいどっこいの過激なものになるだろう。そういう意味では、スキーターの文はペンとして十分な威力があることを示している。

 

「その前に、だ。その自動速記をするのは構わんが、これから私『たち』が言う事実を曲げずに紙面に起こして欲しい」

「それも良く言われるざんすが、断っています。なぜなら素人の考えた文章なんて訴求力が全くない上につまらなくて――」

「――面白さは保証する。テーマは『魔法使いの起源について』だ」

 

 スキーターは思わず眉尻を上げた。カサンドラはある程度の真実をこの場で公開しようと考えていた。いつかは誰かに言うべきだろうとは考えていた。真実を唯一知るものとしての義務を、果たさなければならないと。今回の取材は本当に、ちょうどよかった。

 

「重ね重ね……不思議なことを言うざんすね。たしかにカサンドラは長生きしてると根拠のない噂があるざんすが、まさか本人もそう考えているとは思いもしてなかったざんす」

「そこは正直どうでもいい」

「どうでもいい? じゃあ、()()のカサンドラは入ったばかりの魔法使いの世界のどんな起源を語っていただけるんでざんしょ?」

 

 カサンドラはうなずくと、どこからともなく金色に光り輝く球体を取り出した。スキーターは思わずその球体に視線を向けた。

 

「――それは?」

「『かつて来たりし者たち』、イスの『秘宝』だ」

 

 その球体は輝きをさらに増し、光が収まるとカサンドラの手の中には絡まった蛇があしらわれた槍にもなる杖、ヘルメス・トリスメギストスの杖に変化した。

 

「随分と不思議な手品ざんすわね。実は魔法使いだったと言いたいんざんすか? それにして、『かつて来たりし者たち』とはまた……マグルがよくご存じざんすね」

「――ん? ああ、いや違う。ただの準備だ」

 

 カサンドラはそう言うと、静かに語り始める。

 

「実際、ここまで深く関わる気はなかったんだがな」

 

 カサンドラは一人の女子生徒を思い出す。自分と同じタイミングでホグワーツに入り、そして勇気を持って、誰もが諦めている現状に立ち向かおうとする、危なっかしくて可愛らしい、一人の女子生徒を。

 

「事実はおそらく純血主義に一石を投じることになるだろう」

 

 カサンドラの言葉に、スキーターは挑発的な笑みを浮かべた。

 

「それは楽しみざんすね」

 

 どうせいつもの杓子定規的な純血批判で終わるだろうと、そう思っていた。

 

 

 

  ――カサンドラの背後に、半透明の人間が現れるまでは。

 

 

 

「……!?」

「紹介しよう、スキーター。彼女はアレシア。『イス』の一人で、転写した人格と記憶を再現して実体化させたってやつだ」

 

 凄まじく美しい女性だった。ギリシャ神話の神々が纏うような絹織物を着て、その出で立ちはまるで女神のよう。

 身体中に走る金色のラインは明滅し、彼女が人に近しい人ならざるものであることを示している。

 彼女、かつて来たりしもの……イスの一人であるアレシアは、興味深そうにスキーターを見ていた。

 

「人格と記憶を……? それは、闇の魔術の魔法具なんざんすか!?」

「その言葉は正確ではない」

 

 アレシアの響くような声が、スキーターの耳に入る。落ち着いていて、理論屋特有の抑揚に欠けた声。実体化が完全ではないのか、その声にはほんのわずかにノイズが混じっていた。

 

「『ヘルメス・トリスメギストスの杖』は闇の魔術という言葉が成立する遥か以前に作成されたものだ」

「そ、それで、アレシアはどんな真実を語ってくれるっていうざんすか? その、伝説にちらりと現れる『かつて来たりしものたち』を名乗るくらいなんざんす。それこそ凄まじい事実なんざんしょ?」

 

 アレシアは肯定も否定もしなかった。

 

「何を持って凄まじいとするかは人によって違う」

 

 ちらり、とアレシアはめちゃくちゃな言葉を書き記している自動速記羽ペンに視線をやった。

 

「機能を壊した道具を使うことで望む文章を呼び寄せる。工夫には感嘆するがそれでは私の望む結果は得られないだろう」

 

 カサンドラが手にしているヘルメスの杖が一際大きく輝く。その光にさらされた自動速記羽ペンは、急激に動きを緩慢にさせ、書かれる内容も事実に忠実になった。

 

「な! わ、わたくしのQQQちゃんが!」

「事実を表明するのだ」

 

 呪文を使わずに魔法具を『修理』するなど、マグルにはとてもできる芸当ではない。スキーターはアレシアに対して強い警戒を露わにした。

 

「――結構! ですがその事実が下らないものだった場合、覚悟していただくざんすよ」

「下らないかどうかは人によって――」

「アレシア。頼むよ。魔法使いについての見解について聞かせてくれ」

 

 カサンドラが被せるようにして言うと、アレシアは頷いた。

 

「ではイスにとっての魔法使いとは何者か。この4年間カサンドラと共に魔法使いを観測した結果。

 

 我々の子孫である可能性が非常に高いと推測できる」

 

「……は?」

 

 カサンドラは思わぬ事実に眉尻を上げる。スキーターはポカンとした表情をした。

 

「イスは人間を作った。伝承に語られる神々も、我々がモデルになったものがいくつもある。ヘルメス、ヘカテー、ハデス、ポセイドン。しかし、少数のイスが大多数の人間を支配していたかと言うとそれは正確ではない」

 

 カサンドラはかつての冒険を思い出す。アレシアに誘われた先でした、アトランティスでの冒険を。

 

「現在の魔法使いに理解しやすい表現をすると、人間とハウスエルフとの関係が最も近い。人間はハウスエルフほど少なくはなかったし、人間の権利はハウスエルフほど低くもなかったが」

「それで、なんでイスの子孫ってことになる?」

 

 カサンドラは不思議だった。魔法使いの起源はいいとこイスが実験で作り出した化け物の子孫とかそう言うものだと思っていただけに、まさか自分と近い立場だとは思いもしていなかった。

 

「アトランティスが崩壊したあと」

「待つざんす。アトランティス――? わたくしでも知ってるような、マグルの伝説ざんすね? それが実在したと?」

「そう言っている。最後のディカステスがポセイドンと共にアトランティスを崩壊させたあと、人間とイスはある程度固まって外界へと逃れた。その先で諍いがあったり、あるいは融和があったりした。世界各地の人類発祥の神話が異なるのはこのためだ」

「……アダムとイブがイスに反旗を翻したんじゃなかったのか?」

「そういう地域もあるというだけだ。イスと人々が融和し、交わり、子を成した地域もある。魔法使いの起源はそうして出来たイスと人間とのハーフの子孫だ」

 

 その事実は、スキーターにとっては衝撃だった。

 

「――つまりあれか? 魔法使いは漏れなく全員イスと人間――つまり『半純血』の子孫ってことか?」

「純たる魔法使いを我々イスだと定義するのならばそうなる」

「そんなの、酷いでっち上げとどう違いがあるのかわからないざんしょ? 何か証拠はあるざんすか?」

 

 アレシアは悩むこともなく言った。

 

「お前たち魔法使いの適正魔法を見れば自ずと理解できる」

「――適正魔法?」

 

 スキーターの問いに、アレシアは頷いた。

 

「我々イスはかつてさまざまな方法で人間を支配してきた。特に精神に作用する力は無意識化でも使えるように特化させてきた。

 お前たち魔法使いにもその残滓がある。死の呪文や守護霊の呪文、他にも強力な攻撃呪文は遥かに高難易度かあるいは必要な素質が高く要求される。その一方で人間一人を完全に支配できる呪文にそういった制限はない。このことからも我々イスが得意としていたことがそのまま受け継がれていると判断できる。ただし、もはやイスは存在しない。状況証拠以外の提示は不可能だ。私からは以上だ」

 

 しばらく、スキーターは何も言わなかった。しばらくするとハッとした表情になって、羊皮紙と羽ペンをひっつかみ、カバンへとしまった。

 

「失礼するでざんす!」

 

 パタパタと慌てて出て行くスキーターの背を、カサンドラはなんとも言えない表情で見つめていた。

 二人きりになった居室で、カサンドラはため息をついた。

 

「悪いな、アレシア。寝てたのに起こして」

「問題ない。ここでカサンドラが魔法界でバッシングを受けて害される、あるいは殺傷されることがあってはならない」

「ははは」

 

 カサンドラは笑う。カサンドラが敗北する可能性を常に考えるのはもはやカサンドラ自身とアレシアくらいになってしまった。ほかの人間はもはやカサンドラの強さを疑ったりはしないだろう。

 

「それで、さっきの話は本当か?」

「スキーターにも述べたが証拠はない。だが、我々の子孫ならば魔法使いが人間全体に比して数が少ない理由も、魔法使いではない人間を見下す傾向にある理由も、精神操作の魔法が得意な理由も、説明がつく」

「ああ、なるほどな。しかし、そういうことなら、純粋なマグル生まれもいないってことか?」

「そうだ。必ず家系のどこかでイスの因子を持つ人間と交わっている筈だ」

 

 半純血ねぇ、とカサンドラが呟いたあたりで、ひとつ思いついたことがあった。

 

「それなら、私も厳密にはマグルじゃないのか?」

 

 カサンドラがそう聞くと、アレシアは不思議そうな顔をしてカサンドラを見つめた。あまり表情に乏しいアレシアだからこそ、その変化は妙だった。

 

「どうした」

「……4年で随分と馴染んだものだ。自分のことを『マグル』と呼称するとは」

「気にすることか? 大事なのは私に魔法が使えるかどうかってことなんだが」

 

 アレシアはしばらく考える素振りを見せた。

 

「不可能ではないだろう」

「ほう? ならば努力すれば私も服従の呪文が使えるってことか」

「カサンドラにその魔法が必要になるとは思えない。ヘルメスの杖の方が強力だ」

「他の魔法は?」

 

 アレシアは首を振った。

 

「おそらく杖魔法は使えない。それはお前が杖魔法以外の魔法に習熟しているためだ」

「――私が魔法を?」

「心当たりはある筈だ。エリュシオン、冥界、アトランティスで入手した力は、魔法染みていたと自分でも思わないか?」

「思うが……あれが魔法だっていうのか?」

 

 アレシアは頷いた。

 

「お前がよく使う瞬間移動や暗殺した死体を隠蔽する術。全て杖魔法と同じ力だ」

「ほー。なら、私は半純血の魔法使いってことか」

「その肩書を名乗るのは感心しない。自分の立ち位置を魔法界に定めている。お前の役目は来るべき邂逅に向けて杖を守ることだ」

「わかってるよ、アレシア。じゃあ記憶の継承者も魔法使いの素質があるってことか?」

 

 アレシアは頷いた。いつか、旅路の果てに出会うはずの杖を受け継ぐ者、継承者。その人間もイスの血を引いているというのなら、できることは魔法使いに近いはずだ。

 

「否定はしない。だが継承者のイスとしての力は高くない。『秘宝』であるヘルメス・トリスメギストスの杖が制御できるかどうかすら未知数だ」

 

 カサンドラは訝しげな顔をする。

 

「それはどういうことだ? 耐性があるから継承者なんじゃないのか?」

「それは違う。彼女は()()なのだ。()()と言ってもいい」

「中心? 起源?」

「――未来の観測は『すでに終わっている』。カサンドラ、お前に未来を伝えることはできない」

「まぁ、いいが。さあて、あの女は事実にどう向き合うか……」

「知識の伝播に関して疑問がある。なぜそこまであの生徒に肩入れする? 下心というわけでも無さそうだが」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「ハーマイオニーを応援してるのは本当だ。純血主義者の目をあれで逸らせれば、あるいは純血主義の否定が始まれば……そんな感じだ。たまには老人らしく布石を打ってみようと思ってな」

「都合の良い時だけ老人になるなとは、お前が言っていたことだが」

 

 カサンドラは苦笑する。

 

「そんなこと言った覚えないな」

「お前は魔法界に関わって随分と適当になった。あの女がお前の思惑から外れ、好き勝手行動したらどうする?」

「んー」

 

 紅茶を啜り、しばらく思案するそぶりを見せる。実は半ば決めていたことだが、改めて言葉にするのは気が引けた。気が引けるなんて、ずいぶんと優しくなったもんだ。カサンドラは思う。物騒なことを考えると、どうしてもハリーやロン、ハーマイオニーの顔が脳裏にちらついて、ついブレーキを踏んでしまう。まるで親か教師にでもなったかのような気分だった。

 

「――人に言うことを聞かせるのに服従の呪文も磔の呪文もいらないんだってことをわからせてやるとしよう。腐れマスコミ相手に遠慮する気はない」

「お前に目をつけられたあの女も、不運なものだ。だがカサンドラ。本当にできるのか?」

「……できるさ。ハリーのゴシップを書けば、私の拳も軽くなるってもんだ」

「お前の拳が唸ることがないよう祈っている」

 

 アレシアはそう締め括った。

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