【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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ドラゴン対策

「ハリー、残念だけど、カルカロフ校長が死喰い人だとか、そういうのは今、どうでもいいの」

 

 昨日シリウスとの会話を全て――『個人的な相談』以外の――ハーマイオニーとロンに報告したハリーは、開口一番そう言い切ったハーマイオニーに対してやっぱりか、という顔をした。

 

「ハーマイオニー、そりゃ酷いだろ? カルカロフ校長がハリーを狙ってる可能性だってあるんだし」

「ええ、ええ! もちろん、ロンの言う事を否定するつもりはこれっぽっちもないわ。ええ、当然よ。でもね、ロン。ハリーの命は今、死喰い人よりもドラゴンによって脅かされてるの」

 

 今三人は図書室にいた。三人とも授業があったが、最初の課題の相手がドラゴンと知ったからにはそれどころではない。朝一番にそれを知らされたロンとハーマイオニーは半分狂乱状態で図書室に駆け込んだのだ。今日は『変身術』の授業があったが、ハーマイオニーもロンも、たとえマクゴナガルが怒鳴り込んできたとしてもドラゴン対策を優先するだろう。

 

「やっぱり無理かなぁ」

「あきらめるなよ、ハリー。らしくないぜ」

 

 ロンは困ったように苦笑するハリーに大真面目な顔で言った。このままだと親友はドラゴンの前に歩み寄って両手を広げてドラゴンの牙を受け入れかねない。それほどまでドラゴンと人間との力には差があるのだ。

 

「そうよ、ハリー。しりう……助言者はとても大事なことを教えてくれたわ。あの箒を使うのは十分アリよ。問題は、それだけじゃ足りないってことなのよね」

「足りない? 冗談だろハーマイオニー! ファイアボルトは一番速いドラゴンと同じくらい速いんだぞ?」

「つまり、最も速いドラゴンと当たったら追いつかれるってことよ」

 

 あ、とロンとハリーはそろって驚いたような顔をした。そうだ。最高速が同じ種がいるということは、そいつと当たってしまえばぱっくりいただかれてしまうという事なのだ。

 

「つまり、追いつかれても問題ない方法を見つけないと」

「と言ってもなぁ。ドラゴンって頭も悪くないし……うーん」

 

 ロンは近くにある図鑑を引き寄せ、ドラゴンの項目にざっと目を通す。サイズ、最高速度、危険度。様々な違いがある。だが、ハリーにとって重要なのは、ハリーがノックアウトできるドラゴンはただの一種類も存在しないことだった。

 

「正直、ドラゴン自体をどうこうしようっていうのは無理だな。何をするのかはわからないけど、たぶんドラゴンを倒せって内容じゃないはずだ。図鑑にも書かれてるし、チャーリーも言ってた。ドラゴンって捕獲も世話も全部優秀なドラゴンキーパーが複数人でやるんだって。最低5人、凶暴な種だと10人くらい。きっとしばらくドラゴンを騙せればいいんだ」

「きっとそういうことなんでしょうね。三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)の責任者が若者の処刑ショーを開催したいんじゃなければね。――下手に飛び回るのも危険じゃないかしら。ドラゴンのブレスはものすごく高温よ。空中で炙られて、落下したらおしまい……。ああ、もう! こんなのどうすればいいの?」

 

 ハーマイオニーは狂ったように頭を掻きむしった。それもそうだろう。様々な知識が、親友の挑む課題がいかに過酷で達成困難かを正確に教えてくれるのだ。どう考えても無理だと。向こうの攻撃は必殺の威力を持っていて、反対にこっちからドラゴンに影響を及ぼすことは不可能に近いほど困難だ。

 

「ああ、もう……とにかく、時間がないわ。戦略を決めないことにはどうにもならないわ」

 

 ハーマイオニーの言葉に、ロンはしばらく悩んだようなそぶりをした。そして、頷く。

 

「よし、じゃあハリーはひとまず、一人でひたすら『呼び寄せ呪文』を練習だ。他のことは僕らが考えるから、ハリーは僕らを信じて呼び寄せ呪文を練習していてほしい」

「……わかった」

 

 ハリーは立ち上がった。正直、不安もある。恐怖も強い。だが、親友のロンが『信じて』と言ったのだ。ここで頷く以外の答えがあるというのだろうか。

 

「僕は今から練習に行くね。――二人とも、信じてるから」

 

 ハリーはそう言って、図書室を出て行った。その足取りはしっかりとしていて、死に臨むような危うさはない。心の底からロン達を信じている様子だった。そのことを嬉しく思うと同時に、親友の命がかかっている重圧に潰れそうになる。ロンの頭はかつてないほど回転していた。

 

「よし、僕らで策を考えるぞ」

「……ハリーを行かせてよかったの?」

 

 ロンは頷いた。

 

「ハリーなら、僕らが策を思いつくまでに必ず『呼び寄せ呪文』を習得してくれる。だから、僕らは絶対にハリーが死なずに済む方法を考えるんだ」

 

 いつになく真剣で、そして友を思うロンの顔を、ハーマイオニーはまじまじと見た。様々な本を開いては閉じ、別の本を選んでは違うと首を振るその様子が、ハーマイオニーの目には(まばゆ)く映った。

 

「――ハーマイオニーも、調べてくれよ」

「え、ええ! ごめんなさい。――信じてるのね」

「当然だ。僕がハリーの立場でも、同じように信じるさ。親友だからね」

「……そうね。私もよ」

 

 そうは言ったが。ハーマイオニーは自分がハリーの立場に立たされたその時。何も調べずにひたすらに魔法の習得に時間を費やせるだろうか。友達を信じて、ただ待つということが果たしてできるだろうか。できると思う。だけど……。

 

 答えは、わからなかった。

 

――

 

「……ダメだ。ドラゴンが強すぎる」

 

 日没まで粘ったが、ロンもハーマイオニーも有効な手立てが思い浮かばなかった。机に突っ伏して、二人して頭を抱えた。

 

「ドラゴンは生物として強すぎるのよ。魔法はほとんど効かないし、目もいい。空も飛べるし、その気になったらブレスで周辺を焼き払える。唯一の光明は、頭がいいと言ってもそれは『動物として』っていうことね。人間並みの知能があるわけじゃなくて本当によかったわ」

「そうだな。人間並みの知能を持ったドラゴンと知恵比べする羽目にならなくてよかった。でもどうしよう。結局、もうちょい情報があればな……」

 

 比較的温厚だとされる種でも、とてもではないが14歳の少年が正面から戦える相手ではない。課題の内容が今の時点でわかれば、きっと素晴らしい答えが出せるだろうに、もどかしかった。

 

「……戦うのじゃなくて、やり過ごす、あるいはだますって方向だと思うわ。それなら、どうにかしてハリーの居場所を誤認させられないかしら」

「隠れるだけなら多分、上手くいくと思う」

「どうして?」

 

 ロンは手元の羊皮紙にある各種ドラゴンの特徴のメモを見る。

 

「……うん。どのドラゴンも特殊な知覚を持っているわけじゃない。ハーマイオニー、ハリーは『透明マント』を持ってる」

「あ……。それなら隠れられる。でも……どうやって持ち込むの?」

「しっかりしろよ? マントなんだから箒の柄に括り付けりゃ解決だ。でも、隠れて箒に乗ったってしょうがないしな……」

 

 うーん、と二人して悩んでいると、図書室にカサンドラが入ってきた。彼女は図書室をきょろきょろと見回して、ハーマイオニー達を見つけるとまっすぐに二人の方へやってきた。

 

「二人とも、策は見つかったか」

「……あと一歩ってところ」

 

 ハーマイオニーが答えると、カサンドラは周囲を改めてきょろきょろと見回した。それから、誰もいないことを確認すると、二人の対面に座った。

 

「相談に乗るぞ。なに、ルール上問題はない。勇士たちは大人たちに頼ってはならないと書いてあるが、同級生の協力を受けてはならないとはない。――時間がない。何が問題だ」

 

 カサンドラは手早く話を進めた。ハーマイオニーとロンはお互いに顔を見合わせて、それから自分たちの考えをカサンドラに伝えた。

 

「……透明マントにファイアボルトか。普段ならヒントにとどめるんだがな、ことはハリーの命がかかってる。成長の機会はまたにしよう」

 

 カサンドラの言葉に、ハーマイオニーとロンは頷く。

 

「大事なのは、タイミングだ。箒に跨がって透明マントを羽織る。そして、ハリーが見えなくなって、箒だけが宙に浮いて飛び回る。この状況を作るんだ」

「でも、ハリーだけ隠れたってしょうがないよ」

 

 ロンの言葉に、カサンドラは頷いた。

 

「そのまま乗って箒を操作すればな」

「……あ! そうよ、箒だけ勝手に飛び回ってても、ハリーが透明になってればドラゴンにはわかりはしないわ!」

 

 カサンドラは満足そうに頷いた。

 

「ファイアボルトにはスニッチを取る際、両手を離してもしばらくは安定して飛行するための『自動運転機能』が存在する。ファイアボルトの公式発表をそっくりそのまま信じるなら、誰も乗っていなくてもしばらく飛ぶくらいはできる」

「それなら全部解決だ!」

 

 ロンが喜びの叫びをあげた。司書が鋭い目で睨むが、ロンは気にしなかった。

 

「ハリーには箒に乗るふりをしてもらって、箒は自動運転で飛び回ってもらう。ドラゴンは当然ハリーが乗ってると思って箒に集中する。空に注意を逸らしている間なら、ハリーはなんだってできる!」

 

 カサンドラはにっこりと笑った。

 

「去年マクゴナガルから受けた『箒学』が役に立ってよかった。だが、ハリーは『呼び寄せ呪文』を使えるのか? 授業では一度も成功していないとマクゴナガルが心配そうにしていたが」

 

 カサンドラの言葉に、ロンとハーマイオニーはお互いに顔を見合わせた。そして、そろって言った。

 

「もちろん使えるに決まってる!」

 

 ほんの少しも親友を疑っていない、そんな信頼を如実に表した言葉だった。

 

 ――

 

 ロンとハーマイオニーが策を完成させるのと同時期。ハリーは中庭で遠くに置いた自分の教科書を呼び寄せた。ほんの少しの休憩も入れずにひたすら練習に明け暮れた。不安がないと言えばうそになる。だが、ハリーはたった一人で課題に挑むよりもはるかに落ち着いて練習に取り組むことができた。親友の全面的なバックアップが、ハリーを支えていた。

 

「――。これで連続5回成功。……上手くいったね」

 

 ハリーは辞書を掴んで、遠くに向かって放り投げる。宙に浮いた辞書を強く思い浮かべて、呪文を唱えた。

 

「『アクシオ! ――辞書よ来い!』」

 

 放物線を描いて落ちようとしていた辞書は空中で軌道を急激に変えて、ハリーの手の内にまっすぐ飛来する。辞書をぱしりとキャッチすると、ハリーの顔に笑みが浮かんだ。

 

「よくやったね」

 

 一人で練習してたハリーの背に、声がかかった。セドリックの声だった。ハリーは振り返ると、慌てて駆け寄った。

 

「セドリック。対策はいいの?」

「ん、まあ、僕は大体もう準備は終わってるからね」

「でも、本当にいいの? その――」

 

 ハリーは周囲を見回した。誰もいないことを何度も確認する。躊躇いがちに、ハリーは秘密を打ち明けた。

 

「最初の課題はドラゴンだよ?」

「――ドラゴン? いくらなんでも倒せってことじゃないんだろう?」

 

 ドラゴンと知らされてもほんの僅かも動揺した様子を見せないセドリックに、ハリーは瞠目した。

 

「こ、怖くないの?」

「もちろん怖い。だけど、想定内だ。ハリー、僕は君と違って、自分の意思で、死ぬ可能性があるとわかったうえで、羊皮紙に名前を書いてゴブレットに投げ入れた。――怖いからと言って逃げるつもりはない」

 

 その覚悟の強さに、ハリーは震えた。そして思う。こんなにも強いセドリックが勇士に選ばれるのは当然だと。

 

「セドリック、応援してるよ。心から」

「――なんだ、ハリー。君が『義務感』で応援してると僕が思っていると考えていたのかい? 君はずっと、僕を心から応援してくれていたって知っていたよ」

「……うん」

 

 セドリックはハリーの頭をくしゃりと撫でた。

 

「ハリー、死ぬなよ。どうにかできそうか?」

「うん。友達が策を考えてくれてる。その策通りにやれば上手くいくって、信じてる」

 

 ハリーの回答に、セドリックは笑みを深くした。

 

「ハリーだって、勇士にふさわしくないわけじゃない。ハリーも頑張って」

「うん!」

 

 セドリックはにこやかに笑って去っていった。ハリーは荷物を片付けると、図書室に向かって足を向けた。その途中で、ハーマイオニーとロンの二人にでくわした。

 

「ハリー、呪文は?」

「ばっちり」

 

 ロンの質問に、ハリーは笑顔で返した。二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑い合った。

 

「な?」

「ええ。さあハリー、私たちで考えた策を伝えるわね。いい、まずは――」

 

 ハーマイオニーから伝えられた策を聞いて、ハリーはさらに笑みを深くした。昨日に感じていた死の恐怖は、もう遥か遠かった。

 今なら、きっとうまくいくだろうという確信があった。

 

 ――明日は11月24日。最初の課題の当日だ。

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