【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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課題後の職員雑談

 ――1994年 12月 ホグワーツ職員室

 

 第一の課題が終わってからしばらくして。カサンドラは職員室の暖炉の前に座り、他の職員と雑談していた。珍しく校長室から出てきているダンブルドアと、マクゴナガルとの三人が話し相手だった。話題はもちろん、第一の課題についてだった。最も、話の内容は生徒たちが語るようなものとは隔絶していたが。

 

「――で、結局外部の線は低いか」

「そうじゃの。あの課題ではいくらでも『やりよう』はあった。ドラゴンを凶暴なものにすり替える……むろん、ホーンテールが凶暴なことを否定する気はないがの」

「当然です! あんなドラゴンの中でも1,2を争うほど凶暴な種を課題に取り入れるなど――! 関係者全員が勇士たちの殺害をもくろんでいると言われても否定できない凄惨さです!」

「まあ、結局誰も死ななかった。けが人は出たが」

 

 カサンドラは籠に入っているチェリーをつまむと口に入れる。職員室のお菓子類は屋敷しもべ妖精が仕入れてくれるらしい。もしハーマイオニーの活動が実を結べば、至れり尽くせりのサービスもなくなるのだろうか。

 

「まったく! ミス・デラクールはスカートが焦げて、ディゴリーは顔に火傷を負いました! もし怪我の内容が逆だったかと思うと……!」

「ああ、デラクールな。あいつも困った奴だ。なあダンブルドア、アプローチされて断り文句考えるのも面倒になってきたんだが」

「うむ……ミス・デラクールは成人しているし……ワシの言った条件には合致しておるのう……」

「――カサンドラ! ホグワーツの中でいかがわしい行為に及ぶのは厳に! 厳に控えていただきます!」

 

 マクゴナガルが目を吊り上げて言うが、カサンドラは飄々と肩を竦める程度の反応しかしなかった。

 

「マクゴナガル、そりゃ建前ってやつだ。知ってるだろ? 上級生たちは……ちょうど4年生くらいから恋愛に燃え上がる。巡回してるからよくわかるが、クリスマス前はすさまじいぞ? ダンブルドアもホグワーツに目を光らせてるんだろ? なら詳しいだろ」

「ふむ……残念じゃが、なんのことかさっぱりわからんのう」

 

 ほっほっほ、とダンブルドアはこれ以上ないくらいはっきりとしらばっくれた。ダンブルドアも若いころはそれはそれはモテた。女性同士が話している中、男性は自分だけ……そういう状況の経験も豊富だ。つまり、明言せずしらばっくれるのが吉なのだ。

 

「まったく。――ダンブルドアがこういうんだ。つまり黙認ってやつだ」

「く……。しかし、仕方のない側面があるのは認めましょう。私が学生の頃、そういう話が全くなかったと言えばそれは確実に嘘になります」

「ワシの頃も、まあそういう噂はあったのう」

 

 しかし! とマクゴナガルは厳しい表情を変えなかった。

 

「カサンドラ、教員側の人間が積極的にそう言った行為に自分の居室で及ぶなど、私が許すと思わないことですね」

「別に、許される必要もない。だろう?」

「屁理屈を……! ――まあ、それは仕方ないと、癪ですが認めましょう。しかしカサンドラ、あなたは女性が好きなのですか?」

 

 マクゴナガルの質問を聞いて、この先の会話の流れを察したダンブルドアは席を立つ。

 

「待ってくれ、まだ話があるんだ」

「ワシは今日いっぱい予定を開けておくでな、あとで校長室に来ておくれ」

「いや、お前の意見も聞きたいんだが」

「そうです、校長。長い間なあなあにしてきましたが、校長としての意見も是非聞きたいですね」

 

 ダンブルドアはあきらめたように目をつぶって、それからわずかにため息をついた。

 

「仕方ないのう……」

「悪いな。それで、さっきの答えなんだがな、マクゴナガル。私は老若男女気にしないな」

「老若は気にしていただきたいところですが、わかりました。つまりカサンドラにとってデラクールは魅力的に見えると?」

「ああ。彼女は……クールだ。女の身でよくあんな危険な課題に挑む気になったと感心してる。しかも試合運びも素晴らしかった。あのドラゴンを魅了しようとして、そして成功した。まさか眠らせるなんてな。私は実力があるものに惹かれるんだ」

 

 ちらりとダンブルドアを横目で見ながら、マクゴナガルは頷いた。

 

「よくわかりました。しかし……恋しているわけではないでしょう?」

 

 カサンドラはくすりと笑った。

 

「意外とうぶなんだな、マクゴナガル。身体を重ねるのに、愛情はいらない。――あるいは、重ねることで芽生えるのか。どっちなのか一緒に確認してみないか?」

「確認しません。今年度が終わればフランスに帰ることがわかっているのにカサンドラを誘うということは、デラクールもわかっているのでしょうか」

「だろうな」

 

 カサンドラはテーブルの上に置いてあるゴブレットを手に取って、飲み物を一口飲んだ。

 

「安心して遊べる相手で不安を解消したい……そんなところだろう。ヴィーラの血を引いてる彼女は体を重ねたら相手をどこまでも魅了してしまうんだろうな。本気になられてもお互い不幸になるだけだ。それなら、行きずりの相手と、となっても不思議じゃない」

 

 マクゴナガルは顎に手を当ててしばらく悩んだ。

 

「……やはり、精神のケアは必要ですか」

「ドラゴン相手にたった一人で放り出されれば誰だって不安定になるだろう。落ち着いているハリーやクラムがおかしいんだ」

「まぁ……ビクトール・クラムはプロチームに入ってもう長いこと試合をしておる。度胸はそれでついたんじゃろう」

「ハリーはあの中で一番落ち着いてたぞ。今も呑気に正式な手段で行く初めてのホグズミードを友達と楽しんでいるだろうな」

 

 マクゴナガルは眉を顰めた。

 

「まったく……あれを私が認めると思っていたポッターには脱帽です」

 

 マクゴナガルの言葉に、カサンドラは苦笑した。それもそうだろう。保護者のサインとして名前があったのは()()シリウス・ブラックだ。呼び出して滾々と説教されても文句は言えないだろう。

 

「だが、許したんだろう? いいとこあるじゃないか」

「心外な物言いですね。ホグズミードの許可証には保護者のサインが必要とは定められていますが、犯罪者はその資格を喪失するとはどのルールを見ても書いていないだけです」

「まったく、生徒の前でもそういう頭の柔らかいところを見せたらどうなんだ? そうすりゃもっと人気出るだろう」

「それとこれとは全く別のことですし、私は人気が欲しくて授業をしているわけではありません」

 

 厳格を絵に描いたような言葉に、カサンドラも、そしてダンブルドアもほっこりとした表情をする。

 

「なんですか」

「いやなに。可愛いと思ってな。本格的にどうだ?」

「どうだ? では、ありません! 全く、あなたが生徒なら何点減点し、どれほどの罰則を与えていたでしょうか」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「まあ、そのことはもういいじゃろう。カサンドラ、それとなくハリーに第二の課題に向けて取り組むよう言ってはくれんかのう?」

「もう少し勇士には休息が必要だと思うがな。ちなみに、第二の課題はなんなんだ?」

 

 カサンドラが聞くと、ダンブルドアはしばらく悩んだようなそぶりを見せた。だが、すぐに答えを言った。

 

「ホグワーツの湖の中に人質を沈め……その人質を救出する課題じゃよ」

「あのな」

 

 カサンドラはキレそうだった。

 

「人の命を何だと思ってる」

「魔法で万全の体制を整えておる。万が一もありえんよ。それでも不安じゃろうな。いざというときの為に、カサンドラは自由に動いてもらっても構わんよ」

「なら、私は課題中ずっと水中にいることにする。溺死するのは苦しいらしいからな。どんな殺し方よりも抵抗が激しい」

「カサンドラ、念のため聞きますが、それはいつの話ですか」

 

 マクゴナガルが頬をひきつらせながら聞く。

 

「最後にやったのは600年前か、それくらいか? まあ、どうでもいいことだろう。それで、ハリーは突破できそうなのか?」

 

 カサンドラの質問に、ダンブルドアもマクゴナガルもそろって沈黙した。

 

「おい、大丈夫なのか?」

「本音を言うならば、かなり困難と言えるでしょう」

「想定されている攻略法は『泡頭呪文』を使うこと、もしくは高度な変身術を用いて水棲生物に変身することじゃ。また、特殊な例としては『水流強化』の呪文を使って水の流れを操作し、一気に潜って一気に浮上する、などが挙げられるのう」

 

 しかし、とマクゴナガルは説明を引き継いだ。

 

「これらの攻略法はとてもではありませんが14歳の生徒にできることではありません。『泡頭呪文』はかなり困難極める魔法のうちの一つなのです」

「ああ……確かに、人に影響を与えるタイプの呪文じゃないからな」

「――ええ、そうですね」

 

 マクゴナガルは否定しなかった。わずかに、カサンドラは眉を怪訝そうに顰めた。

 

「ホグワーツで呪文を教えていれば、魔法使いが得意な呪文とそうでない呪文の分類ぐらいできます。魔法使いが『人を支配することに長けている』という主張は全く、否定できるものではありません」

「ワシも同意見かのう。かつて、ヴォルデモートの勢力が最も恐れられたのは『死の呪文』そのものよりも、『服従の呪文』や『磔の呪文』を効果的に、残酷に用いる点じゃったからのう」

「しかし」

 

 マクゴナガルは凛とした表情で言った。

 

「私たち魔法使いのルーツについては、おいそれと同意はできません。『かつて来たりし者たち』が神に近しい存在というのは私だって知っていますが、その子孫が我々魔法使いだなんて……にわかには信じられません」

「ま、信じてほしくて暴露したわけじゃない。結局どこまで行っても『純血主義』なんてばかばかしいと思ってくれればと思っただけだ」

「……そうですか。この件について、あまり議論をするつもりはありません。どこまで行っても、証拠は存在しないのですから」

「ああ、別に私も是が非でも信じてもらいたいわけじゃない。――で、二人とも。私はハリーにどんなアドバイスをすればいい? 正直言うと、答えなら渡せる」

 

 カサンドラが言うと、ダンブルドアも、マクゴナガルも不思議そうな顔をした。

 

「また……ずいぶんな物言いじゃのう? 相当に困難じゃとワシは思うんじゃが」

()()ならな。私は普通のマグルじゃない。私は持つだけで水中で息ができるようになる槍を持ってる」

「……それは……反則でしょう?」

「また『呼び寄せ呪文』かのう?」

 

 ダンブルドアとマクゴナガルが顔を見合わせてそう言った。それから、ダンブルドアは頷いた。

 

「うむ、最後の手段があるというのは実に素晴らしいことじゃ。なら、方針を変えようかの」

「ほう?」

「ハリーへのアドバイスはせんでもよろしい。このままハリーに少しでも成長してもらうべく、ワシたち教師は見守るとしよう。そして、もし最後まで打開することができなんだら、その時はカサンドラ。その槍をどうかハリーに貸してやってはくれんかの?」

 

 カサンドラは頷いた。

 

「いいぞ。まあ、正直苦しむハリーを見るのは心苦しいんだが」

「苦悩する生徒を前に答えをぐっと堪えるのも、教師の心得ですよ」

「……そういうことなら、わかったよ」

 

 カサンドラは頷いた。

 

「さて、最初の話題に戻ろう。結局、調査の方はどう進めればいい?」

「ふーむ……ワシは、ムーディが怪しいのではないかと思っておる」

「あー、なるほど」

 

 カサンドラは得心が言ったという風にうなずいた。

 

「毎年恒例だ」

「校長先生、なぜ彼を疑うのです?」

「いやなに、多少違和感がある、程度のことじゃ。まだ、のう。じゃが、ムーディは演技に長けているタイプではない。時間と共にボロが出てくるじゃろう」

「そのボロが出てくるのが『ハリーが死んだあと』だと困るんだが?」

「わかっておる。ワシは今度のダンス・パーティで揺さぶりをかけようと思っておるよ。それでボロを出したなら、その時はお主に過激な調査を頼むことになるじゃろう」

 

 カサンドラは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「なるほどな。今年のクリスマスは()()()ことになりそうだ。ダンスパーティは久々だが、ちゃんと会場は水はけよくしておけよ? 血がどれだけ流れるかわからないからな」

 

 カサンドラの言葉に、ダンブルドアは頬をひきつらせながらもうなずいた。

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