【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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パーティー事前準備

――1994年12月 グリフィンドール談話室

 

 ロンとハリーはとりあえず相手が見つかってほっと安堵していた。

 

「まったく。トロール2匹引き連れてパーティーに参加する羽目にならなくてよかったぜ」

 

 ロンが肩を竦めながらハリーに言う。

 

「それにしても、ハリー、ジニーをぞんざいに扱うなよ? あれでも僕の妹なんだからな」

「わかってるよ」

「それを」

 

 暖炉の前で話していた二人に、冷たい目をしたハーマイオニーがやってきてチクリと小言を言う。

 

「あなたが言うのかしら。あなたルーナの扱い悪いって噂になってるわよ」

「僕は別に『ルーニー』の恋人ってわけじゃないんだぜ?」

「あら? じゃあ誰の恋人だって言うのかしら? 私のダンスパートナーに対してえらく口出しするところを見るに、私? 冗談でしょ?

「蒸し返すなよ! それに、君はクラムの恋人なんだろ? はっ! なんであんな男がいいんだか! O脚で、姿勢も悪くて、英語もへたっぴ。君にはふさわしくないね」

 

 ハーマイオニーはカチンとなって、ロンに言い返す。

 

「その『あんな男』を今年のワールドカップで熱狂的に応援していた人が目の前にいらっしゃるんですけれど、何か言う事はあるかしら?」

「あの時はあの時だ! 君を誘うようなヤツだって知ってたら、ファンになんかならなかった!」

「ロン、これだけは言っておきますけど、私はあなたたちと仲良くしてはいるわ。でもね、ダンスのパートナーを品評されて怒らないわけじゃないのよ!」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、怒って女子寮に戻ってしまった。ハリーは思わずため息をつく。去年よりよっぽど深刻な仲たがいだった。ことが男女の機微である以上、上手くいくのかどうか。ハリーにはわからなかった。

 

 

――

 

 クリスマス休暇が始まる前には、学生たちに山のような宿題が出された。が、学生たちはただの一人も――ハーマイオニーでさえ、ダンスパーティーの後でとりかかろうと考えていた。クリスマスまでの一週間、学生たちは思い思いにホグワーツで遊びまくった。フレッド、ジョージの新商品『カナリア・クリーム』やらゾンコの悪戯グッズなどが乱舞するように使用され、フィルチやカサンドラが対処に追われることになった。マクゴナガルはついに学生たちの風紀を取り締まるために警備隊を組織し、カサンドラと同じようにホグワーツ内を巡回することとなった。警備隊のメンバーはスネイプ、マクゴナガル、フリットウィック、スプラウトで、四人の寮監がホグワーツ中で目を光らせていた。

 

「貴様ら……! 全く、場所を選ばんか! スリザリン10点減点、レイブンクロー、10点減点!」

 

 そんなスネイプの怒号がそこかしこで聞こえるようになったとか。休暇が始まってクリスマスになるまでに、ホグワーツの各寮は仲良く減点され続けた。

 

 ホグワーツ生が食事に混ざった悪戯グッズを見分けるために杖まで使って調べるのが常態化したころ、ホグワーツは雪に降られて白一色に染まった。厨房はクリスマスになっても全然人が減らず、大量の食事を作らなければならない状況を心の底から喜び、奮発してたくさんのおいしい料理を山のように作った。

 

「キャシー、ちょっとホグワーツの料理は重たいと思わない? ……キャシーはそう思わないみたいね」

 

 カサンドラの皿に盛られたステーキセットを見て、フラーが言った。サラダやらなにやら、小食極まるメニューで夕食を済ませた彼女は、早々に教員席まで歩いてカサンドラとおしゃべりに興じていた。もはや恒例となりつつある光景だった。

 

「まあな。私は結構動くからな」

「私はそこまで運動しないから、おなか周りが気になっちゃうわ。プレゼントしてくれたドレスが入らなくなったらどうしましょう。――ね、どうかしら、私向けの運動を一緒にしない?」

「残念だが、今は風紀委員がうるさくてな」

「まぁ。カサンドラがそんなことを気にするタイプだとは思わなかったわ」

「悪いな。もう少ししたら落ち着くと思う。――時が来たら存分に、な」

 

 カサンドラが笑うと、フラーも同じように笑った。

 

「……あー、クソっ! 何話してるんだろうな、カサンドラ」

「ロン、もうデラクールをじっと見つめるのやめなよ。印象悪いよ」

 

 ロンはカサンドラとフラーの方を見たままハリーと会話する。振られたばかりのときは鳴りを潜めたのだが、最近、クリスマスが近くなるとロンはフラーへの熱視線を強めた。ルーナというパートナーがいて、たとえクソみたいな誘い文句だったとしても他の女を誘っておいて、それでもなおパートナーが決まっている相手を見続けるロンの女子生徒からの評価は下がり続けていた。

 

「ハリー、もう構わなくてもいいわよ」

 

 ジニーが殊更お上品に食事をしながらハリーに話しかける。

 

「でも心配で」

「優しいのね、ハリー。私、そういうあなたは素敵だと思うわ。贈ってくれたネックレスありがとう。一生の宝ものよ」

「そんな大げさにしなくてもいいよ。でも、そう思ってくれてうれしいよ」

 

 ハリーはにっこりとほほ笑みながら言った。ハリーは親が残してくれた遺産を少し切り崩して、ジニーにそれなりの値打ちもののネックレスをプレゼントしていた。ハーマイオニーにそれとなく聞いてもらって、ロクなドレスを持っていないのも知っているので、またドレスもプレゼントするつもりだった。贈り物と、優しい言葉。パートナーにはこれくらいが当然だとカサンドラも言っていたし、細かいサポートが大事だと2年前にロックハートも言っていた。

 

「なあハリー、カサンドラってダンスできるのか? 古代ギリシャにそんなのあったとは思えないんだけど」

「ロン……。友達として忠告するけど、みっともないよ」

「……そんなにか?」

 

 ロンは思わず聞いた。男女の機微に疎そうなハリーからそんな風に忠告を受けるくらい今のロンはヤバい。ロンは自分が周りにどう思われているのかようやく自覚しようとしていた。

 

「うん。ルーナもほったらかしで、ドレスも……ねえロン」

 

 ハッと、ハリーはとんでもないことに気づいてしまった。ハリーはウィーズリー家のあったかい家族が大好きだ。だが、それはそれ、である。ロンの家がお金持ちじゃない、もっといえば一人娘の晴れ舞台にドレスを買い与えることができないくらいには貧乏であることをよく知っていた。

 

「ドレスは持ってるよね」

「ドレス? ……あ」

 

 ロンは顔を青ざめさせた。

 

「い、いや、一応ママが持たせてはくれてる。けど……まあ、パパが子供の頃の奴だから……。でもルーナが相手だし」

「ロン!」

 

 ハリーとジニー、二人から怒ったように名前を呼ばれて、ロンは肩を跳ねさせた。

 

「なんだよ?」

「ロン、そのセリフはヤバいよ」

「ロン、兄だから最後に言っとくけど、早くそのデリカシーのなさを改めないとお嫁さんなんて一生来てくれないわよ」

「……ごめん」

 

 ロンは不承不承謝ったが、なぜ怒られているのかすらよくわかっていないようだった。

 

「もう処置なしよ。ハリー、どうしよう? このままだとルーナが傷つけられるだけよ」

「……カサンドラに頼ろう」

 

 そういうことになった。

 

――

 

 クリスマスを前日に控えたその日。ロンは友達と妹に言われてカサンドラの居室に来ていた。居室に入ると、呆れた顔をしたカサンドラがソファに座っていた。

 

「まったく。お前ってやつは……」

「僕なんでカサンドラのところによこされたの? 正直よくわかんないんだけど」

「ハーマイオニーとルーナに随分と失礼なことをしているらしいじゃないか。それに、私のパートナーに色目を使っていると専らの噂だ」

 

 う、とロンはうめいた。だが、カサンドラの雰囲気はそこまで険悪ではなかった。ロンに椅子を勧めると、カサンドラは腕を組んだ。

 

「まったく。『ロンのデリカシーのなさをなんとかしてほしい』なんて長いこと傭兵をやってるが初めての依頼だぞ。まあ、いい。それで? お前はなんだってルーナをそんなぞんざいに扱うんだ」

「ぞんざいに扱ってなんかないよ」

「ドレスを持ってるか確認したか? アクセサリーは?」

「なんでそんなことまでしなきゃいけないんだよ?」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「そりゃルーナは下級生だからな。同級生相手にそこまでやったらもうプロポーズに近い。だが、年上ならそれくらいリードしてやれ」

「1年だけだろ? いやまぁ、確かにちょっと大人げなかったかなとは思うけど」

「ルーナは不安がってたぞ。そもそも下級生はダンスパーティーに参加する気がない人間もいる。ルーナはその筆頭だ。誘ったならその辺も頭を回せ」

「難しいって!」

 

 ロンが言うと、カサンドラはほんの少し厳しい顔をした。

 

「あのな。お前もう14だろう? その様子なら、フラーのパートナーになったとしてもフラれてたぞ」

「……マジ?」

「マジだ。とにかく、今からお前に少しだけデリカシーについて教育してやる。友達が女子にハブられて学生生活を終えないようにな」

 

 カサンドラは久々に長々と説教することになった。カサンドラの教育が終わってロンがどう変わったのか。それがわかるのは、クリスマス当日、ダンスパーティーの日だった。

 

 ――1994年12月 クリスマス

 

 ハリーが目を覚ますと、ベッドの足元にクリスマス・プレゼントが山のように積みあがっていた。同じルームメイトのロン、シェーマス、ディーン、ネビルの足元にも同じようにうずたかくクリスマスプレゼントが積みあがっており、歩くのにも少し気を遣わないといけないくらいだった。ハリーは例年通りクリスマスプレゼントの包みを一つ一つ開けていく。――ジニーからは有名ブランドのクィディッチ用のグローブが贈られていた。来年はこれを使うことにしよう。そうすれば彼女も喜んでくれるだろうか。

 

 ほかにも知らない人たちや、知っている人たちからもプレゼントが贈られていた。ハリーはその中でも特にみすぼらしい包みを一つ手に取った。中を開くと、右と左で色とデザインが違う手編みの靴下が入っていた。クリスマスカードを見てみると、どうやらドビーからのものだったらしい。お給料で買った毛糸で、ハリーに手編みの靴下……思い出の品を贈ってくれる。まあ、靴下のデザインはお世辞にもいいとは言えないが、ハリーはドビーとの友情を確かに感じていた。丁寧に靴下を畳むと、トランクの奥の方に大事にしまった。

 

「おはよう、ハリー。メリー・クリスマス」

「メリー・クリスマス、ネビル。そういえばネビルってダンスパーティーの相手は決まったの?」

「うん。ミス・パチルと――あー、パーバティの方ね」

 

 グリフィンドールのパーバティ・パチルはレイブンクローに双子の妹がいて、そのせいもあってファミリーネームで呼ばれることが滅多にない。妹のパドマ・パチルもグリフィンドールの生徒とダンスパーティーに参加するようだった。

 クリスマス・パーティーまでの時間をロンとハリー、それからハーマイオニーは談話室で過ごした。クリスマスプレゼントのおもちゃで遊んだり、ロンがハーマイオニーにチェスを教えたり。そんな風に過ごしていると、パーティーの時間が3時間前に迫ったころ、ハーマイオニーや他の女子生徒は準備があると女子寮に引っ込んでいった。

 

「じゃあ、私は準備があるから」

「あー、ゆっくり準備してきなよ」

 

 ロンがあっさりと、嫌味の一つも言わずにハーマイオニーを送り出したことを、ハリーが驚いたような目で見ていた。談話室から女子生徒がいなくなってから、ハリーはにやにやして言う。

 

「もうクラムがどうこう言わないんだ?」

「からかうなよ。……カサンドラにしごかれたんだよ。改めて思ったね、あの人を『闇の魔術に対する防衛術』の先生にしたら本当にヤバいって」

「ずいぶんスパルタ教育だったみたいだね」

「そりゃ、あの人スパルタ人らしいし」

「とにかく、僕らも準備する?」

「まだ3時間前だぞ? ギリギリでも大丈夫」

 

 なんてことを言ったことを、ロンは2時間後後悔することになった。自分の部屋で着替えようとロンが自分のトランクを開けた瞬間、彼は絶望の声を上げた。

 

「マジかよ!?」

「ロン、どうし……うわあ」

 

 ロンが手に持って広げたドレスを見て、ハリーはそんな声を上げた。

 

「んー……博物館にあったら、たぶん感動できたと思う」

「それを僕が今から着るんだぞ!?なんでこんなフリルがいっぱいついてるんだ!? 女ものじゃないよな!?」

 

 ハリーは首をかしげながらもロンのドレスローブを眺める。

 

「つくりは男物だけど。センスが30年くらい前のだね」

「がーっ! 前もって見てりゃよかった! どうしよう。これルーナでも断られるかも」

「とりあえず、フリルを『切断呪文』でなんとかしようか。上級生にも手伝ってもらおう。急ごう」

 

 それからグリフィンドール生総出でロンのドレスローブをなんとかするために四苦八苦する羽目になった。ロンは手伝ってくれた生徒全員にバタービールを一杯奢ることになったが、それでもルーナにダンスパーティー当日にフラれるという最悪の経験をすることは回避できた。

 

 ――ホグワーツを熱狂させてきたダンスパーティーが、もうすぐ始まる。

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