【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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始まったダンスパーティー

 準備を終えたハリーたち男連中は談話室に自分のパートナーを迎えに行った。

 

「うわ……すごく、キレイ」

 

 そんな誉め言葉が乱舞し、女子生徒は気を良くする。『イイ』男は杓子定規的なものではなく、その子に合った誉め言葉を選んで、パートナーを喜ばせている。

 

「ジニー、似合ってるよ」

 

 ハリーはジニーのそばに寄ってにっこりとほほ笑みかけた。

 ハリーが贈った空色のドレスはジニーの赤い髪によく似合っていた。まるでラメのように銀の粒がちりばめられているそのドレスはお高かったが……自分が贈ったドレスをこの上なく幸せそうな表情で着てくれるということに、ハリーは思った以上にドキッとした。支配欲ほど醜悪ではなく、献身というには醜くて。そんな気持ちをハリーは抱いた。首に光る銀色の十字架も、ハリーが贈ったものだ。

 

「……僕が贈った服、着てくれてありがとう。とっても素敵だよ」

「ありがとう、ハリー。誘ってくれて本当に幸せよ」

 

 ハリーはさりげなく……特に意識をしたわけではなく、自然とジニーに手を差し出した。ハリーの今までの『満点』に近い言動の数多くはカサンドラの入れ知恵、あるいはロックハートから教わったことをアレンジしたものだった。だが今、ハリーは自分の意思でジニーと『手をつなぎたい』と思ったのだ。

 

「あ……」

 

 その光景を見て、ロンが口籠る。

 

「ロン、親友と妹と同時に嫌われたくなかったら、黙っていなさいよ」

「――わかってるって、ハーマイオニー。さすがにそれくらいはな。それにしても、ハーマイオニー。可愛くなったな」

 

 ハーマイオニーはいつもはふんわり広がる髪をシニヨンにまとめて、ピンク色のドレスに身を包んでいた。ロンが手放しでほめると、彼女は嬉しそうな顔をしたあと、ハッとなって言った。

 

「うれしいわ、ロン。でもルーナにもちゃんと言ってあげないとだめよ」

「わかってるよ。目玉のネックレスを付けていても『似合ってるね』だろ?」

 

 もう、とハーマイオニーは言ったが、その通りだった。

 

 ――もうすぐ、恋の戦士たちは戦場へと向かう。

 

 大広間へと続く玄関ホールは着飾った生徒たちでごったがえしていた。ロンとハーマイオニーが手持ち無沙汰にきょろきょろとしていると、生徒の波をかき分けて二人の人間がやってくる。ダームストラングのビクトール・クラムとレイブンクローの3年生、『ルーニー』ルーナ・ラブグッドである。

 

 クラムは真っ赤なドレスにもこもことしたマントを着ており、印象は異国の王子様といったところだろうか。普段はガニ股気味のO脚だったが、歩き方に気を遣っているのか、とても優雅に見える。

 ルーナはレイブンクローのイメージカラー、深い青色のドレスを着て、金に輝く十字架のネックレスと、十字架があしらわれたブレスレットを付けていた。

 

「ハーミー・オウン、とっても、きれいです」

「ルーナ、似合っててとってもきれいだ。そのネックレスとか、本当に素敵だよ」

 

 二人の男がほぼ同時にパートナーをほめそやした。ロンがピクリと眉を顰める。

 

「よう色男。もう少し我らが女神をほめたりできないのか?」

「ロン!」

 

 ハーマイオニーが怒るが、クラムはにっこりと笑ってロンの言葉に頷いた。

 

「君の言う通り。ハーミー・オウン、君の髪はまるで月の女神を宿したみたいです。パートナーとしてヴォクと今日を過ごしてくれることを、うれしく思います」

 

 ホグワーツに来た当初よりもはるかに流暢に聞こえるようになった英語で、クラムはハーマイオニーをほめる。

 

「あ、ありがとう、クラム」

「『ビクトール』と、お願いします」

「……――ビクトール」

 

 ありがとう、と感極まった様子でクラムはハーマイオニーの手を取った。

 

「ヴォクたち勇士は、こっちから入ります。さあ」

 

 そう言ってクラムはハーマイオニーの手を引いてどこかへ行ってしまった。ロンはきょろきょろと周囲を見回す。そういえばハリーの姿も見えなかった。セドリックの姿も、フラーの姿も。

 

「……なんだよあいつ、調子いいな」

「――嫉妬してるンだ」

「僕が? あいつに? 冗談だろ」

 

 ルーナは不思議そうに首を傾げた。自分に正直に生きているルーナにとって、気持ちを誤魔化すロンのことはなかなか理解しがたい生き物に見えた。

 

 

 

 勇士たちは他の生徒たち全員が入ってから入場することになっており、別の場所で待機していた。

 ハリーは時折、セドリックの腕に手を回すチョウのことを見ていた。チョウも、セドリックも、お互いいい雰囲気だ。チョウの顔は照れたように紅潮しており、どれだけ強い想いを抱いているのかがありありとわかった。

 

「ねえ、ハリー」

「え、あ、どうしたの、ジニー」

「私、ちょっと我儘かも」

「え?」

 

 ハリーは思わずジニーを見た。ジニーは申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「その、ハリーに他の女性を見てほしくないなって、そんなこと思っちゃうの。――恋人ってわけでもないのにね」

 

 その傷ついた表情に、ハリーは途端に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。女の子にこんなことを言わせてしまった。ふがいない。

 

「あ、ご、ごめんね、ジニー。もう他の人は見ないよ。本当だ」

「本当? うれしい!」

 

 ジニーは太陽のように朗らかな笑顔を浮かべて、ハリーの腕に手を絡ませた。身体が密着し、ドキリと心臓が跳ねる。見ないように気を付ける必要なんて、もはやなかった。ハリーの目はすぐそば、腕をほんの少しよじるだけでも体温を感じることができる小さな女の子に釘付けになった。

 

「……ふふ、作戦通りだな」

 

 フランス語でカサンドラはその様子を見てにんまりとほほ笑んだ。カサンドラはパンツタイプのスーツに身を包んでいた。こんなこともあろうかと――時代が新しくなればなるほどカサンドラは女性にモテる――男物のダンス・スーツを用意していた。ドレスローブなんてカサンドラに似合わないことがわかっていたので、魔法界ならこれでも上手く男っぽく見えるだろうと、スーツと革靴でバッチリ決めていた。フォーマルスーツを着たカサンドラは嫌に格好よく、ところどころにあしらわれた銀色のバラの刺繍は、ほんのわずかに女性性を思わせた。カサンドラは腕を組んで壁に背を預けており、フラーはその近くで、まるで相棒か何かのように立っていた。

 

「カサンドラは先生だものね。でもポッター君やウィーズリー君にそんなに気をかける必要ある? 『生き残った男の子』だから?」

「いいや。あの二人は友達なんだ」

「くすっ。ずいぶん年下の友達なのね」

「年下と友達を作ることが嫌なら、私には誰一人友人ができないことになる。友人のいない人生なんて、空虚なだけだ」

「恋人はどうかしら? 同性の恋人も……刺激的だと思うけど?」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「別に、同性だろうと私はかまいやしないが、お前はどうなんだ、フラー? 虫よけとしてなら喜んで隣に立ってやるが、本気となると少し話は変わるぞ?」

「どう変わるのかしら?」

「まず、お前と添い遂げることはできないし……はっきり言うと、私はよくても世間の目はどう思うか」

「あら、ドラゴンより強くても世間は怖いのかしら?」

「まあな。それに、お前は今年度末にはフランスに帰る」

「私、『姿現し』を覚えてるのよ?」

 

 カサンドラは深くため息をついた。

 

「残念だが……もとより、私がお前と恋人になりたいとは思わない。ダンスパーティーや……そうだな、夜を過ごすのは悪くないだろう。だがな」

「もう、キャシーったら。……わかってるわ。きっとあなたを振り向かせるには勇士の称号も絶世の容姿も関係ないんだって。でも、キャシー。素敵な思い出にはしてくれるのよね?」

「もちろんだとも」

 

 カサンドラは急にフラーの手を取ると、すっと腰に手をまわした。それと同時に、マクゴナガルが待機場所に歩いてやってきた。彼女も余所行きのイブニングドレスに身を包んではいるが、そこまで本気ではない。生徒たちに比べれば気合の入れようが全然違う。

 

「では、勇士たちは私についてきてください」

 

 マクゴナガルがゆっくりと歩き出すと、勇士たちも一列に並んで歩く。大広間に続く扉は開け放たれており、そこにはこの世のものとは思えぬ光景が広がっていた。

 大広間の壁は銀色に輝く霜でおおわれており、床は青く分厚い氷でコーティングされている。だが冷たくも寒くも感じない。まさしく魔法の空間だった。天井を見上げれば星々が瞬く幻影に、流星群が光っている。壁には何百というヤドリギやツタの花綱が絡んでいた。各寮のテーブルはなくなっており、代わりに10人ほどが座れる丸テーブルが100近く置かれていた。

 

 カサンドラは特に警戒することなく歩く。今日警戒するべき人間は事前に指定されている。『マッドアイ』ムーディ。ちらりと彼に視線を向けると、一張羅に身を包んだ彼は居心地悪そうな顔をしていた。

 

「くすくす、ウィーズリー君は本当にグレンジャーさんが好きなのね」

「そう見えるか? 本人に自覚はこれっぽっちもないんだ」

「あらあら」

 

 ロンのそばを、クラムの腕に手を絡めるハーマイオニーが通った時の彼の顔と言ったら、今にもクラムを殺さんとばかりの表情をしていた。会場の雰囲気に圧倒されていたルーナがパートナーの様子に気づくことはなかったが、もし気付かれていたら、冷めた目で見られていたことだろう。

 

「――あら? 妙ね」

「確かにな。だが、まあ、お前と同じような感じなんじゃないか?」

「許されざる恋、ねえ」

 

 カサンドラとフラーがそんなことを言うのも無理はない。審査員の近く、勇士専用の席までたどり着いたクラムとハーマイオニーを、カルカロフがロンと同じような表情で見ていたのだ。視線を向ける相手は、当然のようにハーマイオニーだった。審査員席にはまだおかしいことがあった。カサンドラは事前にクラウチが座ると知らされていた席に、なぜかパーシー・ウィーズリーが座っていたのだ。

 

 テーブルに着いた勇士たちは、目の前に置かれた金の皿に何も料理が置かれていないことを不思議がった。しかし、審査員、教員席に座るダンブルドアが「ポークチョップ」と料理名を言うと、ポンと音がして料理が出た。

 

「なるほどな。『ビーフステーキ』」

「いつもそれなのね」

「まぁな。いつもならこういう場でこんなの頼まないんだがな……」

 

 今日は事情がある。もしかしたら荒事に発展する可能性がある。できるだけ力はつけておきたかった。

 

「……まあ、いいわ。キャシーはどの学校が優勝すると思う?」

「正直言うとよくわからんな。一応次の課題は知らされてはいるがな、まあ、情報収集ならやめとけ。拗ねた私がとんでもない嘘を紛れ込ませるかもしれないぞ?」

「もう。そういうんじゃないわ。キャシーはボーバトンを応援してくれるのかって話よ」

「残念だったな。私はホグワーツ所属だ」

「もう、いけず」

 

 カサンドラはちらりと周囲に視線をやる。ハーマイオニーとクラムはずいぶん楽しそうに話し込んでいる様子だった。

 

「……ええ、ヴォクたちのダームストラングも城が校舎です。ここまで大きい城ではないですし、こんなにも居心地がいい場所というわけでもないですが」

「ええ、知ってるわ、ビクトール。お城には景観重視のものと、防衛重視のものがあるって。ダームストラングは防衛に重きを置いているのね」

「そう言う事だと思います。ただ、申し訳ありません、もっとヴォクたちのことを知ってほしいと思っているのですが」

 

 ちらりとクラムは審査員席で他の校長たちと食事をしているカルカロフを見た。彼はちらちらと、見張るように時折クラムの方を見ていた。

 

「我々は秘密主義なのです」

「どうしてなのかしら? こういうことをするってことは、きっと魔法界同士がかたくなに『鎖国』してちゃダメだって思う人が多かったってことでしょう? 来年とか、再来年とか、きっといつかはダームストラングに他校の生徒が行くことになるんじゃないの?」

「ええ、ええ。ハーミー・オウンの言う通りです。けれど、ヴォクが思うに……魔法使いは『秘匿』が大事だと思う人も多いという事です」

「……そうだと思うわ。『ポテトサラダ』」

 

 ハーマイオニーが料理名を言うと、すぐさまポン、と音がして金の皿に料理が盛り付けられた。

 

「――クラムの家にも屋敷しもべ妖精っているの? この料理を作っているのは彼らなのよ」

「いえ、ヴォクの家には。ただ、ダームストラングの厨房にも、彼らがいるようですね。ヴォク、ハーミー・オウンの主張で質問したいことがいくつかあるんです。どうか教えていただけないでしょうか」

「もちろんよ! さあ、何が聞きたいの?」

 

 ハーマイオニーはずいぶん楽しそうだった。ハリーも同じように楽しそうに――それこそ、チョウの方を見る余裕がないくらいにジニーとパーティーを楽しんでいる。

 

「……ホント、あいつら楽しそうだよな」

「ロンは楽しくない?」

「そういうわけじゃないぞ? ああ、ルーナ。楽しい」

 

 ルーナはこれでも『ルーニー』と呼ばれて、レイブンクローの中でもかなり厳しい立場にいる。心無い言葉を投げかけられたことも一度や二度ではないし、『平気だモン』と思いながらも傷ついてきたことなんて数知れない。

 だが、そのルーナをして今の空虚な『楽しい』の攻撃力はすさまじいと感じた。何せ、その言葉を言ったその瞬間、ロンはルーナの方ではなく、親友ハリーやハーマイオニーの方を見ていたのだから。

 

 ――愛憎渦巻くダンスパーティーは、まだ始まったばかり。

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