【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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ゲーム中カサンドラが出来る魔法じみた動きは全てスキル名が付いていますが、文書中に出してカッコよく書けなかったので、スキル名は出してないです。
なので、魔法使い並みに魔法使いっぽいことします。


最初のターゲット

 カサンドラは槍を構えつつ、じりじりと間合いを詰める。クィレルとの距離はそう開けていない。カサンドラが一歩踏み込めば、槍の穂先が届く。だがそれは、魔法使いにとってはすでに射程ということも意味している。

 

「いいか、クィレル、絶対に近づかれるな……。頭のいいトロールを相手にしていると思え……」

 

 しかも、向こうは優秀な指揮官がつきっきりときた。

 

「失礼だなデキモノ風情が!」

 

 一足跳んで間合いを詰め、槍を突き出す。クィレルは大袈裟なくらい飛び上がり、まるで浮いているかのような挙動で後ろに下がった。すかさずクィレルから無言魔法が飛んでくる。どんな魔法かなんてカサンドラにはさっぱりわからない。赤色の閃光を切り払うと、腰に手を当てる。

 

(クソッ)

 

 もしかしたらと思っていたが、腰に下げていた秘密兵器が取り上げられている。武器だと思われているとは思っていなかった。

 

「クィレル、お前は確かマグル学の教授だったな?」

「そうだ。――それがどうした?」

 

 仕方なくカサンドラは一旦槍を何処かへしまい、背中の弓を取り出す。矢を番えて、放つ。

 

「飛び道具を避けられるのがお前だけだと、がぁっ!? 何?」

 

 大きく右に避けようとしたクィレルだったが、どういうカラクリか、いきなり矢が追いかけるように右に曲がり、クィレルの肩に当たったのだ。

 

「ちっ。外したか」

「あ、当たったみたいだけど」

「頭じゃない」

 

 淡々と二本目を番えるカサンドラ。ハリーは冷静に告げるカサンドラが怖くなった。――頭を、狙っていたの?

 

「私がマグル学の教授だったらどうだというのだ! お前も! 出来損ないが担当する科目だと言うのか! 『アバダ・ケダブラ――息絶えよ!』」

 

 緑色のおぞましい閃光をこともなげに回避すると、2射目を放つ。クィレルは無言呪文で盾の魔法を使ったが、どんな飛び道具でも防げるはずの盾がまるで効果を現さず、矢はあっさり半透明の盾を、まるですり抜けたように貫いてクィレルの太ももに突き刺さった。

 

「拳銃が凶器だと認識していたな? ホグワーツでは誰もが飾りだと思っていたのに」

「なぜ私が偉大なる御方に忠誠を誓ったと思っている!」

「――なんだと?」

「悍しい、恐るべき、危険で野蛮なマグルを絶滅させていただく為だ! アバダ・ケダブラ!」

 

 クィレルのその声は、まるで悲鳴のようだった。絶望を体現したかのような、そんな闇を内包した叫びだった。

 だがカサンドラはあくまで冷静だ。矢を番えながら緑色の閃光を回避する。直撃しないように位置どりができたところで矢を放ち、緑色の閃光に当てる。すると、閃光は一際大きく瞬いて消えた。当たった矢は矢羽しか残っていない。

 

「なるほどな」

 

 カサンドラは腰のポーチから特殊な矢尻を取り出すと、矢を番え、放つ。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

 緑色の閃光が矢に当たると、矢は盛大に爆発した。爆発物をたっぷり込めた矢尻だったのだ。もしクィレルに当たっていれば、腕やら足やらが吹っ飛んでいたかもしれない。

 ヴォルデモートは屈辱に歯噛みする思いだった。自身の、そして自身の配下たる死喰い人が恐れられた原因である死の呪文。それを、防御に使うことになるなど! それも、一本いくらかの安価な、ただのマグルが作った矢に!

 

「まぁ、気持ちはわからんでもない。どこかの戦場に見学にでも行ったか? ――本当に、馬鹿な真似を」

 

 カサンドラが憐れむように嘲笑うが、クィレルは反応しない。言い返す言葉なかった。なにせ、クィレルですらそう思う。本当に、馬鹿な真似をしたと。

 

「一番ありそうなのは……湾岸戦争か? よく生きてたな」

「運が良かった。私の魔法を使って、ダンブルドアのような英雄になろうとしたのだ」

 

 魔法と矢を応酬しながら、二人は不気味なほど静かに話をする。

 

「ハッ! バカバカしい。お山の大将にでもなろうとしたのか?」

「なれなかったが。私は! 魔法省から隠れ生きる気持ちで禁じられた呪文を披露した。この呪文だ! アバダ・ケダブラ!」

 

 カサンドラは鏡の後ろに隠れて緑色の閃光を回避する。死の呪文は鏡にあたったが、鏡はびくともしない。ヒビはおろか曇ることすらしない。

 

「だが! 私の魔法を見た指揮官はなんと言ったと思う?

『なら、次は隕石を落としてみろ』だ! 隕石を落とせと、そう言ったのだ! 私が愕然としたのはそこではない!

 

 そのレベルの、神話にも語られるような魔法でも使えないともはや、マグルの軍隊にとってなんの意味もないのだ!」

 

 カサンドラは鏡の()()()矢を放つ。矢は鏡も、咄嗟にクィレルが張った盾すらすり抜けて肩口に突き刺さった。

 

「グッ! どんな魔法を使った!? 貴様本当にマグルか!?」

「少しだけ特殊なんだ、私は」

「上だ、クィレル!」

 

 はっと、クィレルが頭上に視線を向けると、無数の矢が自分に向かって降り注いでいるのが見えた。ふわりと浮くようにして飛び、また距離を取る。

 カサンドラはその隙を狙いかけ出した。弓をしまって槍を構える。接近戦に持ち込むつもりだ。

 

「素晴らしい力だな、カサンドラ! だがマグルの軍隊の前では何の意味もない! 偉大なる御方のみが、奴らを駆逐し、我ら魔法使いに永遠の安寧をもたらすことができるのだ!」

「たしかに、もう剣と弓の時代は終わった。だが、こういう近接戦闘でさえ無意味かどうか――その体で確かめてみるがいい!」

 

 閃光を二度ほど切り払い、踏み込む。槍の間合いだ。――届いた。

 

「うおおおおお!」

 

 一閃。

 金色の軌跡が、クィレルの杖腕を通り抜けた。

 あまりにもあっさりと片腕を切り落とされたクィレルは、銀色が半分以上混じった血液を吹き出しながら、手を押さえる。

 

 

「ああ、あああ! ああああああ! う、腕が! わた、私の腕があああ! ご、ご主人様! つ、杖が! 杖が持てません! どうかお助けを、どうか助けてください!」

「冷静になれ! ハリーを狙え!」

「!」

 

 クィレルは切り落とされた腕をカサンドラの顔に向けて振るい、血で目潰しを試みる。

 

「ちっ」

 

 腕で庇うことで回避したが、その隙にクィレルはハリーのすぐ後ろに移動していた。

 

「クィレル!」

「はあ、はあ……。は、ははは、形勢逆転だな、カサンドラ」

 

 クィレルが息も絶え絶えに言う。未だに血がドクドクと流れ続ける。治る見込みはない。石がなければ、クィレルは遠からず死ぬだろう。

 

「余計な動きをするなよ……。人質がどうなってもいいのか?」

「――要求はなんだ」

「ヘルメスの杖だ。それを、私の方に投げ捨てろ」

「……それは」

 

 カサンドラは言葉につまらせる。それはできない。

 命が惜しいわけではない。だがこの杖はただの杖ではないのだ。延命効果は確かに強力だ。だが、それだけではないのだ。

 

「どうした? 大事な大事な生徒なんだろう?

 はは、それにしても――ご主人様があんなにも恐れていらっしゃったのが、こんなガキだなんて。なあカサンドラ。ダンブルドアが期待した英雄はこんなにもちっぽけだ。この戦いでこのガキが一体なんの貢献をした? していない。何もだ。それどころかこんな土壇場で足を引っ張っている。笑えるだろう?

 わたしはもう杖がないが――よくよく考えてみるんだ、カサンドラ。大人が子供を殺すのに、杖がなければならないのか? 仰々しい呪文がいるか? 豪奢な金色の槍が必要か?

 いいや、こうするだけでこの子供は死ぬ」

 

 クィレルは見せ付けるようにして、ハリーの首を締める。ぎりぎりと、ハリーの首が締まる。

 

「ぐ、あ、あ」

「どうだ、カサンドラ。早く決断しないとハリーが死ぬぞ? さあ、どうするんだ。 ……ど、どうする、なに?」

 

 ――。

 

 ……。

 

 クィレルは、手のひらに痛みを感じた。じゅう、と音がした。

 

「あ、ああ? ああ、あああああああ! ぎゃあああああああああああああ!?」

 

 クィレルはハリーを突き飛ばした。

 

「があああ! 熱い、熱いぃいいいいいい! は、ハリー! 何をした!」

「しら、知らない、僕は知らない!」

 

 ハリーは尻餅をついて、愕然とクィレルを見る。人が、崩れていく。

 残った左腕が、土くれへと変化していた。ボロボロと崩れて、まるで出来の悪い、乾いた泥人形のように指の先からクィレルが崩れていく。

 

「そんな、そんな馬鹿な! がああ、ぐあああああ!」

 

 ヴォルデモートがクィレルと同じように苦しみだす。

 

「――!」

 

 もしかして自分が触ればクィレルを倒せるんじゃ? そう思ったハリーは立ち上がり、駆け出そうとした。そうだ、この掌で奴の顔を思いっきり触ってやるんだ、そうすれば、そうすれば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうすれば、クィレルを殺したのは、僕ってことになってしまうんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、駆け出したその肩をカサンドラに掴まれ、ハリーは押し留められた。

 

「カサンドラ、何を」

「その年で死を背負う必要はない」

 

 カサンドラはゆっくりと歩き、死に体のクィレルに近づく。何がどうなっているのかカサンドラにはさっぱりわからない。わからないが、彼は今急速に死へと向かっている。苦しみながら、悶えながら。カサンドラは全ての武器をしまい、無防備に見える。だが、隙だらけのカサンドラの隙を突く手段が、クィレルにはもうなかった。

 

「ああ、クソ、こんなことで!? 私が死ぬのか? 私が!? クソ、カサンドラ、カサンドラァ! 殺してやる、殺してやるぞ!

 ハリー、お前も、カサンドラ、お前もだ!」

 

 クィレルとヴォルデモートは痛みに悶えながら叫ぶ。

 

「さよならだ、クィレル」

 

 カサンドラはクィレルの頭を抱き抱えるようにして近づき。

 

 シャキリ。

 

 その首に、隠された短剣を刺しこんだ。

 

 

――

 

「か、カサンドラ。わ、わたしは悪い教師でした。よ、弱い人間でした。で、ですが間違っていたとは、思っていません」

「――そうだろうな」

「あ、あの戦場で、わ、私は……。私は、ど、どうしようもできなかった。こ、怖かったのです。いつかマグルは魔法使いを見つける。か、確実に。分子を見つけ、そのさらに細かい電子も発見し、世界の仕組みを暴いてきたマグルが魔法に気付くことが、とても、とてつもなくおそろしかったのです」

「私も、そう思うよ。魔法使いを見つけたマグルはきっと、熱狂する。新たな神秘に狂う。そして、数多の犠牲を魔法使いに強いるだろう」

「な、ならばなぜ、なぜ止めたのです。カサンドラ。そう思っていたのなら、なぜ――。

 

 ああ。

 

 ――なぜ、なぜわたしは知ってしまったのでしょう……。

 他の魔法使いと同じなら、こんな思いをすることはなかった。

 愚かで稚拙なマグルという常識を壊さなければ、きっとわたしは今でも、どもりのクィレルとして、なんの意味もないマグル学を教えていたのでは、と――ああ、カサンドラ。わたしは、わ、私は、怖いのです。子供のころからずっと、そして、今でも」

「――死は、どんな恐怖さえ優しく包み込み、終わらせる。

 

 ――大地よ。全ての母よ、祝福を――」

 

――

 

 シャキリ。

 

 アサシンブレードを引き抜き、格納するとクィレルの体が完全に土くれへと変わった。

 

「カサンドラ――こ、殺したの?」

「呪いに、出血。どうせもう長くはなかった」

「――そ、そうなんだ……」

 

 ハリーはカサンドラに若干の恐怖を……いや、取り繕うのはよそう。ハリーはカサンドラを恐れていた。

 戦闘中の淡々とした殺意。戦う前はあれほど感情的だった二人が、段々と、いっそ世間話をしているような冷静さで殺し合うようになっていく変化に、ハリーは心底恐怖した。戦うということはこういうことなのか。殺し合いとはここまで人間性を削ぎ落とすものなのかと。

 

「さて、帰るか。その前に。帰ったらマクゴナガルに報告だ。言っただろう? 次は間違いなく、報告すると」

 

 土くれの中から拳銃を回収したカサンドラは、ハリーに微笑みながら言った。彼女は普段通りの――そう、トロールを殺したあとみたいに、極々普通のカサンドラだ。

 ――人殺しをした、すぐその後なのに。

 

 カサンドラを直視できなくて、ハリーは視線をそらす。

 

「――え」

 

 そらした先に、半透明のヴォルデモートがいた。物凄く大きなヴィジョンだ。

 

「なんだ、あれは」

「なに? 何かいるのか?」

 

 カサンドラは後ろを振り向く。だが、何かがいるようには見えない。

 

「カサンドラ! ヴォルデモートが!」

 

 半透明のヴォルデモートはハリーへと向かってきて、通りぬけた。

 

「うわあああっ!?」

 

 殺される!

 

 その恐怖を最後に、ハリーは気を失った。

 

 

――

 

 一体、何が?

 

 カサンドラは周囲を見回す。一瞬、揺らぎのようなものがハリーへと向かったことは辛うじて認識できた。だがそれがヴォルデモートとはとても思えない。人の魂にしては矮小過ぎるのだ。

 

「――よくやってくれたの」

 

 ダンブルドアが鏡のすぐ前に現れたことを認識したカサンドラは、即座に矢を番えて、老人に向けた。

 

「お、おお。ワシじゃよ、カサンドラ。お主の雇い主じゃ」

「それが、この場で弓を下ろす理由になると思っているなら――甘い考えだ」

 

 カサンドラは油断なくダンブルドアを見る。

 

「落ち着くのじゃ。なぜそんなに警戒する? ワシとお主は、そこまで険悪ではなかったと思うのじゃが……ワシの気のせいだったのかのう? だとしたらワシは、とても悲しい」

「今までは関係ない。ダンブルドア、私はあんたが私を始末しに来たんじゃないかと疑っている」

 

 カサンドラが疑惑の気持ちを伝えると、ダンブルドアは思ってもみなかったというような顔をした。

 

「なぜそんなことを? ワシはただ、職務を忠実に果たした優秀な警備員を労おうと思っただけじゃ」

「いいか、こんな城の奥深くに来て、わざわざ戦闘が終わった後にやってきて――。怪しまれると本気で思わなかったのか? だとしたら人を知らなすぎる。どんな思惑があるにせよ、ただで消せると思うなよ」

 

 ダンブルドアはカサンドラに猛烈な勘違いをされていることに気付いた。

 

「ワシはお主を傷付けたりはしない。誓ってじゃ。おお、そうじゃ、知りたいことがあるじゃろう? お互いすれ違ったままというのは、とても、そう、とても不幸なことじゃ。質問に答えよう」

「なら、正直に答えてくれ。今回の件――ああ、今年一年という意味だ。今回の件は妙だった。後一歩のところでするりと抜けて、追い詰めきれなかった。何もかも、今日この瞬間のために用意された伏線のように感じた。なぁダンブルドア。どこからどこまで知ってた?」

 

 ダンブルドアはゆっくりと、歩き始める。

 

「止まれ」

 

 カサンドラが言うと、ダンブルドアは止まった。

 

「ハリーの様子を知りたいだけじゃよ」

「――聞かれたくないのか」

「うむ」

 

 カサンドラはダンブルドアから視線を外さないまま、倒れるハリーの肩を揺さぶる。特に反応はない。

 

「気を失っているみたいだが……大丈夫なのか?」

「無論じゃ。そうでなくては、こんな風におしゃべりはせんよ。さて、どこまで知ってたか、かのう。

 おおよそ全部、と言ったらお主は怒るかの? もちろん、知らぬこともある。なぜおぬしがここに連れ込まれたか、などがそうじゃ」

「いや……。怒るかどうかは、理由による」

 

 ダンブルドアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「そうか。そうか……。理由は主に二つある。ホグワーツは、いや、ワシは常に校長の席を危ぶまれておることが一つ。もう一つはハリー。彼のためじゃ」

「説明してくれ。校長の席にしがみつくことがそんなに大事なのか?」

 

 無論、とダンブルドアは断言した。

 

「教育とは実に大切じゃ。じゃが、ホグワーツは魔法省の影響を強く受けやすい仕組みになっておる。それこそ、ワシでなければ魔法省の言いなりとなるしかないようなほどに。教育機関が外部の影響を強く受けるというのは――そしてその外部の組織にヴォルデモートの元部下たちが紛れ込んでいるとなれば、自ずとワシがなぜ無様にも地位を守ろうとするか、わかるじゃろう?」

「確かにな。ヴォルデモートの部下が校長なんてことになれば、ここは終わりだ。だが、『優秀な校長』でいるなら、なぜ事前にどうにかしなかった?」

 

 ダンブルドアは苦笑しつつ、頬をかいた。

 

「お主からすれば信じられんことじゃろうが……。現行犯でなければきっと、ワシの下した処分が『不当』だと、そう騒ぐ人間がいるのじゃよ。そしてそう言う人間に限って、強い権限を持っておる」

「――ダンブルドア。とっとと魔法界を改革しろ。古代ギリシャでももっと理性的だったぞ」

「うむ、耳が痛いの。じゃが、一朝一夕に変わるものでもあるまいて」

「まぁ……それはそうなんだが。

 それで、ハリーのためとは?」

 

 ダンブルドアは少し躊躇った。カサンドラが怒ると思ったのだろう。

 

「だいたいは、ヴォルデモートが語った通りじゃよ」

「――ホントに、試練としてヴォルデモートと対決させたのか」

「いいや。もっと穏便じゃよ。彼は友人とここに来て、鏡を見つける。鏡の仕掛けを容易く解いたハリーは石を片手に凱旋し、もぬけの空となった鏡にクィレルがやってくる。そこにワシか、お主が捕縛し、結果として見事ハリーは石を守った……。そういう筋書きじゃった」

「冗談だろう? ――そういえばスネイプが、ケルベロスのあとの罠に殺傷能力はないと言っていたな」

「万が一にでも、道中で死んでもらっては困るからの」

 

 カサンドラは呆れ返る。

 

「――それで、ハリーはどう成長すると思ったんだ?」

「もちろん、英雄としての実績を作り、本人も運命と向き合う覚悟ができるはずじゃった」

「ダンブルドア。11歳の子供に英雄としての実績なんていらないんだ。自分がハリーの年齢だった時のことを思い出してみろ。なぜそんなに事を急いだ?」

 

 ダンブルドアは静かに答える。

 

「クィレルがヴォルデモート復活を()()に目論んだことが、答えになると思うがの」

「――」

「カサンドラ。ワシやお主が思う以上にハリーの運命は過酷で、そして早くにやってくる。多少無理筋でも、ハリーにとって辛くなろうとも。それでも、ハリーには英雄として、来るべき運命に立ち向かえるようにならなければならないのじゃ。さもなくば彼に待っているのは無残な死のみじゃ」

 

 カサンドラは、弓を下ろした。

 

「……そんなの、あんまりだろう」

「そうじゃな。じゃが、ハリーは一人ではない。友人に囲まれておるし、何よりお主がいる。紀元前より生きる伝説の傭兵、ワシ使いの傭兵カサンドラが」

「――随分詳しいな」

「『鷲の傭兵』は愛読書じゃ」

 

 茶目っ気のある回答に、カサンドラは毒気を抜かれる。

 

「事情はわかった。あんたはハリーが殺されないよう影から見守っていたんだろう? だが、もし私がいなかったとして、ハリーが殺される瞬間に間に合うのか?」

「おお、カサンドラ。ワシはお主ほどではないにせよ、英雄と呼ばれておるのじゃよ」

「そうか」

 

 カサンドラはハリーを担ぐ。米俵の如く。

 

「あんたがヴォルデモートを殺すんじゃダメなのか?」

「――うむ。理由は、まだ明かせぬ。不明な点が多いのじゃ。じゃが、現時点でわかっていることは二つじゃ。

 ヴォルデモートは運命に守られている。

 ハリーは世界で唯一、彼を倒すことのできる人間である。

 ――なぜそうなのかは、これから知るのじゃ。ワシも、お主も、そしてハリーも」

 

 カサンドラは首を振った。運命。嫌な言葉だ。

 

「私がやることは変わらない。あんたがどんな思惑で動いていようと、私はハリーに普通の学生生活を送らせる。出来る限り危険から遠ざける。それが嫌なら、とっとと首にでもするんだな」

「とんでもない! お主はハリーに……いや、ホグワーツに必要な人材じゃよ」

「なら、今度から生徒を守る事を邪魔するなよ。トロールの件、まだ私は忘れてないからな」

「心に刻むとしよう。ところでカサンドラ」

 

 入り口へと向かって歩き出したカサンドラを、ダンブルドアが呼び止めた。

 

「なんだ」

「ハリーに頑張ったご褒美として点数を与えようと思っているのじゃが……。ヴォルデモートを倒したのはハリー。そういうことにしてはくれんかの」

「点数のためというなら、無理な相談だな。ヴォルデモートを倒したのが誰かなんてどうでもいいが、点数? バカバカしい。罰則も減点もなし。それが彼らにとってご褒美になるだろう。そもそもこいつらは規則を破って夜抜け出してきたんだぞ」

「カサンドラは厳しいのう」

「あのな。規則を軽視する英雄など傍迷惑なだけだぞ。ダンブルドア、お前がその椅子に座れているのは自分が作ったルールを守っているからだろう。理性なき英雄など化け物と変わらん」

「なら、そうじゃのう。減点と罰則なしで、今回は終わりかの」

 

 ああ、そうだな、と言ったところで、カサンドラはふと、思い出した。

 

「そういえば、ダンブルドア。フレッドはヴォルデモートの仲間だろう? なぜグリフィンドールに入れたんだ?」

「――ふむ? いや、違うぞ? フレッド・ウィーズリーがヴォルデモートの配下? それは……。いや、なぜそう思ったのじゃ」

 

 いやいや、とカサンドラは改めて振り返った。

 

「私はフレッドに不意を打たれて気絶させられたんだ。呪文が確か……ええっと、そう、クルーシオ、だったか。その魔法を三回使われてな」

 

 カサンドラがそう言うと、ダンブルドアは目をまんまるくした。珍しく本気で驚いている顔だ。

 

「な……お、お主その状態で勝ったのか?」

「そんなことはどうでもいいから、フレッドがヤツの仲間じゃないと確信してる理由はなんだ」

 

 しばらく、ダンブルドアは悩むそぶりを見せた。そして、言う。

 

「ワシは――お主に魔法の知識がなくても問題なく職務を果たせると考えておった。そしてそれは間違いではなかった」

「それで?」

「じゃが、知らねば事実を誤認する。そんな簡単な事を思い出したんじゃよ。

 カサンドラ。魔法界には『禁じられた呪文』という、人に向けて使うだけでアズカバンを免れない呪文が三つあるのじゃ」

 

 そして、ダンブルドアは説明する。極基本的な、三つの禁呪。

 

 一つ。他者を意のままに操る服従の呪文。――インペリオ。

 一つ。他者に凄まじい苦痛を与える磔の呪文。――クルーシオ。

 一つ。他者に速やかな死を与える死の呪文。――アバダ・ケダブラ。

 

「フレッドは服従の呪文で操られていたのじゃろう。術者が死んだ今、術からは醒めているはずじゃ」

「――操られていた? フレッドが? 本当に? 今思い出しても全然わからないぞ」

「無理もない。無理もないのじゃ、カサンドラ。魔法に長けた闇払いが10年前、服従の呪文で何人も、何十人も殺された。親友が、家族が、大切な人が、恋人が、ある日突然刺客へと成り果てるのじゃよ。――その人のままで」

「恐ろしいなんてものじゃないな。誰を信じていいのかわからなくなりそうだ」

「なったのじゃよ。多くのものがあの時代に周囲への信用と信頼を失い、そして魔法使いは分断された。そしてその分断は未だなお、収まっていない」

 

 そうか、とカサンドラは言った。

 

「――そんな悲劇を、繰り返させるわけにはいかないな」

「そうじゃ。そしてそれは若い者にしかできんのじゃよ。さて、カサンドラ。ワシの服に掴まるといい」

「なぜ?」

「付き添い姿現し……まぁ、テレポートじゃよ」

「ああ、そういうことなら喜んで」

 

 カサンドラはダンブルドアに近づくと、その裾を軽く掴んだ。

 

「ふむ、では行くぞ」

 

 パシ、と大きな音がして、三人はこの空間から消えた。

 

 だだっ広い広間には、ただ一枚の鏡だけが残った。

 




文中の湾岸戦争は第一次。
ターゲット暗殺時に出る謎空間がオデッセイになかったのがちょっと物足りなかったので追加
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