【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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優勝杯の獲得者

「少しいいか、ポッター」

 

 勇士控室に入る寸前、勇士達の最後尾を歩いていたハリーを、カルカロフが呼び止めた。

 

「なんでしょうか、カルカロフ校長先生」

「少し、どうしても君に警告しなければならないことがあってな」

 

 ――警告? 

 

 不思議なこともあったものだ。カサンドラもダンブルドアもハリーに警告などしなかった。なぜカルカロフが二人にも気付かなかった危険に気付けると言うのだろうか。

 

「噂になっていた。お前は課題をやる気がないと。すぐさまリタイアすると」

「はい、先生」

 

 ハリーが当然のように頷くと、カルカロフは気の毒そうな顔をして、よくない、それはよくないと心配そうに言った。

 

「……何が良くないって言うんですか?」

「それは棄権とどう違う?」

「それは……違わないかもしれませんけど」

「そうとも。始まってすぐ、入り口のそばでなんの危機にも遭遇していないのにリタイア……。これは誰もがお前が棄権したと思うだろう。当然、炎のゴブレットもだ」

 

 ハリーは顔を顰める。カルカロフが何を言いたいのかおおよそ理解できてしまった。

 

「契約に引っかかって僕が死ぬってことですか?」

「可能性は高い。いいか? 我々は『どのレベルまで手を抜けば』契約にひっかかり、勇士が死ぬのか把握出来ていない。何せ炎のゴブレットが作られたのは千年近く前のことだ。基準もそれなりに厳しいものである可能性はある。つまり……全力を出さないことを、炎のゴブレットは強く警戒しているかもしれん」

「でも僕、第一の課題でも、その次の課題でもズルをしました。ファイアボルトに……カサンドラから槍を借りた」

 

 カルカロフは頷いた。

 

「ズルをしてでも勝ち残ろうとした、と判断されたのだろう。おそらく炎のゴブレットは不正よりも怠惰を嫌う傾向にあるのではないか? 今までの課題でやり過ごしたり、課題に取り組まなかったことはなかっただろう?」

 

 あ、とハリーは気づいた。確かにそうだ。ハリーは不正な手段で課題をクリアしたかもしれないが、課題そのものを避けたりすることはしなかった。

 

「最後の課題はまさしく『試練』である可能性が高い。リタイアができるとはなっているが、リタイアして命が保障されているとは誰も言えん。ポッター、分の悪い賭けをしたくなければ、課題をこなすのだ。最下位でも、誰がみても課題に取り組んでいるとわかるようにな」

「……はい、先生、ありがとうございます」

 

 ハリーは苦々しい気持ちで頷いた。ハリーは今更ながらに思い出したのだ。この課題を拒絶すれば、自分は死ぬと言うことを。

 

「いいや、気にするな……」

 

 カルカロフは、心底嬉しそうに微笑んだ。

 

 ――

 

 セドリック、フラー、クラムの順で、勇士達はラビュリントスに向かっていく。規定通り30分後、ハリーは生垣で出来たラビュリントスに足を踏み入れた。

 ボヤボヤしてはいられない。何が課題の拒否に当たるか分からない以上、今までと同じように全力を尽くすしかない。

 ハリーは駆け出す。走り込みの効果は十分に出ており、かなりの速度を維持しながら、それでもまだ余裕がある。

 速度を維持したまま走れることよりも、ハリーにとって大切なことが一つあった。

 

「……このペースだと……あと10分くらいかな」

 

 何度も何度も、気が遠くなるくらい毎日毎日走り続けた。その積み重ねはハリーに一つの恩恵をもたらした。

 自分が今のペースで走れば、何分後にどれだけの距離を移動できてどれほど疲労するのかが感覚的に掴める。そしてその感覚は概ね正しい。その感覚はこういった課題において、かなり有利だと言える。

 

 ハリーは思った以上にサクサク進める迷宮を不審に思いながらも前に進む。少し開けたところに出た。すると、そこには肩を押さえてゆっくりと歩くセドリックがいた。

 

「セドリック! 大丈夫!?」

「は、ハリー? なんでもう追いついたんだ……。まぁいい、とにかく、気をつけろ、ヤツだ」

「ヤツ?」

 

 セドリックは頷いた。

 

「僕、スキーターの記事嫌いだったけど、ハグリッドの記事に関しては全面同意だ。ハリー、『尻尾爆発スクリュート』だ! 成長したヤツが障害として配置されてる! デラクールもクラムもヤツに手傷を負わされた」

「え、ええ……?」

 

 ハリーは困惑した。確かに授業であの爆発する化け物を取り扱うことは無くなった。だからハリーの知ってるスクリュートは、あくまで全長1メートルを超えるか超えないかくらいのサイズだった。

 

「……とにかく僕は行くよ。リタイアは……したら死ぬんじゃないかって、カルカロフ校長が言ってた」

「リタイアしたら死ぬ? ……ああ、課題ってそういう……」

 

 セドリックはおおよそ、炎のゴブレットが提供する『試練』について思い当たったようだった。

 

「絶対この催しは今年っきりだ。来年は3校合同クィディッチでいいじゃないか。じゃなきゃ死人が出る」

「僕も思う。だから僕も出来るだけ頑張らないと、死んじゃうかも」

「なら、頑張れよ。ハリーならきっと一番だ」

「優勝できないけどね」

 

 ハリーは微笑むと、踵を返して駆け出した。そのあまりの速度に、セドリックはポカンと口を開けた。

 

「……なるほど。追いつくわけだ……」

 

 セドリックは肩を押さえながら、歩きはじめる。

 

 ――それからハリーはさまざまな障害にあたる。吸魂鬼の振りをしたボガードや、道を惑わす霧など、有形無形多岐にわたる妨害を、ハリーは機転と持ち前の度胸で突破していく。移動は常に駆け足。そして、ハリーはついに出会ってしまう。

 

「し、尻尾爆発……スクリュート?」

 

 ハリーは呆然として言った。もはやスクリュートは一端の化け物として成長していた。ものすごくデカい。ゆうに3メートルは超えるであろう全高と全長。全身に装甲をつけた蠍というのが最も近いだろう。何層にも折り重なった分厚い甲殻は、さながら中世のフルプレートアーマーのようで、いかにも隙がなく堅牢そうに見える。

 

「『ステューピファイ――麻痺せよ!』」

 

 麻痺呪文を使ってみたが、当然のように魔法が弾かれた。

 薄々そんな気がしていたハリーは妨害呪文やら麻痺呪文やら知ってる呪文を片っ端から唱えていく。だがまったく、これっぽっちも効いている様子がない。スクリュートは俊敏に尻尾を動かして、ハリーの方にそのメイスのような先端を叩きつけた。ハリーは咄嗟に跳んで、その先端を躱す。地面に叩きつけられた先端は、即座に凄まじい勢いで爆発した。ハリーは爆風に煽られて体勢を崩す。ダイナマイトのような爆音と爆破範囲。あんなにド派手に爆発したというのにスクリュートの尻尾には傷一つ入っていない。いよいよもって本格的に怪物だ。カサンドラが討伐するべき危険生物だ。

 

「ハグリッド――!」

 

 なんて生き物を生み出したんだ……! 

 

 ハリーは思わず突っ込んでしまった。もっというなら本当にハグリッドはアズカバンじゃなくてもいいのか? と、つい先日の意志すら揺らぎかけている。こんなめちゃくちゃ硬い上に強い化け物をハグリッドはまさか繁殖させるつもりじゃないよね? なんてことをチラリと考えるが、どう考えたって答えはひとつ。

 びょん、と巨体に見合わぬ速度で飛びかかってきたスクリュートに、ハリーはしめたと杖を向けた。

 

「『インペディメンタ――妨害せよ!」」

 

 地面に擦るお腹側には装甲がなく、柔らかい肉が見えていた。もしそれすら効かなかったらハリーのミンチか焼きポッターになっていたが、結果的には上手くいった。凶悪なスクリュートを飛来物として『妨害』し、その速度を限りなく遅くした。ハリーがその腹の下をくぐり抜けて駆け出し、その場を切り抜けてしばらくした後、巨体が地面に降り立つ轟音と、一際大きな爆発音がした。

 

 ハリーはさらに奥へと進む。道中、上下感覚が逆さになる霧があった。その霧に入る寸前、フラーの絹を裂くような悲鳴が聞こえたような気がした。

 

「……デラクール?」

 

 まさか。デラクールが脱落した? だが、どこにいるかさっぱりわからない。ハリーは前に進むしかなかった。

 

 霧を抜けてすぐ。

 2回ほど行き止まりに当たり、引き返して正解であろう道を進む。生垣の向こうから話し声が聞こえてきた。

 

「クラム、僕がただやられるような男だと思わないことだ! ステューピ――」

「『クルーシオ――苦しめ!』」

 

 引き攣ったようなセドリックの悲鳴が聞こえた。ハリーは思わず生垣のほうに杖を向けて粉々呪文を使った。何度使っても全く効果がない。

 

 ――どうすれば……? 

 

 どうすればセドリックを助けられる? 

 ハリーは空を見上げる。ラビュリントスは奥に行けば行くほど入り組んでおり、観客からも見えなくなっている。もしかしたらクラムが禁じられた呪文を使ったことを知らないのかもしれない。

 

 ――なら、僕が優勝杯に近づけばみんな注目するはず。

 

 ハリーは駆け出す。セドリックが心配だった。だが進んで、なんとか先生達の気を引かないと報告することもできやしない。

 何度も袋小路に突き当たるが、方位呪文のおかげで同じところをぐるぐる回ることだけは避けられている。それなら、いつかは必ずゴールに辿り着けるはず。

 ハリーはさらに進む。すると、またまた奇妙な生き物にでくわした。ハリーが魔法界に入る前から知っている、魔法生物だった。

 

 2メートルほどの巨大なライオンの胴体に、女性の頭。そして背には天使を思わせる羽根がついている。言わずと知れた、スフィンクスだ。彼女はハリーが近づくと切長の流麗な瞳を開けて、ハリーを見た。

 

『勇士よ』

 

 ハリーは思わず耳を押さえた。頭の中に声が直接響いてくる。

 

『通りたければ謎を解くがいい。間違えれば私はお前を食い殺す』

 

 ハリーは苦い思いをした。謎? 謎って言った? ハリーはずん、と胃が重くなるような気持ちになった。そういうのはハーマイオニーの得意分野だ。

 

 ハリーは賢者の石を守るために城の守りを突破した時のことを思い出した。ロンはチェス、ハーマイオニーは論理パズルと頭を使っていたが、ハリーは違う。ハーマイオニーがいれば、簡単に抜けられるって言うのに! 

 だが、もう引き返すことはできない。苦しんでいるセドリックの危機を先生に伝えるため、ハリーは前に、優勝杯に近付かなければならない。

 

「わかった。謎を出して」

 

 ハリーが言うと、スフィンクスは口を開けて、肉声で問題を出した。

 

「私の身体は一つではない。体の中にたくさんの、無垢なる子供を抱えてる。

 私の頭は一つではない。抱えた子供が健やかに、育つようにと知識を絞る。

 私の親は二人ではない。優れた偉人が後のため、子供のためにと私を産んだ。

 そして私はここにいる。

 

 ――私は誰?」

 

 ハリーは考える。

 

 いくつも体と頭があって、体の中で子供を育てる化け物? そんなのいただろうか? たくさんの偉人が子供のために、そいつを作った?

 ハリーはいくつもの可能性を考える。考えれば考えるほど深みに嵌りそうだった。

 

――たくさんの体。たくさんの頭。たくさんの親。最後のヒント、『ここにいる』。

 

 ハリーはハッとなった。知っている。ハリーはそれに該当するものを一つだけ知っている。

 

「……ホグワーツ」

「正解」

 

 スフィンクスが立ち上がり、ハリーに道を開けた。なんとかなった。

 たくさんの体は4つある寮のことだ。

 たくさんの頭はホグワーツにいるたくさんの教師のこと。

 たくさんの親は創始者4人のことだ。

 そして、ホグワーツは『ここにある』。

 

 まだわかりやすい問題に当たってよかった。ハリーは自分の運と珍しく冴えてる頭に感謝しながら走り続ける。

 

 そして、ハリーはたどり着いた。開けた広場の中央に、堂々と金色に輝く優勝杯がドン、と置かれている。ちょうど反対側に、セドリックが立っていた。

 

「セドリック? 大丈夫だったの?」

「大丈夫って……もしかして聞こえてたのか?」

「うん。その、クラムは?」

「倒した。今頃校長たちが回収に向かっているはずだ。僕も危なかった。正直ダームストラングならやりかねないと覚悟していたからかな? 隙だらけだったから『失神呪文』で気絶させてきた。デラクールもクラムにやられたらしい。――なんで『禁じられた呪文』を、とか。なんでこの場で、とかいろいろ考えたいことはあるけど」

 

 セドリックはにっこりと笑って前に進んだ。ゆっくりと、見せつけるように。

 

「ハリー。僕の勝ちだ。ホグワーツの優勝だ!」

 

 そう宣言して、優勝杯をしっかりとつかんだ。

 

「セドリック! おめでとう!」

 

 ハリーは誰よりも先に拍手して、セドリックの、ひいてはホグワーツの優勝を祝った。

 

「勇士セドリック・ディゴリーが優勝杯を獲得! 三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)の勝者はホグワーツ!」

 

 バグマンの実況が聞こえ、観客席からもすさまじい歓声が聞こえる。セドリックは観客たちの歓声に手を振って応える。

 

「本当に、セドリックなら勝てるって、優勝できるって信じてた!」

「ありがとうハリー。君こそ、ここまでたどり着いた。君がホグワーツの勇士だったとしても、きっと勝てただろうね」

 

 ハリーは首を振った。

 

「ううん。本当の勇士だったらきっと、カサンドラから槍は借りられなかったよ。だから、セドリックだけがふさわしいんだよ」

「――照れるな。でも、僕は勝ったんだ。その、ちょっとくらい誇らしげにしても許されるかな?」

「もちろん!」

 

 ハリーは笑いながらセドリックに近づこうとする。そのとき、ハリーに声をかける人がいた。

 

「ポッター。よく生き残ったな」

「あ、カルカロフ校長」

 

 すぐそばに、カルカロフがいたのだ。クラムの救助に来ていたのだろう。なんであんなに可愛がっていたクラムを放って、ここにきているのかは不明だが。今のハリーにとって大抵のことはどうでもよかった。なにせ優勝だ。しかも、最後の最後まで誰も何もできなかった。ハリーは無事。誰も死んでない。つまり、ハリーにとっても万々歳。

 

「さあポッター、こっちへ。セドリックはこれから優勝セレモニーがある」

「あ、はい」

 

 カルカロフに連れられて、ハリーは再びラビュリントスに向かう。カルカロフが杖を取り出して生け垣を軽く叩くと、あれほど強固だった生け垣があっさりと割れて、人が通れるくらいのスペースが開く。カルカロフに続いて、ハリーは進む。

 

「カルカロフ校長先生?」

 

 連れてこられたのは、特に何もないところだった。何やら色んな物品がおいてあるが、最も目を引くのが、優勝杯。なぜか、セドリックが今現在掴んでいるのとまったく同じデザインのカップがもう一つあった。ハリーは促されるままカルカロフより先に部屋に足を踏み入れる。カルカロフと、優勝杯と、ハリーとが一直線に並ぶ。

 その瞬間。

 

「『アクシオ――優勝杯よ来い!』」

「え?」

 

 何を? と、振り向いた瞬間、部屋の中央から飛来した優勝杯がハリーの体に当たり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ハリーは全く知らないどこかへ、瞬間移動させられた。

 

 

 寂れた、薄汚れた墓場へと。

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