IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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序曲-プレリュード-
序曲-1-


『なんだ……ここは?』

 

 つい先日、ここ数日の連日連夜のワーム退治の疲労と、『仮面ライダーカブト』こと『天道 龍牙』の捕獲の失敗を理由に、自分の直属の上司である田所から数日間の謹慎(と言う名目の休暇)を与えられた彼、『荒谷 亨夜』は目を覚ますと妙な景色の場所にいた。

 背の高い草が茂る水辺に、薄霧がかかっている。都会所か、下手な田舎でも見られない景色が今、彼の目の前には広がっている。

『これは夢だな。まったく、オレも無駄な夢を……。こんな詰まらない夢を見るくらいなら、ワームの一匹でも出せばいい』

 そう判断し、自嘲気味な笑みを浮かべると、そんな感想を呟く。夢の中まで戦闘訓練を持ち込もう等と考える辺りが、彼らしいと言えば彼らしいだろう。

「…………」

『なんだ?』

 自分以外の誰かの声が聞こえてくる。声の感じから考えると女の子だろう。聞き覚えの無い声だが、『どうでもいい』とその声を無視して、さっさと目を覚ましてトレーニングの一つでもしようと思うのだが、残念ながら中々目は覚めない。

「…………救世主…………」

 そんな声が彼の耳に届く。殆どは聞こえなかったがそんな『単語』だけが彼の耳に届いた。

 『救世主』…これほど妙に自分が一番嫌いな人間を連想させる言葉は無いだろう。『仮面ライダーカブト』、『天道 龍牙』…自分が『ZECT』への勧誘か抹殺を任された相手であり、自分とは対照的な存在でもある。

 はっきり言って、自分は『英雄』や『救世主』などではなく単なる『復讐者』であるのは、自分が何よりも、誰よりも自覚している事だ。

『何で夢の中でまで、奴の顔を思い出さなきゃならない? っ!?』

 気に入らない相手の顔を思い出し、不機嫌になった所に未だ聞こえてくる声、言葉の主の顔を見てやろうと、後ろを振り向くと泉の中に半透明な衣を纏った清楚な巫女を連想させる少女がいた。

『なっ!? な、な、な、な、なんだ!?』

 それを見た瞬間に、亨夜は顔を真っ赤にして慌てて前に向き直る。後ろの少女はまだ何か言っている様だが、亨夜にはそれを耳に入れる余裕は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!」

 顔を真っ赤にしながら叫び声を上げてベッドから飛び起きる。

「夢……なのか? 夢だ、あれは夢だ……。…………ん?」

 妙な視線を感じて横を振り向いてみると『大丈夫か?』とでも言いたげな様子で亨夜を眺めているガタックゼクターがいた。

「…………気にするな、何でもない」

 『ZECT』での『復讐者』、『仮面ライダーガタック』としての仮面を被り、亨夜はガタックゼクターに対してそう言い、ベッドから降りようとした時、下から声が聞こえてくる。

「お兄ちゃん! 早く起きてよっ!」

 一階から自分を『お兄ちゃん』と呼ぶ、従姉妹である『塔馬 美由紀』の声が聞こえた。

相棒(ガタックゼクター)、今日も一日よろしくな」

「祖父ちゃん、美由紀、おはよう」

「うむ、おはよう」

 下に下りると、亨夜はこの家の主で彼の祖父『塔馬 六介』と美由紀に挨拶をする。

 

 彼女、美由紀の両親は亨夜の母や妹と同じく(彼の様にワームによってではないが)、既にこの世を去っていて母方の祖父に引き取られたらしい。

 そして、亨夜は入学した高校が実家からは遠かった事で実家を出たのだが、父や祖父だけではなく、ZECTの上司にも進められた上に美由紀にお願いまでされた結果、祖父の家に下宿させられる事となった。本来なら、一人暮らしを初めてZECTの仕事を遣り易くしたかったのだが。

「はい、お兄ちゃん。………?」

「どうしたんだ、美由紀?」

 差し出された自分の茶碗を受け取りながら、美由紀が自分を見つめている事に気が付く。

「何だかお兄ちゃん、いつもと違う気がする」

「ッ!? そ、そうか?」

 常日頃から亨夜は『ZECT』での自分と、普段の自分で使い分けている。ついさっきまでガタックゼクター相手にZECTでの自分を表に出していたのだ。それが抜け切っていないとしたら、普段の自分しか見せていない相手には『違う』と言われても無理は無いだろう。

「どうせ、バイトとやらで夜更かしでもしたんじゃろ」

「今は休みだから、そんなにしてねえ。大体、それは美由紀も同じだろ?」

「え?」

 突然、そんな話を持ち出されて困惑する美由紀。

「『たまらない』とか『我慢できない』とか昨日の夜、大声で言ってたぞ」

「何!! 美由紀ちゃん、それはどういう訳じゃ!?」

 亨夜の言葉に何を誤解したのか六介が慌てだした。

「た、ただのカラオケの練習だよ!」

「少しは隣の迷惑も考えろ。下手の横好きっていうのは」

 そう呟いた瞬間、殺気を感じて顔を横にずらすと、風が頬を撫でたのを感じた。

「惜しい」

「……腕を上げたな、美由紀」

 美由紀の裏拳を紙一重で避けた亨夜がそんな事を呟きながら、のんびりと食事を続けている。

 どうでもいいが、『日常生活がトレーニング』になっているのでは無いのだろうか? こうして、『ZECT』での、ガタックとしての『荒谷 亨夜』では無く、高校生の『荒谷 亨夜』としての一日が始まる。

通学路……

 鞄以外にも木刀の入った竹刀袋(木刀以外にもガタックダブルカリバーサイズの長さの木製の双剣も入っている)を持った亨夜と鞄だけを持った美由紀の姿があった。

「どうでもいいが、行き成り殴るな」

「お兄ちゃんが悪いんだよ、意地悪な事言うから」

(……お前の歌については事実だろう……)

 彼女、美由紀は歌を歌うのが好きなのだが、残念ながらその実力の方は伴っていない。そして、美由紀は六介から古武術を教わっているが、歌とは違って古武術(こっち)の方は達人だったりする。

 付け加えておくと、亨夜は六介から居合いを教わっているが、残念ながら居合いと双剣では扱い方が違うため、それらの経験はガタックでの戦闘には活かせていないのが現状である。

「爺ちゃんも、美由紀にこんな物教えなきゃ良かったのに。……そうすれば、もっとお淑やかな性格に……」

「何か言った?」

(っ!? 話題を変えよう)

 亨夜の横顔を美由紀が殺気を込めた笑顔で見ていた。その笑顔に身の危険を感じて、直に話題を変える。

「…………いや、ただ……爺ちゃんも元気だな……なんて言ったんだ」

「……そうだよね。もう60近いって言ってたのに」

 亨夜の祖父である六介は、亨夜達の通う出雲学園の理事長でもある。だが、大半の業務は他の人に任せている。たまに学園関係で出かけたりする事はあるが。

 そもそも、それが原因で亨夜自身、学業の方をZECTの仕事よりも優先しているのだ。妹の仇で有るワームの情報を手に入れる為にも、彼自身の意思としてはZECTで上に行きたいのだが。残念ながら現在は学生と言う身分の為、アルバイトと言う立場に留まっている。

「いい加減、何時隠居しても可笑しくないのに、未だにオレより強いんだからな(ひょっとしたら、龍牙にも勝てるんじゃないのか? まったく、自信なくすぞ……ライダーとしても)」

「でも、元気なら元気でいいよ」

「それもそうだけどな……」

 そんな事を話している間に学校に着く。亨夜達の通う出雲学園は高台の方に有るが、新築の校舎と言う事もあって、通っている生徒からの評判はいい。

 余談だが、出雲学園は昔はもう少し上の方に有って、今の校舎と場所に変わったらしい。

(……まあ、トレーニングには丁度いいんだけどな)

「亨夜先輩、美由紀ちゃんっ!」

「「七海ちゃん」」

 亨夜達に話しかけてきたのは彼の1つ下の後輩で美由紀の友人でもある『水瀬 七海』だった。

「弓道部の朝練はもう終わった?」

「はい、今日は短めだったんです」

「そうなんだ」

 普段、亨夜達は弓道場で朝練をしている七海に会ってから教室に行くのだが、今日は運良く下駄箱で会えた。

「お兄ちゃん?」

「亨夜先輩?」

 名前を呼ばれて前方へと視線を向けてみると亨夜は二人に置いて行かれていた。

「へえ、今日はそんな事があるんだ?」

「ええ。先輩と美由紀ちゃんも見ませんか?」

「うんうん、見るよ!」

「皆既月食か……(まあ、それ程珍しい訳でもないらしいけど、せっかく七海ちゃんが勧めてくれているんだ。見ない訳にはいかないな)」

 そんな事を考えた瞬間、ふと亨夜の頭の中に忘れていた何かが浮かび上がってくる。

「……ん?」

「どうしたんですか?」

「そう言えば今日は英語の小テストの日だ」

「あらら」

「そう言う訳だから、じゃあな、美由紀、七海ちゃん」

「はい。じゃあまた」

「がんばってね、お兄ちゃん」

 二人に見送られて亨夜は教室へと向かう。ZECTの活動に影響が有るといけないので、成績に関しても有る程度の平均以上は抑えておきたい。その為に少しでも悪足掻きをしたいのだが、それを阻む者がいた。

「ふっふっふ。ようやく来たわね!」

「拙い、後30分も無いな」

「……無視するなぁぁぁぁぁっ!!」

 完璧に無視して横を素通りしていった亨夜にツインテールの影が襲い掛かった。

「またお前か!?」

 ツインテールを揺らして襲い掛かった影、それは亨夜のクラスメイトの『倉島 渚』だった。

 亨夜と彼女の付き合いも長い物なのだが、最近では彼女のフェンシングと亨夜の居合いのどちらが上かと言う事に拘りながらよく勝負を挑んでくる。

 なお、現在対戦成績は亨夜の全勝である。

「邪魔するな。今日は英語のテストの日だろうが」

「ふん! どうせ今更悪足掻きをしても無駄よ! 大人しく補習の一員になりなさい!」

「それが本音か。悪いけど、オレは足掻きたいんでな!」

 亨夜も成り行き上、英語の教科書を片手に携帯している双剣型の木刀一本で応戦する。それがこの二人のいつもの行動なのだろう。他のクラスメイト達からは完璧にスルーされている。

 純粋にフェンシングと居合いの腕前ならそれほど実力差は無いだろう。だが、生憎と亨夜の本来のバトルスタイルはそれだけではないのだ。そして、多対一の戦闘も多い。その甲斐もあって教科書を読みながら片手で戦っている姿は何処か手馴れている。

「助かった……」

 亨夜君は二時間目に唸っていた。テストの結果は何とか補習と言う最悪のBADEND(結末)だけはギリギリで回避できたが運に助けられた面も大きいのだ。

「と言うわけだから、ここは……」

(それもこれも渚のバカのせいだ!!! あいつも運良く補習は回避したみたいだけどな…一歩間違えたら、道連れじゃなくてオレだけ突き落とされた所だったぞ!!!)

 机に突っ伏しつつ、授業の内容も聞かず、そんな事を心の中で絶叫していた。そもそも、彼が補習になりそうだったのは『ZECTの活動(アルバイト)』も原因しているのだが……。

 

『兄さんは言っていた。一夜漬けでいいのは漬物だけだってな。(by.龍牙)』

 

「……ちゃん!」

(……紙飛行機でも飛ばしてからかってやるか? ガタックゼクターに軌道修正させれば命中もさせ易いし。それとも……)

 

  ベシッ!!

「痛ぅ……」

 

  突然の衝撃に頭を上げて見ると、この時間の化学の教師である女性が少し怒った顔で立っていた。

「もう、亨夜ちゃんたら。そんなに化学は嫌い?」

「い、いや……そうじゃないんですけど……」

 今、亨夜の眼前に立っている化学の先生の『橘 綾香』は、亨夜達の子供の頃からの知り合いであり、一時期だけ離れていたが、最近教師になって戻ってきたのだ。(本職は保健医らしい)

(…………って、お前まで笑うな、渚!!! 元はと言えばお前が原因だろう。何か龍牙の奴の偉そうな『兄さんは言っていた』で始まるお約束の台詞まで聞こえた気がするし)

 後ろで笑っている渚を睨みつつ心の中でそう叫ぶが、その行為が原因で更に注意を受ける事となるのだった。

 さて、二時間目の化学で亨夜が笑い者になった以外には特に問題なく時は流れて昼休み…ほぼ校内の全ての生徒が待ち望んでいた時間だろう。

 この時間、学校中の生徒の多くが集まる場所にして、そこはその時間……『生き残り』を賭けた『戦場』となる。

 だが、誰もが苦戦する戦場も亨夜にとっては大したものではない。一瞬で最適なルートを見極めその隙間を縫って入り込み、本陣へと切り込む。そして、自身に勝利を与える言霊を放つ。

「おばちゃん、カニコロパン一つ! メロンパン一つ!」

 ……………その戦場の名は『購買』。こうして、亨夜はガタックとして鍛えた戦闘スキルを無駄に発揮して購買と言う戦場で勝利すると教室に戻っていくのだった。

 どうでもいいが、彼の買った『カニコロパン』は彼の高校において人気№1のパンであり、これを勝ち得た者は尊敬の目で見られたりする。そして、亨夜は今日この日で二週間連続してそれを勝ち得ている。まさにその様は『キング・オブ・カニコロパン』と呼ぶに相応しいだろう。

「ん?」

 購買からの帰り道に視界の中に入ったのは美由紀だった。何故か廊下に座って足を押さえている。

「どうしたんだ、美由紀?」

「あ、お兄ちゃん。ちょっと、足を挫いちゃって……」

「そうか。じゃあ、保健室行った方がいいな」

「いいよ、大した事……あっ!」

 そう言って立ち上がろうとした美由紀だが、足に現れた痛みに再び廊下に座り込んでしまう。

「……仕方ないな」

 亨夜はそう呟き、カニコロパンとメロンパンをポケットにしまうと、美由紀を抱え上げた。

「お、お兄ちゃん!?」

 美由紀は目を白黒させるが、それを意に返さず問答無用に保健室へと連れて行く。

 保健室を足で開ける。行儀は悪いのは、この際仕方がないだろう。

「綾香さん、ちょっといいですか?」

「あら亨夜ちゃんと美由紀ちゃん! ……美由紀ちゃん、どうしたの?」

「どうも足を捻ったらしいけど……」

「あらあら大変。ちょっとそこに寝かせてくれる?」

「はい」

 綾香が美由紀を診る。その表情は、安心している顔だった。

「少し捻っただけみたいね。大事にはならないわよ」

「そうですか。良かったな」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

「それにしても……。運動神経の良い美由紀ちゃんが、どうして足を捻ったの?」

「確かに」

 綾香が疑問を抱き、亨夜もそれに同意している。そもそも、亨夜にして『強い』と言わせるほどの古武道の使い手で有る彼女が足を捻ったのだ。理由が気になるのもある種、当然と言える事だろう。

「あの……食堂のパン販売の人手に押されて……」

「ああ、『カニコロパン』ね」

「なるほど、『カニコロパン』か」

 美由紀の言葉に原因を思いつくに至った二人が納得したようにその答えを呟く。

「そうなんです。……あ」

 美由紀の視線が丁度、亨夜のポケットの所で止まった。そこからはみ出しているのは……。

「あらまあ。カニコロパン」

 美由紀がカニコロパンから視線を離さず、『ジー』と見つめ続けている。

「…………あー……えーと……。…………欲しいのか?」

「え?う、ううん、そんなんじゃ……」

 口ではそう言っているが、多分何も食べていないのだろう。美由紀の視線はカニコロパンに集まる。

「欲しいならやる……」

「ありがとう、お兄ちゃん」

 『オレも甘いな』と思いつつ亨夜がそう言ってみると、瞬時に亨夜の厚意を受け取る美由紀。こうして亨夜の昼のカニコロパンは消えていったのだった。

 大した事はないらしい美由紀が保健室から出て行くと、亨夜は残されたデザート用のメロンパンを齧りつつ教室へと戻っていった。確認するまでもなく、既に食堂、購買共に商品は売り切れだろう。

 『弱肉強食』…ある種の神が与えたもうた自然の摂理がそこに有った。

つづく…(?)

おまけ…

「…ガタックゼクター…それは何処から持ってきたんだ?」

 

 挟んでいた『上下に別れ、潰しながら焦げ目が着く様に焼かれたコッペパンに挟まれた焼きそばの入った』焼きそばパンを亨夜に渡すと、ガタックゼクターは何処からともなく龍牙の写真を取り出した。

「……龍牙に貰ったのか? ……どうでもいいがZECTの資料を勝手に持ち出すなよ」

 取り出した写真を投げ捨てて、頷く様な動作で亨夜の言葉に同意するガタックゼクター。ついでに焼きそばパンと一緒に入っている紙を開いて見る。

『売れ残りだ、ありがたく食え。そして、オレとガタックゼクターに感謝しろ。龍牙』

「…………今だけはお前に感謝してやろう…龍牙。どうでもいいが、『売れ残り』ってなんだよ? ああ、それとありがとな、ガタックゼクター」

そう思いながら食べたその焼きそばパンは妙に旨かった。

つづく…

 




亨夜は『キング・オブ・カニコロパン』の称号を会得しました。

『キング・オブ・カニコロパン』
 二週間連続で購買の人気商品『カニコロパン』を購入し続けた者に与えられる称号。戦闘スキルを無駄に全力発動。
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