IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第一楽章『誰も居ない学園』
第一楽章 -1-


「くっ…。」

頭を押さえながら、亨夜は意識を現実へと覚醒させ、立ち上がると辺りを見回す。

「少なくとも、生き埋めだけは免れたと言う事か?」

だが、心配になるのは地上の事だ。地下にいた自分が無事なのだから、大丈夫だろうと言う楽観視など出来ない。寧ろ、災害時の混乱はワームにとっては正に最高の好機。人々が混乱する瞬間は、ワームが入れ代わる最高のタイミングとも言えるのだから。

ベルトからガタックゼクターを外すとマスクドライダーシステムの装甲が排除され、ガタックの姿から亨夜の姿へと戻る。

「上に戻るか。付き合わせて悪かったな、ガタックゼクター………どうした?」

何時もなら変身を解除すると、すぐに亨夜の様子等見ずに飛び去っていくであろう相棒の不可思議な態度…何時までも、亨夜の元に留まっているのだ。

「お、おい?」

そして、突然、ガタックゼクターはポケットの中に飛び込んでいく。そう…まだ自分は必要だとでも言う様に…。

(…ワームが学園にいるのか? オレが気絶している間に入り込んだのか? いや、それでも…ガタックゼクターの態度は可笑しい。)

疑問は残るがこれ以上、瓦礫の中に立っていても事態は好転しない。地上に戻ったら念の為にZECTに連絡…ワームの動きを確認して、活発化していた場合は、最悪、自分も鎮圧に加わる事を決める。

先ほど手に入れた金属片をポケットの中に戻し、亨夜は地下室から脱出する事に決めた。

(…岩戸が粉々に砕けている?)

途中で岩戸を粉々に砕けている潜りながらそんな疑問を持つ。

(妙だ…? どうして、岩が砕けるほどの大きさの地震でこの地下室全体が崩れない? 冗談抜きで地上は大丈夫か!?)

そんな事を思いながら、亨夜は無意識に足を速めていく。

(…結局、ここは何だったんだ?)

最後に出来た些細な疑問…だが、そんな疑問は自分の中から直に切り捨てていく。今はそれどころではない。

(…どうでもいいか…万が一学園の中にワームが入り込んでいたら…。)

亨夜の脳裏に思い浮かぶのはまだこの学園に残っているであろう、七海や綾香の顔。

(…また…お前達はオレから大切な人達を奪うのか…害虫共(ワーム)!!!)

浮かんでくる感情は怒り…自然と出てくる焦り…亨夜は階段を全速力で駆け上がっていく。

「ついた!」

隠し扉を潜り、先ほどの教室へと戻ると思わず叫び声を上げてしまう。窓は無い為に外の様子が分からず、周囲の声や物音に注意深く気を配るが…叫び声や悲鳴は聞こえてこない。

(…思い過ごしか…それとも、手遅れになったのか?)

そう考え、廊下に出ようとした時、

『誰かぁっ、助けてぇっ!』

ここからそれほど遠くない所から聞き覚えの有る女の子の悲鳴が聞こえてきた。

「…この声は……七海ちゃん!?」

「き、亨夜先輩ですか!? 助けてくださいっ! こっちですっ!」

声の主が亨夜であるとすぐに分かったのだろう、返事を返す七海の声から彼女の位置を推測する。その場所は、どうやら廊下。

「分かった、今行く!」

危険が有ったとしてもまだ彼女自身に命に別状は無い事に少しだけ安堵する。ならば、すべき事はすぐに駆けつける事と判断し、廊下に飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ!? 七海ちゃん……どうしたの?」

「た、助けて先輩っ!」

彼女の状況を確認して思わずそう言ってしまった。周囲にワームはいない…っと言うよりも彼女自身、ワーム等と言う明らかに人知を超えた怪物を見たと言う様子は無い。だが、

「あ・・ああ、今助ける。でも、いったい何してるの?」

「好きでこんな格好してるんじゃないんです、糸に絡まって動けないんですよぉっ!」

さて、現在の彼女の様子だが彼女の言葉通り、弓道着姿で全身が糸に絡まって動けなくなっている。しかも、何とか抜け出そうともがいたのだろう、服が肌蹴ている。思わず冷静になった所に直視してしまって顔を赤くしてしまう。

冷静さを取り戻し、更に詳しく状況を確認して見る。主に七海の姿から目を逸らす為に。七海の手足を縛り上げるロープの様に絡まっているのは糸…それも『蜘蛛の糸』だろう。

(…まだ危険は去って居なさそうだな…。)

人を拘束できる強度の蜘蛛の糸、そんな代物など間違い無く彼の知識の中ではワームがらみでしか有り得ない。

「わ、分かった。今助けるから。」

そう言って駆け寄ろうとした瞬間、

ガサガサッ!

「なんだ?」

「きゃっ!」

何かの物音が聞こえ、物陰から何かがゆっくりと姿をあらわした。

「く、蜘蛛ぉ!?」

思わず驚きの声を上げてしまう。例え、それが人型の蜘蛛の姿をしていたとしても驚かないだろう。だが、その蜘蛛は普通の蜘蛛の姿をしていた。ワームではない自然界に存在している本物の蜘蛛…だが、問題はその大きさに有る。その蜘蛛は人間ほどの大きさのワームよりも小さい…小型犬程の大きさの蜘蛛だったのだから。

(ワーム…じゃない?)

ある程度化け物相手に体勢の有る亨夜にして見れば『ワームの新種か?』程度の意味での驚きだった…だが、

「いやぁっ!」

化け物相手に耐性の無い七海が悲鳴を上げる。彼女の前でガタックに変身すべきかと一瞬だけ悩むが、身体は自然と木刀へと伸びる。利き腕に木刀を…片手に小型の木刀をガタックダブルカリバーを使うように逆手で構える。

そして、亨夜が身構えた瞬間、大蜘蛛はガリガリと言う音で床を爪で引っ掻きながら、突進してくる。

「はぁ!」

素早く一歩前に出て小型の木刀で迎撃する。だが、大蜘蛛の力は思っていたよりも強く、部屋の中央辺りへと僅かに吹き飛ばされる。

「先輩!」

「くっ。」

腕に痺れは感じるが行動に影響は無く、それでも片手で受けるには、力比べをするには厄介な相手と判断し、小型の物を捨て通常の木刀を両手で握る。

(…弱いな…。)

そう判断する。油断は出来ないが、変身すれば簡単に潰せる敵。ワームほどの力も知識も無いただの大きいだけの蜘蛛と推測を走らせる。そう、生身でワームを相手にした経験も一度だけ有る。その時は鉄パイプでさえ簡単に折られていたのに、今回は木刀すら折れていない。

一瞬、思考の中に意識が向いていた亨夜から、大蜘蛛ゆっくりと方向を変えて、七海の方へとにじり寄って行く。

「きゃぁぁっ! いやぁっ!」

糸に絡め取られて動けない七海が、必死にもがいて糸から逃れ様としても、それは出来ず、乱れた弓道着から白い肌が露になる。

「先輩! 先輩、助けてっ! や、やめて、来ないでえっ!」

七海の脹脛に脚をかけようとした時、

「七海ちゃんから離れろ、この変態蜘蛛!!!」

ライダーキックの要領で放った回し蹴りで吹き飛ばす。大蜘蛛は半回転して床に叩き落され、慌ててかさかさと音をたてて後に下がり、距離を開ける。

「…無闇に命を奪うのはイヤだけどな…潰すぜ。」

意識を戦闘モードへと切りかえる。ガタックゼクターはポケットの中、ベルトは既に身に付けているので、何時でも取り出せば変身は可能。だが、今は七海の前で変身する訳にも行かず木刀を構える。

第一…

(…奴単体の戦闘力はサナギのワーム以下、大丈夫だ…生身でも戦えるレベルだ。)

大きさに比較して見合っただけの能力と言った所だろか? そして、亨夜の殺気を感じたのか、大蜘蛛が一瞬姿勢を低くしたかと思うと、

「キシャー!!!」

奇声を上げて一直線に襲いかかって来た。亨夜は木刀を正面に向け、そのままゆっくりと頭上まで振り上げると、

「破ぁ!!!」

気合一閃。タイミングを合わせて全力で木刀を振り下ろし、そのまま蜘蛛を床へと叩きつける。しかも、木刀の勢いは止まらず、そのまま蜘蛛の身体を潰し、床へとぶつかる音が聞こえた。

だが、不幸にも、辛うじて蜘蛛はまだ息が有った。文字通りの虫の息、放置していても勝手に死ぬであろう、苦しそうにもがくその姿を一瞥する。

「……。」

そして、無言のまま木刀を一閃し、頭を潰し絶命させる。そして、一度だけ手を合わせ黙祷すると、亨夜は七海の方に駆け寄った。

「七海ちゃん、大丈夫?」

「なんとか……先輩こそ、怪我してませんか?」

「いや、オレは大丈夫だよ。」

どうやって、彼女を助け様か考える。彼女を助ける為には、糸をどうにかする必要が有るのだ。

「下手に触ったら、ミイラ取りがミイラになりそうだな、これ;」

試しに直接素手で触れずに木刀の先でつついて見ると、粘着力の有る蜘蛛の糸が木刀の先にくっついて1メートル以上も伸びる。下手に触ったら、亨夜の言葉通り、自身まで危ないだろう。故に手段は二つ…一つはライダーへの変身…もう一つは

「仕方ないな…。」

手段を決め、亨夜は腰の辺りに木刀を納めて七海の前に立ち、前傾姿勢で構え体重を落す。

「わっ、亨夜先輩、何するんですか?」

「…切り裂く…。」

『居合のスピードと鋭さならば、粘つくよりも早く糸を断ち切れるはず』と言う推測を立てて七海の言葉に答える。それに、最悪はライダーへの変身と言う手段があるのだ。ライダーフォーム―キャスト・オフする場所が問題だが―になれば、ガタックダブルカリバーと言う武器と速さで問題無く切り裂ける。彼女に怪我を負わせなければ問題は無い。

「うう、ちょっと怖いです。」

「大丈夫…七海ちゃんは、オレの腕を信頼して、ただじっとしてればいいんだ。」

不安げな彼女を安心させる様に優しくそう告げる。

「はい、じっとしてます……って言うか、動けませんし。」

「怖かったら目を閉じれてばいいよ、すぐ終わる。」

「………。」

亨夜の言葉とは逆に七海はじっと、彼の方を見つめている。

「…閉じないの?」

そう聞いてみると、

「先輩の事、信じてますから、かっこいいとこ見せてください。」

七海から帰ってきたのは信頼の言葉。ならば、『その信頼に応えない訳には行かない』と、亨夜は木刀へと意識を集中させる。

「…分かった。………行くぞ!」

「はい!」

木刀の柄を掴み、床を踏みしめ…

「………ふぅ………すぅ………。」

ゆっくりと息を吐き、再び吸い込み、意識を集中させる。

「破ぁ!」

気合一閃。七海の足元から頭上へと体すれすれに木刀が付きぬけ、

「……ふぇっ!」

……変な声を出す七海。一瞬遅れて風が噴き上がり、切断された蜘蛛の糸が宙を舞い落ちていく。

(…この鋭さと速さは強力だけど…ガタックの時は意味ないな。)「破ぁ! 疾ぃ!!!」

弐の太刀、参の太刀が反対側の蜘蛛の糸を断ち切っていく。

「ひぇっ、うひゃっ!」

…当然だが、かなり怖かった様である。悲鳴を上げて七海は硬直する。最後に亨夜は僅かに絡みついた蜘蛛の糸と先ほど倒した蜘蛛の血を払う様に、鋭く足元へと血払いをして、木刀を腰へと納める。

「……終わりだ。」

全身の緊張を解きながら、亨夜は宣言する。

(…ん? そう言えば、さっきは何時もと感覚が違ったけど…敵が違うからか、変身してないからか?)

何時もと違う戦闘時の感覚…主に精神(メンタル)面でのそれに一瞬だけ疑問を持つ。

「……あっ。」

束縛と緊張から開放された七海はよろよろと頼りない足取りで数歩踏み出したかと思うと、亨夜の方に倒れていく。

「きゃっ。」

「おっと。」

しっかりと倒れる前に亨夜は彼女の体を抱きとめる。

「大丈夫? 立てる?」

「た、大丈夫です……ありがとうございます。」

慌てて七海は亨夜から離れて俯いた。亨夜から見る事は出来ない彼女の表情は赤くなっていた。

「所で、いったい何が有ったんだ? 何が有ったらこんな事になったの?」

「それが、よくわかんないんです。弓道場で練習してたらすごい地震が有って、目の前が行き成り真っ白になって気を失って、気が付いたらあんな状態で……。」

「…それって、どういうことだ…?」

「わかんないです……。」

七海の説明だけではまだ状況は理解できない。目の前が真っ白になって気を失ったと言う亨夜との共通点があるが、その程度だ。そもそも、彼女が気絶していたのなら目を覚ますのは弓道場のはずだ。

「と言う事は……寝ている間に誰かがここに運んだのか?」

「えっ!? ……まさか。」

寒気がした様に七海は自分の体を抱きしめて振るえる。何を想像してしまったのかは分かる…が、

「いや、誰も怪しい奴は見なかったし、地震が有った後、オレが助けに入るまでそんなに時間は経っていないから、心配無いよ。」

あとは『大蜘蛛が餌として持って帰ってきただけかもしれないし』と言う言葉は心の中に止めておく。言った所で必要以上に彼女を不安に刺せるだけでしかないのだから。

「だと…いいんですけど。」

それでも、七海はまだ少しだけ不安そうだった。寧ろ、あんな化け物が一匹だけとは限らないし、あれが最も巨大な物とは考えた難い。故に人間を一飲みで食べれるサイズの蜘蛛がいると推測してしまえば…。

(…怪しい奴が居たら…連中(ワーム)の仲間だろうな。そうでなきゃ、何処かで化け物に襲われているはずだ。)「ん?」

足先に何か硬い物が当たる。何だと思ってそれを拾い上げると、

「綺麗……アクセサリーですかね?」

「勾玉って言う奴じゃないかな…これは?」

「マガタマ?」

「ああ、昔の日本人が身に付けてたんだ。今でも時々小さいのが土産物で売ってるけど…なんでこんな所に?」

「誰かの落し物でしょうか?」

一応、持っておこうと思い地下で拾った金属片と一緒に四つの碧色の勾玉をポケットの中に仕舞う。

「………ふぅ。」

服に纏わり付いていた蜘蛛の糸も払って、やっと生きた心地がした様子の七海。

「…とにかく、無事で良かった。さっきの地震はすごかったからな。」

「お母さん、大丈夫かな………。携帯が有れば家に電話できるんだけど、更衣室に置いて来ちゃったから………。」

「っ!? 携帯? そうだ!」

今まで忘れていたが、連絡を入れようと考えていたを思い出すと携帯電話を取り出す。ZECTへと掛けようとした瞬間、一瞬手を止めて。

「……美由紀に掛けて見るか。」

「はい。」

携帯を持つ手が震える…地震が有って彼女の無事を確認したい…だが、

(どんな顔で話せば良いんだよ?)「……あれ?」

電源を押しても液晶画面にライトが付かない。

(…可笑しいな…充電はしておいたはずだけど…?)「ダメだ、電池切れみたいだ。」

「……ちゃんと充電しないからですよ?」

七海はちょっと抗議するような口調で言う。だが、亨夜の携帯はZECTからのワームの出現に関する緊急時の連絡を受ける為に常に電池切れには気を配っていたのだ。それでも、充電を忘れる事が無いとも言えないが…。

「まあ、オレの家は近いんだし、帰れば分かるよ。先ずは学園を出ようか?」

「そうですね、行きましょう!」

「なら、下駄箱の方へ行こう。」

「そうですね、あそこからしか出られないし。」

下駄箱は東側に有り、ここからはそれほど離れていないので廊下を真っ直ぐ行けばすぐに付くのだ。……そう、それが普段ならば。

(…化け物が一匹だけとは考えられない。それに…弱いとは行っても相手は虫型…ワームの仲間とも考えられるからな。…それに…真っ直ぐに進めるとは限らないか。)

最悪は化け蜘蛛と戦いながらの移動になるので、普段よりも時間が掛かるのは確実だろうし、先ほどの地震で防火シャッターも下りている可能性が有るのだ。それにより間違い無く、真っ直ぐにとは行かないだろう。

そして、亨夜が考える最悪の可能性…ワームの存在。亨夜はワームに対して憎しみは抱いているが、相手を甘く見てはいない。いや、ZECTの中では有る意味、最大限に評価していると言えるだろう。亨夜の考えの元、先ほどの大蜘蛛はワームの作った新手の生物兵器か何かかとも考えてしまう。

(…『護る』のはオレの専門じゃないだろうからな…。)

亨夜の抱く最大の不安…それは七海を護りながらワームを相手に戦えるだろうかと言う事なのだ。

 

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