IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
「すごい蜘蛛の糸だな、これは。」
天井から床、左右の壁へと張られた蜘蛛の糸を眺めながら、通常の蜘蛛の巣の大きさと先ほどの大蜘蛛と普通の蜘蛛の大きさからイメージした蜘蛛の巣を比較して見る。
「触れちゃダメですよ、引っ付いちゃいます。」
亨夜がうっかりと触れてしまいそうになった時、七海からの警告が入り、少しだけ距離を取る。
「………これだけ確り張ってるとなると、切り払うのも骨だな。」
はっきり言って天井まで伸びているとなると普通に切り払っただけでは、通り道程度は確保できるかもしれないが、問題は…。
(…あの大蜘蛛が一匹だけとは限らない…他の蜘蛛が出てくる前に七海ちゃんだけでも逃がしたいな。)
「しょうがないですよ、迂回しましょう。」
「そうだね。一度、二階に上がって見よう、廻り込めば出られるかもしれない。」
「はい。」
七海の提案に従って近くにある階段へと視線を向ける。二階へと向かう階段を眺めつつ現状での脱出方法を提案する。もう一つ窓を割って出るというのも考えたのだが…。
(…窓にまで蜘蛛の巣が張ってる…下手に割ったら、そこから余計に奴らの仲間が入り込むかもしれない。)
そう判断した結果である。そして、二階へと上がった二人だったが…
「…妙だな。」
「どうしたんですか?」
「ああ、外を見てみなよ。」
亨夜は窓を指差して外を見る様に促す。窓からは広いグラウンドが広がっているのが見て取れる。だが…そこには有るべきものが存在していないのだ。
「……………。」
「人が全然いないだろう。」
黙って窓の外を覗く七海へと自分の考えを告げる。そう、グラウンドには全く人影が無いのだ。
「ほんとだ……どうしたんでしょう?」
「放課後でオレ達がどれだけ気絶していたかは分からないけど…人が居なくなるには早すぎる。」
「…地震が有ったからみんな急いで帰っちゃったんじゃないですか?」
「そうだといいけど…。」
亨夜は七海の考えに小声で聞こえない様に呟いた。そう、この現状ははっきり言って不可解過ぎるのだ。
(…ワームの仕業でも説明できそうに無いな…現状は。)「何が起こってる…ここで?」
横へと視線を見てみるとそこには防火扉が下りて行く手を塞いでいた。はっきり言って開けられそうに無い…しかも。
「…追加注文は頼んでないぜ…。」
「え?」
そう呟き、亨夜は七海を護る様に前へと出て、木刀を構える。前方から近づいてきたのは先ほどの大蜘蛛とネズミの化け物、そして、立った狼と言う怪物達だった。
「せ、先輩。」
「七海ちゃん、オレに当てない様に気を付けながら、矢を射ってくれ。無理して当てようとしなくていい。」
「は、はい!」
七海の返事を聞きながら床を蹴って先頭に居たネズミの化け物を一撃で叩き飛ばす。
「っ!?」
そして、後に下がりながら次に襲いかかって来た人狼と言うべき化け物の攻撃を避けるとその顔面に片手で突きを打ち込み、更に距離を取る。
(先ずは一匹…。)
そして、彼が距離を取った瞬間、最後の一匹である蜘蛛が襲いかかってくるが、それを左手で殴り飛ばす。
「くっ。」
左手に突き刺さった牙が亨夜の肉を裂き、左手から血が流れた。
その後、後から飛んで来た矢に突き刺さり蜘蛛は泡を噴いて倒れた。
「七海ちゃん、助かった!」
「先輩、まだです!」
「ああ。」
そう言って放った矢を人狼が右手を楯にするがそれは人狼へと突き刺さり、次の瞬間、振り下ろした亨夜の剣が叩きつけられる。
「先輩、大丈夫ですか? どうしてあんな無茶を…。」
「大丈夫だって、これくらい。」
自分が前に出ている以上、自分が抜かれたら後は七海までの間に遮る物はない。ならば、傷つくのは自分の役目と、相手を自分から後に行かせない為に殴り飛ばすと言う選択をとったのだ。だが、それを彼女へと伝える訳には行かない。
「でも…。あれ?」
七海は足元に落ちていた物に気がつき、それを拾い上げる。それは同じ碧の勾玉だった。
「なんだろう、これ……きゃ!?」
亨夜の体がそれに触れた瞬間、勾玉は光を放って砕け散った。
(…新手の閃光弾か?)
「せ、先輩!?」
「…傷が治っている…?」
大した怪我じゃないとは言え、亨夜の傷はその一瞬だけで完璧に治っていた。
「勾玉の力なのか…?」
「そうなのかもしれませんけど……一体どういう事なんでしょうか?」
「……うーん。」
大蜘蛛は兎も角先ほどのネズミと人狼は明らかにワームの系列とは違っていた。そして、先ほどの勾玉の力と思われる癒しの光。
(…ワームの仕業とも思っていたが…考えを改めた方が良いかもな…今回の事は明らかにワームの系列から離れている。)
亨夜が出した一応の結論。そして、思考に決着を着けると視線を横へと向ける。降りている防火扉で道は塞がれ、選択肢は二つ…一つは、更に三階へと廻って見る事。もう一つは、渡り廊下を通って北校舎へと渡る事だ。三階に廻るよりも新校舎を経由して一階に下りた方がいいと考える。
「渡り廊下だ。ここからなら、新校舎に行けそうだ。」
「向こうは安全だと良いんですけど。」
『多分、変わらないだろう』と七海の言葉に思わず否定的な考えを持ってしまう。そもそも、窓などから入り込まれた様子がないのだから、あの化け物達はご丁寧にも玄関から行儀良く入ってきたと推測できるのだ。
新校舎に渡った二人は丁度階段がへの通路が蜘蛛の巣で塞がれているのを見る。
「……でも、なんで急にこんなに蜘蛛の巣が増えたんだろう……。」
「…ま、まあ、ここは山奥だし…古い校舎だからな。」
思わずワームを可能性として上げようとした所で、慌ててそう言いなおす。知らない人間に説明するのには時間が掛かるのだから。
「でも、昨日までそんな事なかったのに……。」
「…地震の影響じゃないか…地震が起こると動物が騒ぐって言うし。」
「それで蜘蛛や犬も?」
「…………あれを普通の蜘蛛や犬と言うべきかは分からないけど…一応、生物の一種なんだから、自然の摂理って奴だろうな。」
「…でも、やっぱり蜘蛛は嫌いです。」
「まあ、ね。」
流石に二度もあんな化け物蜘蛛に襲われれば、余計に嫌いにもなるだろうと妙な納得をしてしまう亨夜で有った。
幸いにも別の階段へと続く道は蜘蛛の巣に覆われても、防火扉で道が塞がれてもいなかった。
「良し、ここから一階に降りれるぞ。」
「よかったっ、これで出られますね。」
亨夜の言葉に七海も嬉しそうに答える。脱出の芽が見えてきたのだから。だが、
「…ここを抜ければ下駄箱なんだけどな…。」
「防火扉が閉まっちゃってますね……。」
「仕方ないよ、ここは迂回しよう。」
そうは言った物の通路は蜘蛛の巣で塞がれていて、完全に道は閉ざされていた。脱出の為には三階へと廻るしかないだろう。
そして、反対側へと視線を向けてみるとそこは
「保健室か、綾香さん居るかな?」
「どうでしょう……もう外へ逃げちゃったかも。」
そうで有ってくれればくれればいいと考える。だが、万が一と言う事も考えられる。一応の安全確認だ。第一、脱出不可能の場合は何処かの教室で一晩過ごす覚悟も必要になってくるだろうから、ある程度休息できる場所は有った方が良いし、出入り口が限定されるなら一人でも護り易い。
「まあ、一応、確認して見るか。失礼します、綾香さん、いる?」
そう言って入っていく二人はそこで信じられない物を見る事となる。
「「…………。」」
「……すぅ、すぅ……。」
「…寝てるよ…この人。」
「…寝てますね…。……あれだけの地震が有ったと言うのに……。」
これはどう考えてもワームとかの擬態を考えるまでもなく本人だ。思わず脱力の余り頭から床へとダイブしそうになる事に耐えた自分を誉めてあげたくなる。彼女は思いっきり熟睡していたのだ。
「むにゃむにゃ……夏物の……特売が……。」
しかも、お約束な事を言いながら。
「なんか、夢見てるし。」
「どうしましょう……?」
「起こすしかないだろう。」
七海の問いにそう答えて亨夜は綾香へと近づいていく。
「綾香さん!」
「むにゅ……うぅん……亨夜ちゃん……?」
「ほら、起きて!」
「むふぅ……もうちょっと寝かせてよぉ……。」
「それどころじゃないの、今は大変なんだ!」
だが、何故か笑いながら綾香は寝言を続けてくれる。
「もぉ……また怖い夢見たの? 一緒に寝てあげるから、静かにしててね……。」
亨夜はその一言で空気が凍りついたのを感じた。
「……せ、先輩、まさか……!?」
錆びたロボットの様な動作で後ろを振り向くと険しい目で七海が亨夜を睨んでいた。
「ち、小さい頃の話ですよ、七海さん。」
「美由紀ちゃんとぉ……ちゃんと仲直り……するのよぉ……?」
綾香のその一言で心が温かくなるのを感じた。
(夢の中でも心配してくれてるのか…。)「って、いい加減起きてくれ。」
流石にまた変な事を言われてこれ以上七海に睨まれたくないので、強行手段に移る。
「あいたっ! い、いたた……おでこが……。」
「目は覚めた?」
具体的にはデコピンを額に打ち込んだのだ。刺激で目は覚めるだろう。
「い、今誰かデコピンしたでしょう!?」
「いや、してないよ。」
「うう、絶対嘘だ……。」
「とにかく…今はのんびりと寝ている場合じゃない。ほら、しゃんとして!」
「うう~、なんなのよぉ……。」
ふと、後で亨夜を睨んでいる七海へと視線を向ける。
「先輩……。」
「えーと…七海ちゃん? さっきの事は…。」
「分かってます。今度、買い物に付き合ってくださいね。」
「了解。」
取り敢えず七海の機嫌を直す事には成功したのだった。
目を覚ました綾香に今までの経緯を説明する。地震が起こった事にも気付かない辺りに再度脱力しかけたのだが…亨夜は何とか耐えた。
「あらぁ、私が寝ている間にそんな事があったのね……。」
「いや、あれで良く寝てられたね。」
「もぅ、いいじゃない。昼寝は健康の元なんだから。」
不服そうに言う綾香。確かに一理程度はあるだろう…だが、
「逃げ遅れてそのままあの世行きになったりして…。」
ちょっと意地悪な感じを出しながら、そう言葉を返す、亨夜だった。現状で寝てたら健康以前に命がなくなるだろう。
「……と、とにかくっ! 今大変なのね?」
「はい。」
「廊下には蜘蛛が居るし……。」
心の中で七海の言葉に『大きな』と言う言葉を付け加えておく。
「よし、じゃあ三人力を合わせて、なんとか脱出しましょう!」
「分かりました。」
「が、がんばりますっ。」
勇気付ける様に叫ぶ一番の年長者である綾香の言葉に亨夜と七海の返事を返す。少なくとも、これで学園の中に居る人間が全員揃ったと思いたいと考えているのは亨夜だけだろうか…。
「それじゃ、まずは理事長室に行きましょう。あちこちの鍵が掛けてあるから……。それと、ここに戻ってくれば手当てして上げられるからね。」
「うん、分かった。」
そう言って再び窓へと視線を向ける。
「ここの窓にも蜘蛛の巣が張っているか。」
「開け様にも、手に引っ付いちゃいそうですね。」
「あ、そうだ。私の携帯で美由紀ちゃんに掛けてみようか?」
「そうか。お願いします。」
そう言って携帯電話を取り出して画面を見る綾香だったが…
「あれ? 圏外になってる……何時もはちゃんと三本立つのになあ。」
「どうしたんでしょう?」
「地震のせいで基地局にトラブルが起きたのかも。」
そう言って綾香の携帯に視線を向けてみるが…バッテリーは自分の物と共有出来そうにないと考えた。亨夜の携帯はZECTとの連絡用で大抵の場所では圏外になる事はないと彼は聞いていたのだから。
「しょうがないわね……電話は諦めましょう。」
残念そうに呟く綾香。こうして学園脱出チームのメンバーは綾香を加えた三人になるのだった。だが、
(なんか…物凄く疲れたような気がする…。)
そう思わずには居られない亨夜であった。