IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
綾香を仲間に加え、三人パーティーとなった亨夜達は再び校舎の中を歩き始める。目的地は亨夜の祖父の部屋である理事長室。
(まったく、通い慣れた学校でもこうなると道に迷いそうだな。)
幸いにも理事長室は二階に上がってすぐの場所に有り、蜘蛛の巣や防火シャッターに阻まれる事無くたどり着く事が出来た。
「理事長室ですね。先輩の御爺様のお部屋です。」
そう言って七海は亨夜へと視線を向ける。そして、亨夜もその視線に答える様に理事長室のドアノブに触れるが…
「ダメだ、鍵が掛かってる。」
押しても引いても左右に動かしてもドアは動く事は無かった。
(仕方ない、今は緊急事態だ。…じいちゃんには後で謝るとして……蹴破るか?)
「ああ、それなら。」
確実に実行可能な手段が有るだけに、亨夜が物騒な考えを浮かべていると、そう言って綾香が懐から鍵を取り出して理事長室の扉を開けた。
「な、なんでそんなの持ってるの?」
「理事長に預かってるのよ。時々掃除してくれって言われて。」
(……そんな事、自分でやれよ……。)
そう言う亨夜は、一応はバイトとは言えZECT所属のライダーの一人なのだ。当然ながら、部屋にはZECTから渡された資料なども少しは置いてあり、関係のない祖父や美由紀に見つからないように常に部屋の掃除は自分でしているのだ。
何事もなく亨夜一行は理事長室に入ることに成功したのだった。
「………やっぱり、爺ちゃんも居ないか。」
「誰も居ないわね。」
「…じいちゃん…。」
「きっと、もうおうちに帰ってるのよ。」
「先輩、気を落さないで。」
何処か影が落ちる亨夜を心配して綾香と七海が声を掛けるが…
「………ふっ………。」
「亨夜ちゃん?」
「先輩?」
「ふっふっふっふっ……ある意味、今がまたとないチャンス!!!」
「へ?」
「チャンス?」
突然の亨夜の言葉に戸惑いを見せているが、当の亨夜は祖父である六介の心配は大してしていなかったのだ。そもそも、ワームに関係なければ変身しない自分が勝てるような相手に負ける心配はないだろうと言う祖父であり師でも有る相手への信頼からの考えの元である。
「前から一度この部屋を漁って見たかったんだ。」
「「………。」」
二人から向けられる呆れたような視線を気にせず部屋を漁り始める。
「革張りのソファーなんかに座りやがって、あの爺さん、色々といい物を隠しているに違いない。」
「はぁ……心配して損しました。」
「棚の中に新品のゴルフクラブが! こっちには大吟醸!? じいちゃん、美由紀に怒られそうな贅沢品は全部ここに隠してやがるな。」
「あ、あのー、先輩。理事長先生の部屋をあんまり荒らすのは……ねえ、せんせ。」
そう言って綾香の方にも視線を向けるが、既に綾香も荒らしまわっている。
「もぉ、亨夜ちゃん。後で怒られても知らないわよ。」
「そう言う綾香さんだって。それにちゃんと戻しておくから大丈夫。ん?」
棚の後に隠す様にして立て掛けてある棒の様な物を見つけた。
(これは…木刀か?)
周囲にぶつかる物がない事を確認して一度、その木刀を振って見る。重心が先端よりの為に少し重く感じるが、今使っている物よりも明らかに威力は高そうだ。ここでの相手との戦いは変身しない以上威力が高い方がいいと判断する。
「銘が彫ってある。『武蔵』か。悪くないな。…借りていくか、今は非常時だし。」
彫ってある銘に思わず笑いを浮かべてしまった。流石に黙って借りていくのは気が引けるが、無事に帰ったら返そうと考えて今まで自分が使っていた木刀を変わりにその場に納める。
「……ちょっと待ってね、鍵を取るから。」
そう言って綾香がロッカーを開けて、扉の内側に止め具を作って指し込んである鍵束を手に取った。
幸か不幸か、綾香は気付かなかったが、それが亨夜なら鍵束を取った時、隣に『Z』と書かれたキーホルダーのついた鍵が有る事に気が付いただろう。そして、それを手に取ったのが彼だったら、『本編』の物語は少しだけ変わっていたかもしれない。
「よし、これこれ。」
そう言って鍵束をポケットの中に仕舞うと、ロッカーを閉めて亨夜達に向き直る。
「じゃあ、行きましょう。」
そう言って亨夜一行は理事長室を後にするのだった。その後、綾香の提案で隣の職員室に誰か残っている者はいないか確認に行く事になったのだが、
「…やっぱり、誰も居ないな。」
やはり、そこには誰も居なかった。他の人間が全て消え去った様に存在しているのは自分達を除けば化け物だけと…『これなら、はっきり言ってワームでも闊歩していてくれる方がまだ現実的だ。』等と考えてしまう。
「綾香先生以外はみんな避難しちゃったんでしょうか……。」
「ええ~っ、酷いっ、なんで私だけ置いてっちゃうの~!?」
「いや、だって…綾香さん、寝てたでしょ。」
「うう……。」
亨夜の指摘に何も言い返せないと言う様子の綾香。
「あ、先輩、電話は?」
七海の言葉に受話器を手に取って耳に当てるが…
「………ダメだ。発信音が聞こえない。電話線を切られたか?」
「ダメですか……。」
亨夜の言葉に声を暗くしながら答える。
「お父さん、お母さん……。」
(…美由紀の奴、無事だといいけど…いや、ワームが行動していたとしても外には矢車さんや神代、それに…頼りないとは言え影山さんや風間も居る。心配ないだろう。)
意図的に龍牙達は思考の中から外しながら、信頼できる相手と…少しは信用できる相手の事を考える。
「………。」
「しょうがないよ、元気だそう?」
家族が心配なのだろう、表情が明らかに落ち込んでいる七海を元気付ける様に綾香が言う。
「そうですね。」
「それより、早くこの校舎を脱出しておうちに帰りましょう。幸い、みんな家は近いんだし。」
「確かに、それが一番早い。」
「分かりました。」
綾香の言葉に同意しつつ、廊下側の壁へと視線を向け、意識は廊下へと向ける。今まで鍵が掛かって為か、幸いにも化け物達は教室の中には入っていない。だが、
(…一歩外に出たら敵は何処に居るのか解らない…。まったく、厄介だな…こう言う状況は。それにしても、やっぱり頼りになるよな、綾香さん。)
二人の会話に同意しつつ、接近する敵への備えから壁の向こう側へと意識を向けつづけながらそんな事を考える。
「ちょっと、思いついたことがあるのよ。」
亨夜がそんな事を考えていると綾香は数学教師のテーブルの上に残されたライターを手に取った。
「?」
「ライターなんか取って、どうするんですか?」
「えへへ、見ててね……。」
二人の疑問の言葉に笑いながら返しつつ、自分の席からヘアスプレーを取り出して、ライターへと近付けていく。
「えいっ!」
火を着けたライターにヘアスプレーから射出される液体にライターの火が引火する。その瞬間、火柱がたった。
「うわ!」
「あ、危ないですよっ!」
「えへへ、ごめんごめん。」
二人の講義の言葉に笑いながら謝る。
「でも、可燃性ガスにライターで引火させた即席の火炎放射器か。」
「うふふん。流石は化学教師と誉めなさい♪」
「先生、凄いですー!」
「これで蜘蛛の巣でも何でも焼き払えるわよ。」
「よし、じゃあ行こう!」
「はいっ!」
亨夜の言葉に七海が元気良く返事をすると綾香が何かに気が付いたように声を上げる。
「あ、大事な事を言い忘れてたわ。」
「ああ。」
「何ですか?」
何故かカメラ目線になる亨夜と綾香の二人。
「危険なので、良い子は絶対に真似しないでね♪」
「悪い子もダメだ。仮面ライダーとの約束だ。」
その後、火炎スプレーで行く手を阻む様に張り巡らされていた蜘蛛の巣を焼き払う事に成功したのだが、防火シャッターまでも排除する事は出来ず出口である下駄箱には真っ直ぐ進む事は出来なかった。更に運が悪い事に大型の蜘蛛や人狼、ネズミと言った化け物達と戦いながら進んでいく為、余計に時間が掛かってしまっているのだ。
(流石にガタックに変身すれば簡単に破れるけど…下手に防火シャッターまで壊して、その先に居る化け物達と鉢合わせってオチは、御免だからな。)
詳しい事は省いてしまうが、その後防火シャッターを避けての回り道を繰り返していく内に化学準備室に有る白衣を動き易いと言う事で綾香が取って来たり、弓道場に立ち寄る事になるのだが、
「やっぱり、誰も居ませんけど。」
七海のその言葉通り、地震が起こるまでの間、七海が居たであろう弓道場にも、今まで立ち寄った教室にも、やはり誰もいなかった。
「そうだ。ここにもっと強力な弓は置いてない?」
「いえ……危険ですし、悪戯されない様にみんなちゃんと、しっかり持って帰っているはずですが……。」
亨夜の言葉に七海は否定的な意見を述べながら、ロッカーを開ける。確かに凶器となりうる武器を持つ以上、最低限の管理はすべきだろうと納得するが、
「………あれ、私のロッカーに、知らない弓が置いてあります。」
「誰かが間違えて忘れていったとか?」
「違う……これ、すごく高級品ですよ。」
その弓を手に取って七海は驚きの意思が込められた声を上げる。
「そうなの?」
「ええ、しかもだいぶ使い込まれてる……。」
結局、それを借りていく事としてそれを手に取って弓道場を後にした。
(……でも、あの弓にも何かがはめ込める溝が有った。)
そう考えながら、自分の持つ木刀の柄へと視線を向ける。そこにも一箇所だけ何かがはめ込める丸い溝が一つ有ったのだ。先ほどから前衛として戦っている亨夜が何度も世話になっている癒しの力を持つ勾玉と色の違う幾つかの勾玉を取り出す。
(…大きさは合うな…。でも、形が合っていない…けど、十分嵌りそうだな。)
そして、亨夜達はやっと階段を降りて下駄箱へと入った。
「うわぁ。」
「な、何これ……。」
「こりゃ……酷いわね。」
三者三様の感想を洩らすが一つだけ共通している答えが合った。今まで一番酷いと言う事だ。
下駄箱があるはずのそこは、それさえも確認できないほど一面真っ白な蜘蛛の糸が張り巡らされ、濃霧の中に居る様に視界を遮っていたのだ。
「凄い蜘蛛の巣……。」
「うう、嫌だなあ……。」
(チッ! 最悪の答えが大当たりか。)
綾香、七海の順に感想を漏らす。一人冷静な亨夜はその頭の中で考えていた最悪の可能性に行きついてしまった事に対して心の中で思わず舌打ちし、悪態をついてしまう。
割れていない窓から推測して校舎の中の怪物達は玄関から行儀良く入ってきた可能性が高かったのだ。故に、下駄箱はその異変の中心地となっている危険性が有るとも考えていた。だが、脱出の手段が他にない以上、余計な事を言って混乱させない様にと考えていたが、それが完璧に裏目に出てしまっていた。
「これは、燃やすのもちょっとホネねえ……。」
「でも、ここを通らないと外に出られないし。」
どうし様かと顔を見合わせた瞬間、校舎を揺らすような地響きが聞こえてきた。
「な、何!?」
「向こうから、何か来ます。」
「危ない! 二人共、ちょっと下がって。」
そう言って亨夜が二人を後へと下がらせた瞬間、近付いて来るものの全貌が明らかとなった。
「き、きゃぁぁぁぁぁあ!!!」
その全貌を見た瞬間、今まで耐えてきた七海が悲鳴を洩らしてしまう。
「な、なんだこいつは。」
亨夜はその全貌を見た瞬間、呆然とした声を上げてしまう。
「大きいっ……蜘蛛の親玉!?」
目の前の存在は綾香の叫び声が示す様に、裕に全長10mを超えた巨体を持った巨大蜘蛛が近づいてきたのだ。
「これ、出る作品が違うだろう!!! これはカブトのクロスじゃないのか!? 魔化魍だろう、これはどう見ても!?」
答)それは確りと『IZUMO』に登場する敵キャラです。
「いやいや、明らかに音撃で倒す相手じゃないのか、これは!?」
大丈夫、ちゃんと他の攻撃でも倒せますから。
「!? 危ない!」
蜘蛛が何かを吐き出した瞬間、その斜線軸上に立ち尽くしていた七海を突き飛ばす。それに少し遅れて、蜘蛛の吐き出した液体が壁を溶かす。
「こ、これは……?」
「強酸!?」
「二人共、気を抜くな。」
目の前の敵は今までの相手とは『格』が違う。気を抜けば待っているのは、最悪な結末…『死』だけだ。それを理解しているのか、亨夜の口調も自然と『復讐者』の時のそれへと近くなっていく。
「来るぞ!」
「はいっ!」
「分かったわ!」
三人の叫びが響いた瞬間、大蜘蛛が動き出した。
「破ぁ!!!」
叫び声を上げながら床を蹴り跳躍し、振り下ろした木刀が大蜘蛛の頭を叩くが、大して効いていた様には見えない。
(これだけデカイとこんな物で殴っても効果はないか。)
「たーっ!」
「ほいっと!!」
続いて放たれる七海の矢と、綾香の投げた攻撃用らしい青い勾玉(そうとは知らずに使ってもらった時は流石に死ぬかと思った。by.亨夜)もあまり効いてない様だ。いや、当たった部分が凍っているし、矢も突き刺さっている事から考えて自分の木刀よりは表面的には効いているだろう。
(…流石に武器は一番弱いからな。)
「シャーーーーー!!!」
亨夜の考えは正しいようだ。その証拠に亨夜を無視して真っ直ぐに後衛である七海達に向かっていく。
「待て!」
注意を自分へと向ける為、横腹へと飛び込み木刀を振るうがその一撃は敢え無く空を切った。…その瞬間、
「なに?」
「えっ?」
木刀から何故か衝撃波が放たれた。それは確りとダメージを与えられたらしく、標的を亨夜へと変える様に彼へと向き直る。
「シャー!!!」
口から撃ち出された蜘蛛の糸が亨夜の上半身を包み込み、続いて体を床へと縫いつける。
「先輩!」
「亨夜ちゃん!」
二人の叫び声が響く。前衛の亨夜を無力化したと判断したのか大蜘蛛は七海達へと歩を進めていく。
(…オレは護れないのか…? 綾香さんも…七海ちゃんも…。)
脳裏へとフラッシュバックするのは渋谷隕石の際の光景と、ワームに殺される妹の姿。
(…また護れない…? 嫌だ…。また失うのだけは…大切な人を失うのは絶対に嫌だ!!! だから…。)
「力を貸してくれ、ガタックゼクタァー!!!」
その瞬間、亨夜の言葉に答える様に、ポケットの中から抜け出したガタックゼクターは自らバックルへと収まる。
《HEN-SHIN》
亨夜の体を重厚な装甲が包み、マスクドフォームの仮面ライダーガタックへと姿を変える。だが、マスクドフォームのパワーでも高い強度と同じに柔軟性の有る蜘蛛の糸は引き千切れない。
「キャスト…オフ!」
《CHAST OFF》
ゼクターホーンを後方へと移動させ、装甲が弾け飛び、その瞬間、彼を拘束していた糸が大きく広がっていく。
その瞬間を逃さず立ちあがり、蜘蛛の糸から脱出する。そして、ゼクターホーンが定位置へと移動し、
《Change StagBeetle》
電子音が響き渡る。
「きょ、亨夜ちゃんなの?」
「せ、先輩…なんですか?」
驚きで言葉もないという様子の二人を一瞥しつつ、
「話しは後で…今は…コイツを倒す!」
今、ここに…この世界『』に『戦いの神』が降臨したのだった。