IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
亨夜の本来のバトルスタイルは素手での格闘とガタックダブルカリバーによる二刀流、そして、木刀、刀の様な武器を使っての剣術と三種類の戦い方の混合に有る。
前者の戦い方はガタックでのワームを相手に磨いてきた『洗礼された我流』で有り、後者の戦い方は『命を賭けた殺し合いの経験のない戦い方』である。もっとも、素手での戦いに関して限定すると、まだ、完全な我流の二刀流の戦い方とは違い、それなりに確りとした武術としての戦い方に促した物に成っているが。
(…奴がワームと関係無いなんて可能性は未知数、七海ちゃんや綾香さんも居る、あまり時間を掛けたくない、一気に決める。)
「シャーーーーッ!!!」
威嚇する様に咆えながら糸を撃ち出してくる巨大蜘蛛。ガタックダブルカリバーを構え、そんな目の前の大蜘蛛『女郎蜘蛛』を睨み付けながら、腰のベルトのスイッチを叩く。
《Cloock up》
『クロックアップ』…ワーム成体とカブト系ライダーのライダーフォームのみが使用可能な、自らの体感時間を速めることで行う超高速の特殊移動方法。虚の質量を持つ為に常に光速を超える速度で運動する粒子、ギリシア語で『速い』と言う意を持つ『タキオン粒子』を発生させ時間を歪ませる事で、体感時間を加速させる。ライダー・ワームから見ればクロックアップ状態に無い自分達以外は空間を流れる時間が止まっているに等しい。
また、ハイパーゼクターを使った『ハイパークロックアップ』は『時間逆行』、まだ亨夜の出会っていない一部のワームは『フリーズ』、『時間停止』させる事も可能なのだ。
そう、ライダー・ワーム達の持つ『クロックアップ』に対抗し得る力は同じ『クロックアップ』かそれを超える強力な『クロックアップ』である『ハイパークロックアップ』と『フリーズ』を使う以外に対抗できる手段はない。………そのはずだった。
「ッ!? なに!?」
思わず亨夜の声が驚愕の叫び声を上げてしまう。…クロックアップによって加速して停止しているとしか見えないはずの時間が『動いている』のだ。
それでも、撃ち出された蜘蛛の糸を十分回避しきれるだけの加速は得られた。だが、彼を驚愕させる材料はそれだけではなかった。
《Cloock Over》
(どうなってる!?)
従来よりも遥かに少ない時間内でのクロックアップの終了…これは…。
「クロックアップが使えない。原因は!?」
ゼクター、ライダーシステムの故障とは考えられない。そんな事態になればクロックアップの加速・持続時間の低下程度では済む筈が無い、だから考えられる理由はより根本的な部分…『タキオン粒子』へと考えが廻る。それが正解だとしたら、最悪の事態は…『ライダーキック』や『ライダーカッティング』と言った必殺技さえも使えないと言う事なのだ。
「センパイッ!!! 危ない!!!」
七海の叫び声に意識を現実へと引き戻された瞬間、ガタックは後へと飛ぶ。その瞬間、彼へと向かってきていた女郎蜘蛛の顔に七海の放った矢が二本突き刺さる。
「すまない、七海ちゃん、助かった。」
「油断しちゃダメよ、亨夜ちゃん。」
「はい。」
彼を援護する為に攻撃用の青い勾玉を投げながら告げられた綾香の言葉にそう返しつつ意識を思考から女郎蜘蛛へと持っていく。クロックアップや必殺技が使えないとしても、十二分にライダーシステムの与える利点は彼を助けてくれる代物なのだ。
(…考えるのは後だ。今は奴を倒す事に集中しよう。)
青い勾玉が作り出した氷の壁の向こう側に居る女郎蜘蛛が後ろに下がりながら、ガタックの前から姿を隠していく。
「あいつ…。」
ガタックの強化された視力を利用して周囲の様子を覗う。
密林の如く蜘蛛の巣に覆われたこの戦闘場所(バトルフィールド)の周囲を蜘蛛の糸に覆われている現状は、周囲360°が相手の行動範囲であり、今の自分達の立場は相手の狩場の中に居る獲物に等しい立場なのだ。
(だけどな…デカイ分、不意打ちはし難いぞ。)
流石に、あれだけの大きさの相手が動けば嫌でも気が付く、ましてや今はガタックに変身した事で視力を強化されているのだ、気付かない訳が無い。
そう甘く考えていた事に亨夜は直に思い知らされる事となる。
「キャア!」
「七海ちゃん!?」
後から聞こえたのは七海の悲鳴と固い物同士がぶつかる乾いた音が聞こえて、後ろを振り向くと両腕と両足を拘束された七海が吊り上げられる形で蜘蛛の巣に拘束されていたのだ。
「な、なんで…。」
「わ、解りません、腕に何か…センパイッ!」
「亨夜ちゃん、後!」
「え? がぁ!!!」
二人の言葉に後を振り向こうとした瞬間、背中を衝撃が襲い横へと弾き飛ばされる。そして、視界の中に収まったのは前脚を振り上げた女郎蜘蛛の姿。
「こいつ。」
立ち上がりながらガタックは己の腕に纏わり付いていた細い糸に気がつき、直にそれを振り払う。
(…なるほど、七海ちゃんが言ってたのは『これ』か。どうする? 下手をしたら大技は使えても一回…最悪は使えないと考えるべきだ…。必殺技とは言わないけど何か別に決定打が必要だ…。)
「いやぁ! 来ないでえっ! 先輩、助けてっ!」
自分達へと近づいてくる女郎蜘蛛への恐怖からか、拘束されて動けない事も有ってか、悲鳴を上げる七海に気がつき、
(考えている暇は無い。やるしかないか。)
利き腕のガタックダブルカリバーを肩へと戻し、その手に落ちている木刀『武蔵』を拾い上げる。
「おい、化け物!」(クロックアップは使えない…。)
その声に反応したのか、今まで綾香と七海の方へと向かっていた女郎蜘蛛はガタックへと向き直る。
「お前の相手はオレだ。」(ライダーシステムの必殺技が使えるかは未知数…でもな。)
「先輩。」
「亨夜ちゃん。」
己の名を呼ぶ二人を視界の中に捉えながら、覚悟を決める。
「行くぞ……化け物
全身体能力を発揮して床を砕かんばかりの踏み込みと共に一気に距離を詰める。
「シャァーーーーーーーッ!!!」
(もう一度、あの感覚を!!!)
撃ち出される糸と溶解液を左右に走りながら避け、己の間合いへと近づき、先ほど衝撃波を発生させた感覚で木刀を振るう。
再び発生させる事が出来た衝撃波が、女郎蜘蛛の額へと衝撃波が直撃し、怯んだ瞬間、木刀を投げ捨て肩に収めていたガタックダブルカリバーを抜き放ち、二本の曲刀『プラスカリバー』『マイナスカリバー』を交差させ、鋏のような状態へと変える。
《Rider Cutting》
電子音が響き渡ると同じに女郎蜘蛛の真下へと滑り込み、ガタックは交差させたガタックダブルカリバーで切断する様に相手を挟み込み、持ち上げる。
「純粋な力比べで…蜘蛛がクワガタに勝てる訳ないだろう!!!」
女郎蜘蛛を挟み込み、上空へと向けたガタックダブルカリバーのエネルギーが巨大な二本の刃を形成する。
「――――!!!」
「受けて見ろよ…ライダーカッティング!!!」
ガタックの宣言と形容しがたい叫び声を上げて真っ二つに切り裂かれた女郎蜘蛛は爆散し、消え去っていく。
それと同じに主を失い、役目を終えた蜘蛛の巣は今まで何も存在していなかった様に、幻であったかの様に消え去っていく。
「キャア!」
当然、今まで七海を拘束していた蜘蛛の糸も消え去り、上空に吊り上げられていた七海の体は床へと落ちていくが、変身を解除した亨夜が彼女を俗に言う『お姫様抱っこ』と言う体勢に受け止める。
「せ、先輩。あ、ありがとうございます。」
「どういたしまして。顔赤いけど、大丈夫?」
自然に行った行動とは言えどう考えても恥ずかしい行動に思わず顔を赤くしながら、彼女を床へと下ろす。
「だ、大丈夫です! そ、それより、さっきのって何なんですか?」
「私も気になっているのよね、それにその子って…。」
七海と綾香の言葉と視線を受けてその視線の先へと自身も視線を向ける。そこには丁度、ガタックゼクターが空中に浮かんでいた。
「…ガタックゼクター…お前…。」
自身の名を呼ぶ亨夜に答える様にガタックゼクターは『もう姿を見せても大丈夫だろう』とでも言う様に彼の肩へと降りる。
「…何から説明するべきかな…? まず…。」
何処から何処まで説明するべきか迷う所だが、飽く迄、今はガタックの事だけで十分だろうとワームの事を省いて説明していく。単純にバイト先からの支給品で、一種の強化スーツとでも言って誤魔化しておく。正確に言えばベルトは亨夜の個人的な所持品に分類される訳だが。
幸いにも、誤魔化し様の無い、これ以上無いほどの『兵器』であるマスクドフォームのガタックバルカンは見られていない。二人を騙すのは気が引けるが、接近戦用のガタックダブルカリバーだけならば救助用の装備の一種とでも言っておけば良い。
そもそも、救助にも瓦礫や障害物を破壊する装備があるのだから、まあ、まだ誤魔化せた。
ワームの事を黙っているのは、唯でさえこんな状況に巻き込まれているのだ、ワームの事等教えてしまったら、彼女達を余計に不安にさせてしまうだけだ。そして、それと戦う理由までは知らせるべきではないだろうと考えての事である。
『復讐』…自分の中に有る闇よりも黒く、醜い感情にして、戦う理由。そして…知らず知らずの内に周りの人間を傷付けていた原因とも言うべき物。それを知られたくは無い。さて、それらの事を黙ってガタックの事を説明した結果。
「すごい! 立派なお仕事してたのね、亨夜ちゃん。」
「凄いです、先輩!」
「あ~…いや、オレは単なる新装備のモニターだから、それほどでも…。」(…ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい!!!)
二人から尊敬する瞳で見られて思いっきり心が痛くなり、心の中では必死に謝りつづけている亨夜で有った。まんざら、人命救助と言うのが全部が全部嘘ではない…ワーム退治も人命救助の一つと広域的に捉える事は出来る。そう言う意味では罪悪感は少ない(少ない訳ないだろう、あの化け物蜘蛛の攻撃より大きいぞ、ダメージは!!! by.亨夜)…失礼。
「そ、そんな事より、これで外に出られるね。」
「わっ、もう日が暮れそう……早く行きましょう、先輩!」
「ああ、行こう。」(…絶対に知らせない方が良いだろう…主に、影山さんが仕出かした事とか。)
そう固く心に誓って二人に遅れながら亨夜は出雲学園の外へと脱出していく。
「…やっぱり、運動場にも誰も居ない。」
「地震が有ってからだいぶ経ったし………みんな帰っちゃったんじゃないの?」
「だと、いいんですけど……。」
亨夜の言葉に答える綾香と、不安げな表情で綾香の言葉を否定する七海。
「どうしたの?」
その疑問に帰ってくる言葉は大体想像できる。
「やっぱり、これだけ歩き回っても私達以外の人に全然会わないのは変ですよ。」
「確かに、変だね。」
七海の言葉に対して心の中で、『学園の中を歩き回っていた化け物達に食われていた訳でも無い様だ。』と心の中で付け加えておく。実際にそう言う可能性を考慮して成るべく二人の視界にそんな物を連想させる物が入らない様にしようと気を配っていたのだから。
「電話も繋がらないし…町で何か有ったのかなあ……。」
「………くッ。」
何か有ったと言われて考えてしまうのは『ワーム』の動き。だが、自分を除いてカブト、ザビー、サソード、ドレイク、キックホッパー、パンチホッパーとZECT所属、無所属関係無く六人のライダー達が町には存在しているのだ、そうそう大きな被害は出ないだろうと考える。
そして、知らされている情報ではカブトの量産型であるカブティックゼクターシリーズも開発中と聞いている。試作型の3種のデータから正式な量産型も作り出されるという話しだが、まだそちらは試作品も完成していないらしいので戦力としては数える事など出来ないだろう。
(……矢車さん…神代…影山さん…三人とも、オレの分まで頑張っていてくれ。)
「まあ、考えたってしょうがないわよ、とにかく行きましょう!」
「…うん、そうだね。…行こうか。」
やっとたどり着いた何時もの通学路はその真中に巨大な岩が何処からか崩れ落ちて積み重なっている。
「…酷いな、これは。」
「これじゃ、通れないですよ……。」
「それより、この岩の向こうの人達が心配だわ……怪我とかしてないと良いけど。どう、なんとかできそう?」
装備品のモニターとは言え、レスキュー関係のアルバイトをして居る事になってしまった亨夜がガタックで何とかできないかと聞かれるが…。
「…ごめん、ガタックでも流石に簡単に切断できそうもないし、下手に手を出したら余計に危険かもしれない。……美由紀……。」
「どうしよう……先輩……。」
不安そうに聞いてくる七海の言葉に亨夜は少し考え込む。実際、何とかできないと言うと嘘になるのだ。ガタックバルカンで距離を取って上の岩を爆砕して崩れる心配をなくしてからダブルカリバーで切断すると言う事も、マスクドフォームのパワーで少しずつ、岩をどかしていくと言う手段も考えられるが…。
(…こんな時は、龍牙の奴のカブトが羨ましいな。)
装備の都合上マスクドフォームでも救助用と言い張る事が出来るのだから。
だが、それとは別に何故かこの岩を動かしてはいけないと本能が告げている。この岩の先に有るのは『希望』ではないのだと。
「仕方ない、この道は諦めて迂回しよう。」
「どうするの?」
「少し引き返してから、森の中を通る。十分有れば、この岩の向こう側に抜けられるはずだ。」
「ああ、あの森を通るんですか。」
昔、亨夜が美由紀、七海と一緒に遊んだ事の有る場所なのだ、彼女の記憶の中にもあるだろう。
「うん。……ちょっと虫とか出ると思うけど、我慢できる?」
不安はあるが、彼女が嫌だと言えば最悪の場合、岩を物理的に排除する必要性も考える必要も有る。実際、対ワーム用のマスクドライダーシステムならばこの程度の岩の排除は単純な作業だろう。
「だ、大丈夫です。………多分。」
(一番確実で、速く、安全な方法だからな…少しだけ我慢してもらおうか。)「じゃあ、決まり。行こう!」
こうして三人は今来た道を引き返していく。だが、亨夜はまだ知らなかった。この時、彼の下した判断が甘かったと言う事を…。
何かに導かれる様にして向かう先は次なる戦いの舞台となるべき、森の中。そこで待ちうけている物とは…?