IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
まだ説明していなかった渚に対してのガタックゼクターに付いての『嘘八百』の説明。亨夜の意思としては、やはり、『罪悪感の方がダメージは大きい』と言う所だろう。…スサノオのボディーブローを受け止めた手の痛み以上に。
流石にワームの事を何も説明せずにライダーシステムに付いて説明するのには、七海と綾香に説明した『レスキュー用の強化スーツ』と言う内容以外には思いつかないと言うのが現状である。
(…全力でゴメンナサイ…。)
内心、必死に謝りながら時折七海から送られてくる尊敬の眼差しによる精神的ダメージは特にダメージが大きいのだ。はっきり言って、可能ならば今すぐにでも、この場で土下座してでも謝りたい気分なのだ。
(…ワームの情報は少しでも伏せておいた方がいいからな…。)
ワームの情報…特にその擬態能力の情報を下手に知られてしまうと、周囲の人間…友人や知人だけでなく、親兄弟までもが何一つ信用できなくなるのだから。
(…はぁ…どこまで、この事を黙っていられるかな…?)
だから、七海達にも全ての情報を話す事は出来ないのだ。
幸いにも、渚への説明は一時間程度で済んでくれたのだったが…
「さて、気を取りなおして、そろそろ出発しよう。」
そう、スサノオの言葉も気になるが、亨夜は今自分達が行動すべき事は森からの脱出と割り切る。そうして、声をあげた時、
「どちらに進めばいいの?」
そう言って尋ねてくる綾香の言葉に亨夜は少しだけ考え込む。
「本来なら、南の方に行けば森を抜けられるはずなんだけどな……。」
「南………というと……。」
「多分、あっちね!」
迷っている上に目印が木だけしかなく、木々も高く太陽の位置も確認しずらく方角も分かり難い。どちらが南かと考えていると、自身満万な様子で言う渚が指差す方をみる。
「……それじゃあ、あっちに向かって、道なりになるべく真っ直ぐ進もう!」
「はいっ!」
「出発進行!」
「今度こそ、脱出よ!」
こうして森からの脱出の為に出発する事になるのだった。亨夜が内心、真っ直ぐ進んでいれば、そう簡単に、道に迷う事も無いし、引き返すのも楽だろうと考えているのは彼だけの秘密である
だが、渚への説明の後、数時間…未だに森の中をさ迷い続けている
「…ここにも化け物だらけか?」(…さっきのスサノオといい、学校やここにいる化け物達…ホント、どうなっている?)
キノコの化け物を倒した木刀を振るい、木刀の汚れを落す。それでも、今までの化け物達との戦いでその血によって汚れた木刀はかなり汚れている。
ガタックに変身すれば楽なのだが、ライダーシステムの都合上、今の状況で下手に変身すると…兵器としか言い様の無いマスクドフォームの全貌を見せる事となる。
レスキュー用の強化服と偽っている以上は、あまり見せたくないのだ。それに…迂闊にガタックのフルスペックで戦うと…派手過ぎる森林破壊に繋がってしまう。……主にマスクドフォームとキャスト・オフ時に飛び散る装甲とかによって。
「も、もう矢が残り僅かです……。」
蓑虫の化け物を射ち、七海がそんな声を洩らす。消耗品である矢を武器にしている七海の場合、必中で射ったとしても使える数は限られるのだから無理も無い。特に現在は学園から連戦なのだから。
「う~…もう、疲れた~!」
フェンシング用の剣で芋虫の化け物を倒した渚がそんな声を上げる。
「うーん。…どうしちゃったのかしらね?」
火炎スプレーは森の中では火災が起きたら危険なので、勾玉による援護に徹してもらっている綾香もそんな言葉を洩らす。
倒しても、倒しても襲いかかってくる敵と、何時までも出られる様子も無い森に、三人ともすっかり弱気になっていた。唯一の例外とすれば、未だに疲労の色を見せていない亨夜だけだろう。
「…七海ちゃん、暫く戦闘はオレと渚に任せて、綾香さんと一緒に勾玉での援護に回ってくれ、武器が完全に無くなるのは危険だ。それと、渚…ペース配分を間違えるなよ、体力を温存しながら、戦うんだ。」
「はい、……分かりました。」
「そんな事、アンタに言われなくても、分かってるわよ!」
素直に返事をする七海と、息切れ一つしていない亨夜に注意されたのが、嫌なのか、そんな返事を返してくる渚。
「だったらいいさ。それじゃあ、渚はオレと一緒に前衛、綾香さんは七海ちゃんと一緒に勾玉で援護を。」
「分かったわ。」
「オッケー。」
七海達に指示を出すと亨夜は周囲の景色を一瞥する。芋虫や蓑虫の化け物は兎も角、動く茸等、森の生態系が大きく変化しすぎている。
(…やれやれ…これが非常時じゃなかったら、懐かしさに浸っていれたんだろうけどな。)
元々この森は七海や渚、美由紀と一緒に遊んだ記憶の有る場所…思い起こして見れば、幾らでも思い出は出てくる。そんな時、
「ん?」
妙な気配がして横に視線を向けて見ると……木が動いていた。幹に顔が浮かび上がっているが、動き回っている事を除けば何処からどう見ても、立派な木で有った。
「はぁ!」
驚きを隠しながら、先手必勝とばかりに、
この森の中で戦った敵の中ではかなり打たれ強かった様で、亨夜の放った衝撃波を受けて、僅かに後退するが、まだ木の化け物は健在である。
「渚、行くぞ!」
「もう! うっとうしいわね!」
亨夜と渚の連続攻撃を叩き込まれ、
「亨夜ちゃん、渚ちゃん、どいて!」
最後に綾香の投げた勾玉によって炎に包まれて、焼かれる事でやっと倒す事が出来た。
「ったく、ホント、どうなってるのよ?」
「…激しく同感だな。…急ごう、長居していたら、力尽きるのはこっちだ。」
渚の言葉に同意しつつ、急いでその場を後にして行く。だが、この森の持つ異常さは怪物となった動植物の存在だけではなかった。
「……あれっ?」
最初にそれに気が付いたのは七海だった。何かに気が付いた七海が立ち止まって、そう呟いた。
「どうかしたの、七海ちゃん?」
「いえ、その……気のせいかもしれませんけど。」
「…?」
「ここ、さっきも通ったような気がするんです。」
七海に言われて一同は周囲の景色を見まわして見る。
「……言われて見れば、確かにそんな気がするけど……。でも、オレ達はずっと南に向かって歩いていたはずだよ?」
「森の中なんて、そんなに特徴も無いしね……たまたま良く似た所を通ったから錯覚したんじゃない?」
「……うーん、そうでしょうか?」
「……。よし、じゃあ、何か目印をつけていこう。」
渚の言葉を聞いても、まだ不安そうにしている七海を見て安心させる方法は無いかと考えると…自分の隣を飛んでいるガタックゼクターを見て、目印を付ける事を提案する。
「目印?」
「うん。そうだな……そこの幹に×印でも彫って行こう。」
そう言って亨夜は幹の一部に木刀を押し当てる。
「あーっ、それって良くないのよ? ハイキングのマナー違反よ?」
「……それは分かるけど、今は非常事態と言う事で。」
綾香に対して、そう言って亨夜は近くの木の幹に小さく×印を彫り付ける。
「自然破壊なのよー?」
「…まあ、小さい傷だから…。癒えるのに何年掛かるか分からないけどね。」
苦笑を浮かべながら、綾香にそう言うと亨夜は×印を彫った木に対して詫びる様に手を合わせる。
「これでよし、それじゃあ、出発だ。」
そして、それから数分後…
「あっ。」
「…本当に…戻ってきたみたいだな。」
最初に七海が、次に亨夜がそれに気がついた。
「先輩、あの木!」
「…ああ…まさかとは思ってたけど…。」
七海と亨夜の視線の先に有る木には確かに亨夜がつけた×印が刻まれていた。
「…一回りして、戻ってきたと言うわけか?」
「………。」
「な、なんで!?」
「何時の間にか、方向がずれてたのかしら……?」
人間の方向感覚では真っ直ぐ歩いているつもりでも、目標物が無いと無意識に曲がってしまう物と言うが…。
「まるで、樹海ですね……。」
「…確かに…。」
七海の言葉に思わず同意してしまう。
「うーん、でも、困ったわねえ……。」
「………。」
「ううっ……、やっぱり出られないの……? ……おうちに…帰りたいよぉ……。」
不安げな表情を浮かべる七海と、俯いて今にも泣き出しそうな様子の渚。渚に至っては亨夜達以上にさ迷っていたのだから、余程堪えているのだろう。何時もの彼女からは想像できない弱気な姿に、彼女を励まそうと亨夜は優しい言葉をかける。
「渚、元気出せ、オレ達も居るんだ、なんとかなる。…最悪は一直線に木を薙ぎ倒すだけだし。」
「って、それはダメでしょう、亨夜!!!」
先程も言っていた亨夜の考える非常手段に思わずツッコミを入れる渚だった。
「その意気だ。」
「そうよ。それに、大丈夫、何かいい方法をみんなで考えましょう!」
「そうですよ、頑張りましょう、渚先輩!」
励ます亨夜達に渚も少し無理をした笑顔で返す。
「うん……わかった。負けてられないわよね!」
(…元気になって良かったけど、これと言って打開策は無い。)
「そうだ、思い出したわ!」
元気になった渚に安心しながら、何か良い方法は無いかと亨夜が考えていると、綾香がポンっと手を叩いて嬉しそうにそう叫んだ。
「あのね、木の幹に苔が生えてるでしょう?」
そう、綾香の言葉で『苔の生えている方が南』と言う目印を手に入れた事で、方向を見失わずに済む事となったのだ。
そうして進んでいる内に、今まで通った事の無い道に出て…初めて行き着いた広場の様な場所に辿り着くのだった。
「…ここは…まだ来た事の無い場所ですね?」
「はぁ、本当にどうすればここから抜けられるんだ?」
それでも、出口は無く思わず溜息を付いてしまう。……本当に冗談のつもりで考えた非常手段を実行するべきかと言う考えさえも浮かんできてしまうのだ。………その時だった。
「っ!?」
腕を真上へと振り上げ、ガタックゼクターをその手に掴む。
「ど、どうしたの、亨夜ちゃん? そんな怖い顔して……?」
何かが動く気配…不自然な風の動き…亨夜はそれを感じ取る。
「空気が……騒いでる……!」
「亨夜! 上!」
空気のざわめきに気付いた七海がそんな声を零し、何かに気が付いた渚の声に振り向くと、周囲の木の中でも一際大きな木が、動物のように低い唸り声を上げていた。
その幹には本物の人の顔のような物が浮かび上がる。……否……それは本当に顔なのだろう。同じ木でも、先程の存在とはけた違い…そう、学校で戦った大蜘蛛と巨大女郎蜘蛛ほどにも差が有る。
「…みんな…行くぞ!!! 変身!」
《HEN-SHIN》
そう叫ぶと同時に、亨夜は素早く、ガタックゼクターをベルトへと指し込み、仮面ライダーガタック・マスクドフォームへと変身する。直感的に判断したのだ…目の前の相手が油断なら無い相手だと言う事を。
「うそ!? ホントに変身した!?」
「あれ? でも、学校で見たときと違いませんか?」
「ホント、別物みたいよね。」
「あー…普通に変身すると、こっちの姿が優先されるからな。そんな事は、後で説明する。今は目の前の相手に集中してくれ。」
そんな会話を交わし一同は臨戦体制に入る。軽い様子の会話…まだガタックの力を知らない渚は兎も角、女郎蜘蛛と戦う姿を見ていた七海と綾香の二人には彼の存在には、心強さがあるだろう。
「邪魔だ、どけ!!!」
パワー主体のマスクドフォームの腕力では木刀を使って戦ったら、確実に折れてしまうと判断し、いつも通り…とは言っても、素手での格闘戦に切換えて戦っているが、大木の怪物は、今まで森の中で戦った化け物達を呼び出している為にそれらに阻まれて、中々ダメージを与えられない。
「このォ!!!」
「たーっ!」
「えい!」
渚の飛び込み突きや、七海の矢、そして、綾香の投げる勾玉で少しずつ傷付けてはいるが、それでも致命傷には至っていない。
学校で戦った巨大女郎蜘蛛の時の様に大技で一気に決着を付けれればとも思うが、次々と呼び出されている怪物達の大半をマスクドフォームのガタックが相手に戦っているのだから、それも簡単ではない。
「ったく、何時まで手間取らせるのよ!」
「最後(ラスト)!!!」
叫び声と共に放たれた渚の突きと、ガタックの拳が木の化け物を粉砕した事で、雑魚は片付いた。
「渚、七海ちゃん、綾香さん、伏せて!」
それをチャンスと考えてガタックは七海達に向かってそう叫び、ガタックゼクターのゼクターホーンに触れる。それと同時に全身の装甲が僅かに浮かび上がる。
「え、な、なに?」
「なによ、急に!?」
「いいから、早く!」
「は、はい!」
三人が伏せた事を確認すると同時に一気にゼクターホーンを反対側へと移動させる。
「キャスト・オフ!」
《CHAST OFF》
猛スピードで吹き飛んだガタックの装甲の一部が叩きつけられるが、目の前の大木の化け物はまだ戦える様だ。だが…
《Change StagBeetle》
頭部のゼクターホーンが定位置へと移動し、クワガタをイメージさせる蒼いライダー《戦いの神》『仮面ライダーガタック・ライダーフォーム』が誕生したのだった。
「きょ、亨夜…よね?」
「何時見ても凄いわね…。」
「はい。」
彼の変身を見てそんな感想を零す三人だった。
「いや、そんな事より、あいつを倒さないと。」
そう言って、肩のガタックダブルカリバーを手に取り、大木の化け物を一瞥すると、大木の化け物は今まで以上の咆哮を上げた。
その瞬間、周囲の森から大きなざわめきが聞こえてくる。
「せ、先輩…。」
七海が震える声でガタックへと声を掛ける。
「嘘でしょう?」
周囲を見まわして、渚が絶望的な声を上げる。
「集まってきちゃったの?」
「…っ!? 確かに…これは拙い。」
周囲を取り囲んでいるのは、親玉の声に答える様に呼び出された、森の中で戦った化け物達の大群だった。ガタックの強化された視覚は七海達以上にその危険性を知らせている。
流石に雑魚とは言え、数で襲ってこられて不利なのは四人しか居ない亨夜達だろう。クロックアップが使えれば、そんな心配も無いのだろうが…それは今は使えないと考えるべきだろう。
(どうする?)
下手に動いて孤立したら、拙いと考えると、迂闊には動けない。周囲を囲む化け物達はゆっくりと包囲している輪を狭くしている。
…そんな時だった。周囲を取り囲む怪物達が次々と爆発して行く。否、周囲を飛び交うゼクターよりも小さい『何か』がぶつかる度に爆発を起しているのだ。
「あれは…ゼクトマイザーの…マイザーボマー?」
《Rider Slash》
そして、次に聞こえてきた電子音が響くと共に切り込んで来た紫の影が、次々と化け物達を切り裂いていく。
流れる様な剣捌きで次々と化け物達を切り裂いて
「おお、我が友、アラーヤ!」
そして、サソードはガタックの姿を見て嬉しそうに声を掛けた。その言葉で…ガタックは確信を持つ、目の前のサソードは間違い無く『奴』だ。
「か・・神代?」
「えーと、この蠍男さんって、亨夜ちゃんのお友達なの?」
「綾香さん…蠍男って…そんな言い方は…。」
「亨夜…随分、変わった友達持ってるのね。」
「………渚、変わっているって所も、友達って所も否定できないけど………中身はちゃんとした人間だ。」
「先輩、もう一人誰か来ます!」
七海の言葉に別の方向へと視線を向けると、何かがマイザーボマーの飛び交う中をかけぬけながら、次々と化け物達を切り裂きながら、此方へと近づいて来る。
「…カブト…まさか…龍牙か!?」
「違うな…オレは。」
サソードとガタックと並ぶ様に立つカブトは、空…否、天を指差す。
「オレは天の道を行く龍…天道龍牙だ。」
「え、えーと…先輩…変わった人ですね…。お友達ですか?」
「…七海ちゃん…。神代は兎も角、そいつだけは断じて違うから。」
そんなカブトに対して苦笑を浮かべながらそう言う七海の言葉の『友達』と言う部分を全力で否定する亨夜であった。