IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
「……ふう」
幸いにもガタックゼクターと龍牙の助けで一食抜きになる所を救われた亨夜は息を吐く。結果的に
「亨夜ぁー!」
そんな時、こんな時だけは聞きたくないと思っている聞きなれた声を聞き、思わず机に突っ伏してしまう。
「……? どうしたの? 元気ないわね?」
「……ほっといてくれ……」
「さては、昼ごはん抜きだったわね!」
「……この際、そう言う事にしておいてくれ」
机に突っ伏しながら、そうとだけ答える。普通なら素直に感謝しているところだが、相手は彼にとって『天敵』とも言っていいほどの相手で有る龍牙なのだ。そんな相手に救われた彼の心情としてはかなり複雑なのだろう。
「? もし欲しいんだったら、これあげるけど?」
そんな様子の亨夜へと渚は一個のケーキを差し出した。机から顔を上げ、亨夜はそれを視界の中に納める。
「……どうしたんだ、それ?」
「今日の調理実習の残りよ」
「貰っても、いいのか?」
「いいわよ」
「そうか、なら」
別に空腹と言う訳ではないが、そんなやり取りの末にそう答え、渚から貰ったケーキを口の中に含む。そして、その瞬間、亨夜の視界は青くなった。
脳裏に浮かび上がるのは……渋谷隕石の落下の瞬間。瓦礫に閉じ込められた自分を助けてくれたガタックと似ていながらガタックとは違う『青いライダー』の姿……そして、消えていく彼と差し出されたベルト……。
どうでもいいが……それを人は『臨死体験』と呼ぶのではないだろうか?
「…………」
過去の記憶の中から現世へと復帰した亨夜は無言のままケーキを返す。
「どうしたのよ?」
「悪い、残念だが、これは人の食べる物じゃない」(何故だろう悲しすぎるけど……あの焼きそばパンの後だと余計にそう感じる……(泣))
「なんですってえ!?」
渚はそう怒鳴っているが、『スポンジは硬く、パサパサしている上に粘々とした食間を持ち、クリームが妙に塩辛く、そして……何故か苦味と辛味と酸味が有る』様な代物だったのだ。はっきり言って口が食べる事を拒否してしまっているのだ。
「ムカつくムカつくムカつくーーーーーっ!」
そう叫びながら、渚は剣を振り回して襲い掛かる。
「いや、確かに今のはオレが悪かったけどな、貰っといて! ……だけど渚、お前ちょっと落ち着けぇ!」
「ムカつくムカつくムカつくーーーーーっ!」
必死に宥めようとするが、亨夜も木刀を取り出して防御に回る。内心『今度、ガタック用の新装備に長剣か刀型の武器を要請してみようかな?』等と考えつつ……。
《Rider Cutting》
「ライダーカッティング!」
ガタックダブルカリバーを交差させ、目の前の成虫のワームを挟み、自分の真上へと持ち上げ、そのまま爆散させる。
「……ここは……?」
今度はガタックの姿で夢で見たあの泉の近くにいた先ほどまでワームと戦っていた事から考えると、先日の夢の続き。それも親切な事に、リクエスト通りにワームとの戦闘訓練も用意してくれていたのだ。
「……救世主よ……我らを救いたまえ……」
今朝の夢の中で聞こえた女性の声が再び聞こえる。
(……救世主……? そんな物はオレじゃなくて、龍牙の専門だろうに)
その言葉に呆れた様子で亨夜はそんな事を考える。
「ん?」
その女性が亨夜の方を向く。年齢は自分とそれほど離れていないだろう、外見はかなりの美人だ。
「あなたは…………救世主様?」
「はぁ? オレが……か?」
突然の自分には最も似合わない言葉に呆けていると、その女の子は亨夜に近づいて行く。
「ちょっと待て! オレが救世主って、どういう意味だ?」
自分に近付いてくる少女に対してそう叫んだ瞬間、
「――きゃあああああああっ!?」
「え゛?」
亨夜は柔らかい物が顔の側にあるのを感じた。……今の彼を見たら龍牙を初めとする知人達はこう評してくれるだろう……『ラッキースケベ』と。
なお、作者である私の意見として、シンはガンダムSEEDシリーズの中で好きなキャラである。どうでもいいが。
「こ……このぉ! 変態ぃ!!」
次の瞬間、行き成り亨夜の顎に渚のアッパーが突き刺さった。
「ぐぁ!」
仰け反りながら体制を保ちつつ、亨夜はアッパーを叩き込んでくれた渚を睨む。
「何するんだ、お前は!?」
「それはこっちの台詞よ!」
周囲を見回してみると生徒がまばらだった。そのまま時計を確認してみると時計は放課後の時間帯を示していた。
そんな感じで渚から視線を外していると、不意に亨夜は今まで渚の居る方向から殺気を感じる。
「人がせっかく起こしてあげようとしたら抱きつくなんて……。……死を持って償いなさい!」
「お、おい……ちょっと待て……」
落ち着いて状況を考えてみると、五時間目までは起きていた記憶が有るが、その先の記憶は無い。推測すると満腹感からつい眠ってしまったのだろう。そして、放課後まで放って置かれたと言う訳である。
そして、本人曰く『起こそうとした』と言っている渚に寝ぼけて抱きついてしまったと言う訳である。はっきり言ってマヌケな話だ。
「……ああ、もうこんな時間だ、急がなきゃバイトに遅れる。じゃな、渚」
「逃ぃげるなぁーーー!」
状況を理解し、即座に棒読みな台詞と共に彼女の罵声を背中に受けつつ逃走する。
「オレは何処のシン=アスカだぁー!!!」
意味不明な事を叫びながら逃げ出していく。もっとも、本人はZECTの
「本編のカッコイイオレを返せー!!!」
ああ、無常……亨夜の叫び声は人々の声の中にかき消されていくのだった。
「ふざけるなぁ、作者ぁ!!!」
「ん? 今のは亨夜の奴か? ……今のは絶対に違うな、あの『オレの近づくな』と言ってるような奴があんな行動を取る訳無いな。」
沢山の食材の入ったビニール袋を抱えて、いかにも買い物帰りと言う様子の龍牙は、渚に追い掛けられて逃げている『(龍牙に取っての)普段とは違いすぎる』亨夜を眺めながら別人か見間違いと判断して、そう呟くのだった。
「……夕美達も待たせてる事だし、帰るか……」
さて、ここであの亨夜の姿を見た龍牙がどんなリアクションを見せてくれるのかは、作者としては非常に興味有る所だが、残念ながらここでの会合は先送りとなったのだった。
「はぁ……。まったく、今日はどうなっているんだ? 今朝から同じ様な内容の意味不明な夢ばかり見て……」
後を確認して安全を確認すると額に流れる汗を拭いつつ、溜息を付きそう呟く。何度も眠ってしまっているのは単純に謹慎(と言う名目の休暇)の為に今まで疲れが一度に襲ってきているだけと考えられる。
だが、必ず同じ夢ばかり見るという状況は説明できない。自分を襲う普段の致死レベルの異常とは違う、緩やかな異常と言う状況に困惑してしまっているのだ。
「っ!?」
首筋に何かが当たる感覚に思わず反応してしまう。そっと首筋に手を触れてみると、そこには一匹の蜘蛛がいた。
「蜘蛛、か……?」
大きな黄色と黒の虎縞の模様を持った蜘蛛……模様から見て『女郎蜘蛛』と言う種類だろうか? そこまでは判断できなかったが、服に引っかかった蜘蛛を掌の上に乗せる。
「……虫もこれくらい小さいなら可愛い物だよな。……まあ、大きいだけで人型と妙な能力持ってなきゃ、大きくても可愛いんだろうがな」
掌に乗せていた蜘蛛を少しだけ眺めた後、潰さない様に気を付けながら、地面に置く。
「……『朝の蜘蛛は親の仇に似ていても逃がせ』と言うからな。ほら、行け。誰かに踏み潰されるんじゃないぞ」
そう言うと亨夜は振りかえって帰り道へと戻る。渚に追い掛けられてすっかり帰り道を外れてしまっていたのだ。
(……虫とは言え、人類を害する
『ワームなら無差別で殺すのか?』と問われれば、迷わず即答で『Yes』と答えそうな事を考えつつ、亨夜は逃がした蜘蛛を気にする事無く、帰っていく。
亨夜曰く『昼でも夜でも関係無く、ワームは親兄弟だろうが見つけたら速殺せ、皆殺せ』なのだ。
「……しかし……」
そう呟いた瞬間、亨夜の表情が変わる。今までの亨夜ではなく、『復讐者』としての亨夜の浮かべている表情へと。
「……蜘蛛を助けた後に害虫駆除と言うのも、気が引けるが……まあいい。始末させてもらう」
そう言いきった後、鞄の中からベルトを取りだし、腰に巻きつけると、亨夜は真上へと右手を振り上げた瞬間、緑色の体色を持った数体のサナギ体のワームが彼を囲む様に現れる。
「こっちは謹慎中だと言うのに嫌な奴等だ。来い、ガタックゼクター!」
亨夜が叫んだ瞬間、彼を囲むワームを弾き飛ばしながら、彼の手の中に蒼いクワガタの姿をした機械、ガタックゼクターが収まる。
「変身!」
《HEN-SHIN》
己の手の中に納まったガタックゼクターをベルトのバックル部分へと差し込む。それと同じに響くのはガタックゼクターからの電子音。
それが響くと同じに彼の身体の周りに両肩の砲塔を持った蒼い重厚な鎧が現れ、『仮面ライダーガタック・マスクドフォーム』へと変身する。
「ちっ、流石に拙いか」
自身に装備された大口径火器『ガタックバルカン』を使おうと思ったが、直に思い留まる。普段とは違い、ZECTの隠蔽作業や人払いが期待できない以上、派手な戦い方は避けた方がいいと判断する。
一瞬の判断だったが、その思考の分だけ隙が出来る。その隙をついてガタックを囲むサナギワーム達が襲い掛かってくる。
「くっ、こいつら」
横薙ぎに振るわれた爪を後に動いて避け、右から襲い掛かって来たワームにパンチを打ち込み、後退させる。次に襲い掛かって来たワームは相手の攻撃が振り下ろされる前に回し蹴りをたたき込む。
「流石に少し不利だな、仕方ない」
パワーこそ優れている物の主要武器のガタックバルカンが使えない以上はマスクドフォームでは不利と判断し、ワーム達の攻撃を避けながら、ガタックゼクターの『ゼクターホーン』に触れ、両脇に畳み込み、全身の装甲が浮かび上がり青いスパークが駆け巡る。
「キャストオフ!」
《CHAST OFF》
ガタックの全身を包んでいたマスクドフォームの装甲が一斉に飛散し、それに巻き込まれたワーム数体が爆散し、それによって大半を倒す事が出来、事実上囲みは突破する事が出来た。
そして、頭部左右に倒れていた『ガタックホーン』が起立し、側頭部の定位置に収まり、電子音が響き渡る。
《Change StagBeetle》
両肩にマスクドフォーム時の火器とは違う二本の接近戦用の曲刀に似た武器を装備した細身の戦士。それこそが、《仮面ライダーガタック・ライダーフォーム》である。
「さて、行くぞ」
右肩のガタックダブルカリバーを左手で、左肩のガタックダブルカリバーを右手に持つと逆手に構えてワームの群れの中に切り込んでいく。
「はぁ!」
先頭に迫る二体のワームを同じに切りつけると、その場で回転する様にガタックダブルカリバーを振るい、続いて襲い掛かって来た三体目と四体目のワームを巻き込んで切り裂いていく。
ガタックの剣舞が終わると同時にガタックは囲みから抜け出し、ワーム達が倒れ、そのまま爆散していく。
(あと一体)
そう考えて後方に控えていた一体に視線を向けると、そのワームの体が内部から僅かに発行し、殻を破る様に新たな姿を表す。
蜘蛛を思わせるような顔に蜘蛛の脚を肩から生やし、両腕に盾のような物をつけた成虫のワーム『アラクネアワーム』がその姿をあらわし、呻き声をあげた。
そして、アラクネアワームは力を貯めるような体制に入る。それを確認すると同時にガタックはベルトの左側にあるスタータースイッチを押す。
「クロックアップ!」
《Cloock up》
電子音が響くと同時にガタックとアラクネアワームの姿が消える。加速状態(クロックアップ)に入ったワームとライダーは激突を開始する。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!」
ガタックダブルカリバーからの斬撃から肘打ちへと、流れる様な連続攻撃をたたき込む。
そして、左右のガタックダブルカリバーを一つに合わせた斬撃を見舞い、真上に振り上げたガタックダブルカリバーで両肩の蜘蛛の脚を切り裂く。そして、アラクネアワームの顎を真上に蹴り上げる。
《One Two Three》
ガタックゼクターのスイッチを三回連続で押し、ゼクターホーンに振れる。
「ライダーキック!」
ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。
《Rider Kick》
電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏い、そのエネルギーは右足へと集る。そして、
「はぁ!!!」
そのエネルギーを纏った上段廻し蹴りがアラクネアワームたたき込まれ、その体が吹き飛ぶ。
《Clock Over》
電子音と同時に加速状態が終了し、アラクネアワームが爆散する。
「ふぅ」
戦いの終了が確認されたと同時にガタックゼクターがベルトから外れ、ガタックの蒼い装甲が散っていく。
「終わったな。爺ちゃんや美由紀が心配するといけないし、早く帰るか」
復讐者の口調から普段の口調へと戻ると亨夜は鞄を拾い上げ、その場から立ち去っていく。
「ただいま」
幸い帰り道は渚だけでなく、龍牙を始めとする知人達に一人も出会う事無く家に帰りついた。『何時もなら、何故かワームとの戦闘の前後には嫌でも龍牙と出会ってしまう』と考えつつ。
「お帰り、お兄ちゃん!」
亨夜が家に帰ると美由紀が『ニコニコ』と笑いながら、出迎えてくれた。
「ああ、ただいま。足は大丈夫か?」
「うん! お兄ちゃん、お腹空いてるでしょ?」
実際、ガタックゼクターのお蔭で一食抜きは免れたのだが、渚との追い掛けられた事と予想外のワームとの戦闘のお蔭で空腹である事には間違い無い。
「ああ、まあな。ん? 良い匂い」
「へへえ~。そうだろうと思って夕飯は早めにしたんだよ♪」
「おお♪」
亨夜は舞い込んできた思わぬ幸運に心から嬉しそうな声をあげる。
「ふぁ……」
夕食を食べ終え、風呂に浸かり一日の疲れを癒すと眠気が襲ってくる。
「……そう言えば……七海ちゃんの言ってた月食は今夜だったな」
『月』……『太陽』と言うイメージがあるカブトに対するとガタックは『月』と言う言葉が良く似合うだろう。そのたとえで言ってしまえば、真紅の太陽がカブトだとすれば、蒼月はガタックなのだ。
そう考えて眠気を払うと、皆既月食の時間まで時間を潰そうと雑誌を取り出して広げる。