IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第ニ楽章 -5-

数時間後

亨夜達はアマテラスによって神殿の中に通され、もてなしを受けていた。

木製のテーブルの上に並べられた木製の皿の上いっぱいに乗せられたぶどう、いちじく、びわの実等の果物が彼等の前に並べられた。

「た、食べちゃっていいんですか!?」

「どうぞ、お好きなだけ召し上がって下さい。先ほどは大変失礼しました。」

目の前に並べられている食事に目を輝かせながら、問いかける渚の言葉にアマテラスは笑顔でそう答える。

「いっただきまーっす! はぁ、二日ぶりにまともな食事にありつけるわ!」

アマテラスの言葉を聞いて真っ先に渚が果物を食べ始める。

「…気持ちはわからない事もないけど、落ち着いて食べないと喉に詰まるぞ。」

「これが落ち着いていられますか!」

「直に魚や鳥も運ばせますので、どうぞご遠慮なく……。」

鳥や魚と聞いて亨夜のお腹もなる。亨夜達も一晩も何も食べていないだから、無理も無いだろう。離しを聞く限り状況的に一番空腹じゃないのは…。

(…この二人だけか…。)

横目で龍牙と剣の方へと視線を向ける。話を聞く限り、戦闘後とは言え、自分達が大木のバケモノと戦っている時に飛ばされたのだから、一晩も過ごしていないはず。

「いただきます。」

静かに手を合わせてそう言って用意された果物を口に運ぶ。

「わ、私も……いただきます。」

「それじゃあ私も……。」

七海と綾香が亨夜と渚の二人に続く。食欲には勝てない。亨夜達は昨日食べれなかった分も取り返すくらいの勢いでテーブルの上の御馳走を次々と平らげて行く。

「じゃあ、オレも頂くとするか。いただきます。」

「オレも頂こう。」

亨夜達に続いてゆっくりと龍牙と剣の二人もテーブルの上の御馳走に手をつける。亨夜達ほど空腹ではないのだが、二人も練戦の疲労で完全に空腹なのだ。

「……そんなにお腹が空いてらっしゃったんですか?」

「ああ。流石に、一晩も何も食べてないからな…。」

「いっぱい歩きましたし……。」

「もうお腹ペコペコだったんですよ。」

「改めて思うが…随分と大変だったんだな;」

アマテラスの問いかけに答える亨夜達…そんな亨夜達の言葉に改めて自分達よりも早くこの世界に飛ばされた物だと確信する龍牙だった。

「喜んでもらえて嬉しいです……。ところで、よろしければ、貴方達のお話を聞かせていただけますか?」

「あ、はい…。」

食事を食べながら、亨夜達は自己紹介をした。…もっとも、流石に二度目、三度目ともなると、龍牙と剣の二人が自己紹介する前に二人の言葉を制して亨夜が勝手に自己紹介してしまったが。

「わかりました……亨夜様に、龍牙様、剣様、七海様、渚様、綾香様ですね。」

「…………いや、悪いけど、様は止めてもらえないか…呼び捨てで良い。」

流石に『様』と呼ばれるのにはなれない亨夜としてはそう言うしかなかった。だが、アマテラスは、

「めっそうもない! 救世主様を呼び捨てにするなんて……。」

そう反論した。

「……だったら、せめて、さん付けにしてくれ…。」

「……では、亨夜さん……、ですか?」

「ああ。」

せめてもの妥協点を上げてそれを受け入れてくれた事で軽く安堵の息を吐いた。

「分かりました。亨夜さんがそう言われるのでしたら……。」

「ああ、そうして欲しい。それで…。」

焼き魚の頭を齧りながら、亨夜は言葉を続ける。出るのはここに来て一番の疑問…そして、自分には最も似合わない言葉、

「…救世主ってなんのことなんだ? よく分からないんだけど。」

そう、散々もてなされた後で聞き返すのも卑怯な気がするが、分からない以上は仕方が無い。

「亨夜さんの事ですよ……。そして、みなさんの事ですが……。」

「…オレ達が…?」

「…救世主…?」(…偶然巻き込まれたと考えられるオレと神代は兎も角、亨夜達の事である可能性は高いな。)

驚きこそ表情には浮かべていないが、驚いている亨夜と、聞き返しながらも冷静に考えを続けていく龍牙。

「はい、アシハラノクニより神に使わされた、私達の救世主です。」

「…『アシハラノクニ』…日本神話か…。」(…確か、アマテラスも日本神話に出てくる神様の名前だったはず…。)

龍牙が小声でそう呟く。

アマテラスはゆっくりとこの世界の事を語り始める。

「貴方方の暮らす『アシハラノクニ』と、私達の暮らす『ネノクニ』。二つの世界は、それぞれ『イザナギ』と『イザナミ』と言う神によって守られています。」

(異世界だって!? そんな物が本当に存在していたのか!? 有り得ない…でも、現に目の前には…。それに…イザナギにイザナミって…確か…。)

(ああ、日本神話の最初の神様のはず。)

アマテラスの言葉を聞き小声でそんな会話を交わす亨夜と龍牙の二人。

「アシハラノクニで命を失った者はネノクニへ行き、ネノクニに滅した魂はアシハラノクニに輪廻転生いたします。つまり、この二つの世界を繋ぐ命の流れが、生きとし生けるもの全てが従うべき生と死の理そのものなのです。」

(…生と死のか…だったら、ここ何年は人口比が大きく変化して大変だろうな。)

妙に場違いな感想を浮かべてしまう龍牙だった。…確かに渋谷隕石とその前後のワームの出現によって失われた命がかなり存在する。それだけの魂がこの死後の世界に来たとしたら、死者の数が度を超えて多くなっていたであろう事は間違い無い。

(…地球外生命体が死んだらここに来るのか?)

そして、最後にどうでもいい疑問を浮かべてしまう龍牙であった。

「ところが、ネノクニにはその理を曲げようとする者達がいます。『悪霊』と呼ばれるそれらの邪な精霊達は、亡者どもに偽りの命を与え、生けるものを生きたまま死者の世界の虜にし、二つの世界の境界を曖昧にしようとしています。その悪霊達によって、ネノクニの守護神イザナミ様が岩戸に封印され、何百何千もの年が流れてしまいました…。悪霊どもの長、邪悪なるヨモツオオカミの力は増すばかり、既にネノクニの半分は奴等の手に落ちています。」

(…ネノクニ…死者の世界か…。皆既日食の世界が有るんだから、有ったとしても不思議じゃないが…下手をしたら…オレが逃がした奴ら以外にも、オレ達が今まで倒してきたワームもここに居るかもしれない…と言う事か。)

龍牙は声に出さずそんな考えを浮かべている。

「私達は古より伝わる儀式を捧げ、異世界より降り来たると言う救世主様をお待ちしていたのです。」

そして、そこまで言った後、アマテラスは目を閉じて顔を伏せる。

「そうしたら、二日前、あの山のてっぺんに突然不気味な建物が現われて……私達は「悪霊達の仕業と思って警戒していた。そう言う訳か?」…はい。」

彼女の言葉を遮る様に告げられた亨夜の問いかけにそう答えた。

(…不気味な建物って、出雲学園の事か…? まあ、不気味と言うかは別にして何も知らない人間が見て、突然現われたなら、警戒しても当然か。)

そう考えて亨夜達も村人達の行動に納得する。

「なるほど。それで、あんなにピリピリしてたのか。」

「確かに、無理も無いな。」

亨夜と龍牙が納得したと言う意を込めてそう口を開いた。

「でも、それが…救世主様ご降臨の予兆だったのですね。」

笑顔を浮かべながら心から嬉しそうに言いきるアマテラス。本当に嬉しいのだろう、待ち望んでいた相手(と思われる相手)が目の前に居るのだから。

「…つまり、オレ達がその救世主と言うわけか?」

「はい。私の祈りを神様が聞き届けて、亨夜さん達をこの世界に遣わして下さったのです。」

「…………。」

嬉しそうにそう宣言するアマテラスに対して複雑な表情を浮かべながら亨夜は言葉に詰まってしまう。

感動に潤むアマテラスの瞳を向けられて、今更『君の勘違いだ。』とは言える雰囲気ではない。…第一、龍牙は兎も角、自分は『復讐者』…救世主とは最も遠い位置に居る人間だと言う自覚があるのだから。

(…それに、あれだけガツガツ食べてしまった手前な…。これも、渚の奴が旨そうにガツガツ食べるから…。)

横目で腹一杯食べて満足げにふんぞり返って食休みしている渚を睨みつける。

「……でも、そんな事言われたって、私達何も思い当たる節が無いんだけど……。」

そんな亨夜の心情を知ってか知らずか、渚が素直に返事をアマテラスへと返す。

「そんな…。」

「ごめん。悪いけど、オレも心当たりがない。」(…誰よりもな…。)

希望が打ち砕かれ絶望的な表情を浮かべたアマテラスに追い討ちをかける形になってしまったが、亨夜が正直な所を話した。

「……だって、貴方は私の祈りを夢に見てくれたではないですか?」

「い、いや、そんな事言われてもな…。」

すがる様に亨夜へと言葉を告げるアマテラスに対して戸惑いながらも、否定的な答えを返す。

「って言うか、あたしたちは夢なんか見てないし、そう言う事なら亨夜だけで…。」

「確かに…夢で見たなら、亨夜が救世主なんだろうな。ファンタジーRPGみたいに。」

「つ、冷たい事を言うなよ、渚! 大体何で決定事項として扱う、龍牙!?」

何故か一人救世主と言う似合わないものにされそうな亨夜が渚と龍牙の二人の言葉にそう反論する。

「そんなこと言ったって……あたし達関係無いし……。」

「ああ。」

「救世主か、凄いぞ、アラーヤ! よし、友としてオレも力になろう!」

(…なんて奴等だ。…って、神代…お前までオレを救世主にしたいのか…その言葉嬉しいけど。)

「……渚さん達は、亨夜さんの従者の方ではないのですか?」

そんな彼等の会話を聞いていたアマテラスが、きょとんとした表情で訪ねた。

「従者!? なんであたしがこいつの!」

「伝承では、救世主様には四人と一匹の従者がつき従う、ともありますので……。」

アマテラスの言葉に龍牙は自分達のゼクターと人数を数える。

「…亨夜を除いて五人…ゼクター達は三体…一人と二匹多いな…。」

「はい、そこが少し不思議だったのですが…。」

「そう、従者だ従者! だ~か~ら~…お前も無関係じゃないぞ!」

「かってな事言うな!」

アマテラスの不用意な一言に二人の口喧嘩を誘発してしまっていた。

「もう、亨夜先輩も、渚先輩も、喧嘩しないで下さいよ……。」

七海に仲裁されて渋々と言った感じで矛先を収める二人。

「……うーん……。」

綾香はそんな彼等を他所に、一人、何かを悩んでいた。

「「「………。」」」

「……はぁ……。」

困り果てて黙り込んでしまう亨夜達の態度を拒絶と取ったのか、アマテラスは失意の表情をあらわにする。

そんな彼女の表情に罪悪感を感じながらも、自分達が悪いわけではないので反応に困る。そんな苛立ちをぶつける様に、亨夜は

「第一…アシハラノクニとか、ネノクニとか、二つの世界とか言われても訳がわからないだ!」

その時、今まで黙っていた綾香が意外な事を言う。

「……アシハラノクニ、ネノクニ……うーん、どこかで聞いたような……。」

「え!?」

「…思い出した! 豊芦原の国、日本神話に出てくる、生者の暮らす世界の事よ!」

「じゃあ、ネノクニは?」

渚の疑問に答えるのは綾香ではなく、同じ事に気が付いていた龍牙だった。

「根の国。これも日本神話における死者の国のことだ。」

「……日本神話……。」(…そう言えば、スサノオも…バダンの大首領の名前だけじゃなくて、日本神話の神様の名前だったはず…。しかも、オレのガタックゼクターと同じ『戦いの神』。それに…。)

そう考えてアマテラスへと視線を向ける。

(アマテラス…天照大神の名前くらいしっているさ。まったく…死者の国に神様…トコトン、仮面ライダーは日本神話に縁があるようだな!?)

あの地震以来、明らかにワームではない化け物達に次々と襲われるは、森で迷って出られたと思ったら、町は見つからない…しかも、災害の後でワーム一匹姿を見せないのも変だ。

余り信じたくは無いが…こう考えてしまうと全ての辻褄が合う。『神話の世界に迷い込んでしまった。』と。

「じゃあ、その話って全部本当なの? 亨夜ってば、やっぱり救世主!?」

「そんな訳ないだろう!」

「でも、そう言う事なら一連の不思議な現象に全部説明はつきますし……。」

「だからって…。」

「伝承では、救世主様はアシハラノクニより遣わされ、ヨモツオオカミを倒し、この世界に平和を齎すと言うのですが…。」

「…オレにそんな事が出きる訳は…。」

「イザナミ様の血を引く救世主様なら、きっと出きるはずです。」

「…イザナミ様の救世主って…オレがそんな訳…。」

「私には分かるんです! 貴方は普通の人間じゃない! 特別な人なんです!」

「そんな訳は無いだろう!!! オレが…そんな特別な人間なら!!! 守れてたはずだろう!!!」

「亨夜先輩…?」

「亨夜?」

「亨夜ちゃん?」

「亨夜さん?」

心の中より響き渡る一つの慟哭…それが響き渡るだった。

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