IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
最初の目的地である青龍が祭られている社で待ちうける悪霊達の罠、そして、亨夜達に与えられた試練とは?
そして、未だにその存在の見えないワーム達の動きは?
受け止めるべきは悲劇。待ちうけるのは…
仮面ライダーカブト ~赤の英雄、蒼の復讐者~、外伝『蒼き戦士の戦記』…第三章《泣く少女》、ここに開幕。
第三楽章 -1-
「…ここか、青龍が居るって言う洞窟は?」
亨夜達は洞窟の入り口に居た。
「はい。何百年か前に占領されて以来、ここは悪霊どもの巣窟になっています。皆さん、気を付けて下さいね。」
「わかった。」
洞窟に入るとそこは鍾乳洞になっていた。神殿と言う言葉から想像できなかったが、確かに天然の鍾乳洞を神殿として利用していたとすれば納得できる。
「うう…ちょっと不気味です。」
「こういうジメジメした所は苦手なんだけどなあ……。」
「何が出て来たってやっつけてやるわよ!」
「油断するなよ。一応、敵の巣窟なんだからな。」
アマテラスの言葉に以前、矢車や剣、影山と言った面々にゼクトルーパー達を率いて、ワームの巣となっていた廃工場での戦いを思い出す。入り口から影になっている場所…そう言った場所に隠れてワームは自分達を狙っていたのだ。相手の姿が見えないとは言え、油断は出来ない。
暗い鍾乳洞の雰囲気は、背筋が寒くなる気温も有って余計にその不気味さを際立たせていた。
入って直に見えたのは橋のような通路。渡っている最中に悪霊達に襲われたら拙いと考え、亨夜はそれを注意深く渡って行く。
そして、全員が渡りきった所で、異変は起きた。
ゴゴゴゴ……
「ん? 何の音だ?」
「水が………流れる様な……?」
そう、アマテラスの言葉通り、何処からか水が流れる様な音が響いてきたのだ。
「……! 亨夜!」
何かに気が付いたのか、渚が亨夜の名前を呼ぶ。その声に反応し振り向き、彼女が指差した方を見る。
「なに!?」
亨夜達が通って来た通路が、物凄い勢いで湧き出した濁流に飲み込まれ、みるみるうちに沈んで行った。
戻ろうにも、通路は既に八割ほど水没してしまっていて、戻るには飛び込む必要が有るだろう。
「…退路が塞がれたか…。」(…最悪だな…。)
状況は正に最悪とも言えるだろう。退路は失われてしまった以上前に進むしかない。だが、敵の巣窟の中で完全に閉じ込められてしまったと言う事実は彼等に重く圧し掛かる。
「仕方がありません、先に進みましょう。」
「…ああ…。…それしか無いか。」
アマテラスの言葉に亨夜はそう返す。引くと言う選択肢が無い以上前に進む以外に最良の答えは無い。
「罠が有るかもしれません。皆さん、気を付けてくださいね。」
「……は、はい。分かりました。」
「ああ。分かった。」
アマテラスの言葉に七海と亨夜が答えを返す。そして、横目で水没した入り口へと視線を向ける。
(…偶然にしてはタイミングが良すぎるけど…どっちなんだ…。)
退路を断った濁流が敵の罠だと考えればタイミングが遅いとも考えられる。
全員が渡りきる前に濁流を起せば、最悪の場合はそれで何人かは濁流に飲み込まれただろう。誰も飲み込まれなかったとしても、分断する事は可能だ。…少なくとも…閉じ込める場合も、全員が渡りきるよりも先に…最後の一人が渡っている最中に起せば良い。
だが、偶然と言う可能性にしてもこうして閉じ込められている以上は否定できる材料は無い。
「うう、怖いなあ……。」
最後に綾香が僅かに震えた様にそんな声をあげた。だが、罠以上に気を付けなければならない対象として存在しているのは別に有るのだ。
「ちっ、熱烈歓迎か!?」
骸骨や水色の軟体生物の化け物が次々と襲ってきたのだ。しかも、何百年もの間巣窟になっていたからなのだろう、外から入り込んだばかりの学校や、森の中よりも、数が多い。
「てえい!」
「たー!」
「こいつら、どれだけいるのよ!」
(…一体一体がワームより下なのは圧倒的に救いだな。)
生身の亨夜の振るう木刀やアマテラスの槍だけでなく、七海の矢や渚のレイピアでも簡単に倒せる所から考えてワームよりも戦闘力は圧倒的に低いで有る事は理解できる。
その証拠に亨夜がガタックに変身するまでも無いと判断したのだろう、ガタックゼクターも骸骨の怪物を体当たりで粉砕して行く。
「邪魔だ!」
「悪霊……覚悟!!!」
正面から現われた骸骨の化け物を亨夜とアマテラスが倒し、
「てい!」
「たー!」
後方から出てきた骸骨の化け物は、素早くそれに反応した渚と七海が仕留めた。
「ふう。」
ようやく敵が出てくる気配が無くなったので、亨夜は戦闘体制を解いた。元の世界で仮面ライダーガタックとして戦ってきた亨夜と、悪霊達と戦っていたアマテラスと言った実戦経験者の存在は大きいだろう。だが、
(…前は有る程度の戦力は確保できてたし、矢車さんや神代達が居てくれたから、安心して戦えたけどな…。)
敵が弱いとは言え少しはペース配分を考え直す必要が有ると考える。廃工場での戦闘の時とは敵の巣窟と言う共通点は有るが、ザビーやサソード、パンチホッパーと言ったライダー達やゼクトルーパー達が以前とは味方の戦力が違いすぎるのだ。
「はいはい、みんな、怪我はな~い?」
なお、先ほどまでの戦闘に参加していない綾香の役割は主に勾玉での味方の援護である。…有る意味当然の事ながら、火炎スプレーの補給などアマテラスの村では出来なかったのだ。
もっとも、同じ消耗品の中で、七海の矢だけでも補給できただけ事は幸運だったと考えるべきかも知れないが。
襲ってくる敵を返り討ちにしながら、先に進んで行くと僅かに悪霊達が襲ってくる頻度が下がった。
「妙だな…。」
「妙ですね…。」
亨夜とアマテラスの二人の言葉が重なって響く。ここを住処としているならば、奥に行けば行くほど敵は増えていなければ可笑しいだろう。だが、奥に進んでいると言うのに数が僅かとは言え減ってきたのだ。
(何か有るな。)
「………!」
亨夜がそんな事を考えた時、突然アマテラスの顔が険しくなった。そして、彼女は立ち止まり、叫ぶ。
「皆さん、待ってください!」
「っ!?」
アマテラスのその言葉に全員が立ち止まる。
「強い悪霊の気配……何処かに居ます!」
「そう言う事か!?」(雑魚じゃダメだと思って親玉が直々に出てきたか…。)
木刀を構え油断無く構えながら、上空を飛んでいたガタックゼクターも亨夜の近くまで戻る。何時でも変身できる体制を取ったのだ。
「嘘っ!?」
渚もレイピアを構えてそう叫んだ。
「みんな、バラバラだと危険だ、集まれ!」
「はいっ!」
「ひえぇ…。」
その言葉に全員が一箇所に集まる。
「そこに潜んでいるのは分かっています! 出てきなさい!」
「くぅ!」
アマテラスの振るう槍の一突きが何も無い空間を貫いた。空を切ったはずのそれによって呻き声が聞こえる。そして、そこからは…
「……痛いわ……よくもやったわねっ。」
一人の女の子が姿を現した。年齢は亨夜達よりも下と言う感じがする。なにより、彼女の服装には見覚えが有った。
「あれは…出雲学園の…中等部の制服?」
その少女の着ている服は出雲学園の中等部の制服だった。デザインは高等部とほとんど同じで有るが為に、見覚えが有ったのだ。
「姿を現しましたね! 妖しの者よ!」
「……!」
アマテラスが油断無く槍を構えた時、彼女を見た七海の表情が凍りついた。
「……殺す……みんな殺してやる。ジクジクジクジク苛め殺してやるわ……!」
「…やれるものなら、やってみな。」
そんな七海の様子にも気付かずに、こちらへと向けられる明らかな敵意に亨夜は意識を戦闘モードへと切りかえる。
「そ、そんな…。」
呆然とした様子で消え入りそうな声で、彼女がそう呟いたのを聞き逃さなかったのは、意識を切換えていたからだろう。
「…? 七海ちゃん?」
「……あなたは……。」
「暗い……暗い沼の底……一人残らず沼の底……ケケケケ…。」
「あ、あなたは………千夏ちゃん!?」
七海は“彼女”の名前を叫んだ。
(…『千夏』…まさか…。)
七海の口から出てきた名前は亨夜も知っている名前…。
「………。」
己の名前を呼ばれた事で微かに彼女の様子も変わる。
「ち、千夏ちゃん、どうしてこんな所に!? あなたは確か、死んだはず……。」
「………七海、ちゃん………?」
「そうだよ! 千夏ちゃん、私だよ、中学の頃友達だった七海だよ!」
よろよろとした足取りで七海は“千夏”の方へと近づいていく。その様子に戸惑っている渚と綾香、戸惑いながらも警戒している亨夜と、槍を構えたまま警戒していたアマテラス。
「………。」
「千夏ちゃん…。」
「危ない!」
警戒していたアマテラスが七海を突き飛ばす。
「きゃっ!」
僅かに遅れて七海が立っていた場所に“千夏”の体から放たれた鋭い濁流が突き刺さった。彼女がいた場所にあった鍾乳石がいとも簡単に貫かれている。それほどの力を込められている水流だ。
そのまま立っていれば、七海自身も無事では済まなかっただろう。
「そんな………千夏ちゃん。…どうして?」
かつての親友に攻撃され呆然とする七海。
「こいつはヨミノクニより迷い出た亡者、怨霊です。よほど強い恨みの念を抱いて死んだのでしょう……。……すさまじい妖気を感じます。」
「だって、千夏ちゃんは……。」
「来る! 下がって!」
再び七海を“千夏”の放った水流が襲う。
「七海ちゃん!」
アマテラスの警告に反応した亨夜が七海を抱いて跳び、それを避ける。
「死してなお妄執にすがる浅ましき亡者め! このアマテラスの刃を受けよ!」
アマテラスは槍を腰貯めに構え、“千夏”を睨みつける。
「みんな殺してやる! ……死ぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
「いざ!」
“千夏”に向かい槍を振るおうとした瞬間、
「やめて!」
アマテラスの腕に七海がしがみ付いた。
「な、何をするのですか、離して下さい!」
「やめてぇっ、千夏ちゃんをいじめないで!」
「何をバカなっ……、見れば分かるでしょ! あれは危険な亡者なんです。生かしておけば、この後も人を襲う、殺す…。」
「…人を襲う…コロス…?」
アマテラスの言葉に亨夜が微かに反応する。意識がワームと戦う時のように戦闘体制に入っている分…その言葉は目の前の相手とワームを思わず重ねてしまう。
「違うよ、そんな事無い! 亡者なんかじゃない!」
「どいて下さい! 私は神に仕える巫女、悪霊を滅するのが使命なのです!」
アマテラスの言葉に七海はそう反論するが、アマテラスはそう叫び、しがみ付く七海を振りほどこうとする。
「違う! 違う! 千夏ちゃんはそんなんじゃないもの……やめて! あの子をいじめないで!!!」
「……ええい、聞き分けの無い!!!」
「きゃっ!」
アマテラスは軽い一撃で七海を弾き飛ばす。
「オォォォォォォォォオ!!!」
だが、それよりも早く…憎悪を込めた亨夜の一太刀が“千夏”の胴を霞めていた。
「亨夜!?」
「亨夜ちゃん!?」
『『亨夜様!!!』』
「ッ!? …オレは…何を…。」
続いて聞こえてきた渚と綾香…楓や桃花の声を受け、亨夜は正気を取り戻す。
「グアァァァァァァァ!」
「とあーっ!」
そして、アマテラスが突き出した刃が“千夏”の胸を深々と貫いた。
「仕留めた!?」
だが、胸を貫かれているはずの“千夏”は槍の穂先を一瞥しただけで亨夜達の方へと向き直る。
「……ぐるる……。」
そして、獣の様に、威嚇する様に唸った後、解けてただの泥の固まりになった。亨夜はその泥の固まりを木刀で突付くが、何の反応も示さない。
(…今のはただの分身か…。…と言う事は逃げられたか。)
「……逃げられたっ……今のはただの分身ね。」
悔しそうにそう言うアマテラスの言葉が亨夜の考えを肯定していた。
「………っ………はあ…。」
張り詰めていた空気が解けたのか、絶句して貧血を起して七海はその場にへたり込んだ。
「七海ちゃん!」
「………。」
七海に近づき亨夜が彼女を抱き起すと、七海は黙ったまま、アマテラスを非難する目で見詰めていた。
「……乱暴にして、ごめんなさい。」
「……違うっ! …どうして…どうして千夏ちゃんを……。」
「これが悪霊との戦いなんです。生きていた頃どうで有れ、怨霊は討たねばならないのです。」
アマテラスの言葉は理解できる。…存在を盗み歪めてしまうワームと同じだ…。…ただ一つだけ違うのは…本人であるか、否か…ただそれだけだ。
「……ひどいよ……そんな……。」
七海が悲しそうにそう呟く。
(…今のが本当に千夏ちゃんだとしたら…。)「今のは…本当に、千夏ちゃんなのか?」
そう、亨夜も彼女…『桐山 千夏』の事は知っている。七海の中学の頃のクラスメイトで親友。年も違い直接的な接点は無いが…亨夜は七海とは幼馴染なのだから、僅かに聴いて知っていた。
そして、なによりも…絶対に忘れられない原因がある…。それは、
「そうですっ……間違いない! どんなに変わっても私には分かる。あの子、確かに私の名前を呼んだもの!」
「…。」
「どう言う事? あのバケモノのこと、アンタ達何か知ってるの?」
渚の問いに答えるべきか迷いながら、亨夜はショックで振るえている七海を抱きしめていた。
「…二人が中学生だった…あの夏…。」
意を決して亨夜は口を開く。ZECTに入ってからも、その一件にワームの影は無いか調べたのだから…良く覚えている。
「…彼女…『桐山 千夏』は…近所の沼に身を投げて…死んだ。」
亨夜の言葉に渚と綾香の二人は氷ついた様に絶句するのだった。
つづく…
第三楽章《泣く少女》のスタートでした。
翔「死んだはずの人間が敵として現われるか…。その人間と知り合いだった者には辛い話だろうな。」
龍牙(カブト)「…って、ちょっと暴走気味だったな、亨夜の奴。」
知っている人間であっても敵であるなら剣を向ける事が出きる。ワームとの戦いの経験と彼の中の闇、アマテラスの言葉に思わず彼女とワームを重ねてしまったのが原因でしょうね。
翔「さて、亨夜の語る一人の少女の死。その影にある真実とは? 次回をお楽しみに。」