IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第三楽章 -2-

「…彼女…『桐山 千夏』は…近所の沼に身を投げて…死んだ。いや、警察の調べだと、自殺したと言うべきか?」

 

 

ゆっくりと語り出す、亨夜の知る千夏と言う少女の事…亨夜の言葉で沈黙が流れた。

 

 

その沈黙を破る様に七海はゆっくりと語り出す。…『千夏』と言う少女の事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千夏の襲撃の後、悪霊の襲撃も少なくなり、会話もなくなり、その所為か余計に空気が重く感じられる。寧ろ、その為に襲撃を控えている様にも感じられる。

 

 

…幸いと言っていいかは分からないが…二体ほど新しい悪霊が襲い掛かって来た。

 

 

「皆さん、悪霊です!」

 

 

アマテラスの言葉に亨夜と渚の前衛二人が戦闘体制を取る。意識を戦闘モードへと切換え、木刀を構えた亨夜は視線の先に襲いかかって来た悪霊を捕らえ………………

 

 

「はぁ?」

 

 

「ト、トリ?」

 

 

思わず渚と共に呆けた声を上げてしまう。

 

 

「「ピヨ?」」

 

 

可愛らしい外見のピンク色のトリの化け物だった。妙に愛嬌のある顔をして、人間の身長を上回る大きな体…初めて見る敵だが…。敵として捕らえるには戦意を削がれ過ぎる。

 

 

「デボスズメ!」

 

 

臨戦体制に入っているアマテラスがその悪霊の名前を告げてくれたのだが…何故か名前を聞いたら余計に戦意が削られる。

 

 

「デボ…。」

 

 

「スズメ?」

 

 

「爆発の術を使う恐ろしい悪霊です、気を付けて下さい!」

 

 

アマテラスの言葉を聞き、素早く意識を戦闘モードに切換えようとするのだが…。

 

 

(…ダ、ダメだ…。今までで一番戦意を殺される。)「食らえ!」

 

 

横薙ぎに振るう木刀がデボスズメの一体に向けて振り下ろされるが…。

 

 

「ピヨ?」

 

 

敵意が感じられない愛嬌のある顔で見詰められて、当る思わず寸前の所で木刀を止めてしまった。

 

 

「…ダ、ダメだ…。なんか、戦意が…。」

 

 

今まで戦ってきた相手が、ワームも含めて外見さえも問答無用で正真証明の化け物達だっただけに、ぬいぐるみの様なデボスズメは余計に戦意を奪われてしまう。

 

 

「ピヨ!」

 

 

「うわ!」

 

 

「ピヨ!」

 

 

「待て!」

 

 

「「ピヨ!!!」」

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁー!!!」

 

 

『『「「「亨夜(ちゃん)(さん)(様)!!!」」」』』

「先輩!!!」

 

 

戦意を奪われて思いっきり、デボスズメ達に袋叩きにされた亨夜だった。その後、ガタックゼクターが助けに入ってデボスズメ達は逃げて行った事で亨夜は袋叩きから開放されたのだ。

 

 

その後、デボスズメ達にボロボロにされた後の勾玉での治療の後…

 

 

「…あのぬいぐるみ!!! 次に有ったら絶対に倒す!!!」

 

 

思いっきりそう叫んだのだった。…それは、この世界『ネノクニ』における亨夜の天敵が確定した瞬間だった。その名はデボスズメ(笑)。

 

 

なお、ここまでは本編には特に影響しない部分兼暗い話に入る前の唯一のギャグパートなので、好みでない方は忘れて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

 

鍾乳洞の中を歩きながらも七海は暗い表情で無言のまま歩いていた。

 

 

「七海ちゃん、大丈夫か?」

 

 

「先輩……。」

 

 

辛そうな表情の七海に亨夜はそう声を掛けた。

 

 

「……千夏ちゃんは……友達なんです。本当はすごく優しいいい子なんです……。あの子を……もうこれ以上、あの子を虐めないでやってください。」

 

 

彼女のその言葉に、亨夜は先ほどの会話…七海の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『…千夏ちゃんは、私の親友でした。まだ弓道を始める前、私は引っ込み思案で友達も作れない、暗い子でした。美由紀ちゃんともクラスが違って、なんだか学校に行くのが不安で、辛くって……。』

 

 

『そんな私に出来た友達が、千夏ちゃんだったんです。千夏ちゃんも大人しい子だったから、私達はとても気が合いました。二人共本が好きで、図書館で色んな本を読みました。感想や意見を交換したり、二人でお小遣いを分け合って小説を買いに行ったり、そんな、他の子に比べてずっと地味な二人でしたけど……。』

 

 

それは、千夏と言う少女と七海の出会いの時の記憶。

 

 

『凄く楽しかったです。千夏ちゃんは、私の大事な親友でした。いつまでも友達でいようね、お互いどんな悩みでも話せる親友でいようね、って誓い合いました。でも…。』

 

 

『酷く空模様の悪い日でした。生ぬるい空気に肌を流れる汗は乾く事もなく、酷く不愉快な昼下がりでした。』

 

 

『土曜の放課後、委員会の仕事で残っていた私は、慌しげに掛け込んできた同級生に聞かされたんです……。珍しく学校を欠席していた千夏ちゃんが、学校の裏山に有る大きな沼で、変わり果てた姿で発見された、と。』

 

 

それは、彼女の知る千夏と言う少女についての言葉、彼女が千夏と言う少女の死を知った時の言葉…。

 

 

 

 

 

 

「私は何も知らなかった……あの子が虐められていた事すら、聞かされていなかった……。」

 

 

「………。」

 

 

親友等と言う相手は(少なくとも彼の認識の上では)持った記憶のない亨夜には何故言えなかったのかは知る由もない。

 

 

だが…ライダーとしての自分、普段の自分…そのどちらかに例え親友がいたとしても、ライダーと普段の事…どちらかは話す事はないだろうという事だけは考えられる。

 

 

「千夏ちゃんは、何も教えてくれなかった……。私も、友達だなんて言ってたくせに、あの子が悩んでいるなんて、全然気付く事も出来なかった。」

 

 

そう言って七海は悲しげに目を伏せる。

 

 

「哀しかった……。せめて…一言私に相談してくれれば……、私が気付いて上げられれば、何か出来たかもしれないのに……。」

 

 

哀しげに告げられる亨夜は彼女に掛ける言葉は見つけられない。親友など持った事はないのだから…自分には全てを話せる相手なんか…いないのだから…。

 

 

そこまで言うと伏せていた顔を上げ、七海は決意を込めた瞳で言葉を続ける。

 

 

「だから私は、もうこれ以上大事な友達が傷付くのを黙って見ているのは嫌! 千夏ちゃんは、私が助けます……絶対救って見せますから!」

 

 

そう言って七海はアマテラスを見据えた。

 

 

「………。」

 

 

アマテラスは悲しい瞳で七海を見詰めていた。

 

 

だが、亨夜自身の考えとしてはアマテラスの意見に賛成なのだ。ワームを…誰かの記憶を持った相手をそれを盾にされても躊躇なく倒してきた亨夜としては…七海の友達だったとは言え、千夏と戦う事はワームを倒す感覚に近い。

 

 

相手が違うと言う点を除けば亨夜とアマテラスの敵に対する考え方は似ているのだ。

 

 

故にアマテラス同様に他の者に害を成す前に討つのには…依存はない。だが…それと同時に七海の気持ちも僅かながら理解できるのだ。

 

 

同時に今回の件で…本当の妹(凛)に擬態したワーム…。それを目の前にして本当に殺せるのだろうかと言う疑問は何度も沸いていたのだ。ワームに奪われた『存在』を奪い返す事は理解している。だが、大切な人間を…奪った者毎…『殺せる』のだろうか。

 

 

(…それに、これからの事を考えても、抜きにしても二人には仲良くして欲しいな…。)

 

 

自分も正しいと思うアマテラスの正論と、自分も理解できる七海の気持ち…その二つを考えると、それは難しいだろうと亨夜は思う。

 

 

だから、言葉を出せず…無言のまま沈黙するしかなかった。

 

 

(…それにしても…偶然なのか? 無念のままで死んだとは言っても、オレ達…それも七海ちゃんに効果的な相手がここに居るのは? …偶然と考えるには意図的過ぎるな…寧ろ、何か裏で糸を引いている奴が居る、そう考えた方が納得できる。)

 

 

ふと沸き上がった新たなる疑問…裏で糸を引いて自分達と千夏をぶつけている奴が居る。そう考えると…。

 

 

(…だとしたら…この陰険なやり方、明らかに親玉に見えるスサノオとはやり方が違う…。幹部と考えるなら…まだ別の奴が居る。…そう言う事か?)

 

 

それからどれだけ時間が過ぎただろうか? 悪霊達は散発的に襲ってくる物の入り口の時ほど大量には襲ってこない。だが、奥に進むに連れて僅かながら強くなっているのは、気のせいではないだろう。そんな中、七海は黙々と亨夜達の横に着いて歩いている。

 

 

何を考えているのか、それは横顔を見ているだけの亨夜には分からない。

 

 

(…美由紀の時にも思ったけど…オレは美由紀だけじゃない…七海ちゃんの事も何も理解しようとしなかったんだな…。)

 

 

近くにいた妹だけでなく、幼馴染の事さえも理解していなかった事を今更ながら思い知らされる。…『復讐者』として生きてきた事で知らない内に美由紀を傷付けた事は理解していたが、自分の知らない七海の横顔…それを見ていると、それだけではなかったと今更ながら思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

だが、こうして無言のまま歩いていると思い出したくない事、考えたくない事を考えてしまう。と亨夜は思う。

 

 

『千夏ちゃんの葬儀にはクラスメイト達も出席しました。』

 

 

七海の口から語られたのは、葬儀の様子。

 

 

『放課後、先生に連れられて、みんな神妙な顔をして参列しました。彼女が苛められていたと言う事は……緘口令が敷かれていたけど、そんなもの関係有りません。すぐに広まってしまいました。誰が千夏ちゃんを苛めていたのか、知りたければ知る事も出来たかもしれません。』

 

 

そう、学年の違う己の所にもその話は聞こえてきた。学校の中で死人が出たのだから、有る意味当然とも言えるだろう。…学校と言う閉鎖された空間の中での情報なのだ…外部の者は兎も角、生徒間の噂程度ならば苛めていた相手を知る事も出来ただろう。そう亨夜は思った。

 

 

『でも、私はそんな事知りたくも無かった。もし知ってしまったら、その人達を許せるかどうか自信がなかった……殺してしまうかもしれなかった。だから、私は今でも誰が千夏ちゃんを苛めていたのかを知りません。』

 

 

…そう許せる訳が無い、だからこそ亨夜はそれを聞いて、七海が千夏を苛めていた相手を知らなくて良かったと安堵する。…憎しみに捕らわれている人間の醜さは何よりも自分が良く分かっているのだから。

 

 

許せる訳が無い…。もし許せていたら…自分は復讐者ではなく、純粋に人を守る為にガタックへとなっていたはずなのだから。

 

 

『あのクラスのみんなとは……関係のない人には申し訳ないですが、もう二度と会いたくありません。』

 

 

そう一言、七海は付け加えた。

 

 

『………葬儀はしめやかに執り行われました。棺の中に横たわる千夏ちゃんの姿は、見せてもらえませんでした。とても見られるものではなかったのだそうです。』

 

 

次に語られるのは葬儀の様子…。

 

 

『私はどこか現実感が沸かなくて……ただ……、ただ不愉快でした。私の前後に並ぶクラスメイトが流すインチキの涙が……どうしようもなく不愉快でした。』

 

 

今でもその時の事はそう思い続けているのだろう。

 

 

だが、確かに千夏と言う少女の死を心から悲しんだ者は居たはず。だからこそ…亨夜は許せないのだ。七海にそんな思いをさせ…その死を心の中で嘲笑っていた相手の事が…そんな奴が今も生きて居る事が…。

 

 

…もし、ワームがそいつを殺してくれていたら…生まれて初めてワームに心から感謝するだろう。そうして、最高の感謝の意を込めて…そのワームを嬲り殺しにしていただろう。『自分が殺しているのは人ではなく、化け物なのだ』と言いながら。

 

 

『呼び出したいくらい。貴方達、あの子の何を知ってるというの? 碌に挨拶さえ交わした事も無いくせに。あの子がどんな本が好きだったか、どんな音楽を聴く子なのか、将来の夢が何なのか、同じクラスの男子に好きな人が居ることとか、御家があまり裕福じゃなくて、なるたけいい公立高校に入って、次は国公立大学に進学したいのだとか、そんな事も知らないくせに、あの子の事なんか、何も知らないくせに……。』

 

 

その時の七海の表情が言葉の中から容易く想像できる。知らないはずの…想像したくも無い…見たくも無い…そんな七海の表情を…。

 

 

大切な人の死…渋谷隕石で母と妹を失った時の自分と重なる彼女が…そこには居た。

 

 

『なんだか冷めてしまって…。』

 

 

悲しみと言う熱ささえも心から消えてしまう…。

 

 

『葬儀の間中、私は凍りついたように動かない心そのままにこわばる表情。』

 

 

涙さえも渇き切ってしまったかのように…血液さえも凍り付いたかのように…凍り付いた表情。

 

 

『焼香を済ませ、歎き悲しむ親族の皆さんの横を通り抜け、私は涙の一滴も流す事無く、お葬式を済ませたのです。』

 

 

まるで、涙の流し方を忘れてしまった様に…泣きたいのに、涙が出ない。

 

 

聞きたくない…考えたくない…あの日の自分と重なった彼女が…自分に『日常』をくれた大切な少女が…そこに居た。

 

 

『全てが終わった後、千夏ちゃんのお母さんに初めて会いました。よく夕食の時に、嬉しそうに私の話しをしていたと言われました。そして、一枚のCDを私にくれました。私の為に買った、誕生日プレゼント…………。』

 

 

『孤児の私は本当の誕生日を知りません。それは今の両親に嘘で作って貰った誕生日なのですが……。そんな嘘の誕生日でも祝ってくれる大事な友達……。手渡されたCDは、前から欲しいと言っていたあるアーティストのベストアルバムで……。ああ、もうあの子は自分の手で私にこれを渡す事は出来ないのだな、と思いました。』

 

 

『ぽたり、ぽたりとCDケースに涙が零れ落ちました。』

 

 

その言葉に暗闇の中の小さな光のような、僅かな安堵を浮かべる。何故なら、最後まで泣けなかった自分と違い、彼女は…

 

 

『一度限界を超えると、後はもう堰を切った様に涙があふれ出てきました。私はその時やっと、親友を失った痛みに心から泣く事が出来たんです………。』

 

 

泣く事が…出来たのだから。

 

 

 

 

 

 

(…七海ちゃんは次に会った時、あの子を救おうとするはずだ…。…一昔前のオレだったら、間違いなく無駄だと言っていたな。)

 

 

歩きながらそんな事を考えてしまう。以前の自分なら無駄だと言っていたはず。だが、今は…そんな事は冷静な部分で考えていながら、口には出していない。そんな自分に『甘くなった』と思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

(…それにしても…洞窟の中に河が多いな、足を踏み外したら…。)

 

 

「来たわよ!」

 

 

渚の叫び声に意識が思考の中から切り替わり、木刀を構える。

 

 

(…まったく、『丁度良い』って考えるなんて、オレは何時かの間違いを繰り返す気か?)「行くぞ!」

 

 

何時かの美由紀と喧嘩した時にワームと戦った時の様に考えていた自分にそう言い聞かせ、意識を冷静にさせる。

 

 

骸骨のような悪霊達の中へと跳び込み、木刀を振るい三体を砕く。

 

 

「はぁぁぁぁぁあ!」

 

 

アマテラスの槍によって色の違う僅かながら強い固体である事が覗える巨大なネズミの様な悪霊が打ち倒され、

 

 

「えぇぇい!!!」

 

 

渚の突きが巨大なネズミの様な悪霊を葬っていく。

 

 

「えい!」

 

 

物理攻撃が効き難い事が覗える軟体生物の様な悪霊は綾香が投げる勾玉が焼き尽くし、時に凍結させる。

 

 

ガタックゼクターには生身でも十分に戦える雑魚相手には、敵からの不意打ちに対する後衛組の護衛を任せているので、手元には無いがそれほど危険は感じられなかった。…そんな時、

 

 

「っ!? 逃がすか!」

 

 

亨夜の一撃を味方が盾になった事で逃れた骸骨の悪霊が七海の方に向かっていく。悪い事に、まだ彼女は気付いていない。

 

 

「七海ちゃん! 危ない!!!」

 

 

亨夜が慌てて警告するが…今はそれが仇になってしまった。

 

 

「え? き、きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

骸骨の攻撃を避けた時に運悪く足を滑らせ、七海は地下水脈に落ちていった。

 

 

「七海ちゃん! 貴様!!!」

 

 

『先ずは一人』とでも言っている様な態度の骸骨を叩き潰すついでに地下水脈へと吹き飛ばし、木刀を投げ捨て、

 

 

「ガタックゼクター!!! 変身!!!」

 

 

《HENN-SHIN》

 

 

ガタックゼクターを呼び、ガタックマスクドフォームへと変身すると地下水脈へと跳び込み、流される七海を抱き寄せる。

 

 

「き、亨夜さま、それは!?」

 

 

初めて見る亨夜の変身にアマテラスは驚きの言葉を上げる。

 

 

(ダメだ…流れが早過ぎる…。ドレイク(あいつ)のマスクドフォームなら、こんな時役に立つんだろうけどな。)

 

 

何とか沈まない様に抵抗するも、七海とガタックマスクドフォームは地下水脈に流されていくのだった。

 

 

「みんな、必ず後で合流する!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く流されながら、岸辺のような所へ何とか辿り着く事が出来た。

 

 

「はぁ…はぁ…。」

 

 

地面に抱かかえていた七海を寝かせると、バックル部分からガタックゼクターが外れ、ガタックマスクドフォームの装甲が砕け散りガタックへの変身が解けた。

 

 

「なんとか助かったな…。」(あとは、渚達と合流するだけか…。)

 

 

そこまで考えた後、気を失っている七海を起そうと彼女に触れた瞬間、指先から冷たさを感じ取る。見れば全身が水に濡れて顔色も青白く、唇も青くなっている。

 

 

「っ!?」

 

 

慌てて脈を確認するが、脈は有る。だが、ライダーシステムに守られていた亨夜とは違って、生身で水浸しになった彼女は確実に体力を奪われていたのだろう。

 

 

「…くっ! 勾玉は全部綾香さんに渡していたか。」

 

 

戦闘中前衛を担当する亨夜は二つの勾玉を除いて、勾玉…特に回復用の勾玉は持っていなかった事が、今回は仇になってしまった形になった。

 

 

(…今度から、最低でも一つは回復用の勾玉を持ち歩く事を徹底しておこう…。)「どうする…?」

 

 

火を起して七海を暖めようにも周囲に燃える物は何も無い。

 

 

楓と桃花と契約した際に手に入れた勾玉は持っているのだが…一度使った事のある楓の力は毒などを防ぐ力は有るが、あとは攻撃の為の力で回復ではない。桃花の力はまだ使った事が無いので分からない…。

 

 

『亨夜様。』

 

 

「…その声は…桃花…さんか?」

 

 

『はい。亨夜様、私の力をお使い下さい。私の術を使えばこの子も目を覚ますでしょう。』

 

 

「…分かった…。」

 

 

桃花の勾玉を取り出し、それを強く握り締め…

 

 

(…桃花さん…頼む、七海ちゃんを…助けてくれ。)

 

 

『お任せ下さい。』

 

 

 

 

―ホーリーブレス!!!―

 

 

 

 

桃色の輝きが彼女を包み込み、彼女の体がぬくもりを取り戻していく事が分かる。それだけでは無い。亨夜の疲労も回復していくのが分かる。

 

 

「…回復の力か…頼りになるな。」

 

 

『ありがとうございます。』

 

 

『私は頼りになりませんか…?』

 

 

桃花の言葉の後に聞こえてきた楓の不満げな言葉…頼りにしていない訳は無いのだが…。

 

 

「あ、いや…楓さん。頼りにならないんしゃなくて、使い所が難しいって思っただけだから…。」

 

 

「……あ、あれ…私? …先輩?」

 

 

そんな会話を交わしていると七海が目を覚ました。

 

 

「七海ちゃん、大丈夫か?」

 

 

「あ、は、はい。私…確か、水脈に落ちて…。」

 

 

「オレは助けようと跳び込んだけど、結局水に流された。木刀は向こうに置いてきたけど、こいつが居れば大丈夫か。」

 

 

そう言って自分の存在をアピールしているガタックゼクターに視線を向ける。ガタックへの変身手段だけは確実に確保してある以上、素手とは言え恐れる物はない。

 

 

「そうですか…。」

 

 

「…ああ…。はやく、みんなと合流しないとな。」

 

 

戦力を分断された今は敵が襲ってくるとしたら、このタイミングは絶好のチャンスなのだから、一刻も早く合流する必要が有る。

 

 

「…亨夜先輩…一つだけ、聞いてもいいですか?」

 

 

「ああ。」

 

 

何処か暗い声で七海が亨夜にそう問い掛ける。

 

 

「…どうして、あの時…千夏ちゃんを…千夏ちゃんを攻撃したんですか!?」

 

 

「っ!?」

 

 

「先輩もアマテラスさんと同じ考えなんですか!? 先輩も…先輩も、千夏ちゃんを虐めるんですか!?」

 

 

彼を非難する様に続けられる七海の言葉に、亨夜は返す言葉が出なかった。思わず彼女の剣幕に押されて後退ってしまう。

 

 

「答えて下さい、先輩!!!」

 

 

返す言葉が出ない。千夏を斬ったのは自分の中の闇に飲まれた結果…彼女の姿をワームと重ねてしまった結果だ。だが…それを言う事は…彼女に恐ろしい真実を告げる事に他ならない。

 

 

「先輩!!!」

 

 

(…覚悟を決めて、全部話すしかないか…。)

 

 

覚悟を決めてそう思った時、答えられず後退りする亨夜との距離を詰める七海の足に、そこに有った何かがぶつかる。

 

 

「? なんだろう?」

 

 

七海はそれを拾い上げる。彼女の意識が別の所に向いた事を幸いと思い、亨夜もそれを除き込む。彼女に伝えるべき言葉を見つけるまで時間稼ぎができればと思いながら…。

 

 

「大学ノート…Diary…日記か?」

 

 

分厚い大学ノートには緑の油性サインペンで『Diary』と書かれていた。大学ノートと英語…この世界に似つかわしくないそれを見て一目で持ち主が何者なのか理解してしまう。

 

 

それを裏付ける様にその下に『Chinatsu Kiriyama』と英語の筆記体で書かれていた。

 

 

「……千夏ちゃんの……日記?」

 

 

「そんな物が…どうしてここに?」

 

 

大学ノートは茶色に変色し、汚れた水に浸かっていた痕があった。

 

 

(でも…こんな物…さっきまでここには無かった…。)

 

 

亨夜の中に浮かび上がる疑問。

 

 

つづく…





第三楽章の第二幕でした。



翔「…随分と、後味が悪い話しだな。」



奏夜「同感です。」



そうですね。原作の中でもこの話って、一番苦手なエピソードでしたから。



そして、過去の七海の姿に過去の自分を重ね、悪霊達の中のスサノオ以外の幹部の存在に気付き、彼女の詰問に、知るべきではない現実と、自らの闇を話すべきか迷う亨夜でした。



翔「…ワームの姿は無いな…。」



ここら辺でワームを出す予定なのは確かですが、まだまだワームの出番は先ですね。この章の中で出す予定は有りますけど。



奏夜「しかし…天敵って…。」



ある意味、スサノオ以上の強敵(亨夜にだけ)デボスズメ登場でした。……この先二度と出ない可能性も高いですけど。重い話しになる前に軽くギャグパートを入れてみました。暫く暗い話しが続きそうだったので。それでは、次回をお楽しみに。
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