IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第三楽章 -3-

「……千夏ちゃんの部屋から、色々無くなっていたそうです。きっと、死ぬ前にプライベートな物を沼に沈めてしまって処分したんだろうって。」

 

 

思いがけない拾い物に暫く呆然とそれを手に取っていた七海が静かに口を開く。

 

 

「じゃあ…それは…?」

 

 

「…………。」

 

 

確認するように告げられた亨夜の言葉に押し黙ってしまう七海。それがここに数年間も誰にも読まれないまま置かれていたと考える事も出きる。だが…

 

 

(…誰かが態々オレ達…いや、七海ちゃんに手に取る様に行動していたと考えれば…。)

 

 

同じ場所を歩いたはずの亨夜が気付かず、七海だけが気付いた事から考えると、そう考えた方が自然に受け取れる。

 

 

だが、どちらにしてもそれを読めば、彼女が何故自殺したのか、何故友達で有る筈の七海まで傷付けようとするのか…その理由が何か分かるかもしれない。

 

 

しかし、それを読む権利があるのは亨夜ではなく、七海の方なのだ。全ては彼女が選択するべき事なのだから…。

 

 

「千夏ちゃん……ゴメン。」

 

 

彼女に謝りながら、七海はそれを開く。真実がどんなに残酷であっても、真実を知りたいと言う気持ちが先に立ったのだろう。

 

 

「…いいのか…七海ちゃん?」

 

 

「……はい。私、千夏ちゃんの事は…今でも親友だと思ってます。……だから、知りたいんです。あの時、どう考えていたのか、どんな目に有っていたのか。……あの子の気持ち、少しでも癒して上げたいから。」

 

 

本人の決心が固いのならば反対する理由は無い。亨夜は小さく頷く。七海は日記帳を開き、読み始めた。

 

 

水に濡れたせいか、判読できるページはそれほど多くは無い。読める字を拾い読みすることしか出来ないが、それでも七海は食い入る様に真剣に読み進めた。

 

 

「…………。三月六日、今日も苛められた。陰口だ。進学塾に通っているのが生意気だという。どうして私が塾に通っているのを知っているのだろう……。ちょっと考えて分かった。多分お母さんが世間話で話したのだろう。でも、どうしてそれが苛められる理由になるのか、分からない。」

 

 

七海はページを捲る…次に読む事が出来たのは六日後の十二日の内容…。

 

 

「………。三月十二日。上履きに画鋲を入れられた。なんて陳腐で古典的な悪戯。だからこそ、そんなものに引っかかった自分が惨めで、悔しい。」

 

 

次にページが開かれるのは九日後の二十一日…それは少しだけ優しい内容

 

 

「………。三月二十一日。七海ちゃんに借りたCDが気に入ったので、結局買ってしまった。同じ物を持っていると、なんだか離れていても同じになれるようで、少し嬉しい。」

 

 

純粋に七海との思い出を書き綴った内容だった。次に開かれたページは四月の十二日。

 

 

「………。四月十二日。トイレに閉じ込められて、三時間目には出られなかった。「死んじゃえ! 出てくんな、ガリ勉女!」なんで私が勉強すると彼女に憎まれなければならないのだろう。その次の休み時間、トイレで泣いている私の所にあの子が来た。出してくれるのかと思ったら、ドアの上からホースで水を掛けられた。他にも何人かあの子の取り巻きがいる様で、私が悲鳴をあげて助けを請うのをきゃっきゃっとはしゃいで楽しんでいた。ずぶ濡れになった。放課後までそのまま放っておかれた。「チクったら殺す」と脅される。私は泣きながら、家に帰った。」

 

 

次のページはその翌日の内容

 

 

「………。四月十三日。ほんとに風邪を引いて寝込んでいる。休みの日だから、大丈夫、苛められない。このままずっと風邪が治らなければいいのに、なんて思ってしまう。………何事も無く一日が終わるかと思ったら、電話が掛かってきた。私が出ると、ただ一言彼女の声で、「死ね!」とだけ言われて電話が切れた。そうか、連絡網が有るから、教えなくても電話番号は分かってしまうのだ。家で寝ていてさえ、苛められる……。」

 

 

「………。四月二十九日。昼休み、七海ちゃんと図書室で遊んでいた。放課後にあの子に呼び出された。「ガリ勉が図書室でマジメぶってウザい。あいつも的にしてやろうか?」七海ちゃんをこんな目に合わせる訳にはいかない……どうしよう。」

 

 

ある意味苛めていた側に取っての最大の幸福がそこには有ったかもしれない。

 

 

…七海まで同じ目に有っていたら、多分、既に亨夜に殺されていたはずだから。その頃は、自分の中の『復讐者』の狂気がまだ碌に押さえられていなかった頃なのだ。そんな時に大切な人間のそんな話しを聞いていたら…後先も考えずに…。

 

 

「……。五月四日。朝、登校してクラスに入ったら、机が無かった。せいぜいどこか他所にのけた程度だろうと思って探しても見つからない。くすくす笑っているあの子達が指差したのは、学校の裏庭。信じられなかった。ゴミ捨て場に私の机が逆さまになって捨てられている。わざわざこんな事をするほどに私が憎いのか………。それとなくお母さんに聞いて調べてみた。あの子の母親は有名な教育ママで、でもあの子は私の通っている進学塾に行けなくて、悔しそうだったと言う。」

 

 

「……。五月十三日。どうしよう……もう耐えられない。怖くて先生にも親にも言えない。もちろん、七海ちゃんには絶対言えない。怖い、辛い、悲しい。今日は、鞄に犬の糞を入れられた。」

 

 

「……。六月六日。進学塾を辞めさせてもらった。お母さんには色々理由を聞かれたが、答えずに済ませた。朝、誰も居ない内に、二人きりでそれをあの子に告げた。ほっぺたに痣が出来るほど、思いきりビンタされた。」

 

 

「……。七月一日。この日記はどうしよう。残しておけばあいつ等に復讐できるかもしれない。人に見られるなんて死んでも嫌なくらい恥ずかしい記録だけど……。どうせ死んでしまえば全てはそれで終わるのだから、それでもいい気がする。私は迷っている。死ぬかどうかじゃなくて、その時日記をどうするか、だなんて些細な事で迷える自分が、少し可笑しい。お父さんも、お母さんも、七海ちゃんも、クラスの人達も、先生も……誰一人として、私が死のうとしている事なんて気付いていないようだった。なんだか、腹が立った。腹が立っているのに、何故か悲しくて、涙が止まらなかった。…どうして……どうして私は、こんなにどうしようもなくひとりぼっちなんだろう。」

 

 

「……。七月四日。まだ死ね無い。やっぱり怖い。でも死にたい。辛い。七海ちゃん……。」

 

 

最後に七海の名前を書いたその日付で、日記は終わっていた。当時の事件資料…ZECTで亨夜が見せてもらったそれによると、日記に書かれている日から一週間後が…。

 

 

「……あの子が死んだのは……七月十一日です。」

 

 

千夏の自殺した日。

 

 

その日記を読み終えた後、亨夜の中に有るのはやり場の無い怒りだった。…それをぶつけるべき加害者達はこの場には居ない。この場に有るのは被害者のみだ。

 

 

…学校の体質を考えればこの日記を残した所で苛めていた者達は裁かれない可能性も高い。…だが、学園の理事長が身内だから故の贔屓かもしれないが、祖父の人格を考えれば、事件は明るみにはなっていたと思う。

 

 

…仮にそうなっていなかったとしたら、今更ながら祖父に失望して元の世界に戻り次第、祖父の家を出ていっていたところだ。

 

 

(…自分勝手な話かもな…。)

 

 

そう考えた所で、無言のまま自分の考えにそう思って苦笑してしまう。

 

 

「これから一周間……あの子はどんな気持ちで学校に通っていたんだろう……。どうして、私は気付いて上げられなかったんだろう……。」

 

 

「仕方ないさ…千夏ちゃんは、この事を隠していた。自分の事を全部知っているのは…自分だけ…いや、自分でさえ自分の全てなんて知らないかもしれないんだからさ。」

 

 

悲しみの感情を浮かべながら、七海の口から出てくる己を責める言葉。そんな彼女を慰める様にそう言うが、亨夜自身もそれが上手い慰めの言葉でない事は理解していた。だが、他に言いようがなかった。

 

 

「私には、楽しそうに笑ってお喋りをするあの子の姿しか思い出せない……。」

 

 

(…違う…。本当にその時は楽しかったんだろう…。)

 

 

七海と一緒に居る時だけは本当に楽しかったのだろう。どれだけ、辛い思いをしていても…本当に楽しかったからこそ、七海の存在だけは救いであったはずだ。

 

 

「私には、何も見えちゃいなかった……。それが、悲しい……。」

 

 

うなだれて大学ノートに涙を零す七海の姿に亨夜は何も言えなかった。そんな彼女を見ながらどうするべきかと悩むが……

 

 

「七海ちゃん…どうして、オレが千夏ちゃんを斬ったのか? …それを聞いてきたね…。」

 

 

「え?」

 

 

うなだれていた七海が顔を顔を上げて亨夜を見上げる。

 

 

「…全部話そう…ゼクターが作られた本当の理由、オレがやっている事…そして、世界の裏側の“真実”を…。」

 

 

「真実…?」

 

 

「…ただし…これから話す事は絶対に秘密にしていてくれ。」

 

 

「……………。はい。」

 

 

亨夜の言葉に暫く迷いながら意を決してそう答える。

 

 

「…オレの母さんと妹は…渋谷隕石で死んだ…。それは知っているね?」

 

 

「はい。」

 

 

それが亨夜の父以外の家族の表向きの死因。

 

 

「…原因はそうだった…でもな…本当は違う。あの隕石はタダの隕石じゃない…“ワーム”…そう呼ばれる宇宙生物の揺り篭だった。」

 

 

突然のSFの様な言葉に七海は言葉を失ってしまう。そして…

 

 

「先輩…こんな時にふざけないで下さい!!!」

 

 

「…ふざけてなんていないさ…信じられないだろうが…全ては真実だ。…少なくとも…それが居る事はアマテラスから聞いているはずだ。」

 

 

「…それって、もしかして…。」

 

 

「アマテラスの言っていた緑の怪物…それがワームだ。」

 

 

再び言葉を失ってしまった七海を直視できず、目を逸らしながら亨夜は言葉を続ける。ゼクターやマスクドライダーシステムがレスキューではなく、ワームと戦う為のシステムである事、自分が対ワームの組織、ZECTに所属して居る事。

 

 

「…でも、そんなのがいるなんて…私は何も…。」

 

 

「国家規模の組織が存在を隠蔽しているんだ。それに…ワームは人間以上の高度な知性を持って…人の姿形や記憶を奪い誰かと成り代わる“擬態”能力を持っている。それを利用して奴等は人間の中に紛れ込む事が出来る。」

 

 

人間の中に紛れるだけの知性があれば、存在を隠して生きる事は容易い。姿形で目立つのならば人間と寸分違わぬ姿に擬態し、記憶さえもコピーできるのならば、尚の事それは簡単だろう。

 

 

「でも、ただ人間に紛れて生活しているだけじゃ…何も…。」

 

 

「…奴らは擬態した人間を殺して入れ代わり、虫(ワーム)の名に似合って増殖力も高い…。放っていたら将来的には地球はワームに支配された星になるだろうな。」

 

 

「…そんな…。」

 

 

自分の知らない所でそんな事が起こっていた事に…自分の身近に居た人がそんな戦いをしていた事に衝撃を受ける七海。

 

 

「…でも…すごいんですね…みんなを守る為に「違うさ。…オレの戦う理由は“復讐”だ。」…先輩?」

 

 

七海の言葉を遮る様に亨夜は静かに…それで居て、反論を許さない意思が込められた言葉で…そう言いきった。

 

 

「…オレの母と妹は…ワームに殺された…。オレの…目の前でな。」

 

 

今でも容易く思い出す事の出来る渋谷隕石の時、瓦礫に埋まって居ながらまだ生きていた母と妹を殺した化け物達…。妹の…凛の姿に擬態して、妹と母を殺したワーム。…そして、亨夜を殺そうとしたワームを一瞬で葬り、ガタックのベルトを託して消えていった…ガタックに似た青い仮面ライダーの姿。

 

 

「…だから…オレは今でも、家族の仇を討つ為だけに戦っている。…そして、オレはあの時、千夏ちゃんの姿をワームに重ねた…。だから…オレは彼女を斬った。…ただそれだけだ。」

 

 

そう、全てはワームと怨霊となった千夏を重ねてしまった自分の未熟さ故の…行動。

 

 

「そ、そんな!!! 千夏ちゃんをそんな化け物なんかと一緒にしないで下さい!!! 千夏ちゃんは…千夏ちゃんは…。」

 

 

「そうだ。千夏ちゃんはワームとは違う。だけど…このままだと、彼女はワームと同じ、人を殺す“化け物”になる。そうなる前に千夏ちゃんを救えるのは…七海ちゃんだけだ。」

 

 

「先輩…。」

 

 

「…七海ちゃんが千夏ちゃんと戦う事はない…。戦う事は誰でも出来る事だ。だけど…彼女を“救う”事が出来るのは…七海ちゃんだけだ。」

 

 

ワームの事…それを話した上で、亨夜はその言葉を告げた。

 

 

「姿や記憶が本人の物でも、別の存在のワームとは違う。千夏ちゃんは彼女以外の何者でもない。まだ“戻れる”んだ。…七海ちゃんの言葉を伝えれば…救う事はできるかもしれない。」

 

 

「………でも、もし伝わらなかったら?」

 

 

「………。その時は…化け物としてオレが戦って、倒す。その時は恨んでくれても構わない。まあ、でも大丈夫だろう…。戦う事しか出来ないオレとは違って…七海ちゃんなら、必ず救う事が出来る。…オレはそう信じてる。」

 

 

自分が考えている可能性が正しければ…ここに封じられている青龍を解放するためには、千夏と戦わなければならないだろう。そして、それが正しいという確信はある。

 

 

明らかに千夏の存在は自分達を倒す為に切られた札(カード)。敵がそのカードと戦う事を回避出来るような甘い手を使うとは考えられない。そこから考えると、千夏が存在しているのは、青龍が封印されている場所。RPGのボス戦にも似ているが、それは絶対に戦わせたい相手を配置する位置としては、目的地に置くという点は理に叶っているのだ。

 

 

残酷だが、倒す、救う、そのどちらを選ぶにしても、彼女には覚悟してもらわなければならないのだ。…千夏と戦う事を…。そして、迷っていられる時間は残念ながら、多くは無い。

 

 

亨夜の言葉に対して迷っているのか、日記を抱きしめながら俯いている七海。結論を急がせる事は出来ない。だから、亨夜に出来るのは、暫くの間肩に手を乗せて寄り添うくらいの事だけだった。

 

 

「七海ちゃん。」

 

 

「……なんですか?」

 

 

意を決して口を開いた亨夜の言葉に七海が顔を上げて聞き返す。

 

 

「…あの日…オレの所に来たよな。」

 

 

「…………あの日…。」

 

 

「千夏ちゃんの……。」

 

 

語ろうとするのは、亨夜の知る千夏の葬式の日の記憶。

 

 

「はい………。」

 

 

「オレは千夏と言う子の事は知らない。でも、あの日の……あの日の七海ちゃんの事は良く覚えている。」

 

 

「………。」

 

 

それは、今までは思い出す事も無かった過去の記憶…。

 

 

 

 

 

 

 

 

『先輩…。』

 

 

雨が降っていた…。雨の中、濡れるのも構わず、七海が一人、道路に立って亨夜を待っていた。

 

 

『七海ちゃん!?』

 

 

それに驚いた亨夜は彼女に駆けより、既にずぶ濡れになっていた彼女を傘で雨から遮る。

 

 

『…なにが有ったんだ…?』

 

 

『……千夏ちゃんが……。』

 

 

『…千夏…?』

 

 

それは…亨夜自身興味が無かったが、彼のクラスでも噂になっていた、沼に身を投げて自殺下と言う女の子の名前。

 

 

教師から緘口令を敷かれていたが、それでも生徒達は憶測交じりの怪情報を言いふらし、ここ数日は学校は騒然としていた。

 

 

ZECTの方でも彼女の死にワームが関係しているような不信な点は無いかと調査されたらしい事が、聞かされていた。

 

 

当の亨夜はワームに関係ないなら興味が無いと、気にも止めていなかったが…。

 

 

(…そうか…七海ちゃんのクラスだったのか。)『千夏ちゃんが…どうしたんだ?』

 

 

『千夏ちゃんが……私に何も言わないで……。』

 

 

『…震えてるじゃないか…。こんなに濡れて…とにかく、早く着替えないと風邪を…。』

 

 

手を引いて引っ張っていこうとしたが、放心しきった七海の体は簡単には運べない。

 

 

『七海ちゃん!』

 

 

『……居なくなったの……死んじゃったの……ねえ、私、どうしたら良かったの?』

 

 

『…………。』

 

 

そんな彼女の問いに対して事情を全く知らない亨夜は答える事が出来なかった。

 

 

『私がもっと早く気付いてれば……何とかできたの?』

 

 

『七海ちゃん…?』

 

 

今はそれを持って居るかと聞かれれば疑問だが、その頃の亨夜は今ほど心に余裕が無かった。嘘でも違うと言えるほど、器用ではなかった。

 

 

『私がもっと頼りになれば、あの子は死なずに済んだの?』

 

 

『七海ちゃん、家に入ろう、このままだと風邪引くっ……。』

 

 

『先輩、教えて………私、今バラバラになっちゃいそうなの………哀しくて、悔しくて、腹が立って、でもそれをどこにぶつけていいか分からなくて……。』

 

 

『…七海ちゃん…。』

 

 

『私、私っ……。』

 

 

泣きながらまだ言葉を続けようとした七海を亨夜はただ力一杯抱きしめた。亨夜自身もうこれ以上七海が自分を責める言葉を聞きたくなかっただけだ。

 

 

それで、七海が救われるなど亨夜に分かるはずもない。抱きしめた所で、次にどうすれば良いのか、何を言えばいいのか等考えてもいない。亨夜はただ…

 

 

『七海ちゃん…。』

 

 

『先輩……先輩っ……。』

 

 

七海を抱きしめて震えを静めてやる事しか出来なかったのだ。

 

 

ただ、それは彼自身気付いていたのかもしれない。気付かない内に彼の中の別の部分では気が付いていたのかもしれない。……七海の悲しみと、家族を失った時の自分の悲しみが同じ物で有った事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私…あの子と戦いたくなんてないのに…。」

 

 

涙を浮かべながら苦しむ様に出てくる彼女の言葉を遮る様に亨夜は七海を抱きしめる。

 

 

「あ、あの、先輩。………。先輩、確かあの時もこうして貰いましたね。」

 

 

「…そうだったね…。」

 

 

あの日も悲しみに押しつぶされそうな彼女にして上げられたのは、抱きしめる事だけ。

 

 

「私に何ができるんでしょうか? あの子と向き合った時…私は戦う事しか出来ないんでしょうか?」

 

 

「…残念だけど…オレにはその言葉に答えて上げる事は出来ない…。でも、彼女と向き合う事も戦う事だと思う。」

 

 

今も憎しみに捕らわれている自分と違って、七海なら悲しみに立ち向かう事が出きると、亨夜は信じている。

 

 

「…迷う事も大事だ…。時間は無いけど迷う事も大切だ。だから、今はまだ迷えば良いさ…。迷わずに出した答えの方が…オレには心配だよ。」

 

 

そう言った後、亨夜は心の中で『オレの様にな』と付け加える。

 

 

「先輩。」

 

 

「まあ…次に千夏ちゃんに合うまでに答えが出せればいい…そこまではオレが連れていくさ。…オレが…戦いの神(仮面ライダーガタック)がな。」

 

 

「………はい!」

 

 

亨夜のその言葉に信頼を込めて七海は返事を返した。そんな時だった。

 

 

「あ、いたわよ!」

 

 

渚の声が聞こえてきたのは。しかも、一緒に聞こえてくる足音は三つ…全員が再び合流できた事になる。

 

 

「亨夜ちゃん、七海ちゃん! 心配したのよ、もう。」

 

 

「ご無事で何よりです。」

 

 

綾香とアマテラスの声が続けて聞こえてくる。

 

 

「まったく、心配したんだからね。」

 

 

そう言って渚は亨夜の木刀を投げ渡す。

 

 

「ああ、心配かけて悪かった。それと、木刀預かってくれてありがとう。」

 

 

「ごめんなさい。迷惑をかけました。」

 

 

そう言葉を交わし、亨夜一行(パーティー)は再び無事に合流出来た事を喜び合うのだった。

 






決意を促す為に真実を話す亨夜…の第三楽章の第三幕でした。



翔「って、こんな形で教えてしまって良いのか!?」



奏夜「そうですよね。決意を促すにしても他にやり方が…。」



この時点の亨夜には他にやり方が無さそうだったので。それに、本文中でも書いた様に迷っている時間が無いのは亨夜も同じでした。最善か否かは別にして、他に手段を考える時間が無かったんです。



翔「…それに、ネノクニにワームが居る可能性がある以上、悪霊と違う存在と言う事はアマテラスにはすぐに分かるだろうし、いずれは教える必要がある話でも有る訳だからな。」



その通りです、翔くん。それに…先ずは七海から知ってもらう予定でしたから。それでは、次回をお楽しみに。

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