IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第三楽章 -5-

亨夜一行は湖の岸辺に二本の岩が角の様に立っている場所にたどりついた。他に道も無くここが最深部…目的地なのだろう事は間違い無い。亨夜はそれを確認すると、歩きながら自然な動作で掌にガタックゼクターを着地させる。

 

 

そして、当然ながら、その場所には、

 

 

「…………。」

 

 

千夏の姿が有った。

 

 

「強い霊力を感じます……あの亡者の立ち塞がる向こうに、青龍の封じられた祭壇が有るはずです。」

 

 

「…………そうか。」

 

 

アマテラスの言葉にそう返す亨夜。続いて出てくるであろう彼女の言葉は直に理解できる。

 

 

「倒さなくてはなりません……。」

 

 

「………。」

 

 

亨夜は無言のまま木刀を構える事で彼女の言葉に答える。倒さなければ先へは進めない…元の世界に戻れない事は理解して居るのだ。

 

 

「みなさん、それでいいですね?」

 

 

「ちょ、ちょっと……あんた、それは冷たすぎるんじゃないの?」

 

 

「あの亡者を倒さなければ、道は開けないんです!」

 

 

そんなアマテラスの態度に渚が抗議するが、強い口調で彼女は言い返す。

 

 

「……で、でもっ……。」

 

 

「悪霊を滅ぼす……それが私の使命。」

 

 

「違う。」

 

 

アマテラスの言葉を遮り、七海の言葉が響く。

 

 

「……七海さん、貴方の気持ちはわかりますが……。」

 

 

「違う。あの子は千夏ちゃんです。私は千夏ちゃんの友達だから、心を込めてちゃんと話せば……分かってくれるはず。」

 

 

「………。」

 

 

「アマテラスさん、少しの間だけ待ってください。私があの子を、説得してみます。」

 

 

そう言うとアマテラスの返事もまたずに、七海は無防備に、黙って亨夜達の様子を伺っている千夏の方へと歩き始めた。

 

 

「……な、七海さん、待ってくださ……。」

 

 

アマテラスはそんな七海を止めようとするが、すっ、と、綾香が彼女の前に腕を差し出す。

 

 

「綾香さんまで……?」

 

 

渚も亨夜も武器は持っている物の構えを解いていて、動く様子を見せず、一行の意思はアマテラス以外一致している様だ。

 

 

「……お願い。少しの間でいい、あの子の思う様に……。」

 

 

「…アマテラス……オレからも頼む。」

 

 

「………。」

 

 

亨夜と綾香の言葉にアマテラスは槍を収め、構えを解いた。

 

 

「分かりました。……それでも、どうしても危険だと思ったら……私はあの亡者を、斬ります。」

 

 

「ああ……それでいい。」

 

 

アマテラスの言葉にそう答え、亨夜は木刀を納めるとガタックゼクターを掴み、何時でも変身できる体制を取る。

 

 

…………どうでも良いが、事情を知っている人間にしてみれば、動かないだけで一番臨戦体制を取っているのは亨夜ではないだろうか? ある意味、アマテラス以上に何か有ったら倒す気満々の亨夜だった。

 

 

一方、恨めしそうにその瞳だけを異様なまでに白く光らせ、千夏は近づいて来る七海を睨みつけていた。

 

 

「千夏ちゃん……。」

 

 

「……七海……ちゃん。」

 

 

「そうよ、私よ、七海……友達だったじゃない、分かるでしょ?」

 

 

「な………七海ちゃん……。」

 

 

微かに穏やかさを取り戻した様子で、七海の名を呼び、千夏はそっとその泥で汚れた指先を七海の頬へと伸ばす。

 

 

「うん、七海だよ……千夏ちゃんのお友達だよ……。」

 

 

泣きそうな声を出しながら七海は微笑み、千夏に近づいていく。

 

 

「……! 危ない! あまり近づかないで!」

 

 

そんな七海の様子に警告の叫び声を発し、慌てて駆け寄ろうとするアマテラスを、

 

 

「待て。」

 

 

亨夜が制した。…敵意を持って襲ってきていた相手を説得するのだから、危険である事はある意味仕方が無い。必要な危険と最悪の事態を隔てるギリギリの一点…それを見極めるのが難しいのだ。

 

 

だが、

 

 

(もしかしたら、あの子はまだ戻れるかもしれない…。)

 

 

二人が分かり合えれば、ワームと同じ“化け物”になる前に千夏の心は、まだ人に戻れる。そう考えながらも、ガタックゼクターを手の中に持ちながらベルトのバックル部分に近付けて行く。

 

 

「こんな姿になって……でも、私達は友達だよ……?」

 

 

「……七海……友達……。」

 

 

 

(…ちょっと待て…なんだ…このイライラする気配は…? まさか…。)

 

 

千夏が『友達』と呼んだ時から強くなり感じ取れた気配…元の世界では嫌になるほど慣れ親しんだ…最悪の…怒りを感じさせてくれる気配…。

 

 

(…ワームがこの近くに?)

 

 

そう考えても今の状況では探しに行く訳にも行かない。故に警戒しながらも今は目の前の事に意識を向けるしかないのだ。

 

 

 

「うん、友達……だから、もうやめようよ? 私達が戦うなんて、そんな馬鹿な事……。」

 

 

「友達……。」

 

 

千夏の指が七海の頬に触れ、泥で少しだけ彼女の頬を汚した。

 

 

「千夏ちゃん……。」

 

 

そのまま千夏の指が七海の頬をなぞっていく。

 

 

「………。」

 

 

成すがままに身を任せ、七海は目を閉じる。

 

 

「………。」

 

 

それで、『二人の心は通じ合ったのか?』と思った瞬間、汚れた指先は、七海の顎の辺りで止まった。

 

 

「友達の……のくせに。」

 

 

憎悪を込めて紡がれる言葉…

 

 

行き成り、千夏は七海の喉をその鋭い爪で鷲掴みにし、憎悪を露にし呟いた。

 

 

「友達の……くせに私の事助けてくれなかった分かってくれなかった許せない……!」

 

 

「ち、千夏……ちゃん?」

 

 

そのまま片腕の力だけで宙にぶら下げられ、何が起きたか分からない様子で苦しそうにもがく七海。

 

 

「体、触れる体、暖かい体、生きている体、憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎らしいわ殺してヤル!」

 

 

憎悪、嫉妬、憤怒、絶望…それ等の負の感情全てを混ぜ合わせ、濃縮させたような表情を浮かべながら、千夏の怨霊は吼える。

 

 

「ひ!」

 

 

思わず渚が悲鳴を上げる。

 

 

鋭い怒声だけで、背筋に凄まじい寒気が走り、数歩後ずさってしまう。

 

 

「も、もう無理です! 今やらなければ……七海さんがっ!」

 

 

「ま、……………待って…………!」

 

 

槍を構えて掛けつけようとするアマテラスを、七海は息も出来ず苦しげにしながらも、必死で片手を伸ばして制する。

 

 

「これは違う……何かの間違い、だって……、私達、分かり合えるはず………。」

 

 

「無理です! 無理なんですよ! もう諦めて下さい! でないと、でないと貴方は……。」

 

 

「そんなことない……。」

 

 

「息も出来ない、肌を刺すように冷たい、一筋の光も入らぬ沼の底!」

 

 

七海の言葉を直近くで聞いているにも関わらず、言葉が届かない様に既に悪霊と言う言葉が生温く感じるほどにその表情を憎悪に歪め、

 

 

「私を苛めた奴、嫌った奴、笑った奴、蔑んだ奴、知ってて助けなかった奴!」

 

 

 

(…随分と醜いことだな…。)

 

 

千夏は彼女を死に追いやった全てへの憎悪を噴出させる。亨夜はただ一人能面のような表情で冷徹にそんな憎悪と苦痛の叫びを聞いていた。

 

 

(…オレも…あんな顔をしていたのか…? …それにしても…これが…。)

 

 

不思議なほど冷静に…今の千夏を復讐者としての自分を映す鏡のように観察しながら、

 

 

(…『堪忍袋の緒が切れる』って感覚か…。)

 

 

完全に…キレていた。

 

 

 

「気付きもしなかった奴!」

 

 

今までで一番強い絶叫と共に七海の首を絞めていた手に力が入る。

 

 

「千夏ちゃ……お願い……もうやめ………。」

 

 

「同じ目に合わせてやる! みんな私と同じになればいい! 殺してやるっ、私と同じ世界に……引きずり込んでやる!」

 

 

「……ち……なつ……ちゃ……。」

 

 

七海の声がどんどん小さくなって行く…最早限界だろう。

 

 

「………、もう限界です!」

 

 

アマテラスが槍を構えて千夏に突進しようとした瞬間、彼女の横を蒼い影が通りすぎ、足元の水溜りに解放された七海が落ちた。

 

 

「ぎぃああああああああああああああっ!!!」

 

 

遅れて千夏の絶叫が響き渡る。

 

 

「……けほっ、こほっ。」

 

 

咳き込みながら顔を上げる七海の目に映ったのは……、

 

 

「……先……輩……。」

 

 

「…悪い…七海ちゃん…これ以上は無理だ。」

 

 

片腕を切断されて悲鳴を上げる千夏と、双剣によって千夏の片腕を斬り飛ばし、背中で七海謝る亨夜の変身したライダーフォームの仮面ライダーガタックの姿だった。

 

 

「せ、先輩っ………ダメッ!」

 

 

「恨んでくれていい、嫌ってくれてもいい……。でもさ…もうダメだ。もう手遅れなんだよ、七海ちゃん。」

 

 

「そんな………。」

 

 

「七海ちゃんを殺させる訳には行かない、オレ達は退く訳には行かない…。」

 

 

「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

 

「黙れ!」

 

 

憎悪の叫びを上げる千夏を一喝し、

 

 

「お前だけが苦しんだと思うな! お前は…残された者が…七海ちゃんがどれだけ悲しんだか、苦しんだか…知っているのか!?」

 

 

「憎い憎い憎い……私を脅かす全てのものが憎い……。」

 

 

苦痛の中で、親友への気持ちを告げようとする七海の言葉も聞かず、そんな彼女を一方的に痛めつける千夏への怒りを込めて…

 

 

「…自分の都合で誰かを傷付け…。」

 

 

初めて変身した時の事を思い出す様に…

 

 

「…自分を思ってくれている相手の言葉も聞かずに、傷付ける…お前を…オレは絶対に許さない!!!」

 

 

ガタックダブルカリバーを構えながら怒りと共にガタック(亨夜)は宣言する。

 

 

「殺してやるぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

「…アマテラス。」

 

 

「は、はいっ……。」

 

 

自分の名を呼ぶガタックの声に、アマテラスは慌てて返事をする。

 

 

「こいつの弱点は!?」

 

 

「……水の悪霊は肉体の損傷を一瞬で修復できますが、無限に出来る訳ではありません。見るところ、どこにも逃げ場はありません。動けなくなるまで徹底的に破壊すれば大丈夫、倒せます。」

 

 

アマテラスの言葉が響き、

 

 

「渚、綾香さん!」

 

 

「う、うん。」

 

 

「分かったわ。」

 

 

ガタック(亨夜)の指示で渚と綾香の二人も武器を構える。

 

 

「…みんな…行くぞ! この怨霊を……倒す!!!」

 

 

「そ、そんな……待って!」

 

 

「……分かってくれとは言わない。でも、これ以上は待てない!」

 

 

七海の気持ちも理解している。…だが、もうこれ以上は待つ事は出来ないのだ。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ……。」

 

 

ガタック(亨夜)達がそんな会話を交わしている間に、切り裂かれた腕の痛みに苦悶していた千夏が、天を仰いだかと思うと、

 

 

「許さないっっ!!!」

 

 

泥を吸い上げ、新しく右手を再生させ、そのまま亨夜達へと突進していく。

 

 

「やれるものなら…やってみろ!!!」

 

 

千夏は勢い良く水柱を上げながら、真っ直ぐに自分の腕を切り裂いたガタックへと向かって行く。

 

 

「っ!?」

 

 

迎え討とうとしながら直感的に危険を判断して、横へと大きく避ける。それによって対象の居なくなった千夏の攻撃は地面を砕くだけで終わったが、

 

 

(…女だと思って油断してたら危険だな…。)

 

 

ネノクニに来てから危険ではない戦いは無かった。だが、外見によって油断してしまいそうな目の前の敵の脅威度は、有る意味では学園や森で戦った楓や桃花よりも高いだろう。………それだけではなく、怨念が力でも与えているからなのだろうか、以前戦った二人よりも強く感じてしまう。

 

 

追撃を加え様と向かってくる千夏にガタックはガタックダブルカリバーを構えて、カウンターの体制を取る。

 

 

だが、ガタックが動くよりも早く…千夏が完全に動く前に、千夏の左腕に矢が突き刺さった。

 

 

「ぐぅあああああああああああああっ………。」

 

 

「………。」

 

 

この中で弓を武器としている人間は一人……当然ながら、それは七海の放った物だった。

 

 

「な、七海ちゃん。」

 

 

「……もう、ダメだと言うのなら……。」

 

 

新しい矢を取りだし、

 

 

「他の人には任せられない。せめて私の手で……ケリをつけるっ!!!」

 

 

弓を構え彼女はそう宣言した。

 

 

「七海ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

絶叫する千夏…それが…悲しき戦いの始まりを告げたのだ。

 

 

「皆……死ぬの………!」

 

 

彼女の力なのだろう…そんな言葉と共に氷や水流が亨夜達を襲う。だが、

 

 

(…クロック・アップを使う必要も…無い!!!)「はあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

ガタックダブルカリバーを構えながら、氷と水流を回避しながら、ガタックは千夏へと肉薄する。

 

 

「くっ!」

 

 

悔しげに表情を歪めながら、千夏は攻撃を止めてガタックの攻撃を回避する。

 

 

「くらえー!!!」

 

 

「えーい!」

 

 

綾香が投げた火の勾玉が千夏が怯んだ隙に渚の突きが千夏の体制を崩す。

 

 

「覚悟!」

 

 

「はぁ!!!」

 

 

続けてガタックの剣とアマテラスの槍の一閃が『×』を描く用に振るわれる。

 

 

「痛い……痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 

 

「いけない、皆さん、下がって!」

 

 

アマテラスの警告が響くと同時に、ガタックを含むパーティーに氷を含んだ水流が襲いかかる。

 

 

「っ!? 綾香さん、七海ちゃん、逃げて!」

 

 

後に居る二人に警告の叫びを上げ、急いでその場から離れようとするが…前列に居た三人は水流に飲み込まれていく。

 

 

「く…油断した。」

 

 

「うう…い、痛いわね。」

 

 

「ここまでの力が有るとは…。」

 

 

ガタックの装甲に守られている亨夜は兎も角、生身で直撃を受けた二人のダメージは大きいのだろう、そう考えて桃花の勾玉を取り出す。

 

 

(…桃花さん…もう一度、頼む!)

 

 

『はい、お任せ下さい!』

 

 

―ホーリーブレス!―

 

 

桃色の輝きが三人を包み込む。完全に回復とまでは行かないだろうが、十分に動けるまでは回復しただろう。

 

 

「これは…亨夜さん。」

 

 

「亨夜、あんた、そんなの持ってたの?」

 

 

「まあな。追撃を受けるのは拙い。行くぞ!」

 

 

「はい!」

「分かったわ!」

 

 

完全にダメージが消えた訳ではないが、回復して立ち上がった二人にそんな声をかけ、ガタックは千夏へと視線を向けると、既に千夏は追撃の体制に入っていた。

 

 

「っ!? 拙い!」

 

 

再び水流を放とうとする千夏へと近づくガタックだが、クロックアップの使えない今のガタックではそれを止める事は出来ないだろう。だが、

 

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

 

肩に突き刺さる矢によって妨害されていた。

 

 

「千夏ちゃん…ごめんね。もう貴方を傷つけるのも、貴方が誰かを傷つけるのを見るのも嫌…。」

 

 

泥水で汚れた弓道着で七海は弓を持ちながら、悲しみを浮かべながらそう呟き崩れ落ちる。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

その隙を逃さず、ガタック(亨夜)は千夏との距離を詰める。

 

 

「だから…先輩…千夏ちゃんを……止めて下さい!」

 

 

ガタックの双剣による連撃が千夏を切り裂いていく。人の形をした彼女を切るのには抵抗が有るが…それでも、切った所から泥水へと変わっていくので、抵抗感は少なくてすむ。だが…

 

 

(…こんな罪悪感を抱くのはオレだけでいい…。)

 

 

人を切ったと言う罪悪感は微かにだが浮かんでくるのだ。だから…どれだけ恨まれようとも…この役だけは他人に譲る訳には行かないのだ。罪悪感を背負うのは自分だけで十分だ、と。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ………。」

 

 

元の姿に戻りながら千夏は苦悶の表情をあげて、水溜りの中に倒れ、のた打ち回る。トドメを刺そうとベルトのガタックゼクターに振れた時、すぐに手を離す。既に大勢は決したのだから。

 

 

「……千夏ちゃん!」

 

 

倒れる千夏に駆け寄る七海を見て、止めるべきかとも迷ったが、そうする必要は無いだろうと言う考えへと至る。

 

 

「千夏ちゃんっ!」

 

 

七海は倒れる彼女を力一杯抱きしめる。

 

 

「痛い……苦しい……みんなが私をいじめるよぉぉ……。」

 

 

「ごめんね、千夏ちゃん、ごめんねっ……。」

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁ……七海ちゃん……貴方も……。」

 

 

最期の力を振り絞って、千夏の腕が七海の背中に廻される。

 

 

「せめて、貴方だけでも、道連れに……。」

 

 

「っ!? 七海ちゃん!!!」

 

 

千夏のその言葉にガタックは慌てて駆け寄ろうとするが、

 

 

「来ないで!」

 

 

それを七海が鋭い叫び声で拒む。

 

 

「…………。」

 

 

「七海ちゃん……一緒に……一人は……もう嫌だよ……。暗いよ……ここは暗くて、痛いんだよ……。誰も私を分かってくれない……。」

 

 

みしり、と、七海の背中が嫌な軋み音を立てる。

 

 

「ぐぅっ……!」

 

 

「誰も私を愛してくれない……。」

 

 

どこにそんな力が残っていたのか、千夏は凄まじい力で七海を締め上げる。

 

 

「だったら私は、全てを壊そうと……私と同じに、闇へと返そうと……。何もかもが……憎かったから……。」

 

 

「………。」

 

 

千夏の独白を聞きながら、七海の瞳から涙が一滴零れ落ちた。

 

 

「千夏ちゃん……分かったよ。」

 

 

「……えっ?」

 

 

紡がれる言葉は七海の嘘偽りの無い“決意”。

 

 

「一緒に行こう……沼の底へでも、地獄へでも、どこへでも私は行ってあげる……。」

 

 

「……七海……ちゃん……?」

 

 

それはきっと、千夏の力の十分の一にも満たないだろう。だが、七海はありったけの力と思いを込めて、千夏の体を強く、強く抱き返した。

 

 

「分かってるよ……苦しかったんだよね、哀しかったんだよね。……全てに見捨てられた気がして、何も信じられなくなって……。」

 

 

「………。」

 

 

「貴方の痛みは貴方だけの物だから、私は貴方にはなれない。同じになれないけど……。」

 

 

「……七海ちゃん……。」

 

 

「せめて、一緒にいよう……手を繋ごう。闇の中でも、お互いの温もりだけは感じられるように……。」

 

 

「……私は、貴方が憎くて、殺そうとして……。」

 

 

「そんな事ない、ある訳無い……分かってるよ。」

 

 

「だって、だって……。」

 

 

「いいのよ……。」

 

 

「……本当に私と一緒に、来てくれるの?」

 

 

「うん。」

 

 

「でも……どうして、そこまで……。」

 

 

不思議そうにそう問いかける千夏に、七海はそっと腕を上げ、千夏の髪の毛をなで上げる。

 

 

「だって私達、友達じゃない……。」

 

 

七海を抱きしてめいた千夏の両腕が力無く解け、彼女の体を亨夜(ガタック)達の方向に突き飛ばす。その表情はどこか安堵した様に微笑んでいる様にも見えた。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

その次の瞬間、千夏の体は無数の針に貫かれた。

 

 

「千夏ちゃん!」

 

 

「ダメだ!」

 

 

全身を貫かれた千夏に慌てて駆け寄ろうとする七海をガタックが止める。…今まで彼等の様子を伺っていた気配の主から七海を庇って、千夏は身代わりとなった。

 

 

「ひ、ひぃぇぇえ。」

 

 

「な、なによ…この化け物…。こいつも悪霊の仲間なの?」

 

 

「い、いえ…このような化け物は見たことがありません。」

 

 

人型をした蜂とでも言うべき外見の化け物…今までアマテラスが見た事のあるサナギ体のワームの脱皮した姿である成体のワーム…『ホーネットワーム』。

 

 

「先輩…あれって…まさか…。」

 

 

ただ一人亨夜から話を聞いていた七海だけがそれがなんであるか理解できていた。

 

 

「…ああ…。間違いない…あれは…成体の…ワームだ。」

 

 

ガタックの仮面の奥でワームを睨みつけながら、亨夜は憎しみを込めた声で七海だけに聞こえる様にそう告げる。

 

 

そして、『次は自分が相手だ』とでも言う様な態度で、ホーネットワームが全身を針に貫かれ、倒れ伏す千夏を踏み砕き、亨夜達の前に立つのだった。

 

 

つづく…





千夏戦終了の第三楽章の五話でした。



翔「本来ならあそこで終わる所で、ワーム登場か。」



はい、オリジナルのワーム、ホーネットワームの登場です。



輝「今回のワームの登場のタイミングって、ある意味最悪のタイミングじゃ…。」



間違いなく最悪のタイミングでの登場ですね。それでは、次回をお楽しみに。




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