IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
千夏がホーネットワームに貫かれるまで存在していた場所に、七海は立ち尽くしていた。
「千夏ちゃん……私達は友達だよ……何があったって、それは絶対に変わらないよ……。」
それは、最後の最後で七海をホーネットワームの攻撃から庇い消えて行った友達へと告げられる別れの言葉。
「うっ……うっっ、千夏ちゃん……千夏ちゃん……っ!」
七海は小さな肩を震わせながら……自分を庇って散った友人の名を呼びながら、ただ、友を思って泣きじゃくる。
七海が落ち着くと、亨夜達はここに来た本来の目的を果たすべく動き出す。
「では、始めます。」
あの後、亨夜達は千夏とホーネットワームと戦った場所の奥にある角の様な岩の前に有る宝玉が祭られている祭壇の前へ移動した。アマテラスが言うにはここに青龍が祭られているらしい。
「これが青龍の祭られている祭壇です。悪霊は去りましたから、もう封印は解けているはず。」
「それで、オレ達はどうすればいいんだ?」
「亨夜さん、宝玉に手を触れてください。青龍が現れ、貴方に力を与えてくれるはずです。」
「分かった。」
頷いて答えると、亨夜はアマテラスの言葉に従い、宝玉に近づき手を触れる。
「っ!?」
亨夜が宝玉に触れた瞬間、眩い輝きが鍾乳洞を満たす。思わず突然の出来事に身構えてしまう。
「大丈夫、危険は有りません。」
「そ、そうなのか?」
今更ながら罠とは思って居なかったが、微笑みながら告げられるアマテラスの言葉は何よりも心強く、安心感を与えてくれる。
「ほら、見てください。」
「あっ。」
アマテラスの言葉に従いそちらへと視線を向けると、そこには青い光に包まれ何かの人影が出てきた。
鱗の様な青く輝くチャイナドレスを纏った青くも銀にも見える長い髪の美しい女性が、中空から亨夜達を見下ろしながら、微笑んでいた。
(…四聖獣って言うくらいだから、動物の様な物を想像してたな…。)
思いっきり青いドラゴンを想像していた亨夜にしてみれば、意表をつかれた結果となった訳である。
「私の名は青龍…卑しき悪霊共の手に堕ちたこの身、助けて頂き感謝します。」
「いえ、礼には及びません。我々も貴女の御力を貸して頂きたく思い、ここに参上いたしました。」
「え…えっと…亨夜?」
青龍の言葉に一礼し亨夜は失礼の無い様に言葉を続けていく。そんな亨夜の態度に唖然とした表情を浮かべている渚。…そもそも、アルバイトとは言えゼクトにおけるライダーの一人、時々だが直接の上司よりも高い立場の人間に会う事も有り、何気に礼儀には気を使っている方なのだ。
「ええ。アシハラノクニに戻りたいと言う貴方の願いの為、力をお貸ししましょう。四聖獣全てを解放し、私達の分け与える霊力を全てその巫女の体に集めた時、貴方達は世界の狭間を乗り越える力を得るでしょう。」
そう言って、最後に青龍は亨夜の方を見て優しく微笑む。
「それでは、その日まで、暫しのお別れです……。」
再び眩い光を放ち、何かが飛び去るような『キィィィン』と言う音を残して、青龍は姿を消してしまった。
「……随分と簡単に終わったけど、これで良かったのか?」
「ええ、青龍は反魂の術に協力してくれると約束してくれました。」
「ええ、あれだけなの? 何かつまんないわね。」
随分と罰当たりな事を言ってくれる渚だった。相手は神様のような存在だと言うのに。亨夜としても多少それについては同感なのだが。
「四聖獣の一つ、青龍に力を分け与えて貰えるなんて、とても名誉なことなんですよ?」
「まあ確かに神様に直接有って力を貸して貰えるなんて…そうなんだろうけどな。」
驚愕と憮然の中間の様な表情を浮かべているアマテラスにフォローをしつつ、亨夜は苦笑を浮かべる。
「とにかくっ、あと三つの聖獣とやらを解放すればいいんでしょ?」
「いや、もう少し神秘的な存在への畏怖の念とか見せた方がいいんじゃないか?」
どう考えても亨夜には一番縁遠い言葉である。
普段から超科学の産物であるガタックゼクターを相棒に、地球外生命体のワームと戦っていると言うSFな状況の中に身をおいているのだし。今までの彼なら『馬鹿馬鹿しい』と一笑に付して居ても可笑しくは無いだろう。
「やらって……ええ、まあ、そうです。」
渚のどう考えても罰当たりな物言いに少し不満が有りそうなアマテラスだったが、
「そうだね!」
「がんばろっ!」
笑顔で告げられる渚の言葉と、それに続いて告げられた綾香の言葉。
あと三つも同じ様な戦いが残っている。敵の抵抗も強くなっていて、罠も仕掛けられているだろう。だが、仲間達と共に戦うだけ。元の世界に帰る為に…ライダーとして果たさなければならない使命を果たす為に。
(…それにしても…なんだったんだ…あの姿は?)
思わずそんな事を疑問に思う。『エレメントフォーム・ポイズン』、楓の力を借りた姿らしいが、ガタックゼクターにもベルトにもそんな機能は無い。そもそも存在している世界が違うのだから、使える訳も無いのだが…。
(…いや、今は余計な事を考えている時じゃないな…。でも、ここで成体のワームが居たと言う事は他の場所に居る可能性も高いな…。まったく…妙な外来種を持ち込むなよ…あの二人。)
ワームが存在していた事を考えると、この世界に着たであろう最大の原因であるカブトとサソードの二人の事を思い浮かべて『#』マークを頭に貼り付ける亨夜だった。
「はぁ~っ、やーっと、出られたよ!」
背伸びをして嬉しそうにはしゃぐ渚。
青龍の洞窟を出る時には、一度も悪霊とも出会わず簡単に出ることが出来た。アマテラスが言うには、青龍が開放された事により、悪霊達は逃げていったらしい。
…例外的に悪霊ではないワームの存在を気にしていたが、その心配は皆無だった様で亨夜は安心した。
「おい、あんまり一人で先に行くなよ、みんな疲れてるんだ!」
「だって、お日様さんさん、嬉しいじゃない。ようやく、お日様の下に戻ってきたわ~。」
「あー、風が気持ち良い~~。」
渚と同じ様に嬉しそうにはしゃぐ綾香。確かに亨夜も二人の気持ちが分からない訳ではないのだが、
「やれやれ、渚は兎も角、綾香さんまで…。」
思わず呆れながら思っていた言葉が口から零れるのだった。
「むっ……。」
何時もと変わらないバカな遣り取り…。だが、悪霊と言う怪物達との戦いや、七海ちゃんの親友との戦い…そして、本来居るべき世界ではないネノクニに居るワームとの戦いを経て一時的とは言え戻ってきた日常の一コマが亨夜には心地よく感じられた。
「……クスクス……。」
そんな亨夜達の遣り取りを見て、浮かない顔だった七海が小さく可笑しそうに笑う。
「笑うなんて、酷いな、七海ちゃん。」
「ご、ごめんなさい……だって、可笑しくて……。さっきまで命懸けで戦っていたのに、もうこんなに楽しく笑い合えて……。………。」
命懸けで戦った後に楽しく笑い合うのは、アシハラノクニでもワームと戦っていた亨夜にとっては日常の一コマと言えるだろう。それが戦う上で最も大切だと矢車に教えられた。そんな一時を守る為に自分達が居るのだと。
「あの子もこんな風に笑い合える友達がいれば、あんな事にならなかったかも知れないですね。」
「…そうかもしれない…。でも、結局、一度済んだ事は戻らないさ…。それに…。」
七海の言葉に答えた後、そこまで言って言葉を一度だけ切る。ハイパーゼクターさえ有れば…それを使いこなしさえすれば、済んだ事を戻す事も出来るだろう。だが、そんな事は何度も使って言い訳ではない。
亨夜は七海の手を優しく握る。自然と体が動く。こうするべきなのだと。
「あの子は最後に手に入れたさ。」
「えっ……。」
「自分の事を心から心配してくれる人、分かってくれる人、傍にいてくれる人…。…時に自分よりも大切な、『親友』、って奴をさ……。」
「……そう……思っていいんでしょうか?」
「ああ。だから、あの子は救われた。それはオレが保障する。」
何処まで保障できるか分からない。そもそも、自分にとっての親友…剣とは友人ではあるが、少なくとも…龍牙とだけは友達ではない。友達ではなく信頼している相手…奇妙な関係の相手だ。そんな相手しか居らず親友と呼べる相手は居ない。だけど、言い切れる。
あの時、ワームが邪魔さえしなければ、彼女は笑いながら消える事が出来たと。救われることが出来たと。
「……はいっ! 先輩、ありがとうございます……。」
七海が笑った。千夏と再会してから久しぶりに見た満面の笑顔だった。亨夜の守りたい景色が…復讐以外で戦う目的に出来るものがそこにはある。
まだ少しだけ泣きそうな笑顔だが、その笑顔は今までの中で一番美しい、愛らしく感じられた。
そんな七海の手を少し乱暴にだが引っ張りながら、
「ほら、そろそろ行こうか。渚がさっきから手を振ってる。」
「あっ、はいっ……ちょ、ちょっと待って……。」
亨夜の視線の先には手を振っている渚と『早く来い』とでも言う様にクルクルと上空に円を書きながら飛んでいるガタックゼクターの姿があった。
手を繋いだまま、荒野を歩く。
(七海ちゃんと手を繋いで歩くのなんて、これが初めてかもな。)
柔らかで、優しく、暖かい手……。その手を引いて亨夜は仲間達を追いかけ、走る。その温もりを忘れずに居たい、そう感じながら、『蒼き復讐者』は…いや、『蒼き戦士』は一歩を踏み出していく。
???
ネノクニの奥深く…暗闇の中、祭壇の様な物が存在する場所にある幾つかの人影、
「ふん、お前の手下はしくじったようだな……ツクヨミ。」
「……。」
亨夜達と森の中で出会った少年・スサノオが誰かへと告げる。
「サトリとか言ったか、人の弱みをコソコソと探るしか能の無い下衆よ。」
スサノオよりも歳を経た男の姿をした悪霊―サトリ―は、スサノオの言葉に悔しさを隠しきれずに言葉を繋いだ。
「……失敗したのは真にございます。返す言葉もありませんが……。」
「ふん、何か言いたい事が有りそうだな……言ってみろ、下賤のものよ。」
「では、恐れながら申し上げます。そもそも敵の弱きを突くのは兵法の常道。卑怯と言われようが下種と謗られようが、最後に勝てばよいのではございませんか?」
悔しげに唇をかみながら告げられる言葉を鼻で笑い飛ばし、
「勝ってから言うセリフだな。下衆の知恵であれ何であれ、お前の策が敗れ……母上の封じた四聖獣どもの一角が解き放たれたのは事実。そうだろう、サトリ? まだ、あの『化け物共』の方が使えるんじゃないのか?」
呆れ半分で、そう言い切る。
「ぐっ…。」
「ツクヨミよ、奴等の始末、お前の顔を立てて任せてやっているのだぞ。」
「貴方には貴方の任務が有るはずよ、スサノオ。」
『ツクヨミ』と呼ばれているもの-声の響きから考えて女-は初めて口を開く。
「言われずとも、準備は万端。人間共を存分に蹴散らしてくれるわ……お前等と違って正面からな。」
「あの村を守っている二人の男に、貴方の手下になった化け物達が何匹も倒されたと言うのに?」
ツクヨミと呼ばれた女の言葉にスサノオは忌々しげに表情を歪める。
「ふん、紅丸と同じ奴等を連れていた連中の事か? 構わん、どうせ、あの化け物共も拾い物だ。それに、奴等の戦い方で紅丸の力の使い方も分かった。」
「………スサノオ様!」
スサノオの言葉に割り込む様にサトリが口を開く。
「サトリ、お止し。今何を言っても、負け惜しみにしか聞こえないわ。」
ツクヨミは言葉に割り込む部下を諌める。
「いえ、ツクヨミ様、言わせて下さい。今一度、このサトリに汚名返上する機会をお与え下さいませ。」
「………。」
そう言って頭を下げるサトリにツクヨミは考え込む。
「ふん、また奴等に縁の物を亡者に仕立て上げるのか?」
「それが、我等の戦の流儀にございますれば。」
「ははっ、敵と刃を交えた事も無い臆病者が、このオレに戦を語るか?」
「……私自ら出ます。」
嘲笑するスサノオに、サトリは覚悟を決めた口調でそう答える。
「ほう。」
「この身に変えても、奴等の息の根を止めて見せましょう。………私のやり方で。」
「常に裏からの策を得意とする、臆病者のお前がか? 面白い、やってみろ。」
「では、あの化け物達の中から一匹ほど着けて上げるわ。好きに使いなさい。」
スサノオとツクヨミ、二人の男女の言葉を聞きながら、サトリと呼ばれた悪霊は闇に溶けて消えた。
「……。良いのか? あいつ、死ぬかもしれんぞ。お前の右腕だろう?」
「右腕……? ふふっ。」
何を言うのかと言う様子で笑うツクヨミ。
「何が可笑しい!?」
「私の右腕はここに有るわ。それに死んだ時の保険もちゃんとつけて有りますよ。」
そう言ってツクヨミは自分の右腕を軽く叩いて示してみせる。
「……ふん、奴もまた捨て駒か。」
「あら、あの化け物の方が使えると言ったのはスサノオ様では? 中々面白い使い道も有りますしね。」
「人間共の村にあの化け物を入り込ませて内から殺し合わせる事がか?」
「あら、その事? 人間に化けて自然に入り込める能力、互いに疑い合い殺しあう姿は中々愉快だったわ。」
「ふん、女狐が。」
侮蔑する様に言い切るスサノオだが、ツクヨミは芝居が掛かった仕草で目元を隠しながら座り込み。
「酷い、あの娘達には優しいスサノオ様が、私にはそのように。私とて、同じ女だと言うのに。」
「女狐にかける物などない!」
闇に蠢く者達。輪廻の奥で歪な生を貪る者達…『悪霊』と呼ばれる者達は暗躍は続く。
つづく…
第三楽章終了です。
翔「色々と後味の悪さは残ったけど、最後は幸福に終わったな。」
輝「確かに。最後には救われたんだろうな…あの子も。」
そうですね。原作IZUMOではもっとはっきりと『救われた』と言える終わり方でしたけどね。アマテラスの村で一時の休息を終えて、次に彼等が向かう場所は第二の四聖獣、玄武の神殿と一緒に向かう事となった龍牙(カブト)。
輝「それでは、次回、第四楽章『追いかけてくる過去』…それでは、お楽しみに。」