IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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序曲-閑話-

ガタックゼクターが吊り下げている携帯電話の着信音に気が付き、亨夜は表示される文字を確認する事無く電話に出る。

「はい、もしもし。」

『あっ、先輩、こんばんはっ、夜分遅くにごめんなさい。』

ZECT関連の知り合い一同が聞けば他人と間違う事間違い無の気安い口調でそう告げる。電話の先にいる相手はライダーとしての自分を知る者ではなく『幼馴染』と言う間柄の相手、七海だった。

彼女は亨夜に偶に電話を掛けて来るが、頻繁に電話をかけている相手はクラスメート美由紀だろう。夜中に何度か話している声が聞こえてくる。

思ってみれば、彼女、『水瀬 七海』は『成績優秀』、『眉目秀麗』、加えて素直で人当たりも良く優しい性格と、非の付け様の無い出雲学園一の美少女等と考えている。加えて、『本来なら、自分のような人間が近付けるような相手出は無い』とも。

間に美由紀と言う存在が有る事でこうして友人関係になっているのだ。………と亨夜は考えているが。

(まあ、見た目だけなら美由紀や渚も十分に学園でもトップなんだろうけどな。 by亨夜)

等と本人達に聞かれたら、間違い無く殴られたり、剣を向けられたりする事間違い無しな危険な事を考えた事が有った。

「いや、別に良いよ。七海ちゃんと話すのは楽しいし。」

『えへへ、そうなんですか? 嬉しいです。』

弾んだ声が電話の向こうから聞こえてくる。それを聞きながら何時の間にか亨夜の表情も柔らかい物へと変わっていた。

「今、どうしてるの?」

『お風呂上りです。自分の部屋のベッドの上。』

「そう。風邪引かない用に気をつけてね。」

『はい。頭も乾かしてるし、大丈夫です。』

「そう。」

『えへへ、亨夜先輩優しいですね。』

龍牙を始めとする知り合いが聞いたら絶句する事間違い無の単語と亨夜の姿が彼の部屋の中では飛び交っていた。そして、唯一両方の亨夜の顔を知るガタックゼクターだけはただ部屋の中を旋回しているだけだった。

「…それで、今日は何か話したい事があった?」

『あ、はい、………うふふ。』

スピーカーの向こうから『シャアア』っとカーテンを開く音が聞こえる。そこから連想される事は一つ。

『亨夜先輩、外見てください。』

「ああ。」

昼間話していた皆既月食の事だろうと当たりをつけてそう答えると窓を明けて空を見上げた。

「おお。」

『これを先輩と一緒に見たかったんですよ。』

空一面に広がっているのは文字通りの満天の星空、それは宝石を散りばめたような…零れ落ちそうなくらい、いつもの何倍もの数の星々が輝いていた。ワームを運んできた渋谷隕石もこの中に存在していたとは思えない程の美しい光景だった。

『お月様、見てください。』

視線を動かして月の有る場所を探すと…そこには…。

「赤!?」

そこに有ったのはカブト=龍牙を連想させる様な鮮やかな赤い月だった。真紅に染まった満月は見様によっては不気味な輝きを亨夜達に見せていた。

何故か思い起こすのは二度も見た夢の中の月。赤くこそは無かったが禍々しく見えた事を思い出させる。

『皆既月食だからなんですよ。月の光が届かないから、普段は見えない様な暗い星でも今だけはこうやってよく見えるんです。』

「………すごいな。」

『昨日ラジオで聞いて、楽しみにしてたんですよ。幸い、お天気も良かったし。』

電話の向こうで七海の嬉しそうな声が聞こえてくる。

「ありがとう。いいもの見せてもらって。」

大宇宙の神秘に感動しつつ、亨夜は七海へと礼を言う。

『どういたしまして。…うふふ、きっと隣で美由紀ちゃんも見てますよ。』

「ん?」

ベランダに見を乗り出してみると、窓際で亨夜の方を見てニヤニヤとしている美由紀の姿が見えた。

「…ホントだ…。」

「お兄ちゃん、あんまり乗り出すと危ないよ。」

「これくらい対した事無いさ。」

そんなやり取りが電話の向こうの七海にも届いたのか、楽しそうに笑っている。それは本人は決して認めないだろうが…亨夜が何よりも大切にしている…もう一つの…一番となりつつある『戦う理由』

『えへへ…あと三十分くらいは月食が続きますよ。』

「へえ、そう言うのは事前に分かる物なのか。こう言うのって何年に一度位あるの?」

『皆既日食は珍しいんですけど、皆既月食の方は数年に一回くらいあるんで、そんなに珍しくないんです。』

「へ、へえ。で、でも、昔の人なんかは驚いただろうな。予告も無しに行き成り月が消えて無くなるんだから。」

妙に勝ち誇った様子の龍牙のイメージを頭の中から追い出しつつ、そう問いかける。

『そうですね…。何か悪い事の予兆だとか考えて。きっと色々お祈りなんかしたんでしょうね。』

「祈りか…。」

祈り等は無意味な物の代名詞と考えている亨夜にしてみれば、理解できない考え方の一つである。

だが、それと同時に思い出すのは夢の中の少女。月光の元で必死に何かを祈っている…普段の亨夜が見たら滑稽に見えるそんな印象を思い出す。

「…そう言えば。不思議な夢を見たんだ。」

何故かそんな言葉がこぼれる。

『夢、ですか?』

「ああ。月の光に照らされた女の子が……多分、オレの事を呼んでいるんだ……。」

『不思議な夢ですねー。』

「うん。まあ、所詮は夢だから意味なんてないんだろうけどな。」

『そんな事無いですよ。夢って、その人の心の奥底の願望だったり、恐怖だったり、何かを反映している物なんです。』

「なるほど。……七海ちゃん、もしかして…夢判断とか好きなの?」

『はいっ。私も結構不思議な夢を見るから。』

「へぇ、例えばどんな?」

『えっと……例えばですねー。』

…それから暫くの間電話越しに亨夜と七海の二人はこれまで見た不思議な夢の話しで盛り上がった。

「………あはは……。ふぅ、だいぶ話し込んじゃったな。」

『そうですね。そろそろ月食も終わり見たいだし。』

見上げてみると既に地球の影から出ていったのか、赤い満月の左端から何時もの青白い輝きを取り戻していく。

「ごめん、通話料大丈夫!? ……これ、七海ちゃんから掛かってたよね?」

思わずそう叫んでしまう。この携帯電話自身ZECTとの連絡用でもあるので、支払は向こうが引き受けてくれているので、通話料は自分は一切掛からないんだが。

『あ、別に良いんですよ。気にしないで下さい。楽しかったし。』

「そうか? ならいいけど…。」

『……ふぅ。』

話し疲れたような溜息を吐いて、七海は最後に言った。

『亨夜先輩の見た夢、もしかしたら予知夢なのかもしれませんね。』

「予知夢?」

『これから亨夜先輩が会う事になる運命の女の子を夢で見たのかも。』

「まさか。」

実際、それに関しては今の自分には意味のない事と考えてしまう。自分にとって最初に出会うべき運命の相手は誰よりも妹の命を奪った最も憎いワームなのだから。何時までも妹の姿をしているとは限らない。だが…それでも…自分の記憶の中にある思い出が自分の持つ唯一の手掛りと知っているのだから。

『それとも、前世で亨夜先輩と恋人だった人の夢だったり。』

「ロマンチストだね……七海ちゃんは。」

亨夜は苦笑を浮かべながら言うと、

『女の子はみんなロマンチストなんですよ、先輩。』

そんな可愛い事を言う。だが、亨夜曰く、何人か失礼ながら似合わない人も知っているわけである…主にZECTの上司とか。

『……それじゃあ、おやすみなさい……。……また明日。』

「うん。また明日。」

そう言って電話を切って半ば頃まで元に戻っている月を見上げた。

(…予知夢か…。七海ちゃんには悪いけど…今は『奴を倒す瞬間』以外の未来なんて想像できないな…。)

そう呟いて再び月へと視線を向ける。

(なんだ!?)

ガタックゼクターと似たカブトゼクターと同じ赤いゼクターの映像(ヴィジョン)が浮かび上がる。そして、どこか陶器の様な印象を与えるバックルの付いたベルトを身に着けた自分と対して年齢の変わらないであろう少年の姿。

そして…ライダーフォームとなった真紅の『仮面ライダーガタック』が両肩のガタックダブルカリバーでは無く剣を武器に人間を相手に戦っている姿。

(やめろ!!!)

思わずそう叫ぶが声が出ない。

そして、最後に頭の中に浮かぶ映像(ヴィジョン)…それは…長剣型の武器を構えた…あの日…渋谷隕石の落ちた日に自分を助けてくれたガタックと似た青い『仮面ライダー』と色が赤い事意外には違いの無い…もう一人の仮面ライダーと対峙する姿。

《スタッグビートルパワー》

《キックホッパーパワー》

《パンチホッパーパワー》

《ザビーパワー》

《オールゼクターコンバイン》

ガタックに似た青いライダーの剣にゼクターがドッキングすると共に幻聴の様に聞こえる電子音。

「(なんだ…これ?)」

最後の言葉が聞こえたとも聞こえないとも取れない程の声で響くと同時に亨夜の意識は闇へと落ちていった。

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