IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
「………トォ………。」
龍牙の変身したカブトの姿を見た瞬間、ケタロスはそう呟く。その声に込められているのは『怨念』の感情だろう。
「…なに?」
クナイガンを構えながらケタロスの動きに注意を払っていたカブトだが、次の相手の行動に…
「カブトォォォォォォォォオ!!!」
「な!?」
カブトの名を叫び怨嗟の声と共に動き出す。それは感情に任せた暴走とでも言うべきだろうか…? それと同時にケタロスの動きは訓練された暴走していると言っても良い状態だというのに無駄の無い動き、それはケタロスの変身者が戦士としてのレベルが高い事を示している。
(やっかいな相手だな…外見から推測するとカブトの後継機…。スペックは最低でも互角か、カブト以上と言った所か…。しかも。)
攻撃を捌きながらカウンター何発か当てているが、それでもケタロスは痛みも感じていない様に怯む様子は無い。
(怒りに我を忘れているのが余計に性質が悪い。殴っても怯まないのは、な。しかも、尚悪い事に見た所…戦闘経験もオレ以上って所か?)
経験、能力、その両面で自身を上回っている相手に対して切り札を使うべきかと考えながら攻撃を捌くカブトだが、一瞬だけケタロスの動きが止まった。
「っ!?」
その隙を逃さずに反撃に移ろうとした瞬間、龍牙の本能がそれに対して危険だと警鐘を鳴らす。
「ライダービート。」
《RIDER BEAT》
そんな呟きと電子音と共に放たれたパンチをかわすと、先ほどまでカブトが立っていた黒曜石の床が衝撃音と共に粉々に破壊されていた。
「あれが奴の必殺技か…。」
変身前にカブトが弾いたクナイガンを拾い上げ、ケタロスは無言のまま緑色の複眼でカブトを睨む。
(亨夜の奴…いい加減加勢くらいはして欲しいな…。)
流石に一対一では少しだけ自分が不利かと考えながら、何時もなら直に割って入りそうな亨夜の乱入が無い事を不審に思って、ケタロスに注意を向けながら、進んでいた方向へと視線を向けると、
「嘘でしょう…。」
「あれほどの力を持っているなんて…。」
突然の襲撃者…それも亨夜達が変身したライダーと同じ姿の相手の乱入に対して、その様子を呆然と見守っていた渚とアマテラスの二人が呆然と呟く。
そうでなくとも、二人のライダーの戦いにはそう簡単には割って入れないのだろう。
「先輩も龍牙さんに加勢を…って、先輩?」
七海が亨夜の声が無い事を不審に思って後を振り向いた時、そこには亨夜と綾香の姿は無かった。
「皆さん、大変です! 先輩と綾香先生が居ません!」
「ええ、なんですって!?」
「そんな、何時の間に!?」
慌てて渚とアマテラスの二人が姿の見えなくなった二人の名前を呼ぶが返事は返ってこない。完全に分断された様子だ。
「あいつ…何処に言ったって言うんだ、こんな時に? まあいい…流石に未知のライダーシステム相手に少しは驚いた…だけどな、オレ一人で十分だ!!!」
「カブトォォォォォォォォオ!!!」
そんな叫びと共に互いにクナイガンを逆手に構えて走り出すカブトとケタロスの二人のライダー。
カブトがケタロスの攻撃の合間を縫って斬撃を浴びせるが、それに怯まずにケタロスはカブトへと攻撃を仕掛けていく。
同じ武器を持って、それで受け止めるのではなく互いに相手の武器を弾く形で切り結ぶ事はせずに戦いを進めていく。
「っ!」
「カブトォ!!!」
何より、戦闘中に相手の動きが変わった瞬間は最も注意する必要が出てくる。通常攻撃を必殺技の域に高めるケタロスの…カブティックゼクター共通の必殺技『ライダービート』は油断していると確実にカブトであっても一撃で葬り去られる事だろう。
そんなカブトの考えを読んでか、ケタロスはフェイントとしてライダービートの予備動作を交えて攻撃パターンを立てている。
それは…理性的な動きをする狂戦士(バーサーカー)と言うべきだろう。その組み合わせははっきり言って最悪と言う以外には無い。
何より、スピードを活かしたケタロスの戦い方と、同じくスピードと技術を活かして戦っているカブトとでは、戦い方が煮ている分だけ経験の差が大きく影響してしまっている様子であり、一号機のカブトを扱う、現行のライダーの中では経験値の量は負けていないと言う自負の有る龍牙の経験を相手は上回っている。
(…このままだと、負けるのはオレか…一か八か…。)
《ONE》《TWO》《THREE》
ここまま戦ったとしても、切り札を切らない限りは不利なのは自分だと判断し、カブトゼクターのスイッチを叩き、必殺技の体制に入る。
「ライダーキック!」
「ライダービート。」
《RIDER KICK》
《RIDER BEAT》
奇しくも同時に発動する必殺技、互いに響き渡る電子音。そして、横一線に構えたライダービートで強化されたケタロスの『アヴァランチスラッシュ』と飛び蹴りの体制で放たれたカブトの『ライダーキック』の二つが互いの中央で激突したのだった。
二つの必殺技の激突の衝撃が周囲の空間を揺らし、その中心地に居たカブトとケタロスを吹き飛ばす。
「ぐ…。」
「ぐ…!!!」
衝撃に吹き飛ばされながらカブトは地面を転がり、ベルトからカブトゼクターが外れ強制的に変身が解除される。
そのまま立ち上がると再びカブトゼクターを受け止め再度変身できる様にして、衝撃によって発生した煙の向こうにいるはずのケタロスの動きに注意を払う。
「……逃げて…くれた…のか……?」
暫くして煙が完全に晴れると、そこにケタロスの姿は無くなっていた。それは相手が『逃げた』のではなく、『逃げてくれた』、『引いてくれたと』考えるべきと判断し、龍牙はゆっくりと握り締めていたカブトゼクターを手放した。
「ちょっと、アイツはどうなったの?」
「逃げたのでしょうか…?」
「多分な。」
ケタロスが姿を消した形で決着が着いた事に安心した渚とアマテラスが龍牙に駆け寄ってそう問い掛ける。
「なんだったのよ…アイツ。龍牙…だっけ、アンタの変身してたのに似てたけど…何か知ってるの?」
「…いや、全然だな…。オレが知る限り、ライダーシステムは六種類、八つだけだ。あんな、ライダーシステム…いや、ダークカブト以外にカブトと同型のシステムなんて始めてみる。」
現在、ネノクニに来ている亨夜のガタック、龍牙のカブトと剣のサソード、元の世界に残っているザビー、ドレイク、キックホッパー、パンチホッパーのライダーが四人。そして、龍牙だけが知る皆既日食の世界に存在していた黒いカブト…『仮面ライダーダークカブト』だけだ。
その中でカブトと同型なのはダークカブトだけだが、ケタロスは同型と言うよりも発展型に当るだろう。
「…あれや悪霊の鎧が元々亨夜さん達の世界の物だとすれば…何故ネノクニにあるのでしょうか?」
アマテラスがそう零す。それはもっともな疑問だろう。ネノクニには無いはずのゼクターとライダーシステム…何故かそれが人間と敵対する悪霊の側の戦力として存在しているのか、疑問が尽きない。
「そんな事より、先輩達は…?」
「…居なくなった二人を探す為にも先に進むしかないだろうな…。無事なら向こうも先に進むだろうし、寧ろ目的を持って敵が連れて行ったなら、この先に居る可能性が高い。」
「私もそれが良いと思います。」
龍牙の意見に不安な表情を浮かべながらアマテラスが賛成の意思を示す。亨夜が居なくなったと言う事態は想像以上にアマテラスを含め彼女達に与えている影響は大きいのだろう、浮んでいる表情は暗い。それでも、アマテラスは四聖獣の開放と言う目的を優先させているのだろう。
(やれやれ…あいつも自分でも気付いてない所で、誰かを支えているみたいだな。)
そんな彼女達の様子を見ながらそんな感想を持ってしまう龍牙だった。そして、
(それにしても…あの銅色の仮面ライダー…。あいつは…なんでオレを狙った?)
ケタロスとの戦いの後を一瞥しながらそんな事を思う。
「…ここは…何処だ?」
意識を取り戻した亨夜がゆっくりと目を開けて行くと、そこに別の誰かが存在していた。
「っ!? お前は?」
目の前に居るのはガタックに似た姿の仮面ライダー。それが近くの壁に背中を預けて亨夜に背中を向ける形で立っていた。
「…始めまして…になるかな? 荒谷亨夜。」
ゆっくりと顔だけを亨夜の方に向けてそのライダーはそう告げた。
「…お前がオレをここに連れてきたのか?」
「…勘違いするな、オレは奴等の策を逆に利用してこうしてお前と接触してる。それだけだ。」
ライダーの言葉にある奴等とは悪霊達の事と考えられる。仮面の奥で嘲笑でも浮かべているのだろう、謎のライダーの声には嘲笑するような笑みがあった。
「聞きたい事が有るんじゃないのか? 例えば、ケタロスの事や赤いガタックゼクター、そして、ワームの事とか。」
「っ!?」
亨夜はライダーの言葉に驚愕の感情を浮かべる。確かに前の二つは疑問に思っていた事だった。
「知ってるのかよ?」
「…ああ…。とは言っても、時間が無いから多くは教えられない。」
そこで言葉を一旦切ると、謎のライダーは亨夜から視線を逸らし、次の言葉を告げる。
「だからこれだけは言っておく…。ワームについては龍…カブトの責任も有るだろうけど、ゼクターについて…全てはオレの責任だ。」
「っ!? どう言う意味だ!? 話によってはタダじゃ済まさない…。」
「…それを説明している時間は無さそうだ…。また何れ会う事も有るだろう…。」
「なに!? 待て!!!」
霧の様な白い靄に包まれながら、そこで亨夜は再び意識を手放していく…。
「亨夜ちゃん…起きて、亨夜ちゃん…。」
綾香の声が聞こえてゆっくりと意識を覚醒させると、亨夜の視界に綾香の顔が飛び込んできた。
「綾香…さん?」
「亨夜ちゃん、私達…。」
「みんなと分断されたみたい…だね。ごめん、龍牙と戦っていたケタロスに気を取られすぎてた…。」
「いいのよ。でも、『ケタロス』って呼んだけど、亨夜ちゃん…龍牙くんを襲った人の事を知ってるの?」
綾香の言葉に思わず『しまった』と思う。つい、起きたばかりだから意識が上手く働かなかったからなのだろうか、自然にケタロスの名称が出てしまった。
「…あー…えーと…。オレのバイト先で開発中のシステムの新型…その一つがあれに似ていたから…。」
「そうなんだ。」
嘘は一切無い。確かに亨夜がケタロスと呼んでいるのには、そう言う理由が有る。
「それより、ここって何処かしら?」
「うーん…玄武の城からは離れていないとは思うけどな…。」
『クックックッ……。』
「「!?」」
再び不気味な笑い声が響く。それと同時に感じられる寒気。
「またか!?」
『そろそろ、思い出したか………?』
(…さっきから言っていたのは龍牙の予想通り綾香さんに…だったのか…。)
亨夜はその声が今の状況で聞こえた事で、龍牙の予想が、声の主が言葉を伝えたかった相手が正しかった事を理解する。
『クックックッ…。思い出したか……?』
声が亨夜達に迫ってくる。
「なにが言いたい!?」
『俺がお前にした事を……。そして……。』
「い、嫌……。」
『お前が俺に、した事を……!』
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁ!!! やめてぇ!!!」
その叫び声に綾香の方を振り向くと、血の気が引いたように顔色を青くして耳を塞いで震えながら蹲ってしまった。
「…あ、綾香さん…?」
「もうやめて! ごめんなさい、謝るからぁっ……。」
「っ?」
「ううっ…。」
綾香は自分の体を抱えてガタガタと震えている。
普段の彼女から想像出来ない姿…それなりに古い付き合いでは有るが…亨夜もそんな彼女を見るのは…
(待て、なんだ…オレは…こんな綾香さんを…知っている!?)
初めてだと思っていたが、此処の中でそれを否定する己が居る事に気付いた。だが、それが何時だったのかまでは思い出せない。不完全な記憶が断片的に現在の状況に符合して何かの絵を作り出そうとしている。
頭を振って考えを無理矢理に消すと、一呼吸置き、そっと彼女の肩に手を置く。
「大丈夫、どこかで休もうか?」
「……き、亨夜ちゃん……。」
「っ!?」
亨夜の顔を見た瞬間、綾香は突然亨夜に抱きついた。それは見るだけなら恋人同士の法要にも見える。
「綾香…さん?」
「ご、ごめん……落ち着くまで……こうしてて……。」
「……。」
そこまで行けば簡単に気付く事ができる。彼女の様子がおかしい事に。酷く怯えて、ガタガタと寒そうに震えていて…まるで亨夜を抱きとめていなければ、そのまま何処かに消えていそうなくらい…儚く。
そこで、形が見えなかった絵が微かに形となろうとしていた。
(…前にも…こんな事が…あった…。…小さい頃…。)
『綾香お姉ちゃんがオレの事を抱きしめる。』
『「お姉ちゃん…どうしたの?」』
『時々綾香お姉ちゃんはこんな風になる。』
『「亨夜ちゃん…。」』
『綾香お姉ちゃんは……なんだか、今にも泣き出しそうにも見えるし、凛よりも弱く見えるし、何時もと変わらない様にも見える。』
『「綾香お姉ちゃん……。」』
(子供だった昔のオレには、綾香さんの事は何もよく分からなかった…。いつも甘えていたけど…なにも…知らなかった。いや、機にもしていなかった…けど。)
『「お姉ちゃん、どうしたの?」』
(そんな時、オレは綾香さんがどうしてそうなるのか…どうして、震えながらオレの事を抱きしめているのか…知りたくなった。でも…。)
『「……何でもない、何でもないの……。」』
(綾香さんの答えは何時もそれだった。抱きしめられる綾香さんの温もりは心地よくて…訳がわからないまま…その温もりに身を任せていた…。)
「…本当に休んでもいいから…無理はしないで…。」
亨夜がそう声をかけるとゆっくりと亨夜から離れ、微笑みながら言葉を続ける。
「大丈夫だって…ゆっくりしても居られないわ。」
「…だけど…。」
「早く皆と合流しないと。それに、これでも保険医よ、自分の体の事くらい自分で分かるから……心配しないで。」
亨夜に抱きついている間に少しだけ落ち着きを取り戻したのだろう、休憩しようと言う亨夜の言葉を聞かずに、そんな事を言って先を急ごうとする。
…確かにケタロスの存在や七海達の事は心配だ。だが…
「そこまで言うなら…。」
「うん、行こう!」
そう言って笑う彼女の笑顔が、何故か空元気に見え、亨夜は心配だった。
そう思いながら、思わず苦笑を浮かべてしまう。
(…オレが心配した所で…出来る事は無いか…。)
所詮、自分は誰かを傷付ける事しか出来ない『復讐者』であると考える。
所詮、憎悪と鮮血で彩られた茨の道を歩く事を選んだ時点で誰かを救う事など、支える事など出来る人間ではなくなったと…。
所詮、敵を砕くことしか出来ない人間なのだと…。
それを理解していても、復讐を捨てる事だけは出来ない。ワームに殺された両親や凛の事を忘れる事など出来ない。
ワームへの憎しみを捨てる事など出来ないのだ。
そして、己の魂は復讐に支えられていない限り戦う事など出来ないほど、弱く脆い。
しなやかさの無い強く硬い刃金ほど簡単に砕けるときには簡単に砕け散る物だ。
復習と言う支えを失えば…その時に残るのは…何も無い。
それが、『蒼き復讐者』としての…『荒谷 亨夜』を作り上げている物…。
それが、亨夜の復讐者としての仮面ライダーガタックを作り上げている大部分……。
つづく…
第四楽章『追いかけてくる過去』の三話目でした。
輝「…で、亨夜の件に出てきたガタックに似たライダーって、誰なんだ?」
謎の仮面ライダー、その正体についてはまだ秘密です。何故ネノクニにゼクターが存在しているのか、等々の疑問の鍵を握っているのが、彼ではありますけどね…。
翔「ケタロスってあんなんで良かったのか?」
…劇場版で唯一必殺技を出さずに大気圏から落下して散っていった不遇のライダーこと仮面ライダーメテオ(真)…。そして、何処がどうなったか、訓練された動きで戦うバーサーカー状態になってます。
浩平「で、今度はケタロスは何処まで落とされるんだ?」
翔「…悪霊達の本拠地当りに落とされたら、無駄に上下の幅が大きいよな;」
宇宙から黄泉の国までですからね…。それでは、次回もお楽しみに。