IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第四楽章 -6-

『「……綾香、文句を言うな……お前は、私のモノなんだ……。」』

 

 

『「………。」』

 

 

「…っ!? …これが…綾香さんを苦しめていた過去の…根源か…?」

 

 

亨夜はそう呟きながらガタックゼクターへと視線を向け、手の中にある木刀を握る力が自然と強くなる。

 

 

『この頃、義父の経営するファッションメーカーは、不況の煽りをまともに受けて、経営が悪化していました。両親の間に口論が絶えなくなり、家族の間がギスギスして行きました。』

 

 

独白の様に聞こえてくる綾香の声、肝心のこの映像を見せている敵も綾香の姿も見えない事が気になるが、彼女の心に巣くっている闇の部分を理解する為にもこれを最後まで見る必要が有るだろう。

 

 

『最初は私も、義父を励まし、強かった、頼もしかったあの義父に戻ってもらおうとしたのです。そんなある日の事でした……。義父は、私を……。』

 

 

『「綾香、お前は私のムスメなんだ……。私が拾ってやったから、今まで生きてこられたんだぞ。」』

 

 

『「……分かってるよ、お義父さん。」』

 

 

恫喝するような響きを持って告げられる言葉に返す綾香の声は全く感情の篭っていない棒読みな声、それだけでも、彼女の中にある『絶望』が理解できるほどだ。…この世界とは違う原典のカブトの世界の矢車がこの頃の彼女と出会ったら何と言うか分かるほどだ。

 

 

「…拾った…まさか…綾香さんも…。」

 

 

亨夜は男の言葉に不快感を覚える中そんな疑問を浮かべる。…七海だけでなく、綾香もまた養子として迎え入れられた。自分達の中の二人が養子とは、どう考えても偶然にしては出来すぎている。

 

 

『もう私は義父の顔も見ず、壁の微妙なデコボコが西日に当てられて作る複雑な印影模様を眺めながら、棒読みでそう返しました。』

 

 

『「お前なんか、俺が居なかったら……俺がお金を稼いでこなかったら、春をひさいで暮らすしかないただの小娘なんだ。」』

 

 

『「……うん、分かってるよ、お義父さん。」』

 

 

『逆らっても無駄なのは分かってました。ただ、悲しかった……。』

 

 

木刀を握り締めながら思う、綾香の中にある絶望の根源は『悲しみ』だろう。たった一つの不幸が原因で…

 

 

『家族だと思っていたものが……。』

 

 

大切だったものが…

 

 

『私の暖かい記憶が……。』

 

 

大切な記憶が……

 

 

『当の義父の言葉によってガタガタと崩れ去っていくのが……。』

 

 

他でも無い、大切な人間の言葉で壊されていくことが……彼女の中にある絶望の根源になる悲しみ。

 

 

『「ククク…俺にはわかっているんだぞ、綾香……。お前が俺を受け入れるしかないって事が……。」』

 

 

『「………。」』

 

 

『こんなものは、もう私の大事な義父ではありません。』

 

 

聞こえてくる綾香の独白に亨夜は心の中で異を唱える。あれは間違いなく大切だった人間…それが、例え変わって果ててしまったとは言え。

 

…これがワームに擬態されていれば、どれほど幸運だろうか…。

 

…否定できるのだから…。

 

…違う…と。

 

 

『もう、何処にも私の義父なんか居ません。』

 

 

『「そして…。」』

 

 

『目の前には、ぶくぶくと太った醜い肉塊が。』

 

 

聞こえてくる独白と過去の綾香の動きから彼女が何をしようとしているのか理解する。

 

 

『「お前が上辺でどう拒絶しようとも、その能面のように冷たい顔で取り繕おうとも……。」』

 

 

「止めろ、そんな事は…!?」

 

 

『こんなものは……もう、壊してやる。』

 

 

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 

既に過ぎ去った過去の影像と言う事も忘れ、亨夜は綾香を止めようと思わず叫んでしまう。

 

 

『背中の後にそっと手を伸ばしました。隠しておいたそれを、手に取りました。』

 

 

だが、亨夜の行動を無駄だと嘲笑う様に過去の綾香は、

 

 

『……殺してやる! コロシテヤル!』

 

 

独白さえも狂気を孕んだものとなり、『グサッ』と言う刃物が肉を刺す嫌な音がはっきりと聞こえてくる。

 

 

『義父が私の上に覆いかぶさってきたまさにその時。』

 

 

『「……う……ぐっ!?」』

 

 

『私は思い切り、目の前の醜い肉塊に果物ナイフを突き立てました。』

 

 

あまりにもリアルなドラマのワンシーンの様な光景が、これをドラマの撮影現場のような現実感の無い感覚に陥らせる。だが、これは現実だと、亨夜の中の冷静な部分は嫌でも理解してしまう。

 

 

『「ぐ、ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・!?」』

 

 

『義父の下腹部に、小さな果物ナイフが突き立ってフラフラとしていました。』

 

 

「…良かった、あれならまだ…。」

 

 

心臓や脳と言った臓器で無い以上治療が早ければ助かる見込みはある。綾香が人殺しにならずに済んだと言う事にこれが過去の事だと言う事も忘れ、思わず安堵してしまう。

 

 

だが、次の瞬間、亨夜の表情は思わず凍り付いてしまう。

 

 

『それを引き抜き、再びこの手に握り締め、義父に向かって構えます。』

 

 

「ダメだ、止めろ! それ以上は…本当に殺す事になる!」

 

 

『必要ならば、二度でも三度でも刺すつもりでした。』

 

 

過去の綾香を止めようと正面に立って果物ナイフを奪おうとするが、亨夜の体は彼女に触れる事無くすり抜けてしまう。

 

 

『「ぐあぁ、あ、血、血ぃ……!」』

 

 

『肉の脂も混ざってだらだらと流れ出す義父の血は……意外に綺麗な紅色に夕焼けを照り返してキラキラと輝いていました。』

 

 

流れる血が畳を汚す中、亨夜はまったく動揺しない自分自身に驚いている。

 

 

(ああ、そうか…。)

 

 

人が死ぬのはワームとの戦いでは珍しくなかった。当然ながら出血も。ワームと戦う現場では簡単にワームを倒す亨夜達ライダーとは違い、ゼクトルーパーは何人もの仲間を犠牲にして仕留められるか仕留められないかと言うレベルの装備でしかないのだから。

 

 

そして、亨夜自身もそれを見ている。だからこそ…驚くほど人の死になれてしまっている。寧ろ、動揺しているのは、それをしているのが綾香である事に対してだ。

 

 

『「あ、あ、綾香、お前ぇ……!?」』

 

 

『「もうたくさんなのよ!」』

 

 

初めて聞こえる過去の綾香の感情の込められた声、

 

 

『私は金切り声で叫んでいました。』

 

 

『「貴方なんか私のお義父さんじゃない! もう知らない!」』

 

 

『「ぐぁぁ……い……痛い……助け……。」』

 

 

『「気持ち悪い……キモチワルイ! 私、死ぬほど貴方のこと嫌いよ!」』

 

 

『「き、救急車を……。」』

 

 

『「死ねばいいっ! ……死ねっ! 死ね、死んでしまえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」』

 

 

『あれほど私を苦しめた醜い存在が、今目の前で私に助けをこうているその姿がなんだか滑稽で、ほとんど嘲笑う様な調子で私はそう叫びました。』

 

 

(…オレもあんな顔をしていたのか…?)

 

 

何故か自分がワームと戦っている姿…ワームを見る姿と過去の綾香の姿を重ねてしまう。見る事さえ拒みたくなる光景に思わずそんな場違いな感想を持ってしまう。

 

 

『「あ、綾香ぁ……。」』

 

 

『「触るな! キタナイ!」』

 

 

『思い切り目の前の肉塊を蹴っ飛ばし。』

 

 

『「ふげぇ!」』

 

 

『間抜けな悲鳴をあげるそれをその場に置いて、私は一目散にその場を逃げ出そうとしました。』

 

 

そう、これが先ほどの映像と重なるのだろう。亨夜がそう思った時、現実と思えなかった映像が急に現実感を持ち始めた。

 

 

「あ、あれっ!?」

 

 

何度も開けようとしているが…ドアが開かない。

 

 

「ど、どうして……!?」

 

 

『私はこの後……ナイフを持ったまま外へと逃げ出して……。その後夕立に襲われて……。どうしていいか分からなくなって……。それがあの出来事の顛末だったはず。』

 

 

「い、嫌ぁっ! 出して! ここから出して!」

 

 

『悪い夢なら……速く醒めて!』

 

 

叫びながら開かないドアを叩きながら彼女の背後で刺された男が立ち上がる。

 

 

『「ククク……。」』

 

 

「ひっ……。」

 

 

『私が突き刺し、倒したはずのそのバケモノは…。』

 

 

「…お前は酷い娘だ…。」

 

 

「そ、そんな…きゃあっ!」

 

 

最早その声は人間の物とは感じられない。まるで傷の痛みなど無い様に立ち上がり、落ち着いた声を発している。

 

 

綾香が切った腹の中から、血の様に赤くブヨブヨと鼓動する臓物が、物凄いスピードで蛸や烏賊の軟体動物の触手の様に綾香へと伸び、彼女の握っていた果物ナイフを弾く。

 

 

「義理の父親を刺し殺そうとする、酷い娘だ……。」

 

 

「そ、そんな、嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

人の形をしたバケモノ…切られた腹の中から内臓が触手の様に伸びて襲い掛かるその姿はまるで出来の悪いホラー映画を見ている気分になる。

 

 

「お仕置き……してやるぞ……!」

 

 

「嫌あ! 誰か、誰か助けてぇっ!」

 

 

目の前の光景に呆然としていた亨夜が助けようとした時、凍り付いた様に体が動かなくなる。

 

 

「っ!?(どうなってる!? 体が、動かない! くそ、綾香さんが危ないって言うのに!!!)」

 

 

目の前の光景が既に先ほどまでの映像とは違うと理解した。だから、目の前の綾香を助けようと飛び出そうとしたら…今度は亨夜の体が動かなくなった。

 

 

目の前の光景を見せられながら動かない体で必死にもがく事しか出来ない。肩に有るガタックゼクターへと指示を出す。

 

 

 

《HENN-SHINN》

 

 

 

亨夜の意図を理解したのか、ガタックゼクターがベルトに装着され、ガタックのマスクドフォームへと変身させる。

 

 

(ダメだ!)

 

 

だが、マスクドフォームのパワーを持っても動くことは出来なかった。

 

 

「い、嫌ぁ……嫌だよぉ……。」

 

 

肌に巻きつく醜悪なナメクジのような肉塊が艶々とした跡を残しながら身体を這いずるおぞましい感触に綾香は堪らず悲鳴を上げる。

 

 

「嫌ぁぁっ、やめて、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

必死で足で床を蹴って触手から逃げようとするが、彼女の身体は数センチも動く事無く、踵は虚しく床の上を蹴るだけだった。

 

 

「綾香さん!」

 

 

辛うじて声を出すことは出来るが、動くことは出来ない歯がゆさがガタックに変身した亨夜の心を襲う。そんな時だった。

 

 

『どうだ……。これが、お前らに教師面して物を教えていた女の本当の姿だ……。』

 

 

(…今の声は?)

 

 

動けない身体を無理矢理動かすのを止めて聞こえてきた第三者の声に反応する。

 

 

『挙句の果てにその義父を鬼の様な形相で刺し殺そうとした…。』

 

 

「い、嫌ぁ……言わないでぇ……。」

 

 

(…そうか…こいつが…。)

 

 

千夏の時と似た様な手口…明らかにこの声の主が…七海を、そして、今も綾香を傷付けている。

 

 

砕けるほどに拳を握り締めながら拘束を振り解こうとするが、全くと言って良いほど体は動いてはくれない。ガタックバルカン位は撃てるだろうが肩に固定されている武器をこんな状況で乱射しても意味は無いだろう。

 

 

『ククク…無駄だよ、お前達に掛けた術は破れない……。そこで見ていろ、この小娘が散々に嬲り抜かれて精神が崩壊していくさまを……!』

 

 

「き、亨夜ちゃあん……。」

 

 

「ふざけるなよ…。体が八つ裂きになってもな…。」

 

 

この近くに確実に、七海を苦しめた、綾香を苦しめている敵が居る。

 

 

「お前だけは…オレがこの手で倒す! お前を倒して綾香さんを救う!!!」

 

 

強い意思を込めて叫んだ時、何かに皹が入るような『ピキ』っと言う音が聞こえた。

 

 

『…っ!?』

 

 

動揺を露にする悪霊らしき声の主…

 

 

『そんな……バカなっ、人間に敗れる結界ではないぞ!?』

 

 

「そんな物…知るかぁ!!!」

 

 

そう叫ぶと同時に渾身の力を込めてガタックは拳を振るう。

 

 

『バカな……まさか……お前は……。』

 

 

「綾香さん!」

 

 

「亨夜ちゃあんっ…!」

 

 

『神の子…神の血を引くものだとでも、言うのか!?』

 

 

自由を取り戻すと同時にガタックは綾香の体に巻きついている触手を一纏めに纏め上げると、

 

 

『ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

それらを纏めて力任せに引き千切った。

 

 

『バカな、バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』

 

 

「そこか!!!」

 

 

一瞬だが、明らかに仲間達の物とは違う第三者の気配を正確に察知するとそこへと向けてガタックバルカンを全弾発射する。

 

 

『ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』

 

 

無防備に受けた様な悲鳴が響くと、バケモノは煙の様に消えていった。後にはぐったりと横たわる綾香の姿だけが残された。

 

 

「ううっ……ぐすっ……。」

 

 

ベルトからゼクターが外れ、変身が解除されると、綾香の方を振り向いた。

 

 

「綾香さん…。」

 

 

綾香は泣いていた。

 

 

「……亨夜ちゃん……。」

 

 

目の前に居る綾香は今よりも少し若いくらいだ。

 

 

「……亨夜ちゃんに……全部見られちゃったよ……。」

 

 

「……そんな…気にしないで…。」

 

 

「私、ホントはあんな女なの……。もう、亨夜ちゃんの前に顔を出せない……。」

 

 

「そんな事無い。綾香さんは…綾香さん…だろ。」

 

 

「だって、……ショックだったでしょう? 私があんな…人殺し…。」

 

 

「綾香さんは殺してなんか無い…だって…あの男は…あの後…。」

 

 

全部思い出した。それは、亨夜が初めて…その手でワームを殺した時の事…。

 

 

(あの後、綾香さんの両親は引っ越して、直に離婚した。)

 

 

何が有ったのかは理解できなかったが、今は良く理解できる。あれが全ての原因だったのだ。……そして、それだけではない。

 

 

「…つい最近だ…あの男が死んだのは…。オレが…この手で最初に殺したワーム…それが擬態していたのが…あの男だ。」

 

 

最初に殺したワーム。今まで思い出す事も無かったが、今思うと確かに…亨夜がガタックとして最初に戦ったワームは綾香の義父の姿に擬態していた。死人が離婚する事も、死人にワームが擬態できる訳も無い。誰かが通報して一命は取り留めたのだろう。

 

 

だが、結局は…ワームに擬態され、殺され、そして、そのワームは亨夜がガタックとして、最初にその手で殺した。

 

 

擬態され時期は渋谷に落ちた隕石の後…遠くに引っ越していた綾香が戻ってきた時期に前後している。だから、綾香は人を殺しては居ない。

 

 

辛い思いでの残っている場所だけど、綾香は亨夜に会いたくて戻ってきてくれた。…だが、それは…亨夜が妹を失った時期でもある。

 

 

「でも、私が殺した様なものよ……義父はあの事件で、もう立ち直れないくらい、すっかりダメになってしまった。ワームだったっけ…あの怪物に殺されなくても…多分。」

 

 

「………。」

 

 

「私は…人殺し…。」

 

 

「そんな事無い! 綾香さんは優しい人だ! オレと…オレなんかと違って…。」

 

 

「貴方はそう言ってくれるけど…でも、私を見る目は変わるわ…。」

 

 

「そんなこと…。」

 

 

「みんなそうだったもの……。だから、誰にも打ち明けられなくなったんだもの…。」

 

 

「…。」

 

 

「貴方に、そんな目で見られるのは……私、耐えられないから……。」

 

 

「綾香さん…。」

 

 

「だからお願い、亨夜ちゃん……私を見ないで、そっと……どこかへ去らせて欲しい。」

 

 

「……。オレが何でワームと戦ってるか…まだ言ってなかったね。」

 

 

「え?」

 

 

突然の言葉に訳の分からないと言う表情を浮かべる。

 

 

「…人の為なんかじゃない…。ワームを殺すための力が欲しかった…妹を…凛を殺したあいつらが憎かったから…オレは力を求めた。『復讐』…それがオレの戦う理由だよ…。」

 

 

嘲笑うような笑いを浮かべながら綾香へと視線を向ける。

 

 

「亨夜ちゃん。」

 

 

「…どう、軽蔑した? オレは綾香さんが…皆の知っている人間なんかじゃない…オレは、ただ憎しみだけでワームを殺す道を選んだ復讐者だ。もしかしたら…ワームを殺す為に躊躇無く、綾香さんや七海ちゃん、渚や美由紀を犠牲にするかもしれない…。」

 

 

「そんな、亨夜ちゃんは亨夜ちゃんよ!」

 

 

「だったら、綾香さんは綾香さんだ。何も違わない。」

 

 

そう言ってゆっくりと綾香を抱きしめる。

 

 

「…ごめん、オレは今まで何も気づこうとしなかった…。」

 

 

綾香の事だけではない、七海の事も、美由紀の事も、もしかしたら…渚の事も何も気付こうとしなかったかもしれない。

 

 

「……亨夜ちゃん……。」

 

 

「オレは今まで自分の事で精一杯だったから…あいつが…凛が死んだ時から…自分の事しか…。」

 

 

だからこそ、七海の心の傷も知らなかった。だからこそ、知らない内に美由紀を傷付けていた。

 

 

失った大切な者を悲しむあまり…近くに在る大切な者の事も見ようとしていなかった。

 

 

「………。」

 

 

「オレにそんな資格が有るかどうか分からない。けど、オレは全部受け止める。綾香さんの事、全部受け止める。人殺しだろうが、なんだろうが…平気さ。」

 

 

「亨夜ちゃん…。」

 

 

「だから、もう泣かないで…何時もの綾香さんでいいから…。」

 

 

そう言葉を告げたとき、世界が大きく揺れる。

 

 

「っ!? なんだ!?」

 

 

「えっ、わっ、何!?」

 

 

地震の様な揺れが起こったと思うと、

 

 

「うわぁ!!!」

 

 

「きゃああっ!」

 

 

二人は闇の中へと飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グギャアアアアアアア!!!」

 

 

長髪の男の姿をした魔物が悲鳴を上げている。全身は撃ち抜かれボロボロになった、どう考えても致命傷と呼べるレベルだ。術を破られた上に全身をガタックバルカンで撃たれた結果だろう。

 

 

「ここは?」

 

 

「黒曜石の城……じゃあ、今までのは一体……。」

 

 

 

「幻術です! その悪霊の施した幻術に、みんな化かされていたんですよ!」

 

 

 

アマテラスの声が響くと七海と渚、カブト・ライダーフォームの姿の龍牙が駆け寄ってくる。

 

 

亨夜が綾香を助けた事で幻術は完全に消え去ったらしい。しかも、無防備な所にガタックの全火力を受けたのだから…悪霊とは言え生きている事自体が奇跡だろう。

 

 

「おのれ、よくも我が術を……。」

 

 

「兄さんが言っていた…『己の行った事は自分に帰ってくる。結果はそれが遅いか早いか程度の差しかない。』ってな。お前が行った事に結果が返ってくる時が来た様だな。」

 

 

天を指差しながら、カブトはその悪霊…サトリへとそう告げる。

 

 

「…そうかよ…お前が全ての元凶か…。綾香さんの事も…七海ちゃんの時の事も…。お前だけは絶対に許さねぇ…覚悟しろ!」

 

 

「………こうなったら、直接この手でお前達を殺してや……ガァッ!」

 

 

突然後に現われたサナギワームの腕がサトリを串刺しにしていた。そして、訳が分からないと言う顔でサナギワームを見上げながらサトリが最後に見たのは…。

 

 

「さて、お前達は直接この手で殺してやろう。」

 

 

醜悪な笑みを浮かべながら亨夜達へと告げる…己に擬態したサナギワームがその姿を再びワームへと変え、成体へと脱皮する瞬間だった。

 

 

サトリに擬態したワームが脱皮した姿は蜻蛉をイメージさせる姿をした、片腕と一体化した生体弾が発射可能な銃と背中に蜻蛉の羽を持ったワーム…『ドラゴンフライワーム』。

 

 

その姿を見る事無く、最下層のサナギのワームに始末されたと言う事実を持って、サトリと言う悪霊はネノクニから消えたのだった。

 

 

 

つづく…




蒼き戦士の戦記の第四楽章『追いかけてくる過去』の六話目でした。・・・いや、思ったよりも長引いた結果、この第四楽章は七話まで続きそうです。



翔「…サトリとの決戦を削ってもな。」



…一矢報いる事もなく、ただ邪魔だと判断され最下層のワームに始末される。…これ以上お似合いの最後は無いと判断した結果なんですけどね。…ところで、ワームは擬態した相手の『能力』まで奪い取れるんでしょうか?



翔「…能力も擬態した相手に成りすます為に必要だと考えれば…もしかしたら、コピーできるかもしれないな。なんでそんな事を?」



なんとなく気になったんですよね。いや、心を読めるワームって言うのも強敵かと思ったので…。



翔「…どれだけ性質を悪くすれば気が済むんだ…。」



…さてさて…次の渚編のワームはどうしましょうか。ネタバレですけど考えている飛蝗のワームはアマテラス編で予定しているんですよね。蜂と蜻蛉は既に出したので…。



翔「…蠍とは敵対させる予定無いしな…。」



そうなんですよね。付け加えるとカブトムシとクワガタのワームは出す予定無いですし。それでは、次回もお楽しみに。
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