IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
第五楽章 -1-
村へと帰還した翌日…謎のライダー『ケタロス』の襲撃を考えて再び剣と共に村の防衛に廻る事にした龍牙を残し、亨夜達は次なる四聖獣『白虎』の神殿を目指して村の西に向かっていた。
「白虎の神殿って、どんな神殿なの、アマテラスちゃん?」
「白虎様の神殿は、やや開けた所にある静寂な神殿だと聞いています。ただ…。」
アマテラスが綾香の問いにそう答えた後一度言葉を止める。
「ただ?」
「最近では話しを聞く事もなくなりました。変異が無いと良いのですが……。」
「そうなんだ…。」
その表情に明らかに不安を浮かべながら綾香の言葉に答えるアマテラス。だが、これまでの事を考えると、白虎の神殿でも間違いなく何か起こっているだろう。
そんな会話を交わしながら西へと進む
『…………。』
無言のまま“それ”を見上げて唖然として立ち尽くす亨夜一行。目の前に存在しているのは明らかにネノクニの物ではない建築物…。
「……これは……。」
「そんな……。」
「まさか……。」
それを見上げながら亨夜が思わず呟くと、それに続くように七海と綾香も声を零す。
「……私も、こんな建物は初めて見ます。悪霊共に占領される前は、普通の社だったはずなのに……。」
「いや、そうじゃない。見るのは、初めて…じゃないんだ。」
「えっ?」
亨夜達の態度を始めて見る建物に対する驚愕と思っていたアマテラスの言葉を亨夜が訂正する。
「これはオレ達の世界の建物だ。それも……。」
亨夜がアマテラスに説明していると、よろよろとした足取りで亨夜達の横を通り過ぎ、この光景に一番驚いていたであろう人間が二階の窓を見上げる。
「……そうよ、ここは……。」
そう、それは彼女にとっては誰よりも見慣れた風景。それを見上げながら、彼女は……渚は呟く。
「ここは……私の家よ。」
そう、それは渚の家。渚は唖然とした様子で慣れた手つきでドアを開けて入って行く。
「…楓さん、桃花さん…幻…じゃないですよね?」
『はい、幻ではありません。』
『間違いありません。』
二人の勾玉を手に持ちながら問い掛けるとそんな返事が返って来た。これが現実だとしたら、更に疑問が沸きだしてくる。『何故、渚の自宅がネノクニに存在しているのか?』と言う疑問が。
当然、これは元の世界に戻った訳ではない。目の前のそれは悪霊達の罠かとも思ってしまうが、それでも今は前に進むしかない。
「中も渚の家…だな。」
中に入った亨夜の第一声は記憶の中にある渚の家を思い出しながら、そう呟く。
「でも、どうして渚先輩の家が…こんな所に?」
「わかんないけど…。帰ってきた……んじゃ無いわよね。」
自然と七海の口から零れる最も過ぎる疑問に渚がそう答える。何故ネノクニに自分達の世界の建物が有るのは百歩柚って認めるとしても、それが渚の家と言うのが最大の疑問だ。
亨夜としては『ZECTの関係施設じゃなくて良かった』等と一割ほど思っている頭の中で、偶然にしては出来過ぎている現状に対して疑問に思わずには居られない。
「まさか、幻…じゃ無いわよね。」
壁や絨毯に触りながら綾香が呟くがどうやら、楓や桃花の言うとおり幻の類ではない様子だ。
「何かの罠かもしれません。皆さん、用心してください。」
「ああ、そうだな。(まあ、調べるのは今まで以上に楽そうだな。)」
アマテラスの言葉に同意する。青龍と玄武の神殿での事を考えると、これはどう考えても罠としか思えない。
だが、そう思う反面、何処に何が有るのか分からない洞窟や城塞よりも、現代の建物…それも渚の自宅なのだから、今までの神殿よりも何倍も探し易いだろうとも考えている。
(それにしても…余計に妙だな…。敵が出てくる様子が無い。)
「……でも、大きいですね……。渚さんはこんな立派な所に住んでらっしゃるんですか?」
「ふふん、まあね。」
アマテラスの言葉に渚は胸を張って自慢げに答える。
「私の神殿より大きいです。すごい……。もしかして、渚さんは高貴なお生まれの方なのですか?」
別の意味で驚いているであろうアマテラスが感心した声を上げる。アマテラスも渚の家である倉島家の財力には圧倒されているらしい。
(…まあ、改めて見ると…剣の所とは全然違うよな…。)
流石に言いたくは無いが、『没落貴族』と比べても失礼だろうとは思うが、以前に剣の家に招かれた事もあり、改めて倉島家の中を見ると余計に圧倒されてしまう。
「…勝手に動くなよ…。ガタックゼクター。」
小声でガタックゼクターを呼び戻す。流石に元の世界の建物には影響は無いだろうが、どうも、この中で悪霊やワームと戦うのは気が引けてしまう。
「ふふん、私こそは、日本有数の複合企業、最後の財閥と呼ばれる、倉島一族の跡取り娘なのよ。」
「……よ、よく分かりませんが、凄いんですね?」
「凄いのよ。」
胸を張って答える渚の言葉はアマテラスには分からない様子だった。ある意味、それは当然だが。それでも、それが『凄い』と言うのは理解した様だ。
「自分で言うな。」
何処からか取り出したハリセンで即座に突っ込みを入れる亨夜。ツッコミマイスターの称号は伊達で手は無い。
「いたっ、何すんのよ!」
「ったく、お前は。普通はそんな風に………うん、“普通”は堂々と自慢しないもんだぞ。」
思わず知り合いのライダーの大部分を思い浮かべて、『普通』と言う部分を強調しながらそう告げる。知り合いの大部分は堂々と自慢するのが目の見えているだけに。主に、龍牙とか、剣とか。
「ふんっだ。あたしはこの倉島の家に生まれた事に誇りを持ってるのよ! 誰にも遠慮するいわれは無いわね!」
「……はぁ。」
妙に自分の知り合いの多くがこう言うタイプだと言う事実を考えて思わず溜息を吐いてしまう。
「しかし、剣の所もそうだけど、相変わらず無駄にでかいお屋敷だな…。」
「む、無駄って言うなぁ!!!」
「だって、お前の所はオレと同じで三人家族だろ? 爺ちゃんの家だって、広過ぎるのに…。」
「うちはお手伝いさんも住んでるから、これ位で丁度良いのよ!」
「そう言われれば、確かに…ん?」
そう言われれば、納得も出来る。そんな事を考えていると壁にかけられているカレンダーが視線に停まり、亨夜はそっちへと足を進める。
「…昔のカレンダー…なんでこんな物が張ってあるんだ?」
「……かれんだあ? なんですか?」
「あー…えーと。つまり、これはオレ達の世界の暦なんだ。かなり前の…いや、それにしては…。」
アマテラスにカレンダーの概念に対して説明するのは時間が掛かると判断し、簡単に説明した時、ある事に気が付く。
「あたしが生まれるより前じゃないの。」
カレンダーに書かれている年月を見て呟きながら、渚は亨夜が注視しているカレンダーに近づく。
「それにしては…まだ真新しいですね、これ。」
「ああ。十年以上も前の代物には見えない。つい最近張られたばっかりみたいだ。」
その七海の言葉が全てを物語っていた。そのカレンダーは新し過ぎるのだ。…十年以上も前の代物にしてはそれはまるで新品の様に新しい。
「………。」
アマテラスは少し考えて、そんな亨夜達の疑問に答える様に言った。
「聞いた事があります。アシハラノクニとこのネノクニでは、時の流れ方が違うと…。二つの世界を行き来する時、時が先へ進んでしまったり、逆に戻ってしまったりする事があるのです。」
「あっ、そーか!」
この倉島家の屋敷の状況に対する答えとなるアマテラスの言葉だが、それは同時に渚の身に起こっていた、あの事に対する説明にもなっていた。
「そうか、あの時の事は…それが原因だったのか。」
同時に亨夜も渚の身に起こった事の真実を理解した。
「うん、あの森。あたしは地震の後一晩中迷子になってたのに、あんた達はその日の内に来た、って言ってたじゃない。」
「ああ。あれは、今のアマテラスの言葉で説明がつく。」
「なるほど…。」
「つまり、渚先輩は私達より一日前の世界にタイムスリップしてしまったんですね。」
そう、時間に干渉する亨夜達ZECTのライダーにとっても特別な事なのだが、渚は二つの世界を移動する際に強制的にハイパークロックアップさせられた様な物だ。
「…なあ、だったら…一日のズレで済んで…物凄く運が良かったな…。」
「そうよね、これも日頃の行いが良かったお蔭かしらね。」
そう思わずには居られない。運悪く一週間や一ヶ月も前に投げ出されていたらどうなっていたか分からない。逆に…一日後に飛ばされていたら…。それを考えると一日前程度のズレで運が良かったと言う外無い。
「……たいむす……なんですか?」
「つまり、時間がすれ違っている事だ。今此処にある渚の屋敷は、過去…渚やオレ達の生まれる前の物って事なんだ。」
「そう言う事になりますね。」
亨夜の説明にアマテラスはそう答えてくれる。……これを『不思議な事』の一言で片付ける事が出来ないのは、亨夜が現在から過去と言う一方通行限定とは言え、純粋な科学力で作られた一種の小型タイムマシンであるハイパーゼクターの存在を知っているからなのだろうか?
「って事は…あの時は校舎を中心に…校舎から遠い人間ほどズレが出たのか?」
出雲学園の校舎を基準として考えるなら、丁度渚が校舎から離れていた距離が一日のズレを生む距離だったのだろう。
「言わないでよ、考えただけで怖くなるんだから!」
そう、もっと遠く校舎から離れていたら何日前に飛ばされたか分からない。下手をしたら、親子ほど歳が離れて再開する事になっていた可能性もある。もっとも、参考に出来るのは渚だけなのではっきりとは言えないが。
…付け加えるなら、龍牙達は何一つ参考にはならない…。丁度龍牙は地震が起きた時には、『皆既日食の世界』に向かう途中だったらしいので。
「でも、ここが過去の渚先輩の家だとしても…どうしてネノクニに?」
「うーん、渚ちゃんの家だけタイムスリップしたとか?」
「私にも解りませんね……。」
「それだけが解らないんだよな…。」
揃ってその事を疑問に思ってしまう。此処が過去の倉島家と言う説明は出来たが、何故倉島家と出雲学園だけネノクニに飛ばされたのかと言う疑問は尽きない。これが他の建物や他の人間の家ならそれほど疑問も沸かないだろうが、この世界に飛ばされた人間の家と言う点が余計に疑問を増幅させてしまう。
「まあ、ここで考えていても仕方がないわ。一つ一つ部屋を順番に調べていきましょうよ。」
「そうですね。」
「じゃあ、渚。道案内は頼んだ。」
「オッケー。」
そう言う訳で、屋敷の住人である渚の案内の下で、亨夜達の白虎の神殿の探索は始まったのだ。
「んじゃ、先ずは此処からだな。」
「ここは、応接間ね。」
玄関を入って直ぐに目に付いた両開きの大きな扉だった。両腕に力を込めて開けてみるが…。
「開かない。」
「鍵が掛かってるのね。じゃ、別の部屋行きましょうか。」
「いや、鍵が掛かってる訳でも無いのに…ドアが動かないんだ。まるで…向こう側から引っ張られてるみたいに。」
「でも、入れないんなら……しょうがないわね。諦めて他に行きましょう。」
ガタックに変身して試そうとも思ったが、綾香の言葉に従って諦める事にする。下手に力技で開けようとして、開いた瞬間中から悪霊の攻撃が飛び出してきては大変なのだから。
「あ、ほら、あの壁の絵。」
応接間の扉から離れようとした時、渚は嬉しそうに壁に掛かっている老紳士の絵を指差して、皆の注意を促す。
「またその話か?」
「なによ、めんどくさそうに。」
「いや、もう飽きるほど聞いたしな。」
「失礼ね。」
そう、それは亨夜だけじゃなく、七海も綾香も何度も渚から聞いた話だったから。
「……あのご老人がどうかなされたのですか?」
何気なく渚の話を聞いた事が無いアマテラスが質問を返すと、
「よくぞ、聞いてくれました!」
嬉しそうに渚はアマテラスへと説明する。
「………。」
「…はぁ。」
既に何度も聞き飽きるほど聞いた亨夜達は苦笑を浮かべたり、溜息を吐いたりとそれぞれの反応を見せる。
「あの人こそは、倉島財閥の生みの親、倉島紡績の初代社長、倉島佐兵衛その人よ!」
…早い話が、渚のご先祖様に当たる人物だ。確かに最後の財閥と言われている倉島財閥を作り上げた人物と言うだけでなく、あの土地に住んでいる者ならば、知らない訳が無い偉人では有るが…。
「……?」
そもそも、アマテラスにそんな事を言っても全てが理解できる訳が無い。財閥や会社と言った事がアマテラスに分かるとは思えない。
「あの人はね、事業で得た膨大な資産の殆どを、当時開発の酷く遅れていたこの地域の発展の為に投資したのよ……寄付同然にね。この町が今あるのは、あの我がご先祖様のお蔭なの、偉い人なのよ!」
「はぁ…。」
「地域社会への教訓は、倉島の家訓なの。出雲学園の新学舎だって、うちのお父さんの寄付で建ったのよ。」
「へぇ…。」
意味が分からないなりに渚の言葉に相槌を打つアマテラス。
「つまり、渚さんはご先祖様やご両親に誇りを持っていらっしゃるのですね。」
「そうなのよ!」
話の節々にある渚のその思いを理解したアマテラスがそう言うと渚は嬉しそうに答える。確かにアマテラスの立場を考えると言葉の意味は分からなくても、渚の意思は理解し易いだろう。
「それきすばらしい事です。ご先祖様より連綿と受け継いだ伝統を大事にしてこそ、一族は栄えるのですから。」
「あんた、中々分かってるじゃない。」
「私も一族を継ぐ者として、そう言うのはよく分かります。」
「だからって、自慢話するのはどうかと思うけどな。」
苦笑を浮かべながら亨夜が茶々を入れると、
「ふふん、ひがまないひがまない。高貴な血を継ぐ者としての誇り……、ハイソサエティな私達の会話は貴方にはちょっと難しすぎるのよ。」
「はぁ。剣の奴がよく言ってる、ノブレス・オブリージュって奴か? 七海ちゃん、どう思う?」
「えーと……あはは……。」
「まあ、人それぞれ大事にしているものは有るんでしょうけど。」
『……先祖を誇るのは良いけど、自分はどうなんだ?』と言うツッコミを言わずに居た亨夜に話を振られて苦笑する七海と綾香だった。
つづく…
っな訳で他の小説を書いていた結果、久しぶりの蒼き戦士の戦記の第五楽章の最初の話です。
翔「まあ、スタートだから、それほど大きく話は動かなかったけどな。」
今回の冒険の舞台は広いと言っても家の中ですから、戦闘は最小限になるとは思いますけどね。IZUMOのソフトの第五章をプレイしなおしてネタを考えるのにも時間が掛かったので…。
翔「…でも、ここにも出るよな…。デボスズメ系の悪霊。」
…うん、亨夜の天敵シリーズ第二段やっても良いかもしれませんね。
『荒谷亨夜、デボスズメ系が天敵に決定、多分亨夜にはコーカサスより強敵です(笑)』
では。