IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第五楽章 -2-

渚の案内の元で倉島邸となった白虎の社の探索を開始したのだが…

 

 

「ここは、何処だっけ?」

 

 

「……ここは、準備室よ」

 

 

「準備室?」

 

 

渚の言葉を聞いて思わず聞き返してしまう。

 

 

「学校にある理科準備室とか、あんな物よ」

 

 

「…準備室なんて有るのか…?」

 

 

亨夜の世話になっている祖父の家は道場の面積を含めれば十分に広いが、家そのものは少し広い程度であり、以前にも招かれた事のある剣の屋敷と良い勝負の広さだろう。

 

 

「ふっ、所詮ハイソサエティな一家ではない亨夜には、分からないわね」

 

 

「はいはい。今度剣にも聞いてみるか」

 

 

「……渚先輩、こちらは何の部屋ですか?」

 

 

亨夜と渚がそんなやり取りをしている間に七海達は隣の部屋を見ていた。広い屋敷だが、曲がり角や部屋の中など不意打ちを狙っている敵が隠れるには今までの場所並に存在しているので、油断は出来ない。

 

 

「あっ、そこは居間よ」

 

 

「でも、こっちも鍵がかかってるわね」

 

 

「面倒だな、一々鍵をかかってるなんて」

 

 

「あのね、防犯対策として当然じゃない!」

 

 

探索する部屋が全て鍵がかかっている事に対して、思わずそんな感想を零してしまう亨夜に渚がそう言う。

 

 

「まあ、確かに最もだけどな。じゃあ渚、鍵…出来ればマスターキーみたいな物が有る場所は知ってるのか?」

 

 

「そうですよね、それが有れば。先輩、鍵のある場所はご存知じゃないんですか?」

 

 

今まで気づかなかった…と言うよりも入り口が鍵が開いていて、屋敷の中の部屋の一つ一つが鍵がかかっているとは思わなかった為とも言えるが、亨夜の言葉に対して名案と言う反応を示す七海の質問に渚の言葉が詰まる。

 

 

「え……えっと。そこの鍵とかは……どこだっけ?」

 

 

確かに名案だったのだが、頼みの渚も家の中の何処に鍵が置いてあるのかは知らない様子だった。

 

 

「じゃあ」

 

 

「ドアを壊すとか言い出したら、先にあんたを張っ倒すわよ」

 

 

「いや、流石にそれは飽く迄最後の手段だからな…」

 

 

亨夜の首にレイピアを突き付けてそう宣言してくれる渚さんでした。その目は間違いなく本気の色を宿していた。

 

 

「はいはい。その辺にしておきましょうね~」

 

 

そして、最後には綾香が締めてくれるのでした。それから一階の探索は、運転手、料理人、メイドの部屋と続いて、

 

 

「こっちは中庭の入り口で終わりだけど。戻る?」

 

 

中庭への入り口で終わった訳なのだが、全ての部屋に鍵がかかっていた為に禄に探索は出来なかった。

 

 

「そうだな。ここにも鍵がかかってるしな。…二階を探して鍵が無いようなら…最悪、ドアを破るか?」

 

 

「あんた、まだそれを本気で言ってるなら…刺すわよ」

 

 

「お、落ち着け、冗談だから! ……九割は……」

 

 

殺気立っている渚に慌てて弁解する。流石に知人の家でライダーシステム使って強盗のような真似をしたくは無い。

 

 

「亨夜ちゃん、あんまり乱暴はダメよ。ここは過去の渚ちゃんの家かもしれないけど、もしかしたら今の渚ちゃんの家と繋がるかもしれないんだから」

 

 

「なるほど、その可能性も有りますね。寧ろ、過去だからこそ現在の家に影響を与えるかも…」

 

 

「……? 先生、先輩、どう言う意味ですか?」

 

 

七海が亨夜と綾香の会話に疑問の声を上げる。そんな七海に対して綾香は壁の一箇所を指差しながら、

 

 

「そうね、例えば……今此処に傷が付いたら、アシハラノクニの渚ちゃんの家にも同じ傷が付くとかね」

 

 

「傷が付かなかったとしても、古傷として現れるかもしれない」

 

 

多少変則的だが、一種の過去改変と言う所だ。ハイパーゼクターによって似たような事を以前龍牙がやったとも言っている。…詳しい話は亨夜も聞いてはいないが。

 

 

「……その様な事が有るのですか?」

 

 

「各章はないし、自信もないけどな」

 

 

「でも、あんまり乱暴はしない方がいい……って事よ」

 

 

「そうだね。じゃあ、次は二階を調べてみようか」

 

 

「うん」

 

 

亨夜のその言葉で一階の捜索に一端の区切りを着けた一行は応接間の前に戻り階段を上って二階に上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 何だこれ」

 

 

二階に上がって直ぐの場所で何かが足に当たる。視線を落とすと高そうな絨毯の上に何かが落ちていた。それを拾い上げてみると、それは何の変哲もない、木を削りだして作られた、子供用の木彫りのアヒルの玩具だった。

 

 

「あっ! それ! 懐かしい! これ、昔気に入ってた玩具だ!」

 

 

渚がそれを受け取り嬉しそうな声を上げる。本当に懐かしく嬉しそうな渚を見ながら、亨夜の中に一つの違和感が生まれる。

 

 

「へぇー、渚にも玩具で遊んでた時期が有ったんだな」

 

 

「そりゃそうよ」

 

 

何気なく零れた言葉が微かに亨夜の中に生まれていた疑問に肉付けをしていく。

 

 

「……“昔”は可愛かったんだろうな……」

 

 

余計な一言さえ無ければ。

 

 

「むっ、それどう言う意味!?」

 

 

(ちょっと待て…『昔』?)

 

 

最後に付け加えた余計な一言に怒って亨夜を殴ろうとする渚だが、その一言が亨夜の中に浮かんでいた疑問に一つの答えを出す。

 

 

「なんか、変じゃないか」

 

「……あれ? でも変ですね」

 

 

亨夜と七海の二人から同時にそんな声が零れる。そう、それは亨夜が感じた違和感の正体。

 

 

「ん? なあに?」

 

 

亨夜と七海の言葉に渚の振り上げた拳が空中で停止する。そう、それは…

 

 

「渚先輩が生まれる前なのに、どうして渚先輩の玩具が此処に?」

 

 

「ああ。よく見るとそれは新しい物だし…両親のどちらかが昔持っていた物、なんて考えも消える」

 

 

「そりゃそうよ、それは私の為に、手彫りで作られたものだし」

 

 

亨夜の言葉にそう答える渚だが、だとしたら余計に変だ。

 

 

「だったら…どうして、『未来』の品物が此処に有るんだ?」

 

 

「………」

 

 

そう、それは本来ならば渚の生まれる前の屋敷にある筈の無い代物。

 

 

「変ね……」

 

 

そう言って渚は玩具をひっくり返して調べてみる。

 

 

「あっ、名前……書いてある」

 

 

「ん?」

 

 

丁度アヒルの玩具の裏…そこに誰かの名前が書いてあった。それは、

 

 

「『秋也』……誰だろ?」

 

 

「さあ……」

 

 

不可解そうな顔を浮かべる一同。

 

 

「誰かの忘れ物じゃない?」

 

 

綾香の口からそんな言葉が零れる。

 

偶然同じ物を持っていた親戚の子供の物と言う可能性も有り得る。幾ら手彫りとは言え、同じ職人が作ればある程度は似た物になるだろう。幾ら思い出の品とは言え、昔の品を正確に見分けられないかもしれない。だが、その仮説は苦しい気がする。

 

 

「………」

 

 

現に渚も納得の行かない表情を浮かべている。

 

 

「それより、早く先へ行きましょう」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

先を急ぎたがっているアマテラスの言葉に渚は、玩具をその場へと置いて、先に進む事にした。確かに、今その玩具の事を考えている場合では無いのかも知れない。亨夜は多少無理矢理に疑問を心の奥に押し込めるのだった。

 

 

「ここは?」

 

 

「サンルームよ」

 

 

丁度サンルームの有る方向はその一部屋だけで他に部屋が無いので、そこから調べる事にした。端から調べた方が解り易いだろうと言う考えだが、

 

 

「…此処にも鍵がかかってるか」

 

 

ドアノブを回して扉を前後に動かしてみるが一階の部屋と同様、其処にも鍵がかかっていた。念の為に左右にも動かしても動く様子は無い。諦めると反対へと向かう。そんな時だった。

 

 

 

―かたっ―

 

 

 

「っ!?」

 

 

「……敵!?」

 

 

後ろから聞こえた物音に一同は振り返る。素早く亨夜は木刀を、アマテラスは槍を構える。同時にガタックゼクターも亨夜のポケットの中から飛び出して臨戦態勢を取る。

 

 

そこには…

 

 

「………」

 

 

いつの間にそこに居たのか、大体六歳位の少年が立っていた。………いや、立っていると言う表現は正確ではないかもしれない。よく見るとその少年は、床から数センチ程の高さに浮かんでいた。しかも、体の周囲から僅かに薄青色の光を発していた。

 

 

明らかに彼は見た目通りの普通の子供ではない。少なくともワームが擬態した人間の中に空中浮遊が出来る人間は居ない。そのカテゴリーの中に超能力者(エスパー)に擬態した例は無いので断言は出来ないが、考えられる可能性としては……千夏と同じ…アシハラノクニで死んだ人間…。

 

 

「みんな、気を付けろ……」

 

 

外見に油断する事無く注意を払いながら亨夜は謎の少年を警戒する様に告げる。ワームの中には擬態後の外見が子供であっても、多数のワームを従える成体のワームだった例も存在している。だからこそ、外見で油断する様な真似はしない。だが、

 

 

「あ、あれも……悪霊なんですか?」

 

 

「分からない……邪気は感じませんが…」

 

 

七海の疑問の言葉に断言せずに答えるアマテラス。目の前の謎の少年からは今までの悪霊達とは違って邪気…もっと言ってしまえば敵意を感じる事が出来なかったのだ。

 

 

「………」

 

 

渚もレイピアを、七海は矢を番えた弓を、綾香は幾つかの勾玉を持って警戒するが、少年はそんな彼らの様子をじっと見つめ、

 

 

「………」

 

 

無言のままにっこりと微笑みながら、空中で180度回転して、右手の壁に一つだけあるドアに吸い込まれる様に姿を消した。

 

 

「…なんだ、あれ?」

 

 

「分かりません…。罠かもしれない」

 

 

謎の少年の姿が消えると一同は武器を下ろして警戒を解く。

 

 

(楓さん、桃花さん…あの子の気配って…)

 

 

『分かりません、完全に消えたようですが』

 

 

『正体は…悪意の無い幽霊の様な存在です』

 

 

(なるほど)

 

 

精霊二人に質問するとそんな返事が返ってくる。あの謎の少年は悪霊とは違い、無害な幽霊…警戒し過ぎる必要は無い相手かもしれない。アマテラスの言う様に罠なのかもしれないが…少なくとも、

 

 

「あの部屋に行け。導こうとしているのか……?」

 

 

「行って……みる?」

 

 

怯えた様子で渚が聞く。慣れ親しんだ我が家が今はまったく別の場所の様な感覚を与えているのだろう。それは知っている場所だけに恐怖も一入だろう。

 

 

「そうだな。他の部屋には鍵がかかってるだろうし。なあ、あれって、何の部屋だ?」

 

 

「書斎……別に変わった物は無いはずだけど」

 

 

「………。此処でこうしてても始まらない。罠だって言うなら、切り抜ける以外の選択肢は無いだろうし…行こう!」

 

 

そう言って書斎のドアに触れると、予想通り鍵はかかっておらず、簡単にドアが動いた。この屋敷の中を調べ始め、初めて入れた部屋の中には大量の本が有った。

 

 

「……書斎だな」

 

 

「書斎ですね」

 

 

「……書斎だわね」

 

 

「だから、書斎だって言ったじゃない!」

 

 

上から、亨夜、七海、綾香、渚の順番でアシハラノクニ出身のメンバーが部屋に入った感想…意味の無い会話を交わす。

 

 

「…だから、なんにも変わった物は無いわよ」

 

 

「まあ、あの幽霊はこの部屋の前で消えたし…」

 

 

「関係ないと思うけどなあ…」

 

 

「まあ、もしかしたら、探せば他の部屋の鍵が仕舞って有るかもしれないし、な」

 

 

そう言って亨夜は机を開けてみる。

 

 

「………なんだろ?」

 

 

亨夜が開けた机を渚が覗き込み、その中にある一際大きく分厚い、タイトルに何も書いてない本を取り出す。

 

 

「読んでみれば分かるんじゃないのか?」

 

 

「うん」

 

 

亨夜に促されて渚はその本のページを開く。

 

 

幸いにも中から悪霊が飛び出してきたり、本自体が悪霊だったり、本の中に吸い込まれると言う罠は無く、本を開くとページの間に挟まっていた何かが床に落ちた。

 

 

「……ん?」

 

 

それを拾い上げると、それは何処かの鍵だった。

 

 

「あ、それ、食堂の鍵……」

 

 

「何でこんな所に鍵が…? まあ、これで食堂の中も調べられるから良いけど…」

 

 

今はそんな疑問を抱くよりも、新たに調べる事の出来る部屋が増えた事の方が重要だろう。

 

 

「それより、その本を読んでみろよ」

 

 

「うん。………あら。何だ、アルバムだわ」

 

 

「アルバム?」

 

 

「うん。……………若い頃のお父さんとお母さんの写真」

 

 

アルバムならタイトルが無いのも納得出来る。

 

 

「あるばむ? 何が書いて有るんですか?」

 

 

ふと、アルバムの事を知らないアマテラスが渚の手元に有るアルバムを覗き込む。

 

 

「……すごく上手な絵ですね……」

 

 

アルバムの写真を見たアマテラスが感心した声を上げる。

 

 

「違うよ。これは『写真』」

 

 

「写真?」

 

 

「ああ。鏡に映す様に、人や物や風景を小さな紙の上に写し取る事が出来るんだ」

 

 

「……そちらの世界には、不思議な妖術が有るんですね」

 

 

アマテラスに写真について説明すると、そんな感想が返って来る。

 

 

「いや、妖術じゃ無いんだけどな…」

 

 

思わずそう呟いてしまう。取り合えず、アマテラスが写真に対して妙な勘違いをしないで居てくれる事を願う亨夜だった。主に、写真を撮ると魂を抜き取られるとか。

 

 

そんなアマテラスをよそに、渚はアルバムに見入っていた。

 

 

「お父さん、若~いっ、ちょっとかっこいい……。お母さんも美人だし……。あっ、ほらほら、亨夜、これ!」

 

 

「なんだよ?」

 

 

アルバムを見て歓声を上げていた渚が、そう言って亨夜を呼んでアルバムを見せる。

 

 

「昔はね、そこの庭に柿の木が植えて有ったんだって。あたしが生まれる一年前に枯れちゃったけど」

 

 

「へぇ…。じゃあ、じゃあ、これはこのお屋敷の庭の写真か」

 

 

「これ、全部このお屋敷の周りの写真みたいね。私の生まれる前の事なんだけど、それでも……なんだか、懐かしい……」

 

 

うっとりと目を閉じながら渚はアルバムを抱きしめ、過ぎ去った昔に思い出を馳せる…。

 

 

 

 

―……思い出せる限り古い物を辿っても、私の記憶は常にこの屋敷と共にある―

 

 

―だから、ここは私の家、わたしの故郷―

 

 

―私のお母さんが居て、私のお父さんが居て、私の部屋が有って……―

 

 

―つまり、私の全ては此処にある―

 

 

―私の出発点。そして、どんな辛い事からも私を守ってくれる拠り所―

 

 

―この家は、そして家族は、私にとってそんな……一番大切なもの―

 

 

 

 

「ん?」

 

 

ふと、もう一度アルバムを見ていた渚の手元のアルバムの一ページに妙な違和感を感じる。

 

 

「なあ、これ」

 

 

「どうしたの、亨夜?」

 

 

そのページには写真が殆ど無く、一番右下に樹を写した写真が有るだけだった。

 

 

「変な張り方ですね」

 

 

「貼っていた写真を取ったのかしら」

 

 

綾香の言うとおりアルバムには写真を剥がしたと思われる痕があった。

 

 

「どうしたんだろ? アルバムにこんな事するなんて、お父さんらしくないなぁ」

 

 

「失敗した写真を剥がしたんじゃないのか?」

 

 

「それにしては、数が多いわね。」

 

 

確かにそれは綾香の言うとおり、纏めて剥がした感じだった。

 

 

「…だとしたら…忘れたい思い出の写真でも貼ってあったのか?」

 

 

一番納得の出来る答えになりそうな言葉を小さくそう呟く。

 

 

「そうだ。渚、日付はどうだった?」

 

 

「それだったら、あのカレンダーと同じ辺りの写真までしか無かったわ」

 

 

(だとしたら、オレ達の生まれる前に忘れたい思い出が有るのか?)

 

 

それが答えかどうかは別としても、そう思ってしまう亨夜だった。

 

 

 

 

 

つづく…






っな訳で蒼き戦士の戦記の第五楽章の二話目です。



翔「微かにヒントが与えられる中で…戦闘無し…か?」



まあ、家の中で直ぐに暴れさせるのもどうかと思ったので。微かに家の中に散らばるキーワード。それらが指し示す答えとは…。



翔「では、次回もお楽しみに」
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