IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第五楽章 -3-

「ここ、だよな?」

 

 

「ええ、そうよ」

 

 

食堂は倉島邸に入ってすぐ右手にある。最初に一階を探し回った結果何処にどの部屋が有るのかが分かっている為に、こうして迷う事無く一直線に食堂まで辿り着けた。

 

 

「開いたわよ」

 

 

渚は書斎で手に入れた鍵を使って食堂のドアを開ける。こう考えるとあの幽霊は亨夜達を案内してくれた様にも思える。

 

 

「此処には何度か案内して貰ったよな」

 

 

「あんた、ふざけて暴れたせいでテーブルひっくり返して、散々お爺様に叱られてたわね」

 

 

「そ、そう言えばそんな事も有ったな…」

 

 

懐かしむ様に昔の汚点を言われて思わず顔が赤くなる亨夜に対して、

 

 

「まったく、お行儀が悪いったら……」

 

 

「子供の頃の話だろ」

 

 

「どうせ今だって禄にテーブルマナーなんか身に付けてないでしょ?」

 

 

「失礼な奴だな、テーブルマナー位は知ってるよ…。バイト先のお蔭だけど…」

 

 

それは龍牙や剣の影響も有るが、ZECTでライダーのアルバイトを始めた時に学んだ事の一つでもある。

 

 

亨夜と渚がそんな事を言い合っていると、食堂の中で木と木が擦れ合う音が響き、一行は其方の方を向く。

 

 

「あっ」

 

 

「またあの子か!」

 

 

そこにはあの少年の幽霊が子供用の高い椅子に座って、体を前後に揺さぶって遊んでいた。亨夜達は驚かせない様に少年の幽霊にゆっくりと近づいていく。

 

 

「…………」

 

 

だが、そんな亨夜達の気配に気付いたのか、少年はふっと姿を消した。

 

 

「あっ……消えた……」

 

 

「やはり、邪気は感じませんが……あの少年、何をしようとしているのでしょう?」

 

 

少年の行動の意味が理解できないと言った様子でアマテラスが困惑する声を上げる。悪霊の様に攻撃してくる訳ではなく、ただ姿を見せるだけ。少なくとも攻撃して来ない所から、敵ではないと考えて良さそうだが。

 

 

「さあ。渚、心当たりは?」

 

 

少なくとも、この家で現れたのなら関係者なのだと推測し、一番詳しいであろう渚へと問いかけるが。

 

 

「無いわよ。知らない子」

 

 

帰ってきた返事はそれだった。

 

 

「でも、この椅子、懐かしいなあ…」

 

 

ふと、渚が少年の幽霊が腰掛けていた椅子を懐かしそうに見て、うっとりと目を瞑り、そう呟く。小さい頃の渚はそれを使っていたのだろう。だが、それを聞いた亨夜の心の中に違和感が生まれてくる。

 

 

「何か、変じゃないか?」

 

 

「……え? なんで?」

 

 

それはアヒルの玩具を見つけた時に感じた物と同じ違和感。

 

 

「お前が生まれる前なのに、お前の為の椅子が有るのはおかしい…。そうだろ、お前が生まれる前なんだから」

 

 

そう、この家は『渚の居ない』過去の家なのだ。そんな所に渚の椅子が有る訳はない。玩具一つなら、偶然同じ職人の手で作られた物を親戚の子供が忘れていったと考える事も出来るが、流石に椅子が有るのはどう考えてもおかしい。

 

 

「………。え、えっと。子供が来た時の為に、買っておいたのよ!!! きっと……」

 

 

亨夜の疑問に微かに戸惑いながらも早口に答えるが、それは一応の筋は通っているが、どう考えても苦しい。自分でもそう感じているのだろう、その顔は冴えなかった。

 

 

どうも、この屋敷には府に落ちない事が多い。足元で何かを踏んだ感覚を覚えたのはそんな事を考えている時だった。

 

 

「ん?」

 

 

それに気が付いて拾い上げる。少年の座っていた椅子の直ぐ傍に落ちていたのは、小さな金属製の鍵だった。

 

 

「これは?」

 

 

「それ、サンルームの鍵ね」

 

 

亨夜の拾い上げた鍵を見て渚はそう教えてくれる。次の目的地がサンルームと決め、食堂を出ようとした時、

 

 

「あっ、ちょっと待って」

 

 

何かに気が付いた綾香が台所に入っていく。何事かと思って他の一行も続いていくと、

 

 

「あっ、有った有った」

 

 

先に台所に入っていった綾香がプロパンガスのボンベを指差していた。

 

 

「あれ……持って行っても良いかな?」

 

 

「へ? う、うん…。でも、ガスなんて使えるの?」

 

 

中位のボンベで比較的軽そうだが、そんな物を持っていって何になるのかと疑問に思う。全員が疑問に思っていると、

 

 

「へっへっへっ」

 

 

綾香は悪戯っ子の様な表情で手際良くボンベを外すと、窓を開けてホースの先を出して、そこにライターを近づけ、

 

 

「ちょ、まっ!」

 

 

「発射!」

 

 

流石に理解した亨夜が慌てて止めようとするが、それよりも早く綾香の言葉と共に栓が開放されてガスが出ると、当然火元(ライター)に引火して…

 

 

「きゃっ!!!」

 

 

「っ!!!」

 

 

「綾香さん…」

 

 

かなりの大きさの炎が発生した。直ぐに栓を締めたので一瞬だったが。

 

 

「へっへっへっ、驚いた?」

 

 

「お、『驚いた?』じゃないだろ、綾香さん!!!」

 

 

「う、うちに引火したらどうするのよ!?」

 

 

思わず突っ込みを入れる亨夜と渚の二人。流石に戦いを終えて現代に帰ったら倉島邸が新築になっていたらシャレにならないだろう。

 

 

…結局、武器は必要とは理解して、火炎ボンベは帰りに回収していく代わりに室内での使用は厳重に禁止しておいた。

 

 

「…良いのか、これ?」

 

 

「いいのよ、渚ちゃんの家はお金持ちだし」

 

 

「そう言う問題じゃないだろ…」

 

 

『家を傷つけない様に』と言っていた張本人がそれで良いのだろうか。

 

 

 

 

(それにしても…)

 

 

ふと、今までの青龍と玄武の時の事を思い出しながら、七海と綾香の二人へと視線を向ける。

 

 

(青龍の時は自殺した七海ちゃんの親友…。玄武の時は綾香さんの過去…。そして、今回の白虎は…渚か…。)

 

 

今までの事を思い出しながら、一つの疑問が浮かんでくる。明らかに自分達を狙った敵の策。少なくとも、七海と綾香の時は敵が此方の記憶でも除いていると考えれば説明できる動きだった。だが、

 

 

(妙だ)

 

 

明らかにこの家は妙だ。

 

 

(なんで、ネノクニで生まれたアマテラスには仕掛けてこないで、オレ達を狙ってきたんだ? オレ達に関わり過ぎてる)

 

 

そう、悪霊達は以前から亨夜達が来ると知っていた様に罠を用意している。

 

 

(…オレ達だけがこの世界に来た事と…何か関係しているのか?)

 

 

龍牙や亨夜には『未来の亡霊』と言うべきカブティックゼクターとスサノオの連れていた赤いガタックゼクターと考える事も出来るが…。屋敷以上に一朝一夕で用意できる物ではない。どう考えても最新技術の塊であるゼクターはこの時代で作れる物ではない。

 

 

 

 

そんな事を疑問に思いながら二階まで上がると、

 

 

「あっ!」

 

 

何かに気が付いたのか、七海がそんな声を上げた。

 

 

「どうした?」

 

 

「あの子!」

 

 

七海がそう言って指差した先には、誰の姿も存在していなかった。

 

 

「誰も居ないけど…」

 

 

「確かに居たんです! すうっとドアを潜り抜けて、あの部屋に入って行きました!」

 

 

七海の言葉に一同は顔を見合わせる。

 

 

「じゃあ、行ってみるか」

 

 

七海の指し示したのは…左手奥の吹き抜けに面した部屋…次の目的地であるサンルームだった。

 

 

無言のままサンルームの前に立つと、改めてこの家の凄さに圧倒される思いの亨夜だった。

 

 

「…しかし、サンルームまで有るのか…」

 

 

「さん……るうむ?」

 

 

「あー、入ったら解るから。開けるわよ」

 

 

そう言って渚がサンルームの鍵を開けると、そこは…。

 

 

「え…?」

 

 

「あれ?」

 

 

思わず戸惑った声を上げてしまう。

 

 

「これは……子供部屋だな」

 

 

「そうですね、玩具がいっぱい…」

 

 

そこには沢山の玩具が散らばっていた。小さな木馬に、積み木はまだ良いだろう。だが、それらと木彫りのアヒルとは違う、明らかに渚の物ではないと一目で解る、ビニール製の怪獣にスポーツカーや鉄道模型にロボット等……明らかに男の子向けの玩具ばかりが。少なくとも、未来においても存在していない代物だろう。

 

 

「なんだか、男の子の玩具ばっかりですね」

 

 

「そうだな。渚、心当たりは有るか?」

 

 

「……無い、知らない……」

 

 

渚は亨夜の言葉に不安げな表情を浮かべながら答える。

 

 

「どう言うこと……? 私の家なのに、私の知らない誰かが……ここにいる?」

 

 

君が悪そうな様子なのは一目で解る。だが、それも当然だろう。自分の知っている場所なのに…此処は明らかに知らない場所になっていた。戸惑うのも無理は無いだろう。

 

 

「まあ、昔の話だから…今気にしても仕方ないだろう」

 

 

「うん」

 

 

そんな渚の言葉をスイッチにしたかのように、玩具達が一斉に動き出す。電池式の動く玩具だけなら良い。だが、動くはずの無いビニールの怪獣や積み木まで動き出した。

 

 

「くっ、悪霊ですか!?」

 

 

「待て、様子が変だ!」

 

 

アマテラスが武器を構えるが、亨夜はそれを慌てて止める。玩具達はただただ無軌道に動いているだけだ。人や家具、壁にぶつからない様に。

 

 

「これは、一体……?」

 

 

七海の口から零れた言葉はその場に居た全員の意見だった。

 

 

「何か、遊んでいる様にも見えるけどねぇ…」

 

 

「っ!? それって…まさか?」

 

 

「うん。ほら、子供って、お気に入りの玩具をぐるぐるって動かしたりするでしょ? 何かそんな感じがしたのよ」

 

 

「言われてみると…」

 

 

「そう見えなくもないですね」

 

 

綾香の言葉を停止スイッチにする様に玩具達は一斉に動きを止めた。

 

 

「…止まりましたね」

 

 

「一体、何なのでしょうか?」

 

 

唖然とした声を上げると亨夜の足元に鉄道模型が有った。踏みそうになったそれをどかそうとした時、

 

 

「これは…」

 

 

SLの鉄道模型の荷台の中に、また何処かの部屋の鍵が乗っていた。

 

 

「渚、これは?」

 

 

「それは……」

 

 

亨夜から渡された鍵を手に取り、渚は消え入りそうな声で呟く。

 

 

「それは、あたしの部屋の鍵だよ」

 

 

そう言って鍵を受け取って自分の部屋に向かおうとする渚の足取りはふらついていた。…そんな姿を見るのは初めてだが、無理も無いだろう。

 

 

「お、おい、渚!?」

 

 

「渚ちゃん!!!」

 

 

フラフラとした足取りの渚を綾香が支える。

 

 

「………。あっ、ごめん」

 

 

「大丈夫ですか、渚先輩? 少し、休んでいきますか?」

 

 

「そうねぇ、七海ちゃんの言うとおりかも…」

 

 

「そうだな。二人の言うとおり、少しだけ休んだ方が「待って!!!」…大丈夫なのか?」

 

 

亨夜の言葉を遮って休む事を嫌がったのは渚だった。いつもなら、亨夜の言葉に『ふん!!! 大丈夫よ!!!』とでも言いそうなのだが。

 

 

「何か、嫌なの…。此処に白虎が眠ってるんなら、さっさと開放させて帰りましょうよ。」

 

 

「渚…?」

 

 

久しぶりに帰ってこれた故郷のはずなのに、嬉しいはずなのに、一秒でも此処には居たくない。そんな感情が渚の言葉からは見て取れる。

 

 

そう言って渚の先導でサンルームを出ると真っ直ぐに道を進んでいく。

 

 

向かう目的地は渚の部屋。この渚が生まれていない頃の家の中では…無人の筈の部屋。誰か利用している者が居るとすれば、その可能性が有るのは、両親のどちらかの私室なのだろうが…。

 

 

そして、そんな一行の動きを影から監視している者が居る事に、まだ気付いていなかった。

 

 

 

 

 

つづく…

 





っな訳で蒼き戦士の戦記の第五楽章の三話目です。



翔「で、最後の影は…」



誰かは秘密ですけどね。渚編は戦闘要素を削った分だけ物語としては謎解き部分が多いんですよね。



翔「亨夜にも別の謎のヒントを与えているようだけどな」



その通りです。では。
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