IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
渚の部屋は最初に入る事の出来た書斎のある通路の奥、書斎の向かい側にある両親の部屋の奥に有るらしい。
「あっ!」
その通路を進んでいくと目の前に、あの少年の幽霊が現れた。
「………っ!」
それを見た渚が僅かに怯えた様子で表情を強張らせる。
「お前は一体…誰なんだ?」
自然と亨夜の口から零れた疑問の言葉は、その場に居る全員の共通した意思だった。だが、その問いに答える事無く、少年は年恰好に似合わない穏やかな微笑を浮かべたまま、宙を滑る様に移動して一番奥の部屋の前で停止し、亨夜達の方を振り向いて消えて行った。
「……次はあの部屋に入れと言ってるみたいね」
「………」
綾香の言葉に渚は表情を強張らせる。その部屋は、
「あれ、あそこは…?」
「私の部屋……よ」
そう、先ほどのサンルームで鍵を手に入れた………渚の部屋だ。
「とは言っても、渚が生まれる前だからな。」
渚の言葉に対して亨夜は其処から先の言葉を飲み込む。
「……あの子供は、何者なのでしょうか?」
「まあ、害は無いみたいだけどねぇ」
「……とにかく、急ぎましょうよ!!!」
焦っている様子の渚がそう叫ぶ。……そして、渚の部屋の前に立ちドアを開けようとするが、
「………! 待って!」
「ん?」
鋭い声を上げ、渚が亨夜を静止する。
「待って……お願い、止めて」
「………」
「渚先輩?」
何かに怯えている様子で慌てて亨夜達を制止する。
「どうしたんだ、渚?」
「ここには……入りたくない。ここ、開けない方が良いような気がする……」
「「「「え?」」」」
渚の言葉に全員が声をハモらせた。
「ここって、お前の部屋じゃ無いのか?」
「違うっ……違う! 見たくない!」
「中から悪霊の気配…とかか?」
亨夜の問いを無言で首を振る事で否定する。
「どうしたんだ? さっきは急ごうって言ったり…」
「そうだけど……。そうだけど、何か、見ちゃいけない物が中にある……」
言われてみれば、この家は渚の記憶と妙に一致していない部分が多い。有る筈の無い渚が子供の頃の物、男の子向けの玩具。それらはある程度は無理矢理にだが否定する事が出来る。だが、この部屋の中だけは………否定できない。
「おい、しっかりしろ!」
改めて向き合ってみると、顔色も優れていない。そんな渚が心配になって肩に手を置き、自分の方を向かせようとするが、渚はそれを振り払って、叫ぶ。
「嫌………入りたくない………嫌な気分………思い出したくない事を思い出しそうなの!」
「どうしたの? 渚ちゃん……」
「とにかく嫌なの!!!」
綾香の言葉に対してそう叫ぶ。この部屋に入る事を渚は酷く怯えている。確かに直感的な物を上手く説明しろと言われても無理が有るだろう。それは理解できる。だが、
(…どうしよう…)
この部屋以外に他に手掛かりは無い。どうしてもこの部屋に入る必要が有るのだ。
「あたし、入りたくない! あんた達で勝手に調べてよ、あたしは絶対に嫌!!!」
「分かった」
「あの………それじゃ渚先輩、下に降りて待っててくれても良いですよ」
その言葉に亨夜が同意して七海が助け舟を出す。ここまで嫌がっている以上は無理矢理参加させる意味は無いと判断した結果だが…
「ちょっと待って下さい」
「どうかしたのか?」
アマテラスが声を上げる。
「この屋敷について一番詳しい渚さんを置いて私達だけで入っても、重要な手掛かりを見逃すかもしれません」
「確かに……一理あるな」
確かにアマテラスの言葉は正論だった。今の精神状態の渚にそれを期待できるかどうかは疑問だが。
「どうも、何か予感がするのです。あの幽霊………何かが有る」
「………」
「渚さん、一緒に入ってください」
「嫌だって言ってるでしょ!!!」
「しかし……」
真っ直ぐに渚を見据えながらアマテラスはそう告げるが、渚はそう叫ぶ事で拒絶する。無理強いするのもどうかと思ったのか、アマテラスはそこで口ごもる。
恐らくはアマテラスと渚…二人の感じている予感の根底は同じ所に有るのだろう。アマテラスはそれを知るべきだと考え、渚はそれを知る事を拒絶している。
こうなると二人の会話は完全に平行線だ。結論が出るにはどちらかが折れるしかないだろう。
「……しかし、私達は先へ進まなければならないんです」
「………」
その言葉に渚とアマテラスの間に暫し沈黙が流れた。
「分かった……わよ」
結果、最終的に折れたのは渚だった。
「じゃあ、入るけど。………本当に良いんだな、渚?」
「うん………」
僅かにそのドアを開ける事を躊躇する。だが、意を決して、渚を連れて亨夜達はゆっくりとドアを開けた。
「これは?」
部屋の中を見て思わずそんな声が零れた。彼らの目の前に現れた光景は、
「子供部屋…?」
それはごく普通の子供部屋だった。広さは兎も角、有っても不思議ではない普通の光景。だが、この部屋が渚の部屋になる予定の部屋と考えると………それは、どう考えても、不自然な光景だった。
子供用の小さなベット、タンス、おもちゃ箱、そこから溢れているのはロボットやSF戦闘機の玩具、そして、サッカーボール。
「男の子の………部屋?」
それはどう考えても、男の子の部屋だ。それを渚に問おうとする七海。
「………。……ここは……。私は……」
だが、問いかけられた渚は呆然としながら、定まらない視線を周囲に彷徨わせながら、呟いた。
「私は……何処から来たの?」
渚の脳裏に思い浮かぶのは、過去の光景。
それと同時に部屋の中が光に包まれ、映画のスクリーンの様に人形を抱いた一人の少女と書斎に有ったアルバムに写っていた男女の姿が映し出された。
その少女は顔立ちが確かに渚の面影が有る。間違いなく、彼女は過去の渚だろう。
『今日から、此処が貴女の部屋よ、渚』
『……え?』
『そして……』
人形を抱いた渚の頭にぽん、と手を置き。
『私達が貴女のお父さんとお母さんになるのよ』
その女性は幼い渚に優しく告げる。
『……お父さんとお母さん?』
『そうだよ、渚……お前は、私達の娘になるんだ』
そこでその映像は消えた。
「い、今のは!?」
「………っ!」
目の前に映し出された謎の幻影。亨夜の疑問の声に相槌も打たずに、渚は行き成り乱暴にドアを開けて、部屋を飛び出して闇雲に何処かに行ってしまった。
「お、おい! 渚!」
慌てて追おうとした瞬間、『ばたん』と何処かの部屋のドアが開いた音が聞こえた。それに反応した訳ではないが、急いで廊下に飛び出たが、
「っ!? あいつ…何処に行ったんだ?」
そう、この広い屋敷の中で、亨夜達は完全に渚を見失ってしまった。
「はぁ、はぁ……違う、違う、そんな事無いっ……!」
渚は部屋を飛び出してから滅茶苦茶に廊下を走って、自分の部屋から逃げ出していた。
「ここはあたしの家、あたしはこの家の子供、お父さんもお母さんも……あたしのお父さんとお母さんなんだもの!」
息が切れるまで走って、立ち止まる彼女の目の前に。
「………」
「あ、現れたわね! 悪霊!!!」
「………」
「お前なんか知らない! ここはあたしの家なんだからね! 勝手はさせないんだから!」
「………」
心の底から拒絶の意思をぶつける渚に少年は悲しそうな表情を浮かべて見つめている。
「な、何よ……」
「………」
そして、渚を追い払う様に両手を突き出して、『あっちに行け』と言うジェスチャーをする。
「……こっちに来るなって言うの!?」
「………」
渚の言葉に頷く事で肯定する少年。
「……ここはあたしの家よ! どうしようがあたしの自由よ! お前の指図なんか受けないっ!」
「………」
渚は両手で思いっきり少年を突き飛ばし、
「どけっ!」
そのせいなのか、姿を消した少年が彼女を近づけまいとしていた部屋の中に、渚は飛び込んだ。
「………!?」
その部屋の中は漆黒の闇、電気が着いていないからと言う単純な理由ではなく、もっと深い……何もかも、光であっても飲み込んでしまいそうな、漆黒の闇。
「きゃあっ!」
渚が部屋から出ようとした瞬間、物凄い勢いで廊下から部屋の中へと空気が吸い込まれる。台風とハリケーンが一度に襲ってきた人一人簡単に吹き飛ばしてしまいそうな突風から、必死に逃げようとしたが………
「き、亨夜~っ!」
助けを求める声さえも飲み込んで、渚を中へと吸い込むと…役目を終えたかの様に、何事も無かったかのように、部屋のドアは閉じ……。
「あっ…」
渚は部屋の中で一人ぼっちになった。
―……もう何度目の朝を此処で向かえたことだろう―
―目が覚めて、見えるもの……―
―見慣れぬ壁、見慣れぬ窓、見慣れぬ絨毯……―
―私はまだ、この部屋の風景に慣れては居ない―
―どうにも、ここが私の部屋なのだと言う実感が掴めない―
―がちゃり、とドアが開く―
『起きたかい? 渚』
―このおじさんは、お父さん―
『いい天気よ、今日はお庭で御飯を食べましょう』
―このおばさんは、お母さん―
―そう呼べと言われたから呼んでるけれど、しっくりこない―
―お父さんってなんだろう、お母さんってなんだろう―
―……家族ってなんだろう?―
『…どうした? まだ眠いのかい?』
首を横に振る。
『そうか。……よく眠れたかい?』
今度は首を縦に振る。
『………』
『あら、そのぬいぐるみ、気に入ってくれたみたいね』
―おばさ……お母さんが、私の抱いているぬいぐるみを見て嬉しそうに言った―
―これはこの人と私が最初に会った時にくれたぬいぐるみで、私の物―
『ぬいぐるみは、好き?』
首を縦に振る。
『そう……もっと欲しい?』
もう一度、首を縦に振る。
『おいおい、あまり甘やかすのは……』
『いいじゃない、これくらい。……女の子の部屋なんだもの、ぬいぐるみが一つだけと言うのは寂しいわ』
『まあ、それもそうかな……』
―ぬいぐるみは、そうやって少しずつ増えて行った―
―見慣れぬ部屋に増えていく、私のぬいぐるみ、私の物―
―私のものでこの部屋を埋める事で、少しずつ、この部屋は私の物になっていく……―
「これは…渚の記憶?」
映像が消えた瞬間、亨夜はそう呟く。
『そうなんだろうな』
「「「「っ!?」」」」
突然聞こえた第三者の声に反応して振り替えた瞬間、振り返ると同時に声の聞こえた方から投げつけられた何かを亨夜は受け止める。
「何者ですか!?」
「あれ、あの人の格好って…」
「私達の世界の服…?」
ボロボロになっているが、現代の服を着た一人の男が部屋のドアに背中を預けて立っていた。だが、亨夜の目には男の腕に有る物に目を奪われていた。
「あれは…『ライダーブレス』…」
見覚えの有る腕輪、ザビーへの変身の為に必要な変身ツールであるライダーブレス。ライダーブレスを着けた男は亨夜に敵意の篭った視線を向けながら、背中を向け、ゆっくりと部屋のドアを開けて外に出て行く。
「続きが見たけりゃその鍵の部屋に行ってみるんだな」
「待て!」
そう言って部屋を出て行く男を呼び止めようとしたが、それは既に遅く、部屋を出た男を完全に見失っていた。
手の中で金属が擦れる音がしたのに気が付くと、いつの間にか亨夜の手の中にはストラップの着いた鍵が握られていた。
「これって…」
「何処の鍵なんでしょうか? さっきまでの鍵とはちょっと違いますし」
「食堂、サンルーム、渚の部屋の鍵が今までの部屋だったけど…」
手の中を覗き込む七海にそう答えながら、亨夜は全員に見える様にその鍵を持っていく。
「では、一体何処の…?」
「あっ、分かった。きっと渚ちゃんのご両親の部屋よ」
「「「え?」」」
綾香の声に全員が一斉に視線を向ける。
「このストラップ、子供の健康祈願のお守りだもの」
「健康…祈願?」
よく見ると小さく『健児成長・無病息災』と書かれている。
「多分だけど…この家の人じゃない限り、こんなストラップは付けないでしょ? 運転手さんや家政婦さんが、職場の鍵に個人のストラップを付ける訳はないし」
「なるほど…」
七海が手をポンと叩いて納得している。確かに職場で渡された鍵に個人的なストラップを付けるとは考え辛い。
「では、次は渚さんのご両親の部屋ですね」
「ああ。確か、隣だったな」
先ほど、サンルームを出る時に渚に教えて貰っていたので迷わずに行ける。
「亨夜さん」
隣に向かおうとした時、アマテラスが亨夜を呼び止める。
「どうした?」
「あの者とは知り合いですか?」
「…あっちはオレを知っている様だったけど…残念ながら、初対面だ」
あの男から亨夜に向けられた意思は憎悪の篭った敵意だった。それ以外の感情も感じられたが、そんな感情を向けられる様な相手の中に、少なくとも亨夜の記憶の中はあの男は居ない。
しかも、服装からして異常と言えるだろう。明らかにボロボロになり方が、だ。歴戦の戦士の様な雰囲気が感じられる男の注意は常に亨夜へと向けられていたのだ。
「そうですか」
ライダーブレスを持った男…それを持っているであろう人物は一人出しか知らない。だが……その男は別人なのだ。
「…なんだったんだろうな…一体?」
誰にとも無く、亨夜はそう呟いた。
つづく
っな訳で蒼き戦士の戦記の第五楽章の四話目です。
翔「敵ライダーの登場か?」
まだ変身してませんけどね。ケタロスとは違って冷静に会話をする余裕の有る相手って感じで書いて見ました。
翔「まあ、亨夜に向けてる敵意の意味は…」
龍牙と亨夜版の神速愛のストーリーに関係してくるので。では、次回もお楽しみに。