IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第五楽章 -5-

「どう? 鍵は入りそう?」

 

 

「問題無しよ、亨夜ちゃん」

 

 

綾香がライダーブレスを着けた悪霊側の者らしき男から渡された鍵を差し込むと、何の抵抗も無く渚の両親の部屋の扉が開いた。

 

 

「奴は何の為に此処の鍵を渡したんでしょう?」

 

 

「…オレ達を導いてくれている様だった、あの男の子の幽霊と違って…明らかにアイツからは敵意を感じたしな」

 

 

亨夜はあの男の事を思い出しながらアマテラスの言葉に返す。

 

 

亨夜があの男から感じたそれは己だけに向けられた敵意。だが、初対面の相手、しかもネノクニで出会った相手から恨みを買う様なマネはしていない。ワームが共通してライダーに向けてくる恨みとも違う、明らかに身に覚えが無い恨みだ。

 

 

亨夜がそんな事を考えていると、部屋が突然、漆黒の闇に包まれる。一歩先も見えず、辛うじて近くに居る仲間の姿が確認できる程の暗闇の中、

 

 

 

―ここはお父さんの部屋―

 

 

 

渚の声が部屋の中に響いた。

 

 

 

―お父さんはお酒を飲みながら、お母さんと何かを話している―

 

―小さな声だけど、一人きりで静かにしている私には、壁越しに二人の声が聞こえてくる―

 

 

 

『………どうにも、自信が無いよ』

 

 

『そんな……今更そんな事を言わないで下さいよ』

 

 

暗い闇に包まれた部屋の中で渚の両親の話し声が聞こえてくる。

 

 

『もう一ヶ月だぞ? 一ヶ月以上も、あの子の声を聞いていない』

 

 

『………』

 

 

その声は会話をしている渚の両親が直ぐ近くに居て会話している様に響く。

 

 

『私達は嫌われているんだろうか?』

 

 

『違いますよ………、そんな事ない』

 

 

『しかし………』

 

 

『行き成りこんな大きなお屋敷に連れてこられたんです。戸惑うのは当然ですよ………。きっと、あの子はまだ緊張してるんです』

 

 

『………そうかもしれん』

 

 

会話の内容から察すると、これがあの男の言っていた渚の部屋の続きだろう。

 

 

『私達は親なんですよ。私達が動揺してどうするんですか?』

 

 

『分かってる! でも私だってとまどっているんだ……。もし、ずっと今のままだったら……』

 

 

今現在の渚を知っているだけに父親の悩みは杞憂だったのか、それとも両親の努力の結果が今の渚なのかは良く分からないので、悩みすぎだとは思うが…。

 

 

『………』

 

 

(親の気持ちなんて…なってみなきゃ理解できないだろうからな)

 

 

亨夜がそんな感想を持っていると聞こえてくる会話は進んでいく。

 

 

『私は正直、娘として育てていける自信が無い………』

 

 

『そんな……』

 

 

『君はどうなんだ? あれを娘だと思えるのか? あの…だんまりを決め込んだ人形のような子を……』

 

 

多少聞こえてくる会話に怒りを覚えるが、亨夜はある意味では仕方ないだろうとも思ってしまう。所詮、家族であっても本人の心の中は本人だけしか知りえない事だ。

 

 

『………』

 

 

 

―ぬいぐるみを抱いて、私はただじっと天井を見つめて、二人の話を聞いていた―

 

 

 

演劇の舞台の幕が変わる様に渚の声が響くと、

 

 

「先輩、見て下さい」

 

 

「あれは…廊下?」

 

 

七海の言葉に従って其方へと視線を向けると演劇の舞台の一部がスポットライトに照らされる様に、幼い日の渚が歩いている廊下が映し出された。

 

 

 

―……その日、夜中に怖い夢を見た私は、お母さんに一緒に寝て貰おうと思って、寝室に向かった―

 

―少し怖いけど、一人で居るのはもっと怖い。勇気を振り絞って、真っ暗な廊下を歩いていく―

 

 

 

『……ううっ……』

 

 

彼女のナレーションによって記憶と言う名の演劇が進んでいく様に、幼い日の渚が廊下を歩いていくのに合わせて景色も動いていく。そして、突然誰かがすすり泣く声が聞こえた。映像の中の渚も驚いたのだろう、そんな様子を見せている。

 

 

『……秋也……』

 

 

この家に入ってから何度か見た名前…

 

 

(…やっぱり…『秋也』って言うのは…)

 

 

一つの推測が形を持ち始めていく。その真実を渚に伝えるべきかは別として、それは…。

 

 

 

―それはどうやら、お母さんが泣いている声の様だった―

 

―私はお母さんの声が気になって、声の方へと歩いていく―

 

―廊下に零れる光、お母さんは自分の部屋に居るようだ―

 

―ドアは半開きで、中の様子が廊下からでも少し見える―

 

 

 

『お母さん……』

 

 

幼い日の渚はドアの側に立ち、母に呼びかけた。

 

 

『………渚?』

 

 

『お母さん、どうしたの……?』

 

 

彼女は涙でくしゃくしゃになった母へと問いかける。幼い日の渚には母が泣いている理由が分からないのだろう。

 

 

 

―それはいつも優しそうに笑っていたお母さんの顔とは全然違って……―

 

―私は、まるで知らない人の前に立っている様な気分になった―

 

 

 

『な、なんでもないのよ……これは』

 

 

幼い日の渚を前にして母は慌ててそれを彼女から隠そうとする。机に仕舞おうとするそれは、男の子の写った写真立ての様だった。一瞬だけだが、その写真立てに写っていた男の子は、亨夜の予想通りあの幽霊に似ていた。

 

 

(…やっぱり、あの幽霊は『秋也』…。亡くなったこの家の長男って所か…)

 

 

亨夜は推測の中だけだがそう結論付ける。恐らくは間違っていないだろうと思っているが。

 

 

『その子、誰?』

 

 

幼い日の渚は無邪気にそう質問した。

 

 

幼い子供は時として何よりも残酷だろう。何の悪気も無く、何も知らず、単なる好奇心で人の心の傷を抉ってしまう事もある。今の渚ならば、隠したがっている事を察して気を回す事はできただろう。だが、この年齢の子供にそれを期待するのは無理がある。

 

 

『………』

 

 

亨夜の推測が正しければ……母は答える事は出来ないだろう。

 

 

『な、何でもないの……。渚、早く寝なさい。明日は幼稚園でしょう?』

 

 

『………』

 

 

 

―私はその日、私の知らない、私のものでないお母さんが居る事を知った―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出した……」

 

 

閉じ込められた暗闇の中で渚がそう呟く。

 

 

「あたしは秋也って子の代わりだったんだ」

 

 

―あたしは貰われっ子だったんだ―

 

 

忘れていた過去の記憶、暗闇の中で渚はそれを思い出していた。亨夜の推測どおり倉島家には元々『秋也』と言う男の子が居た。何かの病気か事故で亡くなった……。

 

 

(それで、身寄りの無い私が貰われて来たんだ)

 

「……あたしは此処で生まれたんじゃないんだ……」

 

 

それは渚が忘れていた記憶。

 

 

「あたしの家、あたしの部屋、あたしの椅子、あたしの玩具、あたしのお父さん、お母さん……」

 

 

持っていたはずの大切な物が一つ一つ崩れ落ちて掌から零れ落ちていく。後には何一つ残らず、

 

 

「あたしのものじゃなかったんだ。全部、あの子の者だったんだ……」

 

 

自分のものだと思っていたものは何一つ本当は自分のものではなく、別の誰かの物だった…。

 

 

「あたしは……。倉島渚は……。倉島渚だと思っていたものは……。倉島渚だと信じていたものは……」

 

 

彼女の思考が辿り着いた残酷すぎる答え、それは…

 

 

「それじゃあ、全部……“嘘”……」

 

 

自分を支えていたものが、自分を構成していたものが消えていく度に、弱々しくなって行く消え入りそうな声で己自信が自分を否定した。

 

 

前も後ろも、上も下も分からない暗闇の中で、渚の心はその闇よりも深い闇の色に塗りつぶされ、そのまま何処かへ消えてしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渚ちゃんの心の中の……思い出……?」

 

 

映し出された映像を見終わった綾香がそう呟く。

 

 

「……渚……」

 

 

 

『どうだ? 楽しめたか?』

 

 

 

再びそんな声が響くと亨夜達は一斉に後ろを振り返る。

 

 

「また現れましたね」

 

 

アマテラスは槍を構えながら闇の中に佇む男を睨みつける。

 

 

「あなたは一体誰なんですか!?」

 

 

弓を構えている七海も意に介さずに男は真っ直ぐに亨夜だけに憎悪の感情を向けていた。

 

 

「悪いが、俺が用があるのは…お前だけだ。荒谷亨夜」

 

 

男がそう呟くと周りにいたはずの七海達の姿が消える。

 

 

「綾香さん、七海ちゃん、アマテラス! ッ!? …お前、何をした?」

 

 

ガタックゼクターをキャッチして何時でも変身できる体制で男を睨みつける。

 

 

「慌てるなよ。言っただろ? 用が有るのはお前だけだってな」

 

 

「っ!?」

 

 

そう言って男が何処からか上着を取り出すとそこに書かれている文字に目を奪われる。

 

 

甲虫をイメージさせる紋章に書かれた新たに手書きで『NEO』と書き加えられて入るが、『ZECT』と書かれていた文字。それはZECTに所属するライダーに支給されるユニフォーム。

 

 

「お前…何者だ? オレに何の恨みがある?」

 

 

「…正確にはオレじゃなくて、『オレ』だな。それに…『オレ』が恨みがあるのも、お前じゃなくて『別のお前』だ」

 

 

そう言った男の姿は一瞬だけだが、銀色のカブトムシ…それもヘラクレスオオカブトの様なワームに姿を変えたと思うと直ぐに人間の姿に戻る。

 

 

「っ!? お前、やっぱりワームだったのか?」

 

 

「ああ。だけど、お前に恨みがあるのはオレが擬態したこの男だぜ。それも…逆に意識が乗っ取られそうなほど強い、な」

 

 

「借り物の恨みに…「『オレ』の仲間の多くは…『別のお前』に殺された」…どう言う意味だ?」

 

 

男を睨みつけながら亨夜はそう問う。明らかに『オレ』と言うのはワームでは無く擬態した男を差している。

 

 

「『ZECT』と『NEO ZECT』との戦争、その戦争でZECTの先頭に立って、ワームだけじゃない…ZECTに反逆した『オレ』の仲間を殺したのが、『オレ』の知っている『別のお前』だ」

 

 

「っ!?」

 

 

思わず言葉を失ってしまう。嘘ではないだろう…そんな響きが男の声からは感じられる。『別の亨夜』が、擬態された男の仲間…『ワーム』では無く『人間』を多く殺していたと言う事実に思わず言葉を失ってしまう。

 

 

男が亨夜を目の前にして冷静に居るのは、本人ではなく擬態したワームだからだろう。

 

 

「ふざけるな! そんな言葉で惑わされるか!? 変身!!!」

 

 

 

《HENN-SHINN》

 

 

 

男の言葉に反発するように叫びながらベルトへとガタックゼクターを装着、仮面ライダーガタック・マスクドフォームに変身すると、ゼクターホーンに触れる。

 

 

「悪いが、俺は嘘は言ってないぜ。変身」

 

 

何処からか飛んで来た銀色のゼクター…カブティックゼクターを掴み取ると、男はそれを腕のライダーブレスへと装着する。

 

 

 

《HENN-SHINN》

《CHAST OFF》

 

 

 

同時に響く二つの電子音、そして、

 

 

 

《Change Beetle》

《Change StagBeetle》

 

 

 

片やマスクドフォームを介して、片やライダーフォームへ直接、と言う違いこそ有るが、同時に響く二つの電子音。亨夜は仮面ライダーガタック・ライダーフォームへと変身し、男は……ヘラクレスオオカブトをイメージさせるカブトに似た姿の仮面ライダー、カブティックゼクターシリーズの三人のカブトライダーの一人…銀の仮面ライダー『仮面ライダーヘラクス』へと変身する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、どこですか!?」

 

 

一方闇の中から開放された七海、綾香、アマテラス達は無事、渚の両親の部屋の中に居た。だが、亨夜の姿だけは其処には存在していなかった。

 

 

「そんな、渚ちゃんだけじゃなくて、亨夜ちゃんまで…」

 

 

亨夜の姿を探している三人の前にあの男の子の幽霊が現れる。

 

 

「……やっぱり、敵!?」

 

 

「……待って!」

 

 

アマテラスが槍を構えるアマテラスを七海が制する。

 

 

「この子……私たちに何かを伝えようとしているみたい」

 

 

「えっ?」

 

 

七海の言葉に反応したのだろうか、男の子の幽霊は彼女達三人に背中を向けて廊下に出て行く。

 

 

「あっ、待って!」

 

 

男の子の幽霊を追いかけて外に出ると男の子の幽霊は彼女達が出てくるのを待っていた。そして、彼女達の姿を確認すると再びゆっくりと移動する。

 

 

「着いて来いって言ってるのかしら?」

 

 

「どうします? 罠かもしれませんが…」

 

 

「行きましょう」

 

 

アマテラスの言葉に七海が迷う事無く答えると、綾香とアマテラスの二人も頷き合い、三人は男の子の幽霊の追跡を再開した。

 

 

 

 

 

つづく…





っな訳で蒼き戦士の戦記の第五楽章の五話目です。



翔「ガタック対ヘラクスで他の仲間とは分断か」



はい。そして、本作版の神速愛のストーリーの一部が明らかに。



翔「…どれだけ過激なんだ、その未来の亨夜?」



さあ、それについてはまだ秘密です。では。
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