IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
それは、渚の過去の記憶。亨夜がまだ変わる前の記憶。
―その日も、あたしの左右のおさげを背中の後ろで勝手に結び付けて変な髪形にした亨夜を一発ぶん殴ってから、あたしは聞いたのだ―
『「ちょっとあんたっ、いい加減にしなさいよね! あたしを誰だと思ってるの?」』
『「誰って、渚だろ? 委員長の倉島渚」』
『「なれなれしく名前で呼ぶなぁっ!」』
『「何言ってるんだよ、オレとお前の仲じゃねえか」』
『「誰と誰が何時からどんな仲だって?」』
『「オレとお前が去年同じクラスになってから、すっかり仲良しの喧嘩友達に……」』
『「説明せんでいい!」』
『ボカァ』と言う音を立てて渚の叫びとセットになったパンチが亨夜を殴り飛ばす。
『「いてて……」』
『「あ、あんたね……分かってない様だけど、このあたしはあの倉島家の跡取り娘なのよ? お嬢様なのよ?」』
『「知ってるよ、そんなの。お前、ことあるごとに自慢してるじゃねぇか」』
『「むっ……。そ、それにクラス委員長なのよ! 来年は生徒会にも立候補するつもりなのよ!? このあたしに比べて、あんた何様のつもりなの!?」』
『「オレ様」』
渚の言葉に亨夜は楽しげに笑いながら答えると、『#』マークを頭に貼り付けた渚が『ごすっ!』と言う音を立てて亨夜を殴り飛ばした。
『「げはっ……」』
『「マジメに答えろ!」』
『「……いてて……ホント、乱暴な奴だな……。だいたい、お前が偉いとか頑張ってるとか、オレは別にどうでも良いんだよ」』
『「……あ、あたしの誇りをどうでもいいの一言で片付けるなっ!」』
『「つーか、お前をからかうのにそんな事関係ないじゃん」』
『「あんたに無くても、あたしにはあるの! だいたい、そんなこと言うあんたは何を頑張ってるってのよ!」』
問い詰める渚に亨夜は少しだけ考えてから答える。
『「……うーん、特には」』
『「それじゃ、ただのダメな人じゃない!」』
―今思えば、あの頃から武道とか頑張ってたのよね、あいつ。…『妹を守るのなんて兄貴なんだから、当然だろ』なんて言って―
過去の事を思い出しながら、渚は今は居ない亨夜の妹の事を思い出す。
『「そう言われれば、そんな気もしないではない」』
そう答える亨夜に『ボカっ』と言う音を立てて本日三回目のパンチが炸裂する。
『「な、なぜ殴る!?」』
『「その余裕の態度がムカツく~っ!」』
―そうなんだ……―
―あたしは気付いた―
―あたし、亨夜の事ムカついてたんだ―
―“立派な両親が居る”とか、“何かをマジメに頑張った”とか、そう言う物が無いと自信を持てなかったあたしは……、そんな物無しにあるがままに自分を支える事ができる亨夜が、多分羨ましかったんだ―
それは、彼女が亨夜に抱いていた初めての感情。何も無くても自然に自分を支える事ができるしなやかな強さ。『復讐』と言う支えと共にしなやかさを失って鋭さを増した強さを得てしまった今の亨夜の失っている強さだ。
―だから、必要以上に対抗心を抱いて何かと突っかかっていったんだ―
渚は過去の己と亨夜を思い出しながら、その理由を改めて理解する。
―常に亨夜と張り合う事で、あたしの生き方が間違ってない事を証明したかったんだ…―
―でも…何時からだろ…亨夜があんな顔をするようになったのは…?―
思い出すのは、偶然見てしまった学園の外で誰かと電話をしている時の亨夜の顔。それは、彼女の知っている亨夜とは結びつかない程冷たい表情。
―何時からだろう、亨夜が変わったのは…?―
思い浮かぶのは誰かの葬式の光景。
―そうだ…凛ちゃんが居なくなってからだっけ…? それからだ…亨夜が変わったのは…―
意識の中で浮かび上がる光景…記憶には無い、今の自分と変わらない年齢の渚が亨夜と一緒に砂漠でサナギのワームと戦っている姿。
―なに、これ? こんなの…私は知らない―
亨夜が砂漠に倒れた剣に何度も声をかけている姿も、七海や美由紀達と一緒に子供達と遊んでいる光景も浮かんでくる。
―『そうだろうな、それは別の未来の記憶だ』―
―誰!?―
聞こえてくる誰かの声。何処か聞き覚えがるが、誰の声なのかは思い出せない。
―『まあ、あいつが変わった理由を聞くのは、本人の口から後で聞くのが一番じゃないのか? 知らないのはアマテラスとお前だけだろうし』―
―何よ、それ!?―
七海や綾香は知っていると言う事を遠まわしに伝えてくる声を通して、何故か亨夜に対して苛立ちを覚えてしまう。
―『これは、今の新谷亨夜には繋がらない、もう一人の亨夜の歴史って所だな』―
互いに声をかけながらサソードとガタックに変身してワームと戦う亨夜と剣の姿を背景に声はそんな事を渚へと伝えていく。
―『そいつ等はワーム。詳しい事は亨夜に聞いた方が良いだろうから黙っておくけど、その歴史の中ではそいつ等に人類は追い詰められていた。巨大隕石の落下で海を失い水が殆ど手に入らなくなっていたな』―
―何よ、それ?―
―『別の歴史であいつが変わる最初の切欠だ。隕石の落下が原因で発生した新種の伝染病らしい』―
―そんな、渋谷隕石って被害は出たけどこんな…―
ベットの上で眠る様に息を引き取る綾香の姿、それを見て渚は言葉を失ってしまう。次に映し出されたのは、剣に声をかける亨夜の姿。
―『ちょっとだけ隕石が大きかっただけだ。そして、お前達がネノクニで戦っている怪物…ワームは本来宇宙から落ちてきたエイリアン。そして、亨夜が使っているマスクドライダーシステムはワームと戦う為の武器だ』―
―…それじゃあ、亨夜はあんなバケモノと普段から戦ってたって言うの―
学園では何時も手加減されていたと言う事を嫌でも理解してしまう。同時に悔しいとも思う。手加減されていた事にも気付けない自分が、何も教えてもらえない自分が。
―『剣士としてのあいつの実力じゃ本気だろうし、何も伝えなかったのは、何より大切な帰るべき日常に持ち込みたくなかったからじゃないのか?』―
―でも、だからって…―
見せられている光景の中での剣が使っていたサソードヤイバーを受け継いだ別の未来の渚の姿に。
―私も…―
『渚ッ!』
その時、亨夜の声が響いた。その声に目を開けるが、彼女の目に映るのは何も無い真っ暗な光景の中に小さく写っている声が言っている別の未来の光景。
だが、その向こう側から亨夜の声が響く。
『……渚。渚、負けるな! 敵がどんな奴かは知らないけどな、お前の心はそんな奴に簡単に負けるほど、弱くないはずだ!』
―人の気も知らないで、勝手な事を……。やっぱりムカつくわ、あいつ……―
―でも……―
「亨夜……」
いつの間にか今まで見えていたはずの別の未来らしい絵も消えて、亨夜の声だけが渚を導き励ます。
「亨夜!」
渚は最後の力を振り絞って、自分を取り込もうとしている悪意に立ち向かおうとする。
―この闇はあたしに、あたしさえ覚えてない様な古い昔の出来事を見せ付けて、心を砕こうとしてくる―
心の中で『あの声は違うみたいだけど』と付け加える。
―あたしの心を砕いて、取り込もうとしている……―
―そうはさせない!―
「あたしは……知ってるもの!」
渚は意を決して叫び声を上げる。
「そりゃあ、お父さんも、お母さんも……例え家族でも、結局は違う人間だから……一人の弱い人間だから。確かな絆なんて無い。人と人との結びつきなんて、弱くて、脆くて……裏切られて傷つく事もある」
それは、闇の中で見つけた渚の中の『光』。
「でも、あたしには亨夜が居る……」
それはどれだけ亨夜が変わっても決して変わらなかった部分。
「人は誰かを思いやる事が出来る。血の繋がりなんか関係ない。ただそこに居る人を思いやる事が出来る。亨夜はそれを知ってるから、自分を見失ったりしない。それが亨夜の本当の強さなんだっ」
声が見せてくれたワームと戦うガタックの姿は自分達と一緒に戦っていた亨夜の姿よりも強かったが、どうしても弱く感じてしまっていた。その理由が、それなのだろう。それを知った上で渚は立ち上がる。
渚の心を縛り付け悪い夢を見せていた見えない鎖が、ガチャガチャと音を立てながら渚を更に締め付けようとする。
『渚ぁ!』
響いてくる亨夜の声に勇気付けられながら、
「私は私よ。誰の代わりでもない。他の誰でもない『倉島渚』を思ってくれる人が、いるんだもの……!」
渚は自分を締め付ける鎖を一本一本引き千切っていく。
「あたしは負けない。負けられないっ。こんなとこで死んでたまるもんかっ!」
そう叫ぶと同時に彼女を捕らえていた鎖が完全に砕け散り彼女の視界が真っ白に染まる。
―『そうだな…生きろよ。それと、荒谷亨夜に『それ』を忘れないように伝えておいてくれ』―
(そうだ、この声って…)
―『ただ硬く鋭いだけの刃は…折れるだけだからな』―
(亨夜に…似てる)
闇が木っ端微塵に砕け散り、渚が自分の心の檻から抜け出して現実へと戻ってきた。
「はぁ、はぁ…」
疲労は大きかったのだろう、渚は膝を付きながら乱れていた呼吸を整える。
「っ! 渚? 渚なのか?」
「うっさいわね! 何度も何度も呼ばないでよ、おちおち寝てもいらんないわ!」
「…そんな事が言えるなら、大丈夫そうだな」
そんな憎まれ口に対して呆れた様子の亨夜。
(よし、完全に取り戻した……。これがあたし、倉島渚だっ! あとは…)
意を決して亨夜へと視線を向ける。
「あったりまえよ! ねぇ、凛ちゃんが死んだ時、何が有ったの? それに、あんた、あの緑色の怪物の事、知ってるんでしょ?」
「っ!?」
渚の言葉に亨夜に動揺が浮かぶ。
(分かり易い奴)「後でしっかり教えてよね。七海ちゃん達には教えて、私には教えないなんて許さないんだからね。それより、今はあっち!」
渚が指差す方向には……、
応接間のガラスが全て割られ、その向こうに見える中庭の真ん中に、術を破られて苦悶する『天狗』と数体のサナギのワーム達の姿があった。
「今です! 奴が実体化している間に、トドメを!」
「よしきた!」
そう言って真っ先に飛び出していくのはアマテラス。それに続いて渚が剣を抜き、目の前の天狗に突きつけながら、渚は叫ぶ。
「よくも好き放題あたしの心を弄んでくれたわね! 覚悟!」
『ガアアァァァァァァァァァァアアア!!!』
空を引き裂くような叫び声を上げて、天狗はこっちを睨みつけるが、
「行くわよ、亨夜! しっかりね!」
「あ、ああ」
渚の迫力に気圧されながらも、亨夜は意識を戦闘モードへと切り替えて、ワーム達を従える天狗を睨みつけ、
「変身!!!」
《HENN-SHINN》
仮面ライダーガタック・マスクドフォームへと変身する。
渚の意思が暗闇から消えると、ゆっくりと『彼』は姿を現す。
『伝えてくれよ…荒谷亨夜が本当の強さを忘れないようにな』
彼の目に写るのは、別の歴史の中で亨夜が変わった事実の中の続き。渚へと伝える事を戸惑った亨夜の体験した運命。
サソードを受け継いだ渚がワームとの戦いで命を落とす光景、NEOZECTのゼクトルーパーと戦いながら燃える家に手を伸ばすガタックの姿。それらの光景を眺めながら、彼は言葉を続ける。
『…本当の強さを忘れて…。復讐と戦いの中で最後に残った大切な相手まで悲しませてしまった…』
そして、姉の様な人を失ってから次々と大切な者達を失って、本当の強さを失って硬く鋭いだけの刃に堕ちて行く亨夜の姿。
鞘も無く抜き身の刃は自分や周りを無闇に傷つけるだけ。
失い続けた悲しさを忘れる為に…大切な場所を奪ったNEOZECTに憎しみをぶつける事で、ZECTの組織の一部として感情を捨てて戦士になる事で、悲しさと無力感から逃げていた。
『…出会うはずだった相手とも出会えなかった、大バカ野郎にだけはなるなよ…ってな』
未来を、今も変えようと前に歩む事を辞めなかった太陽の神と呼ばれた男との出会いによって、少しは変われた時には…全ては遅く、最後まで残ったモノさえも、最初に失ったモノと同じ理由で失った。
『…お前はまだ何も失ってないんだからな…』
自嘲気味にハイパーフォームとなって過去へと消えて行くカブトとガタックの姿を一瞥しながら呟くと、暗闇は完全に崩壊する。
暗闇が崩壊するのに合わせて、彼の姿もまた何処かへと消えて行った。
つづく…
っな訳で更新の蒼き戦士の戦記の第五楽章の七話目です。
翔「って、色々と動いてるな」
渚さんに亨夜の関わっているワームとの戦いを役割は亨夜自身じゃなかったです。偶には別パターンも悪くないと思ったので。