IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
バタフライワームが倒されるとボスを失った悪霊達はその場から逃げ出していく。これで、青竜と玄武の社に続いて第三の四聖獣のや城を悪霊達から奪還したと言う事になる。
周囲から敵が居なくなると渚はその場に、ぺたり、と尻餅をついた。
(流石に……疲れたわ)
「とにかく、無事でよかった」
「………」
改めて渚の無事に安堵しながらそう言う亨夜に渚が、内心どんな憎まれ口を言おうかと考えていた時、
「………」
少年の…秋也の幽霊が亨夜達に姿を現した。
「秋也……秋也お兄ちゃん、なんだね」
外見こそ幼い日に亡くなった秋也の方が年下に見えるが、同じ両親の子供なのだから、彼は渚の兄と言う事になる。秋也は彼女の言葉に答える様に、渚の言葉にこくりと頷いた。
「あたしを助けようとしていたんだね……」
渚の言葉に秋也はまた頷く。
「そうとも知らずに、ごめんね……」
渚の言葉に秋也は黙して語らなかったが、ただ『怒ってないよ』と言う様に優しく微笑んでいた。
「そうそう、こいつはオレ達を導いてくれてたんだ…。それにしても、お兄ちゃんか」
そんな渚の言葉に思わず苦笑してしまう亨夜。
「改めて、初めまして、お兄ちゃん。渚です……」
「………」
秋也は何も言わずに渚の方へと近づいていく。そして、
「あっ……」
そっと、眼を閉じろと言う様に渚の瞼に触れる。渚は秋也に促されるまま、眼を閉じる。
すると、心がふっと軽くなり、何処かへと飛んで行く。そして、渚の心は再び思い出の中へと飛び込んでいった。
渚の見る思い出の光景は熱を出してベットに横になっている幼い日の渚と、彼女を看病する母の姿。
―……そうだ。あたしは知っていたんだ。あの日……。あたしが熱を出して寝込んでしまった、あの日……―
―家に誰もいなくって、お手伝いさんもみんな帰ってしまって……、一人で不安だった、あの夜……―
―お父さんもお母さんも、無理して仕事を切り上げて、大急ぎで帰ってきてくれた―
―お母さんの作った、おかゆ……。ちょっと味付けが薄すぎる気がしたけれど、あたしは『美味しい、美味しい』って食べたんだ―
―嬉しかった。お父さん、お母さんにとって、仕事よりも何よりも、あたしの事が一番大切なんだ―
―娘だから……家族だから……―
それは、彼女の中に有る大切な家族との思い出。
―なんて事は無いおかゆの味に、あたしはそんな事を感じて……。一人で寂しくてたまらなかったから、傍にいてくれる二人が嬉しくて……。あたしはちょっと、泣いたんだ―
―それ以来、お母さんはどんなに仕事が忙しくても、あたしのお弁当だけはお手伝いさんに任せずに用意してくれるようになったんだ―
改めて、自分の中の思い出と、その中の両親からの気持ちを思い出すと、渚の意識は現実へと戻る。
「……あたしは愛されてるんだよね。確かに、愛されてるんだよね」
秋也はにっこり笑ったまま何も答えない。だけど、
「うん。答えてくれなくてもいい……知ってるもの。だって、ずっと一緒に暮らしてきたんだもの。あたし達………家族だもの」
ふうぅっ…と、秋也の姿が白い霧の向こうへと消えていく。それは秋也に限界が近づいてきているという事なのだろう。
「……お兄ちゃん!?」
渚も、亨夜達もそんな秋也の姿に別れの時が近づいているのだと確信する。
「……お兄ちゃん……」
秋也は今にも泣き出しそうな渚の頭の上に、ぽんと、手を乗せて、
『僕の分まで、パパとママの事をよろしくね』
「えっ?」
初めて聞こえた秋也の声に渚は思わず顔を上げる。秋也が最後に残した言葉、渚にしか聞こえない声………。だが、確かに秋也はそう呟いて………秋也の幽霊は消えて行った。
「これ…」
最後に秋也が居た場所に残っているのは、今まで渚が使っていた物よりも品質の良いフェンシング用の剣。折れた剣の代わりに秋也が残してくれた物なのだろう。
「…ありがとう…お兄ちゃん」
「噴水に宝玉が据え付けられてる」
「此処に白虎が祭られている様ですね」
「で、これに触れれば良いのか?」
亨夜達はこの場所での目的である白虎の祭られている場所を探すと、それは中庭に有る噴水だった。
「はい。宝玉に手を触れてください。白虎が現れ、貴方に力を与えてくれるはずです」
「ああ」
白虎の社に来る前に以外と四聖獣の事に詳しい龍牙に白虎のイメージを聞こうと思ったが、止める事にした。……どう考えても、玄武の時の様に事前情報から想像出来るイメージとは別物で有る可能性が高いのだし。
-方位は『西』、季節は『秋』、色は『白』、イメージは『雷』、五行では『金』行。硬く鋭い鋼と轟く雷鳴。司る四神こそが西方の守護者《白虎》-
金行を司る純白の虎、それが四神の中の白虎。中国では龍と並び天地を守る地の聖獣で有る虎。唯一、四神の中で現実に存在しうる聖獣なのだ。
龍牙から事前情報を聞いていればこう思っていた事だろう。『結構イメージどおり』だと。
青龍、玄武の時と同様にアマテラスの言葉に従い、それに触れると、眩い光がその場を満たした。
「ッ!?」
流石に三度目ともなれば、少しは慣れて来るが、多少身構えてしまうのは仕方ない事だろう。
そして、光が晴れていくと、そこには白い虎を連れた女の子が居た。
「……あ……」
純白の虎をふわりと肩に乗せ、亨夜達をクールな目で見下ろす、まだ少し幼さを残した少女が一人立っていたのだ。
「………」
「……えーと、白虎?」
玄武の時とは違う意味での衝撃を受けながら、亨夜はそう問いかける。
「うむ。私が、白虎だ。お前か?」
「えっと…何が?」
「私を解放してくれたのは、お前達か?」
「あ、ああ。そうだけど…」
「そうか」
はっきり言って玄武とは違った意味で意外だった。こんな小さな子供の姿をしていると言うのは…。
「ああ」
「………」
「………」
白虎は玄武と違い口数の多い方ではないのだろう。無表情のままに亨夜を見つめる白虎、二人の間に沈黙が流れる。
「あの…」
これでは話が進まないと思い、亨夜が何かを言おうとした時、
「お前に力を貸そう」
白虎の方から本題を切り出してきた。
「あ、はい。………ありがとうございます」
話は早いのは助かるが、言葉遣いは丁寧だが、抑揚が無く淡々としている。多少失礼かも知れないが、内心彼女の事をそう評する。それでも、仮にも神様としては祭られている存在としては彼女くらいの方が威厳が有るのかもしれないが…。
「最後の一人、朱雀を解放した時に、もう一度私を呼ぶがいい」
「はい」
「……それでは、しばし、お別れだな」
「そうですね」
すると白虎は僅かに表情を緩めたかと思うと、
「……亨夜よ」
「はい」
「……感謝している。また会える日を楽しみにしているぞ」
亨夜の抱いた評価を覆す様に少し恥ずかしそうに白い頬を染めて微笑を浮べると、眩い光を放ち、白虎は他の聖獣達と同じ様に何処かへと消えて行った。
「良し、これで三つ」
「あと一つですよ、亨夜さん!」
これで残す聖獣は最後の一人、南の聖獣『朱雀』だけだ。その事実にアマテラスも本当に嬉しそうだ。
「ああ、頑張ろう!」
あと、もう少しで元の世界に戻る事ができる。そう思うと、元気も沸いてくる。少なくとも、悪霊達も最後の聖獣の解放だけはさせまいと今まで以上の戦いになる事は容易に想像できるが、
(望む所だ)
それは亨夜も望むところ。正体不明のゼクターやワーム達と言った相手は此方の世界に居る内に倒しておく必要が有る。
向こうも最後の開放はさせまいと全力で抵抗してくるはずなのだから、戦力の出し惜しみは無いだろう。なるべくならば、次の聖獣の社で決着はつけたい所だが…
「みんな、最後の一つ…張り切っていこう!」
仲間達の気持ちを高める為にそう鼓舞する。
外に出ると一度村に戻る為に亨夜達は荒野を行く。なお、渚にはその前にワームやZECTについて説明はさせられた。
隠し事をしていたのには怒っている様子だったが、少なくとも納得はしてくれた様子だった。…妙に話を簡単に受け入れたのには気になったが…
「………」
そして、外に出てから気になっているのは、渚の態度だった。
「なんだよ、オレの顔に何か付いてるのか?」
亨夜の隣を歩きながらじろじろと見つめられ、何故か意味深な含み笑い。亨夜はなんとも居心地の悪い気分で、渚に問う。
「むふふふふふふ……」
「き、気持ち悪いな。言いたい事が有るなら言えよ」
亨夜がそう言うと、渚は亨夜よりも少し前に廻って立ち止まり。
「亨夜……」
相変わらずの含み笑いを浮べながら、渚は言った。
「なんだよ?」
「あんたって……やっぱりムカツクわ」
「そうかよ。…で、何で態々そんな事を改めて言うんだよ?」
「ふーんだ、なんでもないっ!」
そう言って渚が駆けて行く。そんな彼女の言葉に疑問を感じながら、亨夜は内心『何時もの渚だな』と思う。そして、
「おい、ちょっと待てよ! それじゃ、何が何だか分からないだろうが!」
何時もと変わらぬ日常の空気を感じながら、使い終わった刀を鞘に納める様に意識が日常の物に変わるのを感じながら、渚の後を追いかけ、そんな亨夜の後をガタックゼクターが追いかける。
唯一つ何時もの姿と違うのは、足取りも軽やかに駆けて行く渚の姿は、何時もよりも少しだけまぶしく見えた。
???…
白虎の社から遠くはなれた場所…亨夜達との戦いの中で辛うじて生き延びた白いサナギのワームが倒れていた。
どれだけの時間が経ったか分からないまま野ざらしにされていたワームの体が発光する。外殻を撒き散らしながら成体へと脱皮しながらも立ち上がる事はなかった。だが、ゆっくりと何かの光が成体となったワームへと降りていく。
すると、成体となったワームの指先が動く。そして、そのまま立ち上がるとワームは人の物へと姿を変えながら、森の奥へと姿を消して行った。
別の場所、祭壇の様な物が置かれた場所で…
「天狗の奴までしくじったそうだな。ツクヨミ殿も、無能な配下を持つと苦労が耐えん事だなぁ」
「………くっ」
嘲りの感情が篭ったスサノオの言葉にツクヨミと呼ばれた相手の声には屈辱の感情が宿っている。
天狗の失敗で既に三人目の聖獣の解放を許してしまっている。残す聖獣は後一人これではもう後が無い。
「おやおや、何時もの軽口はどうした?」
「………やめておくわ。貴方と言い争っても意味が無い」
「ふん、そろそろオレに任せろ。なに、少しばかり腕を上げたと言っても、所詮このオレと紅丸の敵じゃ無い」
スサノオの言葉に呼応する様にブラッドガタックゼクターが彼の隣に現れ、戦いを待ちきれないのか好戦的に音を立てながら威嚇する様に顎の開閉を繰り返す。
「………」
「それとも、また部下を無駄死にさせて恥の上塗りをするか? ああ、いっそ、あの男に任せると言うのもいい考えだな?」
「………私が行くわ。貴方の力も、あの男の力は必要ないわ」
「なにっ?」
返って来たツクヨミの言葉に思わずスサノオも驚きの声を上げる。
「私自ら出向いて、奴等の息の根を止めてみせるわ」
「……愚かな、所詮女の細腕に、何が出来る?」
恐らくはツクヨミは前線で自ら戦う将軍で有るスサノオとは正反対の後方で策を練って戦う軍師と言ったタイプ。とても、自ら戦う姿は想像できないだろう。
「あら、奴等とて四人は女でしてよ」
「戦はそもそも男の仕事、女は家で寝ておれば良いのだ」
「まあそこで見ていなさい。女心の分からぬ将軍殿とは一味違う、同じ女だからこその戦い方を見せて差し上げますわ」
『では、我々の力は必要有りませんね』
紫の薔薇の花弁と共に現れる紫の薔薇を持った金色の影。カブトのライダーフォームに似た金色の姿。同じカブトムシの中『コーカサスオオカブト』をモチーフとした仮面ライダー『仮面ライダーコーカサス』は、ツクヨミへとそう告げる。
「ええ、今回は貴方達も黙ってみていなさい。でも、あの怪物達は使わせてもらうわ」
つづく…
ってな訳で第五楽章は終了です。
翔「第五楽章の終わりで何故か色々と後々の複線の様なシーンがあったな;」
ええ。そして、正式に姿を現したのは最後にして最強のカブティックライダー・コーカサス。
翔「直に敵の幹部が動き出すか。今まで以上に辛い戦いになりそうだな」
では、次回第六楽章『忌まれ人』。お楽しみに。