IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
第六楽章 -1-
白虎の開放を終えてアマテラスの村に戻った亨夜達一行は一夜の休息の後、最後の目的地である朱雀の社に向かった。
一時の休息の時に亨夜は龍牙と剣の二人と情報交換を行い、其処で亨夜は龍牙の戦った者とは違うカブティックライダーの一人ヘラクスの事を伝えた。
「…オレの考え過ぎ…いや、勘違いなら良いが…。悪いな荒谷、不確かな情報は伝えられない」
カブティックゼクターやヘラクスの情報で何かに気が付いた様子の龍牙だったが、残念ながらその日はそれ以上の情報は出てくる事は無かった。
村の方は何度か追い返しはしたが、悪霊の軍の斥候らしき者達が何度か村の近くに現れていると言う話だった。
「そう言う訳だ。残念ながら、最後の神殿もオレ達は不参加になりそうだな」
村の守りを疎かにする訳には行かないので、此処で龍牙と剣の不参加が確定した。
そして、現在…
「ここが、朱雀の社か」
アマテラスの村から南に歩き、目的地である朱雀の社に辿りついた。
「綺麗………」
朱雀の社を見た七海がそんな感想を零す。彼女の言葉どおり水上に建てられた朱雀の社は他の四聖獣の社よりも美しい建物だった。
「ええ、朱雀の社は、ネノクニで一番美しい神殿と言われていました。………悪霊共に奪われる前は」
アマテラスは朱雀の社を見つめながら、何処か誇らしげに…だが、その中に悔しさを滲ませながら、社について説明してくれた。
悪霊に荒らされながらも十分に美しさを保っている赤と白の神殿が、今は悪霊達の根城の一つになっているのは、アマテラスとしては悔しい物が有るのだろう。
「ここに最後の聖獣、朱雀がいるのね」
「はい。後は朱雀さえ開放すれば、亨夜さん達はアシハラノクニに帰る事が出来ますわ」
渚の言葉に答えてくれるアマテラスの言葉を聞き、改めて気を引き締める。悪霊達とその配下に加わったワームの激しい抵抗を退けながら、遂にこうして最後の聖獣の下までたどり着いたのだ。
(…朱雀さえ開放すれば…オレ達の世界に戻れる)
最後の神殿。出来る事ならば、ここで残りのワームを全滅させておきたい所だが、少なくとも簡単にはいかないだろう。その事は確かに心残りだ。だが…
(…どんな事をしてでも戻ってみせる…。七海ちゃんや渚、綾香さんの為にも、美由紀と仲直りする為にも…。凛を殺したワームを見つけ出して殺す為にも)
そう思うと自然に力が篭り、意識が鋭く鋭敏化される。その感覚に気付いて一度深呼吸して意識を整えると、亨夜はアマテラスへと向き直ると、色々な感情を込めて次の言葉を告げる。
「本当にごめん。迷惑ばかりかけて…」
「いえ………、四聖獣を悪霊共から開放するのは、私達ネノクニの民にとっても悲願、私の方こそ、みなさんには感謝しています」
「…………」
アマテラスの返事に思わず苦笑してしまう。少なくとも、現在進行形でワームによる被害は………倒された事で地球外生物で有るワームまでネノクニに流れてしまったと言う事で納得しておく事にする。主に自身の精神安定の為に。
「ともあれ、これで最後です。気を引き締めて、行きましょう!」
「ああ!」
今までの穏やかな表情から一転、真剣な表情を浮かべたアマテラスから告げられた言葉に亨夜が頷きながら答えると、七海、渚、綾香の三人も頷く事で返事を返す。
水上に浮かぶ朱雀の社へと続く道は一本の道しかない。そして、その橋を渡った先には最初の分岐点、T字型に左右に分かれた通路が続いている。
亨夜達一行の戦闘に立って槍の手入れをしながら歩いているのはアマテラス。次に渚、七海、綾香の順番で歩きながら、最後は亨夜が木刀を何時でも抜ける様にして歩いている。…ガタックゼクターには遊撃要員に廻って貰っているが。
明らかに臨戦態勢だと見て取れる殿を務めている亨夜と違い、アマテラスは静かな様でいて、常に周りに気を張り詰め、一分の隙も無い。
「凄いな、武道をちょっと齧ってる程度じゃ、ああはならない」
彼女のそれは長く戦ってきた経験によって得られる物だと言うのは直ぐに見て取れる。
戦闘経験ならば亨夜達一行の中で一番持っているアマテラスのその姿は、ZECTの構成員で有る亨夜から見てもそう言えるほどだ。
「ピリピリしてる感じね」
「………」
それは、七海達とは違う、亨夜と同じ命を危険に晒す過酷な日々の中で過ごして来たことで厳しさなのだろう。
「だけど、何時もああだと、疲れないのか?」
亨夜のそれが極端過ぎるだけかもしれないが、アマテラスの姿は自然体過ぎて常に戦いの中に有る姿が普通と言う印象が受けられる。そんな事を考えていると、『ガササッ!』と音を立てて、視界の片隅を黒い影が走る。
「………!」
それを見た瞬間、アマテラスが槍を握り締め、何時でも突き刺せる体勢を取る。
「………動く物は、全部敵……かぁ……」
「臨戦態勢だ。戦ってるんだな……アマテラスは何時でも……。多分、寝てる時でも」
渚の言葉に亨夜はそう答える。考えてみれば、彼女は有る意味では亨夜とも違う。
亨夜が此処最近でライダーになる事を選び、ゼクターに選ばれたのとは違い、彼女はそれよりも幼い日に悪霊と戦う者として育てられたのだろう。
だからこそ身についた常に戦い続ける者としての感覚。
「なんだか、ちょっと怖いわね。とっつき難い感じ」
「……気持ちは分かるけど、あまり言わない方が良いぜ。…だけど…オレも、確かに彼女が怖い…」
二枚の仮面を被っている様に戦いの中の己と日常の中の己を使い分けている亨夜と違い、改めてアマテラスのその姿を見ると、何処か抜き身の刀……いや……彼女の場合は抜き身の槍と言うべきだろう、そんな物を想像させられる。
「私も……」
亨夜に続いて七海も、言葉を選ぶ様に少し迷いながら言った。
「私もあの人が分かりません。近寄りがたい感じ……」
「………」
七海の言葉に思わず苦笑してしまう。少なくとも、七海からのアマテラスへの評価は千夏の件も有るから、と言う部分も篭っているだろう。
そんな亨夜の内心を知ってか知らずか、七海は慌ててフォローする。
「もちろん、仲間だとは思ってますし、こうやって私達を助けてくれる事にも感謝もしてますけど……」
そのまで言った七海の言葉の出所は直ぐに理解できる。理性では納得できたとしても、まだまだ蟠りは請っているのだろう
だが、あと少し…朱雀の社での戦いと朱雀の開放でお別れになる一時的な仲間とは言え、共に戦う仲間同士の間に信頼関係が無いと言うのは、拙いかもしれない。
(それに、彼女は過酷な世界で生きて来た訳だからな…オレ達とは根本的に違うか)
「……あの子もね、色々と有ると思うのよ。私達とは違って、ずっとこの過酷な世界で生きて来た訳だから」
亨夜と同じ事を考えたのだろうか、綾香がフォローを入れる。
亨夜もフォローしなければとも考えていたが、それほど口は上手い方では無いので上手くフォローできるか分からなかったので、正直助かったと思っている。
「そうだね。オレも、アマテラスは悪い奴じゃないと思う」
「それは……まあ……」
「あたしだって、あの子の事嫌ってる訳じゃないんだけど……」
理屈はそうでも感情は簡単には納得してくれない。二人は漠然としない様子だった。事実、亨夜もZECTの構成員(アルバイト)として、ガタックの資格者として命を賭けた戦いの中に身を置いているからこそ、アマテラスの事は理解できているつもりだが……。
(…こう言うのは時間が解決してくれるのを待つしか無い気がするんだよな…)
最初の分岐路で出現した、如何にも『私は毒を持っています』と主張している様な外見の茸の様な悪霊達を切り裂くアマテラスの姿を見ながら亨夜はそんな事を思う。
実際、亨夜自身も経験者だからこそそれはよく分かる。………主にライダー関係の人間関係…それもゼクターの資格者達限定で、だ。
龍牙を初めとしてZECTに完全に所属していない者達だけでなく、ZECTに所属している側にも言える事だが、全員が全員、己の道を……好き勝手に舗装して好きな乗り物で全力疾走している様な連中ばかりなのだから。寧ろ、一年も掛からずにそれなりに協力関係が成立されたのは……ある種、奇跡かもしれない。
「………」
そう考えると思わず苦笑してしまう。
「? どうしたんです、亨夜さん?」
「あ、いや…。なんでもない」
「?」
亨夜の様子を察したのかアマテラスが顔を覗き込んでくるが、流石に思っていた事は色んな意味で言えないのでそう誤魔化す。まあ、どう考えても誤魔化せた様子は無く、不思議そうな表情を浮かべていた。
「それより、どっちから調べてみるか…?」
「そうですね、じゃあ、先ずはこっちから調べてみましょう」
そう言ってアマテラスは右を選んだ事で一行は右から進む事になった。ギイギイと音の鳴る床を歩きながら、
「この床、抜け落ちたりしないわよね?」
「大丈夫だと思いますよ」
「ならいいですけど…」
渚の言葉に答えるアマテラス、安心した様子でそう呟く七海。彼女達の会話を聞くと亨夜はその場にしゃがみ、軽く床を叩いてみる。
「これなら抜け落ちる所か、結構激しく動いても大丈夫そうだな」
「そう、良かった」
心底安心した様子で安堵する渚。アマテラスもそんな表情を浮かべている。前線で戦う三人としては戦っている最中に踏み込んだ床が抜け落ちて、そのまま水の中へ落ちると言う間抜けなオチはゴメンだ。
「だけど、何処で床が悪くなっているか分からないから、注意した方が良いだろうな」
暫く周囲を探索し、残念ながら床が完全に抜け落ちた事で行き止まりになっている場所が何箇所か有るのを確認してから、近くに有る部屋に入ると明らかに空気が変わるのを感じ取る。
「ここは何処なんですか?」
「ここは…恐らく、控えの間。この神殿に来た者達が控える場所です」
「なるほど」
幸いにもこの部屋の中からは悪霊の出現する気配は感じない。恐らくは元々部屋にかけられていた何らかの術が生きているのだろう。
「ねえねえ、こっちから向こうが見えるわよ」
すると、いつの間にか渚が先に部屋から出ていた。亨夜達が渚の居る方向に向かうと、そこは
「うわぁ……綺麗ですね」
水面に浮かぶ赤い大きな社と、此処に続いている小さな社が一望できた。
「……なるほど。ここは、神楽殿に続く場所だった様ですね」
アマテラスがそう呟く。
「じゃあ、あっちに有る大きな建物は何なんですか?」
「……多分、あちらが朱雀様の祭壇が有る場所ですね」
アマテラスの言葉に空気が凍りついた。
「……って事は……」
「すみません、皆さん。どうやら、道を間違えてしまったようです」
アマテラスが申し訳無さそうに頭を下げる。
「ま、まあ、気にする事は無い……と思うから…」
そんな本気で落ち込んでいるアマテラスに対して言葉を選びながら『気にするな』と伝えた亨夜の視界の端を、嫌と言うほど見慣れた影が写る。
(ワーム!?)
かなり遠くに在るが、其処に居るのは確かに緑色の体色をもったサナギのワームの姿。サナギワームは亨夜に見つかった事に気付いたのか、そのまま水面へとダイブし、朱雀の社の方へと泳いでいく。
「どうしたんですか?」
「いや、ワー…緑の怪物が居たんだけど」
「なっ!? 何処に!?」
「神殿の方に泳いで行った。多分、オレ達を遠くから監視していたんだろうな」
アマテラスに気付かれない様に亨夜達は監視していたサナギワームは、偶然とは言え亨夜に見付かったから迷わず逃げ出したのだろう。
亨夜が見つけたのは完全に偶然だ。しかも、距離的に万が一アマテラスに気付かれたとしても、此方が追いつくよりも先に逃げ切るのに十分な距離を取っていた。しかも、水面にダイブしてショートカットする念の入れ様。
完全にあのワームは亨夜達の監視に徹していた様子だ。
(妙だな?)
朱雀の社は敵にとっても最後の封印だ。此処が開放されれば朱雀の…四聖獣の完全な解放を許してしまう事となる。それは敵にとっても歓迎できない事態のはず。それなのに、此処まで敵の目立った抵抗は無い。
(…だけど、確かに誰かの悪意だけは感じる)
先ほどのワームの動きで、姿の見えない敵からの悪意だけは感じる事が出来る。少なくとも、悪意の主はスサノオでは無く今まで戦った敵達に近い物と言うのを感じる。
(…スサノオが悪霊側の幹部なら……もう一人幹部が居たとしても可笑しくない。そうなると…)
今回、自分達の妨害に現れたのは策を弄するタイプの悪霊側の幹部と言う結論に行き着く。一応は予想できていた事態だが…
(…厄介かもしれないな…)
「……っ!! 皆さん、来ます!」
亨夜の意識が思考の中に沈んでいた時、アマテラスの警告と共に今まで静かだった水面から何かが浮かび上がり、亨夜達の前に現れる。
「っ!? 敵か!? みんな、油断するなよ!」
木刀を抜いて水面から出現した悪霊達へと向き直る。亨夜達を囲む様に床に着地した悪霊、それは…
「はぁ?」
蛸壺を被った蛸だった。思わず脱力してしまいそうになる間抜けな外見。一応は立派な悪霊なのだろうが、そうは見えない。
「と、兎も角…行くぞ!」
亨夜の言葉と共に蛸壺を被った蛸の姿の悪霊達との戦闘を開始する。
つづく…
ってな訳で第六楽章のアマテラス編こと『忌まれ人』スタートです。
翔「…アマテラス編って?」
七海編、綾香編、渚編とつけられる青竜、玄武、白虎のエピソードに対して朱雀の社でのエピソードはこう表してみました。
翔「それにしても…最後は蛸か?」
翔君…注目するところは其処ですか?
翔「いや、蛸壺被った蛸は無いだろう、蛸は?」
まあ、デボスズメ似のペンギンよりは良いと思ったので。…何故か、水面に沈むガタックMFの絵が…。
翔「どれだけ愛称悪いんだ、亨夜とデボスズメ系は!?(-_-;)」