IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第六楽章 -2-

蛸壺を被った蛸の姿の悪霊を倒すと亨夜は木刀の血払いをする。戦ってみて分かった事だが、それなりに打たれ強くはあったが強敵と呼べる力量では無かった。それなのに、そんな相手に手間取っている。

 

 

(…やっぱり、問題が有るか…)

 

 

チームワークの乱れ…最後の最後である朱雀の社に来てアマテラスとの間に有る溝が大きい物になっている。間違いなく、他の聖獣達の神殿での悪霊軍の策が亨夜達に影響してしまった。

 

 

結局の所、渚や七海、綾香の三人とアマテラスの考え方は根本から言って違う。だからこそ生まれてしまった溝。平和な日常も命懸けの戦いも知っている亨夜だからこそ中立の立場に立っている。

 

 

(…厄介な事にならないと良いけどな…)

 

 

そんな不安を抱えずには居られない。

 

 

さて、そんな不安を抱きながら、改めて亨夜達一行は来た道を逆に進み、分岐路まで戻ると先ほどとは逆の道を改めて進んでいく。

 

 

チームワークがぎこちない物になりながらも、何度か襲い掛かってくる悪霊達を撃退しながら神官の居住区だったと言う場所にたどり着く。

 

 

「ここは?」

 

 

「部屋になっているみたいですね。ここも、先ほどの場所と同じく、悪霊は入って来れないようですね」

 

 

部屋に入った瞬間感じた、敵の気配の無さにそんな疑問の声を上げる。部屋の出入り口は二箇所、しっかりとした壁に囲まれていて、これなら見張りをたてておけば安全そうだ。

 

 

「丁度良いから此処で休憩していこうか? みんな、疲れてるみたいだし」

 

 

亨夜がそう提案する。敵…悪霊軍でも特殊な例に分類されるワームを除けば、どうやら特殊な処置が施されているらしいこの部屋なら安心して休憩できるだろう。

 

少なくとも、ここまで何度か悪霊達と戦い続けていた。この先に何度休憩に機会が訪れるかは分からない故に、そう提案する。

 

 

「そう…ですね。皆さん、だいぶ疲れてますし」

 

 

亨夜の言葉にふうっ、と七海や渚、綾香の間にほっとした安堵の空気が流れ、七海から賛成の意思が告げられる。

 

 

だが、そんな中でただ一人アマテラスだけが。

 

 

「……でも、嫌な予感がします……。先を急いだ方が良いと思うのですが………」

 

 

そう反対する。確かに亨夜も嫌な予感は感じている。だが、だからこそ…

 

 

「確かにオレも嫌な予感はするけど…だからこそ、休んでいった方が良いだろう。休める時に休んでおかないと、いざと言う時に全力は出させないしさ」

 

 

「……まあ、それはそうですけど……」

 

 

亨夜の意見に渋々と言った様子で同意するアマテラス。

 

 

こうして、亨夜達は休息を取る事になり、前方は亨夜とガタックゼクターが、後方はアマテラスが見張りに立って、後の三人には休んで貰う事となった。

 

 

大体一時間ほどの交代制で次は見張りに立っている二人が休憩する。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

緊張した面持ちで外を見張る亨夜とアマテラス。特に亨夜にしてみれば、朱雀の社にワームが居る事は確認している。ワームならば、部屋に施されている対悪霊用の処置も諸共せずに入ってくる危険性が有る。

 

 

「ごくろうさま~」

 

 

労いの言葉を掛けながら、水筒から水を入れて亨夜とアマテラスに渡す綾香。

 

 

「……すぅ、すぅ……」

 

 

「ぐぅ……ぐぅ……」

 

 

ふと、他の二人へと視線を向けてみると、七海も渚も既に寝息を立てて眠っていた。

 

 

「もう寝てるよ……。そんなに疲れてたのか?」

 

 

「…………」

 

 

そんな二人の緊張感の無さに、やや非難する様な表情を浮かべるアマテラス。一応、安全らしいとは言え敵地の中なのだから、緊張感の無さを咎めたくなるのは分かるが…。

 

 

(ピリピリし過ぎだと思うけどな…)

 

 

そんなアマテラスの姿に亨夜はそんな感想を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???SIDE

 

 

時を同じくして、朱雀の社の最深部…

 

 

そこで二体の色違いでは有るが同タイプのバッタをイメージさせる成体のワーム達を護衛に従えたツクヨミは、妖術で一行の様子を探りつつ、先ずは七海と渚をターゲットに『悪夢』の妖術を施そうとしていた。

 

 

「っ!?」

 

 

念の為に他の三人の様子を確認していると向こうからは見えていないはずの亨夜と自分が監視しているはずの術を通じて目が合い、睨みつけられた。

 

直ぐに彼女を睨みつける亨夜の視線が外れた事から、目が合ったのは単なる偶然だと思いつつ、七海と渚に施す術の準備に取り掛かる。

 

 

「ふ、ふふ……正面から戦うばかりが戦では無いわ。こうやって、結束の弱いところ、綻んでいるところから突き崩す……」

 

 

周囲の空間がツクヨミの放つ黒い霊力に反応して妖しく唸る。

 

 

「先ずは、貴方達の心をかき乱す……」

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………苦しいよ………痛いよ……助けて、七海ちゃん………」

 

 

青竜の洞窟…其処では七海の目の前でアマテラスと千夏が対峙していた。

 

 

「や、やめてくださいっ……アマテラスさん、千夏ちゃんを苛めないで!」

 

 

アマテラスは槍の一振りで縋り付く七海を弾き飛ばすと、振り返りもせずに言った。

 

 

「これは悪しき怨霊………怨霊は、滅ぼさねばならないのです!」

 

 

「違う! どうして分かってくれないの!」

 

 

「覚悟!」

 

 

アマテラスは七海の制止の声を聞かずに槍を構えて千夏へと突撃する。

 

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

 

足元から斜めに斬り上げられたアマテラスの槍による一閃に右腕を弾き飛ばされ悲鳴を上げる千夏。

 

 

「ひ、ひどい……どうして……」

 

 

「ぬんっ!」

 

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

そのまま振り下ろされるアマテラスの第二撃。

 

 

「だめぇっ! やめて! やめてよぉっ!」

 

 

アマテラスの足元に縋り付く七海の頬に、ぴちゃりぴちゃりと滴る赤い液体。それは、二撃目で切断された千夏の左腕から噴出す血液だった。

 

 

「苛めないで、私を苛めないでぇっ……助けて、助けてよ七海ちゃんっ」

 

 

「やめてっ! 謝ってるじゃない! 助けを求めてるじゃない! どうしてそれが見えないの!?」

 

 

必死に訴えかける七海の声を、アマテラスは聞かない。

 

 

「………ひっ………」

 

 

もう抵抗する気力も無く、怯える事しか出来ない千夏の亡霊を睨みつけ、『ギラリ』と光るアマテラスの眼光は、まるで……悪鬼のようで……。

 

 

「浅ましき怨霊め、闇へと還るがいい!!!」

 

 

アマテラスが突き出した槍が、深々と千夏の細い胸の真ん中を貫く。それは、ホーネットワームのニードルガンから七海を庇って全身を撃ち抜かれた“現実”で見た光景とはまた違った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「あっ、秋也お兄ちゃん……、どうしたの?」

 

 

白虎の神殿になっていた倉島邸。そこの一角でもう一度兄で有る秋也の幽霊と出会っていた渚。

 

 

「………」

 

 

「……何か悲しい事が有るの? まだ、何か遣り残した事が有るの……?」

 

 

渚の問いかけに秋也は悲しげに首を横に振る。

 

 

「……?」

 

 

「その者は、亡者なのです……渚さん」

 

 

「えっ?」

 

 

渚の肩を掴んで道をあけさせると、アマテラスは秋也の目前に立って、冷たく言い放つ。

 

 

「死してなお思いを残し、二つの世界の狭間に迷う亡者よ……」

 

 

すっ…と、アマテラスは静かに朱槍を振り上げ、上段に構える。

 

 

「その魂は穢れています。私は神に仕える巫女として……貴方を消滅させなければなりません」

 

 

「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ! 秋也お兄ちゃんは悪霊なんかじゃない! 何も悪い事なんかしてないのに!」

 

 

「……渚さん、見たくなければ目を瞑っていてください」

 

 

渚の訴えに耳を貸さないアマテラスに対して渚は剣を抜き放つ。

 

 

「馬鹿な事言わないで! 血は繋がってなくても、あたしのお兄ちゃんなのよ!? 殺させない!」

 

 

秋也の前に立ちはだかろうとする渚の足が、まるで幾重にも縄で縛り付けられた様にピクリとも動かない。

 

 

「こ、これはっ……」

 

 

「法術で貴女の動きを封じました。誰にも、私の邪魔はさせません」

 

 

「や、やめてっ! やめなさいっ!」

 

 

「………」

 

 

アマテラスが霊力を集中し、槍の先端に込められていく……

 

 

「やめてよ! どうしてあたしの話を聞いてくれないの!? 仲間でしょうっ!」

 

 

殆ど悲鳴の様な声で必死に懇願しても、アマテラスは聞く耳を持たなかった。

 

 

「これは私の使命……他のどんな事よりも、優先すること………」

 

 

アマテラスの視線に晒されている秋也の顔に怯えが走った瞬間、

 

 

秋也の首が有った筈の場所から、笛の様な水切り音を立てながら勢い良く鮮血が噴き出した。

 

 

その一閃で何処かへと弾け飛ぶ秋也の首、断ち切られた断面が嫌にぬめぬめと赤黒く光って……。

 

 

何も出来ずただ一部始終を見守るしか出来なかった渚の顔に一瞬遅れて、夕立の様に突然振り出した赤い雨が降りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(確かに誰かに見られている様な気がしたけど…やっぱり気のせいだったのか?)

 

 

亨夜は見張りをしながらそんな事を考えていた。単なる直感だが、誰かに見られていたという気配だけは感じていた。

 

 

(…考えても仕方ないか…。それにしても、アマテラスは七海ちゃん達とは、そもそも心構えから違うんだよな…。近いだけでオレとも…)

 

 

緊張感を持続するためか、休憩していると言っても警戒は怠っていない。休憩は渚達の様に仮眠と、起きて見張っている者に分かれているが。

 

 

少なくとも、それが原因でかみ合わない部分が出てきたのだろう。

 

 

『難しいものですね』

 

 

(ああ)

 

 

楓の言葉にそう答える。確かに楓の言うとおり本当に難しい。

 

 

(…やっぱり、時間が解決するのを待つしかないか…)

 

 

『そうですね。………申し訳ありません。私には、この様な事態に直面した事が無いので』

 

 

申し訳なさそうな声で楓が答えた。

 

 

(いや、気にしないでいい。ありがとう)

 

 

心の中で楓に感謝の言葉を述べると、思考の中から意識を現実へと引き戻した時、

 

 

「きゃああああああああっ!」

 

「いやあああああああああっ!」

 

 

「っ!? な、なんだ!?」

 

 

「うひゃあ!」

 

 

「な、何事ですか!?」

 

 

突然、眠っていたはずの七海と渚の二人が凄い悲鳴を上げて飛び起きた。亨夜だけでなく、綾香とアマテラスも驚いた様子で、二人の方を見た。

 

 

「いやっ……いやっ、ひどい……」

 

 

「やめて……やめてよぉっ……」

 

 

七海は顔を真っ青にしてガタガタと震えていて、渚は泥水を頭から被った様に、必死に何度も顔を拭っている。

 

 

「ど、どうしたんだ…七海ちゃん、渚」

 

 

「………ゆ……夢………」

 

 

「………」

 

 

慌てて亨夜が駆け寄ると、よほど嫌な夢でも見たのだろう、その顔は汗びっしょりで、心底安心した表情を浮かべていた。

 

 

「なんだ、夢見ただけか…。てっきり、何処かから敵でも…」

 

 

ふと、夢と言うキーワードで似た様な事が有ったのを思い出す。先ほどの視線とあわせて考えると…。

 

 

(気のせいなら良いけど…。罠は…夢なのか?)

 

 

「……ご、ごめんなさい」

 

 

「ごめん……」

 

 

まだ悪夢の恐怖が微妙に張り付いたままの表情で上目遣いに謝る二人。

 

 

「ふう。夢ですか…あまり驚かせないで下さい」

 

 

驚かされた反動か、普段穏やかなアマテラスも、呆れた口調ながらちょっととがった口調で二人に文句を言った。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

二人は複雑そうな表情でアマテラスの顔を見つめている。

 

 

「………? ど、どうかしましたか?」

 

 

「い、いえ」

 

 

「なんでもない…」

 

 

亨夜は二人の表情の中に有る意思…七海からは『怯え』を、渚からは『敵意』を感じ取る。アマテラスもそれに気付いたのだろう、不思議そうな顔をしている。

 

 

そんな二人の姿を疑問に思いながら、亨夜とアマテラスは再び見張りに戻る。

 

 

「二人とも、顔色悪いわよ? 水飲む?」

 

 

「あ、はい…………いただきます」

 

 

「私も……」

 

 

二人は綾香から受け取った水を飲む。

 

 

(……アマテラスさんは私の言う事を何も聞いてくれなかった……。最後まで、千夏ちゃんの事、分かってくれなかった……)

 

 

(そう………状況さえ違えば、アマテラスは秋也お兄ちゃんをああやって斬り殺していたのかもしれない……、千夏ちゃんみたいに)

 

 

 

 

つづく…

 






ってな訳で第六楽章の第二話でした。



翔「僅かな綻びはゆっくりと全体の崩壊へと繋がる原因になる。僅かである内に修繕しない限りはな…。今回は寧ろ、意図的に綻びを大きくしたって感じだな」



ですね。七海と渚の中に芽生えたアマテラスへの不信感…それが導くものは。では、
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