IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
今朝の一間から何事も無く時は流れて昼休み…
「んふふ、お弁当~♪」
購買に行ってパンを買おうと立ち上がった時、鞄から弁当を取り出して嬉しそうに言う渚の声が聞こえてきたので、そちらへと視線を向けると、何時もの如く彼女は家から持ってきたお弁当を取り出している。
「なあ、それって、誰が作ってるんだ? お手伝いさんとか居るのか?」
ふと、疑問に思った事を聞いてみる。ケーキの件からも推測できる様に、渚が作っている物ではあり得ないと断言できる為に生じた疑問なのだ。残るは母親と言う選択肢だが、それは彼女の母、『倉島 むつき』は化粧品メーカーの社長と言う立場に有る人物で、忙しくそんな暇は無いと考えられる。故に一番現実的な答えを出して聞いてみた亨夜だったが。
「はぁ? 誰って………お母さんに決まってるじゃない。」
亨夜の疑問に反して、渚からはきょとんとした顔でそんな答えが返ってきた。
「決まってる…か。」
「朝仕事に出る前に作ってくれるの。普通そうだと思ってたんだけど。」
「ああ。母親がいる家庭じゃ、それが普通なんだろうな。」
「あ。」
渚は口の辺りに手を当てて、渚は何かに気付いたような顔をする。
「……ごめん。」
「何が?」
申し訳なさそうな顔で謝る彼女に対して、亨夜はそう問う事で答える。実際に疑問に思った訳ではない。彼女の『ごめん』の意味は理解している、その上でそう答えた方がいいと判断しての事だ。
「あ、いや、その…。あの、えと……つまり……。人それぞれ家庭の事情はあるものね。普通だとか、決まってるだとか、そう言う言い方は無いわよね。」
「気にするな。もう成れた。」
そう、亨夜の母と妹はワームに殺されている。その事を表沙汰に出来ない以上、『渋谷隕石』の際に死亡したと言う事で世間では珍しくも無い死として決着はしているのだ。
「そ、そっか。ごめん。」
「いや、本当に気にしてない。」
「……………。」
そう答えるが、申し訳なさそうな表情を浮かべて渚は視線を逸らす。そんな表情をされて邪険に出きるほど『日常』に置ける亨夜は冷たい人間ではない。
(…やれやれ…。こう言う不器用な所は少しは可愛げが有るんだけどな。)「それより、お前の母さんって忙しい人とばかり思ってたけど、お弁当とか作ってくれるのって……いい母さんだな。」
「う、うん、そうかもしれない。……お母さんって、職業柄健康とかすごく気を使う人だから、合成添加物や刺激物のなるだけ少ない材料で御飯を作るのよ。」
「へ、へぇ…。」
何故か、龍牙の言葉が頭の中に再生されるのを無理矢理消去し、話題を変える事に成功した事を確信する。
「それを食べて育ったもんだから、あたしってフツーのお店の食べ物ってダメなのよね。」
「…それは…自慢話なのか?」
何時もの調子に戻った事を確認しつつ、そんな事を言ってみる。
「ほほほ、一般庶民と違って、舌が肥えてると言う事よ。」
(何を神代みたいな事を…。でも、何時ものペースの渚に戻ったな。)「舌が肥えてるなら、ケーキくらいまともに作れよな。」
「…まだ言うのか!? 私のケーキの悪口をまだいうのかっ!?」
呆れながら何時もの調子に戻った渚にからかい半分で言った亨夜の言葉に反応し、何処からともなく怒りも露に渚は剣を抜き放つ。
「だから、剣を抜くな。」
慌てて立ちあがって亨夜は教室から逃げ出していくのだった。
屋上で、例によってライダーとしての戦いで磨いた戦闘スキルを無駄に発揮して、購買で購入した『カニコロパン』と同じく購入した『チョコチップ入りメロンパン』を食べ終わると、亨夜は視線を真上へと向ける。
「ガタックゼクター?」
青空に浮かぶ空の青とは違う青い色を確認し、呼んでもいないのに現れた事を疑問に思いながら、そう呟き手をかざす。すると、上空を旋回していたガタックゼクターが亨夜の掌へと降りた。
「どうした…ん?」
ガタックゼクターの鋏の部分に挟まれた一通の手紙…それは小さな白い封筒をピンクのハートマークのシールで閉じた…なんとも、復讐者の相棒にして、『戦いの神』の証たるガタックゼクターに不似合いな…乙女チックで可愛らしい手紙だった。そして、
「…オレ宛…か?」
『荒谷 亨夜さまへ』と書かれている事から考えると、それは間違い無く亨夜宛の手紙だった。
『何故こんな物をガタックゼクターが持ってくる?』、『これって…まさかとは思うけど、ラブレター…無いな、絶対に。悪戯か何かだろう。』と瞬時に考えを廻らせて行く。
「…拾ったのか…?」
取り敢えず、『そうで有ってくれ』と願わずにはいられない答えを選択して、ガタックゼクターへと問い掛ける。すると、ガタックゼクターはゼクターホーンを亨夜へと向け、上下に頭部を動かしている。
「何処でだ? 家か?」
同じ動作を繰り返すガタックゼクター。だが、そうだとすると、益々分からなくなる。そもそも、家で自分宛の切手も貼っていない手紙と言うキーワードから考えると、六介か美由紀しか居ないのだが、前者は即座に除外。残る美由紀は…自分に手紙を出すにしても、こんな可愛らしい物にはしないだろう。
一応、自分宛と言う事で呼んでも問題無いだろうと考えて、封を切って中の手紙を広げる。
「…『荒谷亨夜さん、こんにちは、私は美由紀ちゃんの友達の坂下留美です。』…留美…? 誰だ?」
流石に従妹の友達の全容など把握はしていないが、聞き覚えの無い名前に疑問を覚える。
「…『一度だけ美由紀ちゃんの部屋にお邪魔した時に顔を合わせた事があるんですけど、覚えてますか?』…すまん、全然覚えてない。」
ここには居ない手紙の主に謝罪しつつ、続きを読む。
「『実はあの時、私は亨夜先輩に一目ぼれしてしまったのです。』…え゛? …『直接告白する勇気が無いので、手紙を書いて美由紀ちゃんに渡してもらう事にしたんです。』…ええぇ!?」
間違い無く自分宛のラブレターの類である事を確信しつつ、続きへと目を通す。
「…『12日の放課後、屋上で待ってます。亨夜先輩のお返事を……待ってます。』…今日は…12日…今日だよな…?」
どうするべきかと考えながら、手紙を畳み直して封筒へと戻し、ポケットの中へと収める。実際、今の自分が何よりも優先すべき事は…復讐…ライダーとしての仕事である以上、遊んでる暇は無い。
「しかし…ガタックゼクターが持ってきてくれなかったら危なかったな。」
自分の相棒へと礼を述べ、昼休みの終了を継げるチャイムを聞き教室へと戻っていく。午後の授業は突然の告白に対してどう答えるべきかと考えながら、無駄に過ごしてしまった。
「はぁ…。」
放課後…
「…放課後か…早かったな…。」
どう答えるべきかと考えは未だに決まらず、亨夜は屋上への階段を上がっていく。告白される事は嬉しくない事は無い。だが、今の自分は『復讐』以外の事は考えられないのもまた事実なのだ。それは自分が一番よく理解している。
しかし、『一目見て自分を好きになってくれた相手』に対して、邪険に出来ないのもまた事実なのだ。誠意を持った答えで答える必要が有ると気合を入れなおす。
(………でも、美由紀の奴もこんな大事な手紙を渡すのを何忘れてるんだ?)
はっきり言ってこんな失敗するのは美由紀らしくない。と考えてしまう。
「まあいいか…こうして、ガタックゼクターのお蔭でオレが読んだんだ…気にする事は無いだろう。」
屋上のドアを開け、日の傾き始めた空の下へと出る。自分と龍牙を象徴する色を混ぜ合わせたような空の色は相変わらず何処か複雑な心境を持ってしまう。
(…それらしい…女の子は……ん? 美由紀?)
それらしい女の子を探していると美由紀の姿を見つける。何しに来たのか、誰かを探してキョロキョロしながら歩いていく。なんとなく気になって、亨夜は後についていく。
「あっ、留美ちゃん。」
(なに!?)
美由紀の言葉に驚きを浮かべながらも、気付かれない様に視線を向ける。彼女が声を掛けたのは、屋上の隅っこで、安全様ポールにもたれてあたりをきょろきょろとしている女の子だった。
(彼女が…『坂下留美』…か。)
「あれ? 美由紀ちゃん、どうしたの?」
亨夜の代わりに現れた美由紀にびっくりする留美の顔を見てみる。
(…やっぱり見覚えは無いな…。まあ、確かに可愛い子では有るけど…。)
幸いにもこれで自分に用事がある相手は分かったのだ、声を掛けようと近づいていこうとした時、美由紀が発した言葉は意外な物だった。
「あのね……お兄ちゃんが、『悪いけど留美ちゃんとは付き合えない』って。」
(なに!?)
「えっ……。」
思わず今の亨夜の心情を代弁したような言葉に驚く亨夜と、ショックを受けた様子の留美。
「ごめんね、私、お兄ちゃんに頼まれたの。傷つけない様にうまく断ってくれって……。」
「……そんな……。」
(…えーと…美由紀はZECTの事もライダーの事も知らない筈だよな…みんなには携帯以外に電話しないでくれって頼んである。…ライダーの関係者も家に近付けない様に…普段は絶対に会わない様に気を付けてた筈だし…神代か? いや、違う…じゃあ、どうして。いや、そもそもオレに手紙を見せてもいない筈!?)
あまりにも自分の心情を代弁したかのような言葉に混乱してしまうが、直に気を取りなおす。そもそも、手紙を見せられてもいない。第一、断る時は自分で答える。それが相手への最低限の礼儀だと考えているのだから。
(…いや、オレのことはどうでもいい…友達の恋路を邪魔するなんて…相手の信頼を裏切るなんて…ちょっと、許せる事じゃないぞ…。)
「……ふられちゃったんだ、私……。」
「う、うん……。」
(…うぐぅ!? いや、結局…素直に手紙渡されても断ってたかもしれないけど…オレはまだ関係ないぞ。)
「……。」
「き、気を落とさないでね。」
涙ぐむ留美に対して美由紀はそう励ます。
「……うん。ありがと、美由紀ちゃん。」
「………ごめんね。」
「美由紀ちゃんが謝る事無いよ。」
「……。」
「でも……先輩、ちょっとずるいな。自分で断らないのって……。」
(…違う…オレはそんな事は頼んでなんかいない。)
好きになってくれた相手に対して、碌に話もしないまま嫌われるのは、亨夜としても流石にいい気分ではない。
「ご、ごめんね……悪気は無いと思うんだけど。」
「……うん。」
(美由紀…流石にその嘘は酷いぞ。)
一応、留美からの誤解を解き、美由紀に嘘の理由を問いただそうとして、亨夜は踏み出していく。
「……と、とにかく、そういうことだから……。」
「………。」
「元気出してっ! 他にもいい人は一杯いるよ……。」
その言葉を聞いて、亨夜も頭に来た。
「ちょっと待て!」
「えっ……? きゃっ!」
亨夜が肩を掴んで行き成り引っ張った事で美由紀が悲鳴を上げる。
「美由紀。」
静かで有りながら、怒気を含んだ有無を言わせぬ声で彼女の名を呼ぶ。
「お、お兄ちゃん!?」
「亨夜先輩!?」
亨夜がここに居る事は予想外だったのか、狼狽した表情を浮かべる美由紀と、突然の彼の登場に驚く留美。
「…どう言うつもりなんだ? どうしてこんな大事な手紙を渡さなかった?」
「えっ!?」
「………!?」
「それに…そんな嘘まで吐いて!」
亨夜の言葉に驚きを浮かべる二人だが、それにもかまわず亨夜は言葉を続けていく。どんな理由があっても相手の信頼を裏切る事は許される事じゃない。…そんな事は…奴等と…ワームと同じだ。亨夜は美由紀に食って掛かる。
「……せ、先輩……、これは一体……。」
事態が掴めずに呆然と立ち尽くす留美……無理も無い。美由紀が自分を騙していた……友達に、真剣な思いを踏みにじられたなんて、考えたくも無いのだろう。
亨夜は落ち着くのを待つ意味もこめて、青ざめて黙り込んでいる留美をひとまず置いて、美由紀を追及する。
「な、なんでお兄ちゃんが手紙の事知ってるの!?」
慌てて胸ポケットを探り、そこに有るはずの物が無い事に気がつく。
「これか?」
ガタックゼクターより届けられた手紙は亨夜の手の中に有る。ガタックゼクターもこんな展開は予想していなかっただろう、単なる親切心から手紙を亨夜へと届けただけ。
「ど、どうして。」
「聞きたいのはこっちだ。」
「……ひどいっ、盗ったのね!?」
逆ギレする美由紀に対して勤めて冷静に言葉を言い返そうとする。
「酷いのは…おま「美由紀ちゃんっ!」…留美ちゃん?」
亨夜の言葉を遮る様に響く叫び声、留美の怒りが爆発したのだろう。
「きゃっ!」
美由紀に詰め寄る留美。気圧されたのか、後に下がる美由紀。本来は怒るべきなのは自分よりも裏切られた彼女の方なのだろうと、言葉を継げるのを止める。
「酷いのは美由紀ちゃんのほうだよっ!」
「……あ、あの……。」
「渡さなかったの? 私の手紙、渡さなかったの!?」
「あっ…。」
あまり気の強い方とは思えない留美の唇がわなわなと振るえている。それほどまでに怒りは激しいのだろう。流石の亨夜も気圧されてしまい二人の会話を見守るしかなかった。
「私、確かに頼んだよね!? 美由紀ちゃん、分かったよって言ったじゃない!」
「………。」
「なんで……? なんでこんな酷い事ができるの?」
「……ち、違うの、これは……。」
「違わないっ! 酷いよっ……。渡すのが嫌だったら、嫌だって断ればいいじゃない!」
「………。」
「私、すっかり騙されたよ!」
目に一杯涙を浮かべて、留美は美由紀に詰め寄っていく。
「友達だと思ってたのに、だから美由紀ちゃんに頼んだのに……。」
「違うの! ……こんなつもりじゃなかったの…ただ。」
当然ながら、言い訳も空しく、留美は唯ひたすらに自分の怒りを美由紀にぶちまけていく。それは当然の権利だろう。
「どうしてこんなことしたの!?」
「……。」
「……ううん、どんな理由が有ったって許せない。あたし、許さないからっ!」
「……ご、ごめん……なさい……。」
「友達だと思ってたのに……。こんな酷い事する人だとは思ってなかったよ!」
「……。」
「絶好よ。もう、美由紀ちゃんとは口も聞きたくないから!」
少し大きめの靴がコンクリートを叩く音を立てながら、留美は校舎の中へと走り去っていく。
「……美由紀。」
そんな彼女の事は心配だったが、それよりも、今は美由紀が何故こんな事をしたのかをはっきりさせたかった。
「何も……聞かないで。」
亨夜の方を向かずうつむいたままの背中でそう答える。美由紀の小さな肩が震えるのは屋上を吹き抜ける冷たい風のせいだけではないだろう。
「ふざけるな!」
思わずそう叫びながら彼女の腕を引っ張って、無理矢理振り向かせる。
「……そんなの分かってる! 私は最低よっ、最低、最低、サイテイ!」
美由紀は顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっていた。妹を失ったあの日依頼…祖父の家に預けられた時、二人で強くなろうと武道を始めて以来、こんな美由紀の表情を見るのは始めてだった。
だが、家族として、彼女を慰めたい気持ちは有るが、それ以上に今回の事は許せる事ではない。だが…
「…そうか…。なら、少し頭を冷やせ。」
そうとだけ告げて美由紀を突飛ばすようにして亨夜は屋上から立ち去っていく。
「亨夜~っ、あんた、なにしてたの?」
教室に戻ってきた亨夜に、興味津々と言った感じで渚は近づいてくる。
「………。」
「なによ~…教えなさいよー。」
「うるさい。」
「……ずいぶんご機嫌ナナメね。」
「……放って置いてくれ……。」
「…………。」
渚も本気で暗い表情の亨夜に状況を悟ったようだ。
「わ、分かったわよ、もう。」
文句を言いながらも、あきらめて何処かに行ってくれた。
「……ありがとう……。」
立ち去っていく渚の背中に亨夜はそう一言だけ、礼を述べる。
(…悪いな、渚。流石に今日は…いつも通り話せる気分じゃない…。)「帰るか。」
亨夜は弓道場へと顔を出す。なんとなく、七海と話をしたい気分だったのだ。
「七海ちゃん。」
「あっ、亨夜先輩っ!」
亨夜の姿を見つけると七海が練習の手を休めて、駆け寄ってくる。
「練習、がんばってる?」
「は、はいっ……あの。」
亨夜が話を切り出すよりも早く、七海の方から聞きたい事が有る様だ。
「………美由紀ちゃん、何か有ったんですか?」
(もう知ってたのか? 知ってるのも当然か…同じクラスだしな。)「なんでそんな事を聞くの?」
態と惚けて、美由紀の様子を探ろうとする。
「泣きながら教室に戻ってきたんです。何があったのって聞いても話してくれなくて、先輩なら知ってるかなって。」
「……ちょっと……な。」
嘘をついても意味は無いと思い、亨夜はあいまいな形で誤魔化そうと、そう答える。
「ちょっとじゃわかんないです。何があったんですか? 知ってるんですか?」
だが、七海は尚も食い下がってきた。亨夜の中で邪険にはできない人間の上位に位置する彼女に対してどう答えたものかと返答に悩む。
「先輩と…喧嘩したんですか?」
「………ああ。」
例えここで答えなくても結局は、その内にバレる事だと考えて、諦めて彼女の言葉に肯定の言葉を告げる。
「何が有ったんですか?」
「………あ…いや、その………。」
何が有ったのかと聞かれたら、はっきり言って答えに詰まってしまう。ここで本当の事を言っても良い物かと考える。
(…相談した方がいいのかも知れないな…でも…。)
恐らく七海ならば真剣に聞いてくれるだろう、亨夜には分からない美由紀の考えを理解して、いい方策を考えてくれるかもしれない。だが、
(理由が理由…だからな。)
そう、今回の亨夜と美由紀の喧嘩は美由紀の方に非が有る事を考えると、相談して亨夜の方についてしまったら、美由紀は一番の味方を失ってしまう事に成る。亨夜にはそれが心配なのだ。
「……私には、話しづらいことですか?」
そんな亨夜の心情を知ってか知らずか、寂しそうに七海が聞いてくる。
「ごめん。そう言うつもりじゃない。」
「あ、いいんですよ。勿論、従兄妹同士の問題ですから、外から口を出すのは……。」
「いや、違う。そうじゃない。」
身内同士の問題と言う事で彼女を二人の間から締め出した様な受け止められ方をされても困る。
「寧ろ、オレは助けて貰いたい位なんだ。でも、オレが先に相談して、美由紀が相談しづらくなったら困るからさ。」
「はぁ、…………なるほど。」
「…簡単には仲直り出来そうも無いから、七海ちゃんには美由紀の方についていて貰いたいんだ。」
「………。」
亨夜の言葉を少し黙りながら、考えていた七海だが…
「はい、分かりました。」
納得してくれた様子で笑顔でそう答えてくれた。
「うまいこと聞き出してみます。友達ですから。」
「ああ、頼んだ。」
「はい。」
本心としてはこの気分を慰めてもらいたかったのだが、こうなっては仕方が無いとばかりに、そう告げる。
「それじゃ、オレはそろそろ家に帰るか。」
「はい、さよなら、先輩。」
「ああ、また明日。」
ペコリと一礼する七海に手を振りながら亨夜も挨拶をする。
帰り道、丁度学校から出た所で亨夜の携帯電話が鳴り出したのに気がつくと、ディスプレイ部分を一瞥し、そこに映し出されている名前を確認する。
「…はい、荒谷です。」
『荒谷君、休暇中に悪いんだけど…。』
「…休暇じゃなくて、謹慎ですよ。それで、何の用でしょうか?」
今までの口調ではなく、『復讐者』としての口調。それが相手がZECTの関係者だと言う事を教えている。ただ、何時もよりも口調の持つ冷たさが増しているが、それは無理も無い事だろう。
『そうだったわね。それで、謹慎中に申し訳無いんだけど、その近くで神代君と矢車さんが苦戦してるの、それで…。』
会話の中に出てくる人物の顔が頭の中に浮かんでくる。亨夜の事を『友』と呼んでいるZECTに所属している『仮面ライダーサソード』こと、『神代 剣』と、現在は再編成中の特殊部隊シャドウの指揮官『仮面ライダーザビー』こと、『矢車 想』の二人。
話しを聞けばZECTでも最強戦力の二人が苦戦しているそうなので、問題は無いとは思うが、万全を記する為にこの近くに居る自分も合流して欲しいとの事だった。
(丁度いい…。)「分かりました、ガタックエクステンダーの準備をお願いします…合流場所は……はい、分かりました。」
携帯電話を握る手に不思議と力が篭り、電話が軋む音が響く。その表情に獰猛な笑みを浮かべながら、亨夜のその感情を隠す事無くそう答える。
「くっ。」
ライダーフォームへとキャストオフした仮面ライダーザビーと仮面ライダーサソードの二人が戦っているのは、十数体のサナギワームと、色違いの五種のアラクネアワーム。
サナギワームに邪魔されている間にクロックアップしたアラクネアワーム達の攻撃に苦戦している二人のライダー達だったが…
《1》《2》《3》
突然聞こえてきた、行き成りの電子音に気付き、そちらの方へと視線を向ける二人のライダー。
「おお、我が友、アラーヤ!」
「荒谷君か!?」
サソードとザビーの声を無視しながら、
《Rider Kick》
エクスモードで飛行するガタックエクステンダーから飛び降りながら、飛び蹴りの形でガタックの放つライダーキックがサソードが戦っているアラクネアワームに突き刺さり、その勢いのまま回し蹴りへと蹴りの軌道を無理矢理に変更し、周囲に居たサナギ、成虫の区別無く巻き込みながら纏めて薙ぎ払う。
「行き成り何を!?」
「どうした、アラーヤ!」
味方さえも巻き込みかねない行き成りの大技を放つガタックに驚きながら、彼へと声を掛けるが…ガタックはそれを無視しながら、そのまま自分の前に立つワーム達へと宣言する。
「…今日は虫の居所が悪くてな…とにかく…暴れたい気分なんだ…。丁度良い…お前達全員…付き合ってもらうぞ…。」
《Cloock up》
素早くスタータースイッチを叩き加速状態に入った瞬間、周囲に存在していたサナギワーム達が次々と吹き飛んでいく。
敵がクロックアップに入る前にニ体のアラクネアワームの頭にガタックダブルカリバーの一本ずつ突き刺し、力任せにアスファルトへと貼り付けにし、残りの一体をクロックアップさせる時間も与えずに殴りつづける。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
倒れた瞬間を逃さず、相手の頭を踏み砕く様に踏みつけ、ガタックゼクターのスイッチを順番に押していく。そして、ゼクターホーンを元の位置へと戻し、再び移動させ、完全に相手の頭を踏み砕く形でのライダーキックがアラクネアワームを爆散させる。
「アラーヤ、どうしたと言うのだ?」
「彼のワームへの憎悪は知っているが、今日は以上過ぎる。」
余りにも彼らしくない戦い方に、二人はそんな感想を零してしまう。今は、人類の敵であるワームよりも、味方であるはずのガタックの方が恐ろしく写っていた事だろう。
そんな時、クロックアップ直後の攻撃から不幸にも、辛うじて生き延びたサナギワームが逃げ出していく姿が、不幸にもガタックの目に止まる。
「逃がすかよ…。」
背中へと飛び蹴りを打ち込み倒れた瞬間、背中に馬乗りになって殴り始める。
「オレはぁ!!!」
硬い体表を気にする様子も無く、ガタックはサナギワームを殴り始めた。
「人の心を玩ぶ、裏切る、踏みにじる、お前達ワームを!!!」
彼の放ち続ける拳が砕け始める。だが、それと同時にサナギワームの体表にも皹が入り始めていた。脱皮による破損ではなく単純な物理攻撃での破壊。
「絶対に許さない! 一匹たり共、逃がすか!!! お前達は…オレが殺す! コロス! コロス! コロス!」
鬼気迫る様子で叫びながら拳を叩きつけ続けるガタックに対して見ているだけしか出来なかったザビーとサソードに対して、サナギワームが助けを求める様に視線と腕を上げると、そのまま光りが消えた様に力無くアスファルトへと落ちる。
「はっ、荒谷君、止めろ、もう良い、もう終わったんだ!」
「そうだ、落ち着け、アラーヤ!」
「離せ…離せぇ!」
ボロボロになった拳を既に事切れているワームへと、尚も拳を叩きつけているガタックをザビーが無理矢理押さえつけ、ワームから引き離し、サソードがベルトからガタックゼクターを外す事で亨夜は止まるのだった。