IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
青龍が書かれていた場所『青龍の門』
「……この石を動かして、あとは待ってればいいのね」
「そうですね」
「よぉ~し、がんばるぞ! うぅ~んっ……」
「えいっ……!」
綾香とアマテラスの二人は力を合わせて仕掛けの起動装置である石を動かす。石が窪みに嵌ると同時に格子戸が一枚開く。
「ふぅ……疲れた」
「……あとは、戻らない様に此処でこうして押さえていれば……」
「そうね」
二人の居る場所では特に悪霊達からの妨害も無く順調に進んでいた。二人は仕掛けを作動させると他の二箇所での作業が終わるまで石の側に腰掛けて休憩する。
「………」
「………」
「……あの……」
「………なあに?」
会話が無く二人の間に続いていた沈黙を最初に破ったのはアマテラスの方だった。
「渚さんと七海さん、私の事を………あまり良く思ってらっしゃらないようですね」
「………」
悲しげな表情を浮かべながらそう呟く。流石に二人の態度は亨夜だけでなく、向けられている本人であるアマテラスにも通じてしまっていた様だ。そんなアマテラスの様子に何と言っていいのかと戸惑った様な表情を浮かべる綾香。
「………私、信用されてないんでしょうか……」
「……アマテラスちゃん、悩んでるのね?」
「はい……」
「……アマテラスちゃんはいい子よ。私、知ってるもの」
短い間とは言え、目的が違うとは言え、今まで一緒に居た仲間に信用されてない、それは間違いなく悩んでしまう事実だろう。そんなアマテラスを気遣うように、笑顔を浮べながら綾香は彼女自身の嘘偽りの無い本音を告げる。
「………」
「そんなに気に病まなくても大丈夫。あの子達だって、亨夜ちゃんだって、本当は貴女の事分かってくれてるわよ?」
「……もしそうだったら……嬉しいです」
そんな綾香の気遣いの篭った言葉にアマテラスは笑顔を浮べて答えた。
一方、渚と七海の向かった『白虎の門』
「……ふぅ、ちょっと気分が楽になったわ」
「そうですか?」
「……あの子と一緒だと、ちょっと息が詰まるのよ」
「……あの子って、アマテラスさんですか?」
渚の言葉の中にある人物に直ぐにたどり着く七海。
「うん。……あたし、苦手なのよね……あの子の事」
「………」
そんな渚の言葉に複雑な感情を持つ七海。注意するべきだろうが、心の何処かで『苦手』と言う一点に彼女も同意しそうになっているのだ。
「おっと、言ってる間に、仕掛けのところまで来たわね」
「……あれっ?」
二人が白虎の門まで着いた時、七海が逸早く其処で起こっていた異変に気付く。
「格子戸、全部開いちゃってますよ!?」
「えっ!? だってあたし達、まだ何もしてないよ?」
そう、先程まで行く手を阻んでいた三重の格子戸が全て開いていたのだ。
「……どうしたんでしょうか……」
「おかしいなあ……」
思わず疑問の声を上げる二人だが、当然それに言葉を返してくれる者は居ない。
「とにかく、入ってみましょう。開いてるんだからしょうがない」
「そうね………」
それ以上悩んでいても仕方ないとばかりに二人は完全に開いていた格子戸の中へと入っていった。
一方、亨夜の居る玄武の門では…
(…少しだけ探ってみるか…)
そう考えながら亨夜は言葉を続けていく。
「どうしたんだ? 綾香さんと行った筈じゃ……」
「綾香さんにお願いして……此方に来させて貰いました」
「へえ?」
「色々二人でお話したい事があったものですから……」
「………そうなんだ…」
相手の出方を伺っている事を悟られないように、なるべく何時もの様子を装って言葉を紡ぐ。これがワームならガタックゼクターにフォローを頼んで隙を見せれば直ぐにでも正体を見せて襲ってきそうなのだが、流石に油断は出来ない。
「そうか。だったら手伝ってくれ。この石を押し込んで待っていれば良いんだよな」
「そう言う事ですね」
「(…やっぱり、こいつはアマテラスじゃない)じゃあ早速」
「はいっ、お手伝いします」
そう確信を得ると、彼女に手伝って貰って石を窪みへと嵌めると格子戸が音を立てて開いていく。
「これで、後は待つだけだな」
残りの格子戸が開くのを待つ間、特に何もする事が無いので祭壇に背中を預けて待つ。
「……………」
「……………」
その間にも彼女への警戒心は忘れずに、ガタックゼクターを手にとって何時でも変身できる体制を取っている。
「あの……亨夜さん」
「ん?」
呼びかけられて彼女の方を見る。
「……なんでもありません」
にっこりと微笑みながらそう返してくる彼女。
(…下手に切り出しても流されそうだな…)
何者なのかを問いかけるのはなるべく相手がボロを出しそうな、不意打ちになるようなタイミングを見計らった方が良いと考えてその疑問の声を飲み込む。
「……んふふっ……」
「………」
艶っぽく目を細めた笑顔で亨夜を見る彼女。
「どうかしたのか?」
「……亨夜さん」
彼女が艶っぽい瞳で亨夜の瞳を見つめてくる。
「もう、つれないんですのね」
「………はい?」
演技等色々な物を忘れて本気で『何を言ってるんだ、こいつは?』と言う意思を込めてそう言ってしまう。
「折角二人っきりなのに。色々お喋りしましょうよ」
「え、えーと、あ、ああ、うん…そう…だな」
確かに何も会話が無いのは自分が相手に対して疑いを持っていると気付かれる危険が有る。そもそも、敵である可能性が高い相手と長々とお喋りした経験等無いから、気付かれない様に会話を避けていたのだが…。
「………でも、何を話そうか?」
「男はそんな事を女に聞くもんじゃありませんわ」
「はぁ…」
内心本気で何処までが演技で何処までが本気なのか伺ってしまう。明らかにアマテラスとは似ていない部分が強い。微かな動作が違うし、何より妙に甘えているような、媚びている様なそんな雰囲気は纏っていない。
「あ、ああ」
まあ、普段のアマテラスとは違う印象を与える彼女だが、完全にニセモノと決まった訳ではない…そう簡単に引っかかるとは思えないが、アマテラスが操られている可能性も有る。その場合は一緒に要たはずの綾香の事も気になるし、ワームでは無い以上警戒はしていても此方から攻撃を仕掛ける事は出来ない。
そんな事を考えながらしっとりと潤んだ瞳で見つめている彼女から視線を逸らす。
「目を逸らさないで、私の目を見てくださいよ」
「あ、いや…でも、なんか…その…照れる…」
警戒している亨夜の心情を知ってか知らずか、身を乗り出してそう言ってくる彼女に思わず顔が赤くなる。
「うふふ……可愛い」
そんな亨夜を包み込んでしまう様な大人の余裕と色香…。明らかに違うが何物か分からない以上攻勢にも出にくい。
「せっかくあたりに誰も居ないのに……喋るだけですか?」
「い、いや、敵地のど真ん中でこれ以上のんびりするのも…その、どうかと思うけど…」
「どうたのかしら? そんなに赤くなって……俯いて……」
「な、なんでもない…」
思わず俯いてしまった事を指摘されて慌てて彼女に視線を戻す。……彼女は敵であったとしたら、亨夜にとって苦手な部類に入る相手だろう。
「嘘。だって私のこと、真っ直ぐに見つめられないみたいだもの」
「そ、そんなことは……」
間違いなく会話のペースは相手にある。少なくとも、今のままでは拙いだろうと思って此方から切り出す事にする。何よりこういうのは亨夜としても得意な方では無いのだ。
「…オレから一つ聞いていいか…」
「なんですか」
「…君は…誰だ?」
「私は「アマテラスじゃないだろう、君は」っ!? 酷い! 何でそんな事を言うのですか」
「…明らかに別人にしか見えないだろ…。少なくとも、微かな仕草や動きがアマテラスとは違う。何より、今の君は普段のアマテラスと違いすぎる」
亨夜の言葉に彼女は一瞬だけ驚愕を浮べたが、直ぐに艶然とした微笑を浮べる。
「まあ、嬉しい。亨夜さん、そんなに私の事を見てくださっていたんですね。でも…普段の私と違い過ぎると言うのは理由にならないんじゃないんですか?」
「っ!?」
思わず痛い所を突かれたと言うのが表情に浮かんでしまう。彼女の言うとおりだ。アマテラスとの付き合いは一番短い。
「何故普段の私と違うだけで私がアマテラスじゃないとは言えませんよ。これが本当の私…なんですから…」
そう言われてしまうと何も言い返せない。アマテラスは亨夜にとって長年の仲間でもなければ、家族でも恋人でもない。そんな相手に化けている相手に対して最後の証拠として突きつけたそれは…幾らでも言い逃れが出来る。
「もし、疑うのでしたら…身の潔白を証明いたしましょうか」
「脱ぐな!」
そう言って着物を脱いでしまおうとする彼女の頭に瞬間的にチョップを振り下ろす。『ツッコミマイスター』の称号の面目躍如と言った所だろう。
「酷い、何をするんですか!?」
「行き成り脱ごうとする相手を止めだけだろう。大体、潔白を証明する方法なら幾らでも有るだろうが」
チョップが痛かったのだろうか、涙目になって抗議してくる彼女にそう言い返す。肩まで露になっている格好の彼女に対して直視し難いが、下手に視線は逸らせない。…まあそんな彼に言える事は一つ…ラッキースケベ。
「…大体、他のみんなも待っているだろうし、長々と話をしている暇は…」
「……あら、そんな事を気にしてらしたんですか?」
「そ、そんな事って…」
彼女はぎゅっと抱きついて耳元で囁く。
「……あの子達、足手まといですわ」
「……」
「だって、そうでしょう? 揃いも揃って悪霊に捕まっては、手間を掛けさせてばかり」
彼女が本物のアマテラスなら『そんな事を考えていたのか』と思うところだが、ニセモノだと確信が有る亨夜としては、『お前達の仕業だろうが』と言う心境だ。
「私と貴方さえいれば、あと一人の聖獣を助け出すくらい、簡単に出来ましょうに」
「………」
「あんな子達はほっといて、楽しみましょうよ、亨夜さん……」
「随分と悲願を軽く考えてるんだな…」
「何を…」
「…少なくとも、聖獣の解放はオレの知っているアマテラスにとって最も大事な事の一つだった筈だ…」
抱きついている形になった彼女を振り払い、距離を取ると木刀を抜いて彼女へと向ける。
「あら、何故そんな事を「…言えるんだよ、これだけはな…」何を!?」
「オレにも…絶対に果たしたい目的が有るんだからな…」
それを持っている人間だからこそ亨夜にはアマテラスでは無いと言う絶対的な証拠。意識を戦闘へと切り替えて注意深く彼女を睨みつける。そんな時、
「うわぁっ!」
祭壇の間の中から、誰かが足を踏み外して転ぶ音がした。
「っ!?」
聞き覚えの有る声に思わず其方と注意がそれる。
「渚の声…? 何で?」
「わっ、まずっ!」
「に、逃げなきゃ!」
今度は七海の声まで聞こえてきた。
「…なんで二人とも祭壇の間の中に?」
彼女に気を取られている間に最後の仕掛けを動かして中に入ったのかとも思ったが、開いている格子戸は二つだけ。少なくとも、入っているのは二人だけの様子から考えるとそれは無いだろう。
「っ!? しまった!」
何時の間にか彼女の姿は消えていた。恐らく亨夜が渚と七海に気を取られた隙に逃げたのだろう。
「…………逃げられたのは仕方ないか…。でも、あの二人…何処まで聞いていたんだ?」
亨夜がニセモノだと言った所まで聞いていなければ、アマテラスへの誤解を深めてしまう危険が有る。
「急ぐか」
逃げられたのは仕方ないと判断して、七海と渚の向かった通路へと急ぐ亨夜だった。
つづく…
ってな訳で第六楽章の第四話でした。
浩平「久々のラッキースケベってトコだな♪」
翔「…何と言うか、亨夜を甘く見すぎてたって所だな」
ですね。それでは…。