IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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第六楽章 -6-

「いた!」

 

 

亨夜は玄武の門の格子戸が降りている所でアマテラスに追いついた。泣いているのだろうか、彼女は格子戸の近くでしゃがみこんで肩を震わせていた。

 

 

「うっ……ううっ……」

 

 

「アマテラス……」

 

 

「来ないでっ!!!」

 

 

「………」

 

 

歩み寄る亨夜は涙声で叫ぶ彼女からぶつけられる拒絶の言葉に思わず立ち止まる。

 

 

「来ないで……ください……」

 

 

「………」

 

 

亨夜はその拒絶の言葉に構わずにゆっくりと彼女に近づいていく。

 

 

「……亨夜さんだって……私のこと、怖いんでしょ?」

 

 

「…そんな事は…」

 

 

「分かっています。私はそう言う女です…。…血も涙も無い、戦うことしか知らない女……」

 

 

泣き叫ぶアマテラスの言葉に思わず心の中で苦笑してしまう。…己自身に対する自嘲の笑みだ。『目の前で泣いている少女と、返り血を浴びながら復讐と言う道を歩いている自分。血も涙も無いのは、比べるまでも無く己自身だ』と。

 

 

「違うよ、アマテラス。さっきは渚も頭に血が上って…」

 

 

「でも、怖いんでしょう? みんな私が怖いんでしょう?」

 

 

「………」

 

 

違うと言いたい。少なくとも、血塗られた復讐の道を歩いている事を知っても自分を以前と変わらないように接してくれている彼女達がアマテラスを怖がるのも、改めて考えてみると不思議な物が在る。

 

……悪霊とワーム。人の形をしたモノと人に化ける異形の怪物。戦っている相手が違うだけだ。だから…

 

 

「私のこの手は誰よりも血に汚れている………。………貴方達とは違うんです………」

 

 

「そんな事は…」

 

 

少なくとも、アマテラスの手が血で汚れていると言うのなら亨夜も彼女と何も変わらない。亨夜も同じだ。何体ものワームを、必死に命乞いをしていても構う事もなく倒し続けてきた。

 

 

「それでも……友達になれるかもしれない、と思った……。…貴方達なら、巫女としての私の立場なんか関係なく、友達になれるかもしれないと思ったのに……」

 

 

アマテラスの言葉を聞いて亨夜は気が着いた。自分とアマテラスの最大の違い。…亨夜の周りには同じライダーの仲間や渚達…多くの仲間たちが居た。

 

どれだけ血塗られた道を歩いていたとしても、何処かに仲間が居た。だが、アマテラスの周りには対等な仲間や友達が居ない…“孤独”だった。

 

 

(…アマテラス…。龍牙が言うには、日本神話の太陽の女神の名前も同じらしいけど…。皮肉…いや、ぴったりなのかもな)

 

 

己自身を太陽に対する“月”と思っている亨夜の周りには、夜空に浮かぶ月の様に多くの星が近くに居る。だが、太陽の輝きは闇を照らすが、弱い輝きを消し去る。つまり、天に浮かぶ太陽は………“孤独”だ。

 

 

「友達なんて、いなかった……。私は忌まわしい異能の力……。……『夢を紡ぐ力』を持つ、悪霊と戦う定めの一族」

 

 

「アマテラス…」

 

 

『夢を紡ぐ力』と言うのはよく分からないが、それが彼女が亨夜達と変わらない年齢で、彼女が村の長の様な立場に有る理由なのだろう。

 

 

「……私のこの手は、悪霊との戦いの為の物……。私のこの身は、その為にある。ずっと、ずっと私にはそれしかないと思ってきました!!! だから……だから、そう生きてきたのに……!!!」

 

 

完全に泣き声のアマテラスに、亨夜はかける言葉が無かった。……苦しみはわかっている。自分の意思で亨夜は自らの全てを復讐の…ワームと戦う為の道具に変えた。だが、彼女はそれを選択することさえ出来なかった。

 

戦う事を選んだ亨夜と、それしかなかったアマテラス。…そんな彼女にかけるべき、その悲しみを癒せる言葉は亨夜には浮かんでこなかった。

 

 

(…こんな時龍牙の奴なら、何時もの様に言うんだろうな、『兄さんが言っていた』とでも)

 

 

そんな所が羨ましくなる亨夜だった。何故か龍牙のそんな姿が直ぐに浮かんでくる辺り、亨夜と龍牙の友達ではないが理解し有っている奇妙な関係がよく分かる。

 

 

「生まれてすぐに同じ年頃の子供達とは引き離され、何も許されず……ただ、霊力を高める日々……! 私だって、好きでこんな風になったんじゃない! みんなが私をこうしたんじゃない! 皆が私に…こうなれと言ってきたのに!!!」

 

 

既に嗚咽に近いアマテラスの独白。…いや、既にそれは嗚咽そのものだ。

 

 

「どうして私だけが戦わなきゃいけないの!? 人に恐れられ、忌み嫌われてまでっ! 貴方達となら、こんな私でも違う関係になれると思ったのに!!!」

 

 

今のアマテラスは普段の冷静な姿からは想像できないくらい、激しく己の感情を爆発させていた。

 

 

「……アマテラス……」

 

 

「いやっ、近づかないで!」

 

 

槍も床に投げ捨ててしゃがみ込んで泣いている彼女の肩をそっと抱くと開いている手で頭を撫でる。

 

 

(…何を言うかなんて、考える事じゃないな…)

 

 

亨夜も…亨夜だけじゃない、七海や渚、綾香、此処に居ない龍牙や剣だって、アマテラスには感謝している。……寧ろ、後者の二人はどっちも平然とした態度で受け入れて勝手に先に行きそうなそうな連中では有るが。

 

 

(あー…ライダーって大半がそう言う連中だからな…)

 

 

どうも、マスクドライダーシステムに選ばれた人間は、自分も含めて自分の道を舗装して好き勝手に行く様な連中ばかりだ。と、そんな場違いすぎるバカな考えを、頭を振って霧散させる。アマテラスの事は育った環境の違いから、出てきた考え方や行動のズレが今日、爆発しただけだ。

 

 

「…今のアマテラスは、怖くないよ…」

 

 

正直に言おう。それこそが最善の道だと判断する。

 

 

「嘘っ!!!」

 

 

「…少しだけ、オレの世界の事と、オレの昔話をしようか…」

 

 

否定するアマテラスに静かに語りかける。

 

 

「…あの緑の怪物…オレ達の世界とこの世界…そのどちらでもない世界から、オレ達の世界に現れた…敵。オレ達はあいつ等の事を…『ワーム』と呼んでいる。オレは自分の世界でヤツラと戦ってきた」

 

 

「っ!?」

 

 

涙声ながらアマテラスの声に驚きが混ざったのが分かる。正体も分からなかった悪霊とも違う異形の怪物達がアシハラノクニと呼ぶ世界にも現れ、戦ってきた人の存在を知ったのだから。

 

 

「…なんで悪霊達が持っているか分からないけど、アマテラス達か悪霊の鎧と呼んでいるのは、元々オレ達の世界でワームと戦う為に作られた武器、オレのガタックゼクターと同じ物だ」

 

 

先ずは話すべき最低限の情報。未だに何故悪霊達がワームやゼクターと言った、亨夜達の世界の力を持っているのかは分からない。

 

手掛かりも断片的な物だけ推論さえ出来上がっていない事なので、何故と問われても答える事はできない。

 

 

「…使い手を選ぶ武器は扱える人間は限られる。オレもその中の一つであるガタックゼクターに選ばれて、ヤツラと戦う道を選んだ。……ヤツラへの復讐の為に」

 

 

「…復讐…」

 

 

声を聞いているだけで驚愕に染まっているのが簡単に分かる。

 

 

アマテラスの様な使命でもなければ、アマテラスよりも血に染まった道。自らの意思でその手を血に汚す事を選び、無限の地獄に落ちる覚悟をした。

 

 

「…そうだ…。オレは綺麗な救世主なんかじゃない。…返り血を浴びて、両手を倒してきた敵の血で染めた…復讐鬼だ」

 

 

真っ直ぐに驚愕に染まったアマテラスの瞳を見つめると亨夜は、

 

 

「どうだ? …オレが怖いか? 復讐の為に嗤いながら自分の手を汚す事が出来るオレに比べたら…今のアマテラスは、一人が寂しくて泣いている、何処にでも居る普通の女の子だろ」

 

 

抱き寄せて開いた手で涙を拭う。

 

 

「友達、仲間でも良い」

 

 

彼女を見つめて言い切る。

 

 

「……とも、だち……なか、ま……」

 

 

「君が何と言おうが、オレは君の事を友達だと思ってる」

 

 

「亨夜……さん……」

 

 

「まあ、こんな復讐の…」

 

 

「違います…亨夜さんは鬼なんかじゃ、ありません」

 

 

憑き物が落ちた様にアマテラスの感情の爆発が収まる。確かにアマテラスは亨夜とも七海達とも違う人生を送ってきている。だが、ごく普通の、当たり前の人間なのだ。

 

 

「ありがとう。それと同じだ。アマテラスはオレ達とは違う人生を送ってきてる。でもな…誰だって、別の人生を持ってる…」

 

 

ライダー達が戦う為の信念がバラバラな様に、アマテラスほど重くなくても、生まれたときから縛られている人生も存在している。

 

 

「だから、友達になれるんだ」

 

 

…根本的に友達になれない相手(亨夜にとっては主に龍牙)も存在するが、口に出す事でもないのでそれは黙っている。

 

 

兎も角、そんな事は関係なく、亨夜にとって…アマテラスは大事な仲間であって、友達の一人だ。

 

 

「わ、私……取り乱して……みっともない……」

 

 

「気にしなくても良いよ。分かってくれれば……それで良いさ」

 

 

改めて冷静になった後、先ほどまでの事を思い出すと恥ずかしいものが有るのだろう。

 

 

………まあ普段冷静な人間ほど取り乱すのは恥ずかしいのだろうが。頬を赤く染めているアマテラスに、

 

 

「誰だって、辛い時はある。大声で泣いて喚きたい時はある。だから…気にしなくても良いんだ、アマテラス」

 

 

亨夜の言葉にほっとした様に、アマテラスは亨夜の胸に身を預けてくる。

 

 

(…あー…それと勢いで行動する時、て言うのも有るよな。……思わず抱きしめてしまった)

 

 

まあ、アマテラスにそう言った本人も冷静になった所で、今の状況に顔を真っ赤にして照れているが。

 

 

(……深く考えないようにしよう……)

 

 

自分達の知っているアマテラスとは違う、無垢で純真で可愛らしい年頃の女の子としての姿のアマテラスに視線を移しつつそう思うことにした亨夜でした。

 

 

……ラッキースケベ……。

 

 

「まあ、渚達とは一度よく話し合うのも良いだろうな」

 

 

「……え?」

 

 

そう話を振ると自然な動作で抱きしめる形になっていたアマテラスを解放する。まあ亨夜としてはそれも本題の一つである事には間違いないのだから。

 

 

「…この世界の事は皆がどう思っているのかはよく分からないけど…。少なくても、君と喧嘩別れって言う形で帰るのはしたくない。どうせなら、楽しい思い出の方が良いだろ、友達との重いでは、さ」

 

 

「…そうですね。…私の方から、渚さんや七海さんとも話してみます」

 

 

「ああ、それが良い」

 

 

…少なくても、話し合えば分かり合える筈だ。

 

 

「あ、あの…亨夜さん。一つ、尋ねても良いです?」

 

 

「…良いよ」

 

 

「亨夜さんにとって…今も戦う理由は…その、わあむへの復讐なんですか?」

 

 

アマテラスの質問に戸惑った表情を浮かべる。此処で『そうだ』と即答しても良いのだろうが…何故か何時もなら出来た答えが出せずにいる。

 

何処まで行っても荒谷亨夜、仮面ライダーガタックは復讐者である。それは変わらない事で、己自身も認めている。

 

 

「…分からないな…」

 

 

「分からない、ですか?」

 

 

「…母さんや凛を殺したあのワームへの復讐は今でも忘れてない。だけど…」

 

 

恐らくは復讐を果たせたとしてもそれだけは忘れる事はできないだろう。

 

 

妹の姿をしたワームを自らの手で倒したとしても、それは亨夜の復讐のページが僅かに動く、それだけだ。そして、次は他のワームを全て倒す事が次の復讐へと変わっていくのだろう。

 

 

だが…

 

 

「…確かに…それだけじゃない気がするな…」

 

 

自分でも理解できていなかった感情の欠片に触れた様な感覚を覚えると、次の言葉が口から零れ落ちる。

 

 

「…大事な人達を守るため…これ以上、大切な人達を失わない、為…なのかもな」

 

 

「やっぱり、亨夜さんは鬼などでは有りません」

 

 

微笑みながらアマテラスは亨夜の言葉にそう返してくれる。

 

 

「……亨夜さん……そう言えば、他の皆さんはどうしました?」

 

 

「ああ…さっきの場所に…っつ!?」

 

 

アマテラスの言葉に自分達の現状を思い出して思わず表情と意識が戦闘モードへと切り替わる。

 

 

…現状から考えると、今の亨夜達の居る状況は危険だ。何処に敵……それも此処の悪霊達が恐れている上位者がいるか分からない。最後の聖獣の下にこれまでよりも弱い相手を配置しているとは思えない。

 

 

これまでの状況から考えると…。

 

 

「…拙い!? 完全に分断されてる!」

 

 

「こうしちゃいられません!」

 

 

自惚れている訳では無いが、少なくとも亨夜とアマテラスの二人は一行の中での主戦力だろう。そうでなくても、前衛の内二人が欠けている。残っているのは後衛の七海と綾香の二人に、前衛は渚一人。

 

そして、現状から明らかに偽アマテラスが『これは私が仕掛けた罠でございます』と言っている絵が想像できる事。

 

 

立ち上がるアマテラスに手を貸すと彼女が投げ捨てた槍を渡す。

 

 

「やっぱり、ここは何か可笑しいです。早く合流しないと」

 

 

「ああ! オレの前に現れたアマテラスの偽者…アイツが此処の悪霊達の指揮官だろうけど…。だとしたら…状況は結構、拙いかもな」

 

 

「亨夜さん、行きましょう! 早く!」

 

 

「ああ!」

 

 

“偽者”と言った所でアマテラスの表情に、微かだが怒りが浮かべている事を感じ取る。まあ、今回のことの原因が自分に化けた悪霊の仕業だとすれば、頭にも来るだろう。亨夜も自分に化けたワームに同じ事をされたら、頭に来る。

 

 

亨夜とアマテラスはそう言葉を交わすと弾かれた様に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

つづく




ってな訳で第六楽章の第六話でした。



翔「…ある意味亨夜の告白(秘密を告げるという意味で)だな」



告白(真実を告げるという意味で)でしたね。さてさて、IZUMO本編を知っている人には解る事ですが、彼女との一戦です。



翔「それでは、次回もお楽しみに」
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