IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
「これが、最後の四聖獣、『朱雀』の封印された祭壇です」
アマテラスの言葉が示すとおり、ツクヨミの一戦を経て遂に最後の聖獣である朱雀を解放する瞬間が来た。
(…今度はどう言う人(?)なんだろうな)
まあ、神様と呼ばれている存在に対して“物凄く”失礼かも知れない感想を抱く亨夜だったりする。
「これでやっと…四人全員を解放した事になるんだな…」
亨夜はアマテラスの言葉に感慨深げに呟く。思えば今までの聖獣の解放までの旅路では色々な事が有った。
亨夜には未来の亡霊達との戦いが、
「はい、色々な事がありましたね」
七海には、自殺した親友との再会が、
「うん、そうよね」
渚には、自分自身の真実が、
「でも、これで最後なのよね」
綾香には、己の過去と向かい合う瞬間が、
「はい……やり遂げましたね、亨夜さん」
そして、アマテラスには己の姉との再会が、
「ありがとう、アマテラス。……君のお蔭だよ」
「……そんな……」
まあ、そう思うとワームやゼクターの問題が解決していない現状で帰ると言うのも後ろ髪を惹かれる思いなのだが…。それも、この朱雀の開放を持って終わりを告げる。
「あたし達も、ほんとに感謝してるから……。さっきはごめん。酷い事言っちゃって」
「ごめんなさい……」
改めて渚と七海が謝る。心からの謝罪だ。
「いいんですよ、そんな事……。もう気にしてません。それに……」
アマテラスはそれにはにかむように俯いて、
「私達、と、友達じゃないですか」
ちょっとどもりながら、照れる様に、緊張気味にそんな風に言うアマテラスに、
「うふふ、そうね……。大事な友達よ、アマテラス」
「私も……色々あったけど、貴女と知り合えて良かった……。…アマテラスさん」
渚と七海も微笑みながらアマテラスの言葉に応える。無事仲直りが出来た様子だ。…朱雀を開放したらもう二度と会えない相手だが、それでも、僅かな時間でもアマテラスは大切な仲間で有り、友達だ。
「よし、じゃあ早速、最後の聖獣の朱雀にご登場願うか」
「はい、そうですね!」
そう言ったアマテラスの表情に浮かんでいる笑顔は、決して朱雀が、最後の聖獣が解放されるからだけではないだろう。
仲間達に見守られながら亨夜は宝玉に手を触れる。
そして、周囲を照らす眩い光の中から現れたのは……
「…じゃっじゃっじゃ~ん♪」
そんな軽い口調と共に、赤いチャイナドレスの女性が現れた。
(え゛?)
「おめでとぉ~っ! とうとう貴方は、四聖獣を全員解放しました~♪」
フリーズする亨夜だったが、目の前のチャイナ服の女性の言葉は理解できた。………間違いなく、彼女が朱雀のようだ。
玄武や白虎の時も驚いたが、今回は今まで以上だ。………いろいろな意味で。流石に此処までノリの軽い人が出てくるとは………亨夜の予想の斜め上を展開だ。
「え、えーと……君が最後の聖獣の…朱雀…さん?」
「そうやで。うちが最後の一人、朱雀ちゃんやで~」
「は、はあ……。そ、そうですか…」(…な、なんだ…この底抜けに明るい女の子は…? しかも、何でネノクニで関西弁!?)
呆然として生返事を返しながら、何気に思考は高速で空回りしていたりする。…まあ、関西弁についてはネノクニにも関西弁があるのかもしれないが。
「もう、他の三人が解放されたって聞いて、うちの番はまだかと首を長ごうして待っとったんやから~」
「え、えーと…ごめん。い、色々有って最後になっちゃって……」
「亨坊のいけず~。でも、ちゃんと開放してくれたから、許したる~」
「は、はあ……どうも」
『き、亨坊ってオレの事か!? オレのことなのか?』と困惑する亨夜を尻目に朱雀は、
「……そんな訳でぇ……。今から他の三人も呼んで、あんたらに力を与えたるから、ちょと待ってや?」
「あ、ああ、はい」
「むむむ…。………」
朱雀の表情が真剣な物に変わる。恐らく意識を集中しているのだろう。
「……何やってるのかしら?」
「……多分、他の四聖獣の皆様を呼び出しているのでは……?」
「そうなの?」
「ええ」
そんな姿を見ながら渚とアマテラスの声が響く。そして、
「まじかる、らでぃかる、るるるるる~♪ 全員集合~、四聖獣~♪」
「だぁー!」
朱雀の唱えた脱力してしまいそうな呪文に思わずずっこける亨夜だった。
軽すぎて脱力しそうなノリの呪文を唱えて、朱雀はその両腕を点に向かって掲げると、共に『きらららぁん♪』と言う音と共に閃光が走る。
「さてと。これで、もう直ぐ他の皆が来るで~♪」
「あ、ああ。そう…なのか?」
立ち上がりながら、亨夜が疑問に思った事を朱雀へと問いかける。
「えっと…朱雀…さん?」
「ん? 何や?」
「……そ、その…気合が抜ける呪文は必要…なんですか?」
絶対に必要ないだろうと言うツッコミを押し殺しつつ問いかける。…もしかして、ネノニク特有の呪文なのかとも思ったが、朱雀は亨夜の問いかけに笑って答えてくれた。
「ううん、別に意味あれへんけど、何となくノリで。でも、最近なら『りりかる、まじかる、るるるる~♪』の方がいいと思ったんやけどな~」
「何でやねん!」
朱雀のボケに対して瞬間的に突っ込みを入れる亨夜だった。その間僅か0.1秒、正に思考よりも早い神速。…既にツッコミは本能レベルなのかもしれない。
…まあ、聖獣にマジツッコミを入れるのはどうかと思うが。…何故か関西弁が移っているのは…まあいいだろう。
「な、何かさ、朱雀って……」
「ええ。と、とっても…ユニークな人なんですね」
「何だか漫才を見てる気分ね~」
「綾香さん、漫才とは?」
アマテラスを除いて全員が亨夜と同感な様だ。それはさておき、暫くすると遥か天空から、激しく光を滾らせながら、流れ星が三つ、それぞれ別の方角から亨夜達の居る朱雀の社目掛けて飛んで来た。当然それは、
「青龍、玄武、白虎…」
「四聖獣の力が、今此処に……!」
アマテラスが興奮気味に声を上げる。流れ星に変化していた四聖獣達は、それぞれ人型に戻り、中空から亨夜達を見下ろしていた。
「皆さん、こんにちは」
「おっめでとう♪ 朱雀も開放したのね」
「本当に、ご苦労だった」
「そんな訳でぇ……亨夜……」
「私(わたくし)達四聖獣の力、一つに合わせて……」
「助けてもらったお礼として……」
「世界の狭間を乗り越える力、授けよう!」
そして四人の聖獣達は亨夜達に優しく微笑みかけると、再びそれぞれ流れ星の姿に戻り、亨夜を中心に螺旋状に回転し、次第にその半径を狭めながら亨夜の元へと降りてくる。
丁度亨夜の胸の辺りで四つの光は完全に交じり合い、一つの強烈な輝きを放つ光の玉となる。
そして、その輝きに思わず目を閉じて再び眼を開けた時、既に其処には四聖獣達の姿は無かった。
「…今のは…?」
「亨夜さん。貴方に四聖獣の霊力が分け与えられたんですよ」
「そうなのか?」
どうも実感は湧かないが、専門家であるアマテラスが言うのならそれで間違いないだろうと割り切ることにする亨夜だった。
「これで反魂の術を執り行う事が出来ます。亨夜さん達は……元の世界に帰れるんです!」
嬉しげで有りながら、何処か悲しげな気持ちの篭ったアマテラスの声が響く。…元の世界に無事に戻れると言う事はアマテラスとの別れを意味しているのだから、無理も無いだろう。
こうして、亨夜達は辛い旅路を終えた。
反魂の術を執り行う為に、アマテラスの村へと帰る事にしたのだった。
アマテラスの村…
「ふう、色々有ったけど、やっと帰れるんだな」
「ああ。長かったな…」
亨夜の言葉に同意する龍牙を亨夜は横目で睨む。村に戻った亨夜達一行を最初に出迎えてくれたのは、亨夜達に同行したアマテラスに代わって村を守っていた龍牙だった。
「…お前は…」
「…だけど、まだ色々と解決していない問題も残っているだろう…? 銅と銀の未来の亡霊や、この世界のワーム」
「…ああ…」
「…ZECTに報告とかは…」
「報告した所で信じる奴が居ると思うか?」
龍牙の最も過ぎる意見に思わず黙り込んでしまう。確かにネノクニのことを説明しても、ZECTでは信じてもらえないであろう事は分かる。
兎も角、こうして四聖獣の力を手に入れた今、亨夜達はやっと元の世界に戻る事が出来るのだ。
「…ありがとう、アマテラス。君のお蔭だよ」
「そんな……良いんです。お蔭で私達も、四聖獣を悪霊どもから解放する事が出来たんですから。それに、龍牙さん達お二人にも私が居ない間村を守ってくださって、本当にありがとうございます」
「………」
アマテラスの感謝の言葉に無言のまま返す亨夜と龍牙の二人。そして、龍牙は別の場所にいる剣に亨夜達が帰って来た事を伝えに行くと言って立ち去っていく。
「やっぱり、アシハラノクニに戻られるんですか?」
「……悪い。でも、あそこがオレ達の世界だから……。それに、オレにはやらなきゃいけないことが有るしな…」
自分達の世界だというだけではない。ワームの事も含めて己の世界でやるべき事は幾らでもあるのだから。
「謝ることなんかないですよ」
「いや、オレは救世主でもないのに……折角良くして貰ったのに……期待に応えられてないのに…」
「……それは、残念ですけど……」
亨夜の言葉にアマテラスは、そっと目を瞑って、『うん』と小さく納得した様に呟くと、
「多分、これで良かったんです。七海さん達が、元の平穏な生活に戻り、亨夜さんが元の世界で果たすべき事をやり遂げられるのならば…」
「……アマテラス……」
「でも、寂しくなっちゃいますね……折角知り合えたのに、お別れなんて」
「ああ。そうだね…」
「………」
「………」
別れを惜しむ様に黙って見詰め合う亨夜とアマテラス。
「色々準備が有るので、反魂の術の儀式は明日執り行ないます。それまで、亨夜さん達はゆっくり休んで置いてください」
「ああ、分かったよ」
態と事務的な口調で、寂しさや未練を断ち切ろうとしているアマテラスの心情を察し、亨夜は気持ちを押さえて笑顔で答える。
「……それじゃあ、また明日……」
「うん、また明日」
アマテラスが神殿へ帰っていく姿を見送ってから、亨夜は神殿に与えられた自分の部屋に戻り、眠る事にした。
その日の深夜…
亨夜の掌の上に乗るガタックゼクター。窓から照らされる月の光を受け、亨夜は外の景色を眺めていた。
(これが、ネノクニでの最後の夜か…)
遠くから聞こえてくる虫の声に耳を傾けながら、感慨深く眠れない夜を相棒と共に過ごしていた。
(…帰ったら、先ずは…何をしようかな? 龍牙なら、迷わず皆既日食の世界に行くって言い出しそうだし)
ZECTに戻って自分が居なくなった後に起こった事を確認したり、何時もの様にワーム退治と、色々と考えてしまうが戻って直ぐにしたいとは思えない。
(…そうだ…美由紀に会いたいな…)
結局仲直りできずにネノクニに来てしまった従兄妹の顔を思い出す。
(心配してるかな…何日も経ったからな…。爺ちゃんも、どうしてるかな…怒られるだろうな…。怒られると言えば、矢車さん達にも心配かけた事を、謝らないとな…)
元の世界に居る人達の事を思い出しながらそう思いを馳せていく。
(…思えば、色々な事があったな…。七海ちゃんと千夏ちゃんの事。綾香さんの過去。渚の事。アマテラスとツクヨミ。明日からはまた学生生活とライダーとしての戦いに戻るんだとしても…あれ、今と対して変わりない気も…)
多分、学生生活以外のワームとの戦いの日々と言う点では間違いなく今と変わらないだろうが、深く考えないことにする亨夜だった。
(ま、まあ…この数日間は、一生忘れられないだろうな…)
改めてそう思うと手の上に乗っているガタックゼクターへと視線を向ける。
「…眠れないな…」
折角なので眠れないのなら、ネノクニの最後の夜の景色を目に焼き付けておこうと思う。街の中では決して見られない、人工の灯り一つ無い自然の景色を。
「あの……」
すると、外から小さな声が聞こえてきた。
「ん?」
「…まだ、起きてらっしゃいますか?」
「ああ…まだ起きてるけど…。アマテラス、こんな時間にどうしたんだ?」
その声の主が誰かは直ぐに分かった。
「…良かった。あの、お話が……有るんです」
夜空を背にしたアマテラスが、キラキラと黒髪を月明かりに輝かせながら、亨夜に笑顔を見せ、そう言った。
「……話?」
「はい。あの……入ってもいいですか?」
「ああ……良いよ」
亨夜がそう言って部屋の中にアマテラスを招き入れると、手の上に乗っていたガタックゼクターは其処から離れていた。
「……どうも」
「いや……」
ちょこん、と正座で亨夜の前に座るアマテラス。何故か少し緊張している様子で、それが亨夜にも伝染し、真夜中で二人して黙って向かい合う。
「……亨夜さん……」
「うん?」
「明日には、帰ってしまわれるのですね」
「……ああ」
そう言ってアマテラスから沈黙を破る。アマテラスの言いたい事は分かっていた。僅かな間だったが、共に旅をして、戦って、時に仲たがいもして…。やっと信頼関係を気づいた所なのだ。そして、亨夜達はアマテラスにとって最初の友達だった。
「……正直に言って良いですか?」
「ああ、いいよ」
「………」
何かを言おうとして口を少しだけ開いた。しかし、アマテラスは悲しげに首を横に振る。
「………いえ。……いいです。言えない………」
「分かってる。言わなくても分かってる」
アマテラスが何を言いたかったのかは大体だが察する事は出来る。亨夜も同じ気持ちだから。名残惜しい……アマテラスとこれでお別れと言うのは、寂しいと感じている。だが、そうも行かないのだ。
「………」
「ごめん」
「謝らないで下さい…。…何だか、悲しくなる…」
「……でも、ごめん」
「亨夜さん……」
潤んだ瞳を隠すように俯いて、アマテラスが言う。
「少し……泣いても良いですか?」
亨夜は何も言わず彼女の肩に手を置いて肯定の意志を示す様に優しくあやす。
声を押し殺して泣くアマテラス。吹きすぎる夜風にざわざわと鳴る夜。何処からともなく聞こえてくるフクロウの鳴き声。入り口から垣間見える夜空に浮かぶ月を眺めながら……ネノクニでの最後の一夜が過ぎ去っていく。
翌朝、儀式の準備は万全に整えられている。
広場に設置された一枚の大きな鏡と、それを支える祭壇。それは学園の地下に有った、亨夜達をネノクニへと導いた鏡と同じ物だった。
「亨夜さん、皆さん、手を繋いでこの鏡に触ってください」
「ああ」
鏡を取り囲む様に焚き火が炊かれ、神殿は荘厳な雰囲気に包まれている。
「あとは、私が祈祷によって皆さんの魂を肉体から切り離し、アシハラノクニへと送り返します」
「た、魂を……」
「切り離すぅ?」
「…まあ、確かに有り得る話だな」
物騒な言葉に動揺している亨夜と渚とは対照的に納得した様に頷いている龍牙。そんな龍牙の姿に、
「…なんか落ち着いてるな、お前?」
「…そんな事は無い。寧ろ、焦っている。早くオレは…皆既日食の世界に行かなきゃならないんだ…」
そう言うと龍牙は天を指差し、
「兄さんが言っていた、『焦った時ほど冷静になれ、焦りは余計な手間を生む』ってな」
だからこそ、ネノクニに来てから龍牙は常に冷静に目の前の物事を受け止めていた。
「そうか…」
それ以上何か追求するのはやめる事にした亨夜だった。龍牙にしてみればネノクニに来てしまったのは別の世界に向かう途中の事故で一刻も早く皆既日食の世界に向かいたいと思っている。剣に至っては龍牙に巻き込まれただけだ。
気を取り直してアマテラスへと確認を取る。
「それって、死ぬって事なのか?」
「幽体離脱とか、そう言うあれ?」
「反魂の術は、自然の理に反する忌まわしき邪法。不本意かも知れませんが、他に手段は有りませんので……」
「……ちょっと怖いです」
内心亨夜も七海の言葉に同感だ。聞いているだけで恐ろしくなってくる。実際、その場に居る全員…いや、表情一つ変えていない龍牙だけは分からないが……龍牙の場合は既に皆既日食の世界へと向かうと決めた時点で命を賭ける覚悟は出来ているのだろう。
「それは大丈夫なのか? 危険は…?」
思い出すのはあの時の地震の事。
「オレ達がこっちに来る時は、結構危なかったんだけど…」
「大丈夫ですよ。今回は、私が付いています。それに、今の亨夜さん達の霊力なら大丈夫。四聖獣の力を制御して、ちゃんと元の世界に戻ることが出来るはずです」
アマテラスが微笑みながら亨夜達を勇気付けてくれる。どっちにしてもやる以外に方法は無いのだ、迷っていても仕方がない。
「それで、オレ達はどうすればいいんだ?」
龍牙がアマテラスへと問いかける。
「簡単です。ただ、しっかり、思い願うだけです」
「思い願う?」
アマテラスの言葉に問いかけた龍牙ではなく亨夜が疑問の声をあげる。
「帰りたい場所、逢いたい人………それを心の底から思うんです。強く思い願うことは実現する。……それが、『夢を紡ぐ力』なんです」
「分かった。じゃあ…」
そう言った瞬間、ばしっと言う音と共に亨夜の両手が掴まれた。正確に言えば、左手に綾香の手が、右手に七海の手がしっかりと掴んでいた。
「えへっ♪」
「うふふ~」
「しまった、出遅れたぁー!」
「えっと…」
「…人気者だな、亨夜」
「おお、流石我が友アラーヤ」
嬉しそうに笑う七海と綾香に、運悪く出遅れた事に悔しがっている渚と、突然の七海と綾香の行動に戸惑っている亨夜に、感心している龍牙と剣と言う構図だ。
結局渚は龍牙と七海と手を繋ぐ事になったりする。亨夜達が鏡に触れると同時に何処からかガタックゼクターとカブトゼクター、サソードゼクターのそれぞれの相棒の方へと座す。そして、アマテラスが目を閉じて術に集中し始めるのを見て、亨夜達も目を閉じ、元の世界の事を考え始める。
(出雲学園……爺ちゃんの…いや、オレの家……ZECTの支部…は別に良いか。美由紀…爺ちゃん…田所さん達…。帰る…オレ達は、あの懐かしい場所に、帰るんだ!)
不意に、体が軽くなるのを感じる。正確には、大地へと縛り付けていた肉体の重みが消えた。これがアマテラスの言っていた『魂を切り離す』と言う事だろう。何処かへと、心だけが高い高い、空の向こう側へと引き寄せられて、今にも飛び去ってしまいそうな感覚に襲われる。
ふと目を開けると、既に肉体はなかった。他の皆も物質の世界から消え去っていた。何処からが自分で、何処までが自分以外なのか分からない。そんな不思議な感覚。
亨夜達の魂が、今こそアシハラノクニへと飛び去ろうとした時、行き成り、木製の神社の壁が何かに蹴破られた。
『ふはははは、人間共め、覚悟しろ!!!』
先陣を切って飛び出してきたのは、大軍を率いて現れる鮮やかな青の装甲が、鮮血の様な赤に染まったライダーフォームのガタック…『仮面ライダーブラッドガタック』と彼が騎乗する馬。
「亡者の女王ヨモツオオカミ様が家臣、将軍スサノオ、見参!!!」
背後に数百からなる悪霊の軍と蜘蛛を思わせる姿の数体の成体を先頭に数十のサナギ態のワーム達を従え、ブラッドガタックへと変身したスサノオが、アマテラスの村へと攻め込んできたのだ。
(あいつ! あの時の森で会った男…悪霊側の将軍だったのか!? 拙い!?)
赤いガタックゼクターを連れていた事から予想できた事だが、こうして面と向かってみると不思議な感覚を覚える。応戦しようと思ったが、既に肉体の無い亨夜達に戦うことは出来ない。
「人間共よ! ただちに亨夜とその従者達を引き渡すか、さもなくば死か、どちらが良い!?」
…それを聞いた龍牙は龍牙で、『誰が亨夜の従者だ』と思っているのだが、それは置いておいて…。
「な、何者!?」
アマテラスが慌てて臨戦態勢を取る。
「…お前が長か、始末してやる!」
それぞれが武器を構えて立つ村人達の中で、一番の使い手を見定めてスサノオ…ブラッドガタックが叫ぶ。
「えいっ!」
向かって来るブラッドガタックに向けて、アマテラスが印を結ぶ。その瞬間、凄まじい雷光がブラッドガタックを襲った。
まともに正面からの直撃ではライダーシステムの防御力でもダメージを与えたのだろう、直撃を受けたブラッドガタックが、思わず後ずさる。
その時、ブラッドガタックの背中の後ろに居た、ブラッドガタックにしがみ付いて馬に同乗していたもう一人の人物……女の姿が垣間見えた。
(え?)
それは、亨夜のよく知った…。先程まで会いたいと思っていた、
(美由紀!?)
何故彼女がブラッドガタック…スサノオと一緒に居るのかと言う疑問も沸くが、そんな事を気にしている余裕などない。
「亨夜さん、今です!」
アマテラスが両手を勢いよく天へと突き上げ、叫ぶ。
「神よ! 亨夜さん達を、元の世界へ戻したまえ!」
(ま、待ってくれアマテラス!!! オレ達はまだ…帰るわけには!?)
声にならない声で叫ぶ。しかし、アマテラスは肉体を持たない亨夜の瞳をしっかりと見据え、
「さようなら、亨夜さん。……お元気で!」
急速に空へと落下していく感覚に襲われる。
つづく…
ってな訳で第一部・完。
翔「…実際には何も解決していないって所だな。亨夜の奴…」
美由紀さんもネノクニに居ると知っちゃったのは、期間の直前だったんですからね。そして、もう一つ…ブラッドガタックの存在も明らかに。二つ存在しないはずのガタックタイプの第二のゼクターが、科学技術の無い筈のネノクニに、と色々と疑問の残る展開ですね。それでは、次回は第二部の序曲『帰還』です。では。