IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
序曲 -1-
「………。…こ、ここは…?」
意識が覚醒した亨夜は周囲を見回す。見覚えの有る祭壇と薄暗い洞窟の様な場所…
「此処は…何処だ?」
何故か体には長時間眠り続けていたような感覚がある。長い夢を見ていた様な……。
(…夢…? 何か思い出せそうだけど…なんだ?)
寝惚けているのか、己の状況がすぐに把握できない。ZECTは謹慎(と言う名目の休暇)中でバイトもない。そう思いながら、横になったまま、全身を浸す眠気とだるさが去っていくのを待つ。
「……んっ……」
視界の中を旋回しながら跳んでいるガタックゼクターの姿を眺めつつ、やっと状況を思い出した。
「戻って…来たのか…?」
何処か呆然とした様子でそう呟く。其処は学園の地下で見つけた祭壇の間。周囲を見回しても、其処には亨夜以外の誰の姿もない。
(…夢…だったのか?)
そう考えてしまうのも無理は無いだろう。ネノクニでの出来事は亨夜にとって、理解の範疇を越えている夢物語に近い。
(…結局、なんだったんだ…カブティックゼクターと赤いガタックゼクターは?)
ふと、そんな考えに至る。此方の世界へと戻った以上、疑問は尽きないが今となってはその事を調べる術は無い。
現在の日付を確認しなければ、夢だと考えた方が何倍も現実的だ。この場に他のメンバーが居れば、まだ現実だったと言う実感が有るが。
「…だけど、あの戦いの日々は…夢じゃない…よな」
誰にとも無くそう呟く。優先すべき事はライダーとしてワームとの戦いのはずだ。ネノクニにワームが残っているとしても、亨夜が最も己の手で倒したい敵は…こっちの世界にしか居ない。
だからこそ、夢であったとしても、現実であったとしても、もう二度と交わることの無い定めなのだ。
(…こんな所でこうしていてもしょうがないな…)
亨夜は祭壇の間を後にして地上に出ることにした。
外に出ると空は夕焼けの色に赤く染まっていた。
夕焼け空を鳥が大空を横切って、丘の方へと飛び去っていく。
運動場では、下校時刻が近づいた部活動をしている生徒達が、運動場にローラーを掛けたり、陸上用のマットを片付けたりしている。
何事も無かったかのような当たり前の風景。ネノクニに旅立つ前にワームと戦う裏側に対する表とも言うべき、平和な日常の風景がそこには有った。
「よぉ、荒谷、お前まだ残ってたのか?」
そんな事を考えていると後ろから声をかけられる。
「…えっと…田中?」
「なんか、人の顔忘れてなかったか?」
「いや…そんな事無いぞ…うん」
田中さんの追及に思わず明後日の方向に視線を逸らす亨夜だった。
「なんだよ、本気で忘れてたのか!?」
「いや…そんな事無いぞ…」
元々クラスメイトの顔と名前はあんまり覚えていない方だったりする亨夜だ。
「はぁ……別に良いけどよ。試験近いんだから、少しは勉強しろよな」
「分かってるって…」
ここ数日何処で知られたのか、ZECTの上司にも言われた言葉で有ったりする。流石にライダーとは言え学生の亨夜に学生の本分を疎かにして欲しく無いと言う大人の立場からの意見なのだろう。
「……どうだか」
「…ふふ」
「どうしたんだよ」
「…お前と話すのも、何だか久しぶりだからな」
思えば、こういう普通の学園生活と言う日常からかけ離れた、バイトの内容の延長の様な日々が続いたのだ…流石に平穏な日常が懐かしくなっても仕方ない。
「……はあ? 何言ってんだ、ついさっき教室で別れたばかりじゃないか?」
亨夜の言葉に怪訝な表情を浮かべる田中。
「え?」(ついさっき…)
「……おっと、早く帰らないと、見たい番組が有るんだ。じゃ、荒谷またな!」
田中は表情にこそ表していないが、驚愕を浮べている亨夜を置いて校門の方へと走っていく。
(…待てよ…。…確か、渚と合流した時も一日程度の誤差が有った…。向こうでの一日はこっちではそれよりも短いのか…?)
そう推測すれば、こっちの世界ではあの地震から殆ど時間が経っていないらしい。いや、目の前の光景から考えると、それどころかこっちの世界では地震があった事さえ疑わしいのだ。
(まあ、お蔭で余計な手間は省けたけどな)「…全部、あっちの世界だけの出来事だったのか……」
向こうからの連絡が無ければ謹慎中は連絡もしなくて良いのだから、後は…。
「っ!? 美由紀!?」
ネノクニから戻る時…最後に見た光景の中に、スサノオが変身した赤いガタックに連れられた美由紀の事が気になる。殆ど時間の経っていない日常風景と言う状況に先程まで頭の中から抜けていた。
(いや、完全に見間違いだと思っていた…。そもそも、学園の中に居た七海ちゃんや綾香さんは兎も角、帰り道に居た渚も跳ばされたんだ…)
こうも自分の関係者ばかりがネノクニに飛ばされたと言うのに美由紀だけが例外と言うのは、楽観的過ぎると改めて反省した。
(…しかも、美由紀を加えればアマテラスの言っていた救世主と従者の数と符合する…)
其処まで考えた後、『バカらしい』と思考を止めた。符合するのも単なる偶然と考えてしまえばそれまでだ。それに…
「早く帰るか…」
帰れば直ぐに分かることだ。案外家に帰ったら何事も無く迎えてくれるかも……と考えた所で大事な事を思い出した。
(…留美ちゃんの事で喧嘩しているのを忘れてた…)「…気が重いな…」
そうは言っても帰るのが気が重いからと言って、バイト先のZECTに行く訳にも行かないので家に帰るしかないのだが…。
(…ガタックエクステンダーも受け取りに行くのは…無理そうだな)
(亨夜の感覚で)久しぶりに会うのに険悪なムードと言うのは気が重いが、
「……とにかく、帰るか」
今は美由紀の顔を見たい、と言う気持ちの方が先に立った。そんな事を思いながら校門を潜ると、何時もの通学路…亨夜の感覚では数日振りの其処を歩いて、何日か振りの帰路に着いた。
ネノニクでは崖崩れが起きて道が塞がれていた場所も、当然此方では崖崩れも起きていない。
桃花の居た森は、何時もの様に青々とした木々に夕日の赤が照り返され、通る人々を爽やかに癒している。
近所の子供が自転車に乗って亨夜の隣を通り過ぎていく。
「…何時も通り、か…」
こんな日位はワームとのエンカウントは無いと良いなとも思っている亨夜だった。…流石にネノクニでイヤと言うほど戦ったのだから、彼にしてみれば珍しく今日一日くらいは戦うのは遠慮したい気持ちだった。
ワームやZECTと言う異常の中の住人である亨夜でさえ、こうなると、ネノクニでの出来事がまるで夢の中の事の様に、急速に現実味を失っていく様に感じられる。
「…全部、嘘みたいだ…」
命懸けで刃を交えた日々………は別にして、楓、桃花、アマテラス達との出会い。そして、未来の亡霊達との戦い。
「もしかして………本当に、あれは全部夢、何もかも夢だったんじゃないのか?」
そんな事を考え、
「それじゃあ…何処までが現実で、何処までが夢なんだ…」
曖昧過ぎる現実と夢の境界線。全てが現実だったのなら、全部受け入れる事が出来る事なのだが……
「ただいま」
久しぶりの我が家。何処か感慨深げにその言葉を言った。
「…留守か…」
『美由紀と爺ちゃんは居るかな』と思いながら家に入ったのだが、一通り歩いても残念ながら返事を返してくれる人は誰も居なかった。少し寂しい気にもなる。
「まあ、待ってればそのうち帰ってくるだろ」
そう考えて伸びをしてお茶でも飲もうとした時……
「ん?」
今更ながら、テーブルの上に置手紙が有るのを見つけた。
急用で一日家を空ける。明日には帰る。
六介
「なんだ、爺ちゃん…今日は帰ってこないのか?」
色々と話したい事があったが、残念ながらそれは無理な様だ。少しだけ残念に思いながらお茶を淹れて飲むと、自室へと戻る。
(久しぶりの自分の部屋…やっぱり、此処が一番落ち着くな)
何時の間にか亨夜のポケットの中に隠れていたガタックゼクターが飛び出して、部屋の天井近くをクルクルと回りながら飛んでいる。
「ふぅ…。疲れた…」
ベッドに横になると、今までのネノクニでの戦いの日々の疲れが一気に押し寄せて来た様に全身を疲れが襲う。
やはり、自分の家の自分の部屋と言う場所は思った以上に寛げるのか、それとも、思っていた以上に気が抜けたのか…。そんな問いを己へと問いかける。
「……はぁ……」
そのまま久しぶりのベッドの感触に、まるで闇の中へと吸い込まれて行くように、心地良い脱力感に襲われ……
「……眠い……」
美由紀が帰ってくるまで待っていたい、と言う決意も虚しく、亨夜の意識は深い眠りの中へと落ちていった。
翌朝…
「ふぁ……」
窓から差し込む光に照らされて目が覚める。
「うわ、結局朝まで、制服のまま寝てたか…」
軽く眠るだけで済ませる心算だったのにと思いながら、昨日はやはり疲れていたのだろう、制服のまま朝まで眠り過ぎてしまった事を内心反省する。
「………。アマテラスの夢…見なかったな…」
ふと、アマテラスの事を思い出す。彼女の髪の色も、声も、瞳も…もう二度と会う事が無いであろう彼女の事は、まだ鮮明に思い出せる。
(思い出すだって……バカバカしい。あれはタダの夢だ…。夢なのに……)
頭を振って考えを霧散させると、時計を確認する。
「……まだ時間はあるな」
寝たのが早かったお蔭か、まだ登校するまで十分に時間がある。
(…せめて、風呂と着替えくらいはしておくか…)
そう考えて着替えを取り出すと一階に下りて、ふとキッチンを覗く。だが、昨日から誰かが其処を使った形跡は無かった。
「帰って来てないのか?」
美由紀の姿が無い事を怪訝に思いながらも、亨夜は浴室へと足を向けた。
浴室で汗を流すと、シャツを着替えてキッチンへと戻ってくる。
「…さて、朝飯でも食べて学園に行くか…」
そろそろ出ないと間に合わない。…こんな時にバイク通学が出来れば便利だと思いながらも、流石にガタックエクステンダーでの通学は拙いとも思う。
(…こう言う時は量産型のゼクトロンの方が便利………いや、あれはあれで目立つか)
流石にZECTのマークが付いているバイクでの通学は拙いと思いながら、龍牙の場合は平然とカブトエクステンダーで通学していそうだから、思わず頭を抱えてしまう。
(…それにしても、昨日は一日中何処に…。って、それが分かるほどあいつの交友関係は、七海ちゃん以外知らないか)
改めてそう思い直す。復讐の事だけに捕われて居た自分は、何処まで身近な人間の事を理解しようとしなかったのだろうか、と。
(…そうだな…。あの夢の中でも…)
だからと言って、復讐を捨てる事も忘れる事も出来ない。……『復讐者』としての戦いの神・仮面ライダーガタック・荒谷亨夜として。
(…凛が今も生きてたら…オレは、どれだけ今とは違っていたんだろうな?)
考えて所で答え等出ない。
(止めよう。美由紀も、きっと喧嘩してオレと顔を合わせづらいから、何処か友達の家にでも泊まってるんだろう)
そう無理矢理自分を納得させる。…だが、心の何処かで亨夜自身がその言葉を否定している。
(…そうだ。そうに決まっている。あんな、非科学的な事が本当に有るわけない…。学校に行けば……きっと居るはずだ。あいつは違って優等生だ。ズル休みなんてするはずがない…)
そう自分に言い聞かせる。
「っ!? そうだ」
美由紀に掛けようと思って携帯電話を取り出して、
「…しまった…。充電が切れてる…」
充電をし直す暇は無く、ZECTの連絡用の携帯電話を取り出して、
「…こっちはこっちで問題ありか…」
こっちはしっかりと充電はされているが、ZECTの通話用の方は別の意味で問題がある。…この携帯の番号は美由紀は知らないだろうし…。
(うちの電話から掛けるか…)
だが、掛けてみても帰ってきた返事は電源が切れているらしく繋がらないと言う物だった。
「ダメか…」
『仕方ない』と連絡する事を諦めて迫っている時間に背中を押され、登校する事にした亨夜だった。
つづく…
ってな訳で第二部スタートです。
翔「まあ、色々と言いたい所もあるが…。まだ気付いてないみたいだな」
ですね。一応、ネノクニの事が報告できない以上、カブティックゼクターとブラッドガタックゼクターの存在はZECTには黙っています。
翔「…いいのか?」
まあ、報告した所で混乱しか生みそうに無いですからね。では。