IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
(…やっぱり、バイク通学の許可とかって欲しいよな…)
そんな事を考えながら坂道を登って校門に辿りつき、校門をくぐり、教室へと向かう。実際、今はZECTで修理中のガタックエクステンダーだが、放課後の急な呼び出しにはやはりガタックエクステンダーが使えた方が便利だ。
(…そう言えば『今度後ろに乗せて』なんて言われたよな、美由紀には…)
ふと、初めて塔馬家へガタックエクステンダーを持ち込んだ日の事を思い出した。実際、亨夜がガタックに選ばれた時に渡される事が決定した為に、当時はZECTでの活動と同時にバイクの免許も取っていた。
なお、ガタックエクステンダーについて美由紀と六介には、『実家に居た時に免許を取りながら貯金して買った』と言っておいた。
(っと。そうだ、七海ちゃんに挨拶していこう)
校舎の中に入った後、そう思って下駄箱の方を通って弓道場へと向かう途中、
「あっ、亨夜先輩!」
「ん?」
聞こえて来た自分を呼ぶ声に気が付いてそちらの方へと振り向くと、其処には上目遣いで少し顔を赤らめて亨夜を見上げる留美の姿があった。
「やあ、ひさし……おはよう、留美ちゃん」
思わず『久しぶり』と言いそうになった所で、『昨日』会ったばかりなのだと言う事を思い出して、そう言い直す亨夜。
(…この感覚のズレは気をつけないとな)
「おはようございます、亨夜先輩!」
(…そう言えば、留美ちゃんに告白されたんだよな…)
ふと、此方での時間軸での『昨日』の出来事を思い出す亨夜。
…内心、自分の何処を好きになったのかと言う疑問は尽きないが、今はZECTのライダーとして戦い続ける事を選んだ身の上で彼女を作って遊んでいる暇は無いと言うのが考えなのだ…。そんな訳で色々な意味で最初は友達からと言う事で知りあった相手だ。
…同年代の交友関係で男よりも女の子の方が多いのは…言及しない方が良いのだろう。龍牙との関係は交友関係としては例外だが。
それが、原因となって美由紀との喧嘩に発展してしまった訳なのだが…。
そう、まるで長らく忘れていた自分の本来の日常の半分を『思い出す』かの様に考えている亨夜。
…残りの半分がワームと戦う仮面ライダーとしての日々で、それは全然忘れていないと言うのは…………はっきり言って、喜んで良いのか、悲しんで良いのか分からなくなる亨夜だった。
だが、彼自身気付いてないだろう……かつての自分ならば、そんな事は悩みさえしなかったと言う事実を。
「早いんだね、留美ちゃん」
「いえ……。だって、私今日は日直ですから」
「そうか、面倒だね」
「うん……。でも、そのお蔭で朝から先輩に会えたんだし」
と、何気に可愛い事を言う留美に微笑ましい物を見る様な感覚を覚えて微笑みを浮かべる亨夜。
「またまた」
「えへへ」
照れる留美の横顔を本当に可愛いと思う。だが、それは何かが違う気がした。
(…やっぱり違う…。昨日までの感覚と……何処かおかしい…)
そんな事を考えていると、ふと脳裏に幼い日の生きていた凛の笑顔が写る。今の留美を可愛いとは思うが、それは兄が妹を見るような感覚だ。…そう、亨夜には幼い日の凛の笑顔が今の留美と重なって見える。
「……先輩? 先輩!」
何故か当たり前に其処に居る人々から、自分の存在が浮いている様な感覚……何処か自分の存在が疑わしいような、そんな感覚を覚える。
なお、放課後のZECT関係者との会話ではそんな事を感じなかった辺りが亨夜らしいと言えば亨夜らしい。取り合えず、復讐者としての亨夜はブレてないのだろう、成長したと言われた程度だったりする。
「ん? ……ああ、ごめん、考え事してて。何?」
「先輩、今日は何か有ったんですか?」
「別に何も無かったけど…なんで?」
不思議そうな表情を浮かべる留美に対してそう問い返す。
「なんか……凄く大人っぽい雰囲気がするから、びっくりして」
「…そうかな?」
「はい。何だか…昨日までの先輩とは別人のようです」
(………大人っぽい……か)
そう言われても自分ではよく分からない。特に内面の成長など他人に指摘されて始めて気が付くことが多いのだろうし。第一、人間、そうそう直ぐに大人になるものではないのだし。
(…そうなると、あの夢か…)
考えられる理由はあの夢の中での一連の出来事。それらの体験が亨夜を成長させたのだろうか? そんな疑問が亨夜の中に湧き上がってくる。
(…馬鹿らしい。あれはタダの夢だ。だから、オレは昨日までのオレと変わらない……はずだ。だったら……どうして!)
そう考えることで浮かんできた考えを全て否定する。
「あはは、でも留美ちゃんは今日も可愛いね」
「そ、そんなぁ、もうからかわないで下さいよぉ」
まあ、ある意味戦闘モードの亨夜から遠く離れた言葉を選んで言って見た訳だが、言われた留美は照れながらそう言ってきた。
「あはは、冗談だけど、本気で言ってるよ」
「もう……」
何故、留美が昨日よりも子供に見えるのだろうか? そんな疑問が沸きあがる。
「………」
「………」
「あ、あのっ」
「何?」
「美由紀ちゃんの……事なんですけど」
「っ!? ………」
ある意味一番会いたかった相手の名前を聞いて内心大いに動揺してしまう。
「美由紀ちゃんも日直だから、早く来なきゃいけないはずなのに、来てなくて……」
(…美由紀の奴、まだ学校に来てない…。いや、少しアイツらしくないけど、来辛いだけかもしれない…。…なんて言えるほど、あいつの事を知っている訳じゃ……無かったんだけどな)「そ、そうだっけ」
そう言われて、日直だと言っていた事を思い出した。
「昨日の事も有るし、心配で……」
「………」
まだ来ていない美由紀の事を心配する留美に対して、まさか昨日から家に帰っていないとは言えない。
「あの、美由紀ちゃん、どうしたんですか?」
「あー、いや、その………」
どうしたと言われても、残念ながら“何も知らない”としか言えない。まさか昨日最後に見たのは…夢の中(ネノクニ)で一瞬だけとは、本気で心配して問いかけてくる留美には言える訳が無い。
「私のせいで登校拒否とかになっちゃったら、どうしよう………」
「………」
心配がどんどん先走っている留美に対して何も言えず冷や汗をかいてしまう。登校拒否になるかもと想像しているだけと言うレベルでこれなのだから………“昨日から行方知れずで連絡も取れない”等とは“絶対”に言えない。
……ZECTの情報網を使えば探索は出来るだろうが、流石に公私混同するとかしないとか言う以前に、公私混同できるほど立場は偉くない。
「い、いやいやいやいや、大丈夫、大丈夫だから、留美ちゃんのせいじゃないよ」
流石にこれ以上心配が上位にクラスチェンジしない内にフォローに回る。
「でも……」
「あいつ、夜更かしして、風邪引いて熱出してさ……今は家で寝てるんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。……でも、大した事は無いんだよ。ただ、無理させるのどうかと思ってね」
「………」
亨夜の嘘を信じた留美は安堵の表情を浮かべる。
「だから、留美ちゃんが気に病むことはないさ」
「本当なんですか?」
内心、嘘を吐くのは気が咎めているか、この場合はしょうがないと思って、真顔で留美の問いかけに答える。
「本当だよ」
「………そっか、良かった。安心しました」
「色々と美由紀が心配かけさせてごめん。熱が引いたら、ちゃんと今までのこと謝らせるから」
「い、いえ、そんな……。私はただ、何時もの美由紀ちゃんに戻って欲しいだけで」
「………そうだね」
留美の言葉に答えながら上手く誤魔化せた事で安堵する。まあ、美由紀が今日登校して来れば直ぐにばれてしまう嘘だが、それでもバレた所で逆に安堵できる部分があるのもまた事実だ。
「それじゃあ、黒板消さないといけないんで、私はこれで」
階段の所で立ち止まると、留美はそう言ってにっこりと笑った。
「ああ。またね、留美ちゃん」
「はいっ!」
そう言って留美は教室の方へと走っていく。
「……ふぅ」
留美の姿を見送ると溜息を吐く。
(やっぱり、嘘は苦手だ)
そんな事を改めて思う。その時だった……
「先輩」
道場の方から何時もの弓道着を着た七海が走ってきた。
「おはよう、七海ちゃん。調子はどう?」
「ええ…まあ、何時も通りです……所で」
七海は心配そうに眉をひそめて尋ねる。
「美由紀ちゃん、どうしたんですか?」
「えっ? あー…。聞いてたの?」
「はい…。…ごめんなさい、立ち聞きしちゃって」
「いや、だから…風邪引いて熱出して…」
「………」
「…あぅ…」
留美に言った様に同じ言い訳をした時、軽く非難するような疑いの眼差しで見つめられると、何も言えなくなる。
「嘘ですね」
「……はぁ……。何で分かるかなー」
「付き合い、長いですから」
あっさりと一刀両断にされる七海の言葉に思わず溜息を吐く。流石に付き合いの長い七海には簡単には嘘は通用しなかった。
「うん、そうだよ……嘘。……実は、昨日から帰ってないんだ」
「……やっぱり、帰ってないんですね」
「えっ?」
小さく呟いた七海の言葉に何処か引っかかる物を覚える。
「い、いえ、なんでもないです」
「………」(“やっぱり”って…どう言う…)
七海の言葉には、美由紀が家に居ないと思っていたと言う意味が感じ取れる。彼女が確信を持つ理由は分からない。だが、彼女の様子からすると、七海の家には泊まっていないと言うのだけは間違いない様だ。
「…何処に行ったんだろう、あいつ」
「……心配です。昨日からずっと電話してるんだけど、繋がらなくて」
「そうか…。…七海ちゃんの所でも無いとなると、他の友達の所かな?」
「……だと、良いんですけど」
心配そうに顔を伏せる七海。その姿に美由紀の事で心配させてしまった事を申し訳なく思う。
「ごめん。ホント、あいつも勝手な奴だよ。心配ばっかりかけて…(オレも人の事は言えないけどな)」
改めて従兄妹と言うのに、自分と美由紀は似ていると思う亨夜だ。
「いえ……。美由紀ちゃんにも、きっと色々悩みが有るんですよ」
「…そう、なのかな…」
「美由紀ちゃんの気持ち、分かってあげたいんです。……友達ですから」
七海が浮かべる真剣な表情は何処か意味ありげで、夢の中での千夏との一件を念頭に置いている様にも見える。
だが、それは己の見た夢の中だけの出来事だったのかもしれない。だとすれば、今更辛い過去の事を蒸し返すわけにも行かない。結局…
「友達思いだね、七海ちゃん」
亨夜にはそんな曖昧な言い方しか出来なかった。
「そんなこと……ないです。私、ほんとは鈍感だから……。直ぐ側に居るのに気付けない事、一杯あって…」
優しげな微笑を浮べて、七海は言った。そんな七海の言葉に亨夜は苦笑する。
「いや、気付けないのは仕方ないさ。誰かの事を全部理解している奴なんて、居ないよ。……一番悪いのは、オレみたいに気付こうともしない奴だ」
「いえ、先輩はそんな人じゃないですよ。…気付こうと出来なかったのも、理由があるからですよね」
「ありがとう」
気遣う様に告げられる七海の言葉に思わず胸が熱くなる。
「でも、だからこそ、大事な人の事は、何時も気に掛けていたいんです」
(…やっぱり…)
七海の言葉からは千夏の事を言っている様に聞こえる。そんな会話を交わしているとチャイムが聞こえてくる。
「あっ、チャイムだ」
「大変、早く着替えないと」
「オレも教室行かないとな。じゃあ、またね! 七海ちゃん」
「はいっ!」
「美由紀から連絡有ったら、直ぐに七海ちゃんに電話するから!」
「わ、私もそうします!」
慌てて更衣室に走る七海と、教室に向かう亨夜。
「…先輩は私にとって、一番のヒーローですよ」
最後にそんな言葉が聞こえた気がした。
つづく…
ってな訳で第二部の二話目です。
翔「久しぶりの留美ちゃんとの再会と、此方での七海ちゃんとの再会か」
はい。再びネノクニへ旅立つまでもう少し時間が掛かりそうです。それでは、次回もお楽しみに。