IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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序曲 -3-

「ふぅ…何とか間に合いそうだ」

 

 

七海との会話を終えて急いで教室に向かい、階段を上りきろうとした時、

 

 

「っ!?」

 

 

「亨夜ー! 覚悟~っ!?」

 

 

「って、行き成りか!?」

 

 

突然感じ取った殺気に反応して横っ飛びで渚の突きを避ける。流石に階段で跳ぶのは危険なので、出来れば階段での襲撃は止めて貰いたいのだが…。とも思う。

 

 

「ふふふ、久しぶりに勝負よ、亨夜!」

 

 

「甘いっ!」

 

 

渚の突きを避けながら素早く木刀を抜き、そのままの勢いで渚の剣を打ち払おうとする。

 

 

「何度も同じ手は食わないわよ!」

 

 

だが、渚は剣を弾かれた勢いを逆に利用して一回転し、反対側から亨夜の腰の辺りを狙った一撃が放たれる。

 

 

「そうかな!?」

 

 

素早く木刀を背中の方へと振り払い、完全に不意打ちとなって放たれたそれを虚空へと逸らす。

 

少なくとも、亨夜は今までガタックとして、ライダーとして戦ってきた経験値の差は圧倒的に渚を上回っている。そう簡単に一撃を貰うほど甘くは無い。

 

 

 

 

「おー、またやってるぞ」

 

 

「俺は亨夜にカレーパン」

 

 

「じゃあ、倉島にコーヒーゼリー」

 

 

その光景を眺めながら、周囲の生徒達は呑気に二人の勝負で賭け事をしている。

 

 

 

 

「だから、ギャンブルはやめろ、そこ!」

 

 

「あー、ほらほら、よそ見するなって」

 

 

思わず周囲で亨夜達を対象にギャンブルに興じているクラスメイト達に突っ込みを入れる亨夜。ZECTの突っ込み役としての本能だろうか。だが、結果的にその一瞬の余所見で出来た隙を逃さず渚は突きを放つ。

 

 

「っ!? おっと!」

 

 

「ちぃっ、すばしっこい!」

 

 

「危ないな…このっ!」

 

 

「ちょこざいな、それっ!」

 

 

亨夜が間一髪突きを避けた事を切欠に、二人の攻防は段々と激しさを増してくる。

 

 

 

 

「しかし……今日はまた一段と激しいなあ」

 

 

「ああ。二人とも絶好調じゃ無いか?」

 

 

激しさを増していく攻防に周囲のギャラリー達も何処か見入って行く。

 

 

 

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

 

「おらおらおらおらおらおらおら!」

 

 

剣戟の壁の如き渚の突きを亨夜は木刀で捌いていく。短剣での二刀流に切り替えれば反撃する余裕も出てくるだろうとも思ったが、それは直ぐに頭の中から消し去る。飽く迄この場で貫くべきは剣士としての技で有って、ライダーとしての技ではないのだと。

 

 

 

 

「おいおい……ちょっと激しすぎるぞ。あいつらこんなに強かったっけ?」

 

 

「人間業じゃねぇ…」

 

 

 

益々全力での攻防にヒートアップしていく二人には、残念ながら周囲からの反応や言葉は届いていない様子だった。その為にすっかり、一般高校生に可能な動きのレベルを逸脱している事に気付いていない。

 

 

 

「喰らえ…孤閃!」

 

 

「なんの、フレッシュ~!」

 

 

亨夜の放った孤閃の衝撃波を渚はフレッシュによって跳ぶ事で避け、回避と同時に反撃へと転じる。

 

何者も技を放った直後の瞬間にこそ最大の隙が出来る。特にそれが大技で有れば有るほどにその隙も大きなものとなる。だが、逆を言えば大技でなければ生じる隙も最小限に抑えられる。

 

 

亨夜は振り切った木刀を可能な限りの速さで構え直し、そのまま渚の攻撃を辛うじて防ぐ。

 

 

……どうでも良いが、こんな場所で孤閃みたいな技を使っても良いのかと言う疑問が沸いてくる。

 

 

「やるわね…」

 

 

「お前も、腕を上げたじゃないのか?」

 

 

そんな会話を交わす亨夜と渚。

 

 

渚の剣を受け止めていた木刀を振り渚を弾く。元々亨夜の経験した戦いは多対一か自分が数の上で不利な状況で戦う事が多い為に鍔迫り合いは避ける事を心掛けている。正面の相手にのみ集中していては他の相手に対して隙を晒す事に繋がる。

 

 

 

 

「む、無茶苦茶速い……。剣先が全然見えねえっ!」

 

 

「達人かっ!? これが達人の戦いなのか!?」

 

 

当然、この周囲からの評価も二人の耳には入っていない。

 

 

 

 

「とおーっ!」

 

 

「どりゃー!」

 

 

何度目かの突きを避けた瞬間、今度は亨夜が反撃へと転じる。亨夜の振るう木刀を正確に避けながら渚はカウンターを放っている。だが、亨夜も大技は使わずに隙を出しにくい戦い方にしたのだろう、カウンターも正確に避けている。

 

 

 

 

「熱い……。真冬だと言うのに、あの二人を見ていると額が汗ばむほどに熱い」

 

 

「これが……これが、達人のみが発する事が出来ると言う、『剣気』と言うものかっ!?」

 

 

二人の剣気に反応しているのか、ギャラリー達は周囲の温度が上がっている様に感じている様子だった。……真冬に汗を掻いたら余計に寒くなるだろうに……と言う突っ込みはしている余裕は亨夜には無い様子だ。

 

 

 

 

さて、周囲の盛り上がりを他所に二人の戦いは佳境に入る。互いに放った渾身の一撃が正面からぶつかり合う。そして、そのまま互いに己へのクリーンヒットを許さぬ鍔迫り合いとなる。

 

 

「ぐ、ぐ、ぐ……」

 

 

「ぬぬぬ……」

 

 

 

 

拮抗する力、重い空気。一歩でも引いたらその瞬間に敗者の決まると言う空気が支配する中……やがて、

 

 

 

 

「……ふっ、仕留め損なったか」

 

 

「そりゃ、こっちのセリフよ」

 

 

互いにこれ以上やっても決着が着かないと思い、どちらとも無く二人は剣を納め、臨戦態勢を解く。

 

 

「……ん? お前等、どうした? ぼーっとして」

 

 

「……あ、ああ、そうだな」

 

 

ふと、冷静になって周囲を見てみるとぼーっとした様子で二人を見ている生徒が多い事に初めて気が着く。まあ、問いかけられた側も生返事を返すのがやっとと言った様子だ。

 

 

「引き分けだから、賭け事の方はノーカウントね」

 

 

「あ、ああ、そりゃ別にいいんだけどさ……」

 

 

「早く教室に入ろうぜ、先生が来ちまう」

 

 

「あっ、そう言えば英語の宿題やってない……」

 

 

「あのな……。オレは見せてやんねえからな」

 

 

「むむっ、別に良いわよ! 休み時間にやるから!」

 

 

「結構量は有ったぞ。あの量じゃ間に合わないんじゃないのか?」

 

 

「そんな事無いわよ!」

 

 

そんな会話を交わしながら、二人は教室へと入っていく。

 

 

「……次は絶対本気出させて見せるんだからね」

 

 

妙に引っかかる渚の一言共に。

 

 

「……何なんだ、ありゃ」

 

 

「さあ……」

 

 

そんな二人を眺めながら、ギャンブルの対象にしていた生徒達はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、四時間目が終わる。平日ならば此処で昼休みに入るのだが、本日は土曜日……半日で終った。

 

 

「んー、終わった終わった」

 

 

開放感からそんな言葉が零れる。

 

 

「さて、と。月曜日までどうやって羽を伸ばすかな…」

 

 

残念ながらアルバイト先のZECTは現在進行形で謹慎中(と言う名の休暇中)なので仕事は無いが。…亨夜の場合はワーカーホリックと言うよりも復讐対象を狩る為なのだが……どう考えても中毒レベルである。

 

 

(……少し散歩でもしながら害虫駆除(ワーム狩り)でもするかな……)

 

 

真っ先にそれを考える時点で、亨夜は完全に休み方を忘れているかもしれない。

 

 

「って、あんた、もう直ぐテストが有る事忘れてるでしょ?」

 

 

「……渚、人が折角開放感に浸ってたのに、思い出させるなよ……」

 

 

その辺はバイト先の関係者に注意されているので、忘れたくても忘れられ無いと言う面も有るのだが……。

 

 

「いい加減にしないと、あんた本当に卒業できなくなるわよ?」

 

 

「大丈夫、なんとかなる。オレの爺ちゃんが此処でどう言う立場に有るのか、分かってるだろ?」

 

 

「って、思いっきりそれって不正じゃない!? あんた、プライド無いの!?」

 

 

「い、いや…軽い冗談だって」

 

 

そう言って憤る渚を落ち着かせる。今回は100%冗談だ。流石に本気で不正はする気は無いし、手段としても考えた事も無い。……一応、学生と言う身分に有る以上、その辺はしっかりする様にきつく言われているのだし。

 

 

「……ふぅ、アンタってやっぱ、ムカつくわ」

 

 

少なくとも、今までで一度も赤点だけは取った事が無い亨夜だった。実際、常に成績は高くも無いが何気に中間点より下に落ちた事は無かったりする。

 

 

妙に渚との会話で、何処かで同じような事を話したと言う様な不思議な感覚を覚える。

 

 

「……ところで、亨夜」

 

 

「ん?」

 

 

「明日、暇?」

 

 

「ん? ……ああ、暇だな」

 

 

渚の言葉に最後に『バイトも無いし』と付け加えて答える。実際、明日は何もする事は無くて暇だ。

 

 

「それじゃあさ、映画でも見に行かない?」

 

 

「はぁ? 映画…? 何で?」

 

 

何処か嬉しそうな響きの篭った渚の言葉に、亨夜は思わず質問で返す。

 

 

「見たい映画が有るのよ。でも一人で行くのもなんだし」

 

 

「いや、他の友達を誘えばいいだろ、何でオレなんだ?」

 

 

別に“他の友達でも誘えばいいだろう”と疑問に思う。態々自分を誘う理由が思いつかない。

 

 

「別にいいじゃない。……ただの気まぐれよ」

 

 

「?」

 

 

何処か照れた様子で返事をする渚の姿に疑問に思いながら、

 

 

(…美由紀の事も心配だから、明日は家に居た方が良い気がするけど…)

 

 

亨夜が返事を迷っていると、渚は何だか顔を赤くして言い繕う様に言葉を続ける。

 

 

「ご、誤解しないでよ!? 別に変な意味は無いんだからっ、なんでこのあたしがアンタなんかと……」

 

 

「あー、はいはい。分かってますよ、倉島家のご令嬢様」

 

 

何時もどおりの渚らしい言い方に苦笑しつつ、亨夜は次に言うであろう言葉を予測しながら、そう言い返す。

 

 

「………」

 

 

「ん?」

 

 

渚は少しの間沈黙して、はにかむ様に笑うと、

 

 

「そう言うの、止めたから」

 

 

「え゛?」

 

 

「家は家、あたしはあたしだからね」

 

 

「………」

 

 

先程の態度といい、今の返答といい、『渚らしくも無い』と、疑問に思う。だが、同時に心の何処かでその渚の変化を一切不思議と思っていない亨夜も居る。

 

 

(……秋也……さんの事。あの夢の中での出来事が……渚を変えたのか?)

 

 

其処まで考えた後、思わず苦笑を浮べる。

 

 

(バカらしい)

 

 

所詮はタダの夢だ。そう思って切り捨ててしまいたい。

 

 

だが、七海の時もそうだったが、今の渚もまた夢の中での出来事と言う事件が変えたのだと思う自分が居る。

 

 

(まさか、な。そんな事…)

 

 

口にしてしまうのも簡単だ。だが……

 

 

(だけど、これは偶然なのか?)

 

 

渚だけではなく、七海にも夢の中での出来事の影響と思える変化が有った。これを単なる偶然で片付けて良いのかと言う疑問も沸く。何より、亨夜自身の冷静な部分が否定するのだ。だが、偶然は二度も続かない、そして……

 

 

(…美由紀の事といい…)

 

 

夢の中でネノクニに残してきた美由紀の事も考えると、これが三度目となる。渚と七海だけなら偶然と言い切れるが、美由紀もそうだとすれば……偶然ではなく、

 

 

(“必然”、か?)

 

 

必然となる。

 

 

 

 

 

 

 

つづく…







ってな訳で第二部の三話目の渚編でした。



翔「…なんて言うか、自覚が無いのが一番怖いな」



ですね。ってか、亨夜よ…孤閃まで使うなと言う突っ込みは無しでお願いします。



翔「…まあ、あれだけの戦いの日々を潜り抜ければ達人の域にたどり着くだろうな」



剣気に目覚めちゃってますからね。それでは、次回もお楽しみに。
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