IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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序曲 -4-

 

「今日もね、お母さんがお弁当を作ってくれたの」

 

 

「何時もの話しだろ?」

 

 

「でも、嬉しいじゃない」

 

 

渚の本当に嬉しそうな顔を見て僅かに考えると、

 

 

「……そう言う、もんだよな…確かに」

 

 

今現在母親の居ない亨夜としては、凛と一緒に何も知らずに居た頃まで記憶を遡る必要が有ったのだが、改めてそう思う。そもそも、母や妹を亡くした後は出雲学園に入学する前まで中々家に帰らない父親と二人暮らしだったのだから、母親の作った弁当の味など分かるはずもない。

 

 

(…今更だけど、それほどオレには料理の才能無い…いや、美由紀がオレの家までよく作りに来てくれたんだっけ…)

 

 

今思い出すと、よく美由紀が食事の世話をしに来てくれた事が何度もあった。あの頃から従兄妹である彼女には迷惑をかけていたと改めて思う。…特にその頃は一番酷い時期だったと言う自覚も有るのだし。

 

 

「あんたも、美由紀ちゃんに作って貰えばいいじゃない?」

 

 

「………」

 

 

「……亨夜?」

 

 

渚の何気ない一言に思わず表情が強張ってしまう。何も知らないのだから、渚には罪は無いだろう。渚はそんな亨夜の顔を不思議そうに覗き込む。

 

 

「美由紀……は……」

 

 

渚の言葉に答えようとした時、一瞬だけ言葉に詰まってしまう。あの夢の内容が現実だとしたら……それは、美由紀がまだネノクニに、それもアマテラスの村を襲った赤いガタック……悪霊の将軍であるスサノオの元に居る事に他ならない。そんな事は、信じられない…………いや、正しくは信じたくない、と言う心境だ。

 

 

「亨夜ちゃん」

 

 

「わっ!?」

 

 

物思いに落ちていた時、突然後ろから声を掛けられる。慌てて振り返って其方を見ると、其処に居たのは綾香だった。

 

 

「あ、綾香さん、何?」

 

 

「あのね。さっき美由紀ちゃんのクラスの授業だったんだけど……」

 

 

「………」

 

 

「美由紀ちゃん、お休みだったね。どうしたの?」

 

 

「えっ? 美由紀ちゃんが……?」

 

 

心配そうな渚と綾香。

 

 

「美由紀……は……風邪を、ひいてるんだ。熱を出して部屋で寝てる」

 

 

既に七海には見破られた七海と留美の二人にも言った嘘を言う。二人をあまり心配させたくない、と言う配慮なのだが…

 

 

「な、なんだぁ、良かった……。あたしはまたてっきり」

 

 

「……?」(“てっきり”?)

 

 

「わっ、なんでもないよ!」

 

 

「………」

 

 

渚の言葉に疑問を覚える亨夜に対して慌てて誤魔化す渚だが、彼女の言葉には微かに疑問を感じてしまう。だが、そんな渚ほど綾香は単純ではなかった。

 

 

「嘘ね」

 

 

「え゛っ……」

 

 

即座にその一言で切り捨てられると亨夜に動揺が浮かぶ、

 

 

「ほら、動揺した。やっぱり嘘」

 

 

「………」

 

 

思わず簡単な手に引っかかってしまった自分を責めたくなる。確かに嘘なのだが…。

 

 

「美由紀ちゃん、帰ってないの?」

 

 

「………うん」

 

 

改めて、昔からの知り合いには簡単に見破られてしまうな、等と思いながら観念して本当の事を話す。

 

 

「……あいつ、昨日から帰ってない……」

 

 

「……やっぱり……」

 

 

「…………まさか…………」

 

 

「いや、多分オレの知らない友達の家に泊まってるんだろ。そこまで深刻に心配する事じゃないから……多分」

 

 

どうも言葉に自身が持てなくなる亨夜だった。そもそも亨夜自身今まではZECTの仕事を優先してきたせいで、美由紀の交友関係など付き合いの長い七海と最近知り合った留美の二人以外知らない。

 

 

その言葉で三人の間に沈黙が流れるが、改めて沈黙を破ってくれたのは綾香だった。

 

 

「ところで、亨夜ちゃん」

 

 

話題を切り替えるように綾香は言った。

 

 

「アマテラスちゃん、あれからどうしてるかしらね……」

 

 

「どうなったんだろう……無事だと良いんだけど…」

 

 

ふと、そんな言葉が自然と口から零れてくる。

 

 

「………」

 

 

「…え? あれ?」

 

 

あまりにも自然すぎる会話だった為に自然と口から零れてしまったが、間違いなく綾香の言葉に出たのは、

 

 

(…なんで、オレの夢の中しか居ないはずの……アマテラスの事を、綾香さんが?)

 

 

「やっぱり、あれは全部本当にあった事なのね……」

 

 

「え、それじゃあ…“あれ”も」

 

 

綾香の言葉に、何処か動揺した様子で微かに震えながら呟く渚の声は虚空へと消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、綾香に呼ばれて亨夜達は保健室に集まっていた。

 

 

「……つまり、此処に居ない亨夜ちゃんのお友達の二人は分からないけど、みんな同じ夢を見ていたのね」

 

 

此処に集まったのは四人、亨夜と七海に綾香と渚だ。残念ながら他校の生徒である龍牙と剣の二人は居ないが。

 

 

全ては綾香の一言に尽きる。こうして膝を付き合わせて話している四人の会話の内容に殆ど違いが無い。つまりは、そう言う事なのだろう。

 

 

「…………」

 

 

「……夢なのに、夢じゃないって事ですか?」

 

 

「なんだか、まだ悪い夢を見ている様な気分……」

 

 

気味が悪そうな顔をする七海と渚の二人。だが、そんな超常現象に遭遇していれば、それも無理は無いだろう。

 

 

悪霊と言う怪物の徘徊する世界。其処では少なからず辛い経験も有った。誰だってそんな出来事等忘れてしまえるのなら、忘れたい。

 

 

押し寄せるのは、何が現実で何が夢なのか分からない、“不安”。

 

 

「……ううん、夢は夢、現実は現実よ」

 

 

だが、綾香は一人だけ自信を持ってそう言い切った。

 

 

「……そうだ……。あれは全部、夢の中の出来事だ」

 

 

亨夜も後に続いて言い切った。

 

 

「……どうして、そんな事が言い切れるんですか?」

 

 

亨夜は表情の七海に答えた。

 

 

「だって、地震なんて起きていないし、崖崩れも無い。あの世界で過ごした数日間が、こっちではほんの数時間だけの出来事だ。あれは夢だった…はっきりしてる」

 

 

ライダーの事やワームの事については何気に否定しない亨夜だった。

 

 

「私一人の夢だったら、それはタダの夢だと思えたわ。でも……」

 

 

そう言った後、渚は一度言葉を切って僅かに考え込むように黙ると、

 

 

「でも、夢だとしたら、どうして皆が繋がっているの?」

 

 

「私もそれが怖いんです。だから、それが確かめられなくて……」

 

 

(……そうか……。みんな、同じ不安を抱えていたんだな……)

 

 

渚の言葉に続いて告げられた七海の言葉に亨夜はそんな感想を持つ。亨夜も心の何処かで感じていたはずだ……同じ不安を。

 

 

 

世界の外に身を置いてしまった人間が抱える、非現実感。

 

全てに薄い透明な幕越しに触れているような、疎外感。

 

 

 

そのどれもが、亨夜にとっては初めてガタックとなった時にも感じた感覚だ。だから、今回の事にはそれなりに上手く折り合いをつけていた心算だが、七海達は今回の事が初めてなのだ。

 

 

(……あいつらは何時も通りなんだろうな……)

 

 

同時に偶然の事故でネノクニに渡ってしまったであろう、龍牙達二人の事も考えてみるが何時も通りの姿しか浮かばない。寧ろ、龍牙に至っては、その日の内にハイパークロックアップで皆既日食の世界に飛び込んでいそうだ。

 

 

「集合的無意識……」

 

 

その時、綾香が七海達の疑問に答える様に難しげな言葉を言った。

 

 

「シュウゴウテキ、ムイシキ?」

 

 

「うん、集合的無意識。ユングの提唱した概念ね……」

 

 

七海の言葉に綾香は先程の言葉に対する説明を判りやすく加えていく。

 

 

「つまり、『全ての人々の無意識は繋がっている』って言う考え方ね」

 

 

「私も、亨夜も、綾香先生も、七海ちゃんも?」

 

 

「ええ、繋がってるの。そう言う考え方」

 

 

「だから、夢も繋がってる?」

 

 

「うん。夢は無意識を写す鏡。そう考えれば、筋は通るわ」

 

 

(……確かに、それなら納得が行くな)

 

 

綾香が渚と七海の疑問に答えていく中、亨夜は綾香の説明を改めて夢の中の出来事とあわせて整理していた。

 

ネノニクにワームが出た事もあれが夢だとすれば、亨夜の無意識がネノクニにワームを生み出したのだろう。だが、

 

 

(……だけど、だったらなんで今まで戦った事の無い奴ばかりだったんだ?)

 

 

そんな疑問だけが残る。

 

 

きっぱりと答えを出した綾香に七海は困った顔を浮べていた。

 

 

「なんか、オカルトっぽい……」

 

 

「そうだよ。科学教師にあるまじきお言葉……」

 

 

「私だって、別に本気で信じてる訳じゃないわよ。ただ、この状況を説明するのに便利な言葉だな、って思っただけ」

 

 

「……つまり、あれはみんなの夢が繋がっただけで、夢はちゃんと夢だった、って事なのね?」

 

 

「そう言う事」

 

 

綾香が自信を持ってそう言い切る。

 

 

「う~ん。そっか、夢だったんだ。ちょっと安心したよ。亨夜が蒼いクワガタみたいなヒーローに変身するなんて現実じゃありえないし…」

 

 

「ソ、ソウディスネ~」

 

 

笑顔で言い切る渚から全力で視線を逸らしつつ亨夜はそう言った。残念ながら、ガタックとワームの事だけは、あれが全部夢だったとしても現実だ。

 

取り合えず、ZECTと言う組織の人間として、このまま渚には夢の中のワンシーンと受け止めて貰う事にする。……バイトだけど……。

 

 

「そうそう。だから、そんなに気に病まなくてもいいのよ」

 

 

「そう……なんですか」

 

 

そんな渚に対してまだ納得できない様子の七海。何処か残念そうに見えるのは、決して気のせいでは無いだろう。

 

 

「そうだ、そう言う事、あれは全部夢だったんだ!」

 

 

少し乱暴にそう結論付け、手に叩いてその話を打ち切ろうとした。

 

 

「でも……」

 

 

「ほらほら、考えすぎ! もう直ぐ期末試験に全国大会なんだ。そろそろオレもバイトに復帰できるし、オレ達には現実の試練が待ってるんだ、夢の事で悩んでる暇は無いんだ」

 

 

不安げに言葉を続けよう取る七海にそう言い切る。学生の身分として重要な事は多いが、亨夜にとって何をおいても倒したい妹の仇は現実にしか居ないのだ。それに現実だったとしても、二つの世界は二度と交わるべきではないのだろう。ただ気になる部分は一つだけ存在して居る。

 

 

「……でも……」

 

 

「もし夢だったとても、美由紀ちゃんの事が心配です」

 

 

「考え過ぎだって。タダの家出だよ……。あー、いや……家出だって十分大問題か……。だけど、あれはただの夢なんだ、現実とは違う…筈だ」

 

 

それは何処か自分に対して言い切る言葉。だが、あの世界に呼ばれたのが…龍牙と剣を除いた美由紀を含めた亨夜達だとすれば…

 

 

(……アマテラスから聞いた救世主の話と、符合する……)

 

 

妙な符号が示した偶然の一致。此処まで来ると夢である可能性も簡単には否定できないが、現実だと肯定する材料ばかりが増えている様にも思える。

 

 

「……ほんとうに……そうなんですか?」

 

 

「大丈夫だよ。全部悪い夢を見ただけ、起きれば元通りなんだ」

 

 

「そうだと……いいんだけど」

 

 

「間違いないって!」

 

 

それでもまだ七海と渚の二人は不安そうな顔をしている。

 

 

「そうね、亨夜ちゃんの言う通りよ」

 

 

綾香が口を開くと、其方へと全員が注目を向けた。

 

 

「確かに不思議な夢だったけど……。夢よりも私達に今大事なのは、現実に今何をするか、なのよ」

 

 

「うん。そう言う事」

 

 

「だから、もうこの夢の事は忘れましょう」

 

 

にっこりと笑いながら綾香がそう言う。

 

 

「明日からはみんな何時も通り、元気な顔を見せて頂戴ね」

 

 

綾香の言葉にようやく二人も納得した様子で、

 

 

「……はい」

 

 

「……そうね。わかったわ」

 

 

そう答えた。だが…

 

 

(……でも、集合無意識だとしたら…なんでワームは兎も角、次世代ゼクターまで?)

 

 

まだそんな疑問が残る。ワームについては亨夜の記憶と考えれば解決できるのだが…その部分や赤いガタックゼクターだけは説明できない。

 

 

(……どうなってる……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく…





ってな訳で第二部の四話目でした。



翔「……亨夜の奴、気持ちは分かるけどな……」



ある意味、翔君って一番信じられない状況に飛び込んでますよね。



翔「図書館世界や本の世界か……確かにな」



では、次回もお楽しみに
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