IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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序曲 -5-

さて、保健室での話し合いの後、七海は部活、渚は買い物、綾香は職員室へと……それぞれバラバラに解散していった。

 

 

本来なら、亨夜もバイト(ZECT)に行きたい所だったが、残念ながら未だ謹慎は明けていない為に、一人屋上に上がり、運動場を走るサッカー部員を見下ろしながら物思いに耽っていた。

 

 

(……もし、あの世界の出来事が現実だったら……)

 

 

そう仮定すると多くの辻褄が合う。

 

 

自分の無意識が影響したと考えればワームだけならば、それはまだ綾香の説明で証明は可能だ。

 

だが、残念ながらそれではカブティックゼクターとブラッドガタックゼクターの存在についての説明は出来ない。

 

しかし、現実だと仮定してしまえば、全ての答えは繋がる。

 

 

だが、それを現実だと受け止めてしまうと、今こうして立っている地面が夢か現かさえ分からなくなる。

 

 

そう考えながら亨夜は金網を握り締める。彼の握力によって形を変える金網を一瞥もせずに、亨夜の意思は再び思考の中に陥っていく。

 

 

(悪霊達の鉤爪の下を潜り抜けた日々、楓さんや桃花さん、それに、アマテラスとのふれあい)

 

 

思い出すのは悪霊との生身での戦いの日々と、ネノクニで出会った者達の事。

 

 

これまでガタックとしてワームを相手に命を賭して戦う事には熟れていたが、少なくとも生身で命を賭した戦いに明け暮れたのはこれが初めての経験だろう。

 

 

……ライダーとして戦い続けてきた高校生の方が非常に稀だと思うが……。

 

 

(……いつも直ぐ側にいてくれた人達の、今まで知らなかった……いや、気付こうともしなかった一面)

 

 

次に思い出すのは七海や渚、綾香の知らなかった部分。以前の復讐の為だけに戦い続けていた自分なら永遠に気付く事も出来なかったであろう“それ”だ。

 

 

(あの世界で起こった出来事の……夢や幻なんかじゃない、圧倒的なリアリティ。それに……改めて実感できる、オレ自身も変わってきた事を)

 

 

七海や綾香、渚やアマテラスの知らなかった部分に触れていく内に、気付かない内に起こっていた己の中の変化を、改めて実感する。

 

 

(…それに比べてどうだ、このぬるま湯の様な日常は? ……本来なら、此処がオレの居るべき世界だって言うのに、何でこんなに……薄っぺらく感じるんだ? ……オレは戦闘狂(バトルマニア)じゃないぞ)

 

 

ライダーとして戦っている部分にはネノクニでの日々と同様の感覚、以前と変わらない感覚を覚えるのに、大切だと思っていた日常にそんな感覚を覚える。

 

 

(……オレ達はこの世界に帰る為に、命懸けで戦った……。だけど……なんだ、この世界は!? 何かが違う! 何かが足りない!? オレは……オレが望んでいた世界は、こんな世界じゃ無かった筈だ!?)

 

 

例えるならばピースの欠けたパズルを見ている様なモノだろう。何かが欠けているから覚える感覚。

 

逆に以前と何も変わらない充実感をライダーとしての日々に覚えているのは、其処に帰りたかった世界として何一つ欠けていないからなのだろう。

 

 

(……こんなモノだったのか……?)

 

 

ゆっくりと空を見上げると夕日が殆ど沈み、夜の闇と夕焼けの朱が混ざり合った空は、物悲しささえ感じさせる紫に染まっている。

 

 

(……オレが帰りたかったのは、こんな哀しい色をした……世界、だったのか?)「違う!」

 

 

思わずそんな言葉が口から零れる。

 

 

(……この世界は何かが欠けてる……。本当の意味で、オレが現実って日常に戻る為の、大切な何かが……)

 

 

 

『……先輩』

 

 

 

その時、後ろから声を掛けられる。

 

 

「あ、ああ、留美ちゃん」

 

 

「何考えてたんですか?」

 

 

留美の言葉に一瞬だけ口篭る。彼女の言葉から判断すると、少なくとも物思いに耽っている間、ずっと後ろから見ていたのだろう。どう考えても、ワームと戦うライダーの一人としては無用心過ぎると言って良い。

 

 

「ああ……何だろうな」

 

 

「教えて下さいよ~」

 

 

「浦島太郎、かな?」

 

 

「……?」

 

 

亨夜の呟きに留美が疑問の表情を浮かべる。だが、亨夜としては正にそんな気分だった。少なくとも、留美にそれが分かるわけがない。

 

亨夜は沈んでいく夕日の向こう側……太陽の支配する空が、月と星の輝く夜空へと変わっていく先を見通す様に遠い目をする。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「……あの」

 

 

「何?」

 

 

暫く沈黙が続く中、意を決して留美が口を開く。

 

 

「先輩……今日は何だか、不思議な感じです」

 

 

留美はそう言って心配げに亨夜を見上げる。

 

 

「……不思議?」

 

 

「……確かに此処に居るのに、此処に居ないような……。心を何処かに置き忘れて来た様な……」

 

 

(結構鋭いな、留美ちゃん)

 

 

彼女の言葉に内心感心してしまう。そうでなかったとしたら、遠目で見ていても分かるほどに今の亨夜の様子が可笑しかったのだろう。一応自分の名誉の為にその辺は指摘しないでおく亨夜だった。

 

 

「美由紀ちゃんのことですか?」

 

 

留美の言葉に一瞬だけドキリとしてしまう。まさか、留美にまで気付かれたのかとも思ったが……

 

 

「私も心配です。一日お休みしてるだけなのに……なんだか、すごく寂しい」

 

 

「あ、ああ」

 

 

幸いにも気付かれていなかった事に内心で安堵の息を吐く。

 

 

「喧嘩の事、気にしてるのもあるけど、それだけじゃないんです」

 

 

「……」

 

 

「やっぱり、美由紀ちゃんも一緒に居てこその、学園生活だから」

 

 

「ああ」

 

 

「だから、早く風邪を治して欲しいんです。仲直りがしたいんです……」

 

 

そう言った留美のはにかむ様な笑顔を見ていると、亨夜の中の疑問が氷解して行った。寧ろ、答えが出てしまったのなら改めて思う、何も悩む事はなかったのだ、と……。

 

 

「ありがとう、留美ちゃん」

 

 

「お礼なんて……」

 

 

「心が決まった」

 

 

「………?」

 

 

屋上から少し身を乗り出して、吹き付ける冬の風を浴びながら、言う。

 

 

「大丈夫、美由紀なら直ぐに元気になるよ、心配しないで」

 

 

「……はい」

 

 

「留美ちゃん」

 

 

「……?」

 

 

ポンっと彼女の背中を叩く。

 

 

「必ずアイツを、連れて戻るから」

 

 

そう、欠けていた最後の一欠片は美由紀だ。亨夜にとっての現実は二つの面で彩られている。日常と戦いの二つの日々。

 

簡単な話しだ。ライダーとして戦う日々に何時もと変わらないものを感じていたのは、其処に欠けているモノが何も無かったからだ。

 

だが、日常に感じている感覚の正体は一つ……一番近くに居た人間の不在と言う一点だ。大事なピースが欠けている以上、それはまだ元の世界に戻っていないに等しい。

 

 

亨夜はそれだけ告げて屋上を後にする。

 

 

(……そうだ、気持ちは決まった。オレはもう一度、あのネノクニに行く。そして、美由紀を……連れて戻ってくる)「ガタックゼクター」

 

 

亨夜が名を呼ぶと彼の掌の上にガタックゼクターが舞い降りる。少なくとも、戦う為の力ならば手元に有る。とは言っても常にガタックで戦い続ける訳にも行かないから武器を確保する必要も有るだろうが。

 

それに、美由紀の事以外にも、あの世界ではワームやカブティックゼクター等の多くの目的が残っている。

 

 

問題はネノクニに行く方法だがそれも直ぐに解決する。地下の祭壇に有るかの鏡だ。おそらくこの世界とネノクニを繋ぐ扉。亨夜の考えが正しければ、もう一度ネノクニに行ける筈だ。

 

 

 

 

『強く思い願う事は実現する……。それが『夢を紡ぐ力』なんです』

 

 

 

 

思い浮かぶのはアマテラスの言葉。アマテラスの言葉を信じるのならば、もう一度あの鏡を使えば、今度は一人でネノクニに行く事が出来ると推測する。

 

 

(……我ながら非科学的な事を……)

 

 

自嘲気味にそんな事を思う。だが、全ての状況は科学的であろうが無かろうが、ネノクニが現実に存在していると告げている。

 

 

(まあ、あれが現実だったにしても、夢だったにしても……間違いなくオレはバカな事をしているな)

 

 

下駄箱に着くと考えはそんな所に行き着く。

 

 

夢だったとしたら、決意と準備が完全に空回りした事になる。……はっきり言って傍から見れば間抜けすぎる光景だろう。……だが、それならばそれで構わない。

 

 

現実だったとしても、一人で再びあの世界に行く事は無謀以外の何物でもないし、無事にアマテラス達と合流できるとも限らず、最後の瞬間の悪霊軍の襲撃でアマテラス達は全滅しているのかもしれない。何より、美由紀の姿を見たのだって、単なる見間違えかもしれない。

 

 

そう、このまま待っていれば、美由紀も何事も無かったかのように帰ってくるかもしれない。

 

 

そんな僅かな瞬間に見ただけで、確かに其処に居るのかも分かりもしない美由紀を助ける為に、別の世界に旅立つ等、どう考えても利口とは言えない。何より、龍牙の事を何も言えない。

 

 

心の何処かで“復讐者”としての己が『戻れなくても良いのか』と囁いている。確かに二度と戻れる保証は無く、己の敵であるワームを倒しても居ない今の状況でネノクニに旅立つ事は、ガタックの力を求めた理由の全てを放棄するに等しい。

 

 

(……だけどな、兄貴は妹を守るものだろう、凛?)

 

 

校門を潜り抜けながらそんな事を思う。

 

 

(……確かにオレと美由紀は従兄妹で兄妹じゃないけどな……)

 

 

それでも、昔から妹の様に思っていて、長い間家族のように過ごしていた相手だ。

 

 

(……今だけは、オレは復讐者じゃない……。『荒谷亨夜』として、ネノクニで戦うだけだ!)

 

 

ライダーとして戦う時に常に被っていた復讐者の仮面を外し戦う事を決意する。

 

 

既に亨夜の中に迷いなど無かった。

 

 

坂を下りながら物思う、

 

 

(集合的無意識でも、本物の異世界でも、何でも良い)

 

 

既に決意は決まっている。

 

 

(オレはもう、家族を見捨てて逃げたりなんかしない)

 

 

そう思いながら家の玄関の前まで辿り着く。

 

 

(向こうの世界に於いてきた忘れ物と、後片付け……最後までやらせてもらう!)

 

 

決意するのは、その一言…

 

 

(オレは美由紀を、連れて帰る!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室…

 

 

「さてと、何か準備する物は有るかな?」

 

 

再びネノクニへと向かう事を決めてから亨夜はその為の準備に勤しんでいた。先ずはある程度手当てが出来るように、包帯等は持って行った方が良いだろうと思いながら一つに纏めて行く。

 

 

(手荷物は武器以外ない方が良いし、財布は置いていこう……必要ないだろうし)

 

 

そう思いながらも数枚の硬貨だけは持っていこうと決める。こっちへ戻って来れた時に其処がまた学園とは限らないのだし、最低限移動できる様に少しは持っていく必要が有るだろう。

 

 

確実に戦闘に遭遇すると言う自覚が有るので、戦闘時に余計な手荷物が有るのは邪魔になるからベルトはあらかじめ装着して其方は武器に限定し、それ以外の荷物はポケットの中に入れておけるだけに留める。

 

 

(服装は……防弾チョッキとか軽めで動き易い物が良いけど……)

 

 

そこで思い浮かぶのはZECTで比較的何時も纏っているコート。何気にワーム相手には意味は無いが意外と防刃防弾性は有る。少なくとも制服よりは命を預けるに足る装備だが……

 

 

(……駄目だな、流石にZECTまで取りに行く時間は無い)

 

 

だが残念ながらそれは部屋には無くZECTに有る亨夜のロッカーに入っている為に、今から取りに行くのは時間が掛かる。

 

 

付け加えるなら、愛車であるガタックエクステンダー以外のZECTからの支給品は家に持ち込んでいなかったりする。持ち込んでいれば少しは心強い装備が出来たと思わないで無かった。

 

 

(仕方ない、服装はこのままで良いか。あとは武器だけど、武器はガタックゼクターと居合い用の刀を持っていこう。ガタックエクステンダーが有れば……有っても無理か)

 

 

ガタックの専用マシン・ガタックエクステンダーは確かに使える装備だが、流石に学園の地下までバイクを一台運び込むのは手間だ。

 

そう思うと包帯等の治療用の道具を一つに纏めて制服のポケットの中に入れて、最後にガタックのベルトを装着すると、居合刀を持ち出す為に亨夜は中庭に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭…

 

 

「わっ!」

 

 

「おお、亨夜、帰ったか」

 

 

「爺ちゃん……」

 

 

亨夜が中庭に出ると、其処には何時もの作務衣で、ぼおっと空を眺めて佇む祖父、六介の姿があった。

 

 

「爺ちゃんこそ、帰ってたんだな」

 

 

「ああ。ちょっと昔なじみに用が有ってな」

 

 

「へぇ……」

 

 

久振りの祖父との会話が酷く懐かしく感じられる。そんな事を思いながら祖父の顔を眺めていると、

 

 

「時に、亨夜」

 

 

「ん?」

 

 

その視線を気にするでもなく六介は亨夜へと問いかける。

 

 

「美由紀ちゃんはどうしたんじゃ? 姿が見えんが……」

 

 

「っ!? あ、ああ……今日は友達の所に泊まるんだって」

 

 

余計な心配をかけたくない。そう思って嘘を吐いた。まあ、現実の方がある意味では嘘と言って良いだろうが。

 

 

「ん、そうか」

 

 

「……」

 

 

あっさりと納得する六介に思わず拍子抜けしてしまう。誰の所だとかもう少し詳しく聞いてくるものと思っていたのだが…。まあ、詳しく聞かれても困るのでそれはそれで助かるのだが。

 

 

「亨夜よ……」

 

 

「なんだよ?」

 

 

六介は伸びをして曲がっていた腰を伸ばすと、

 

 

「久しぶりに稽古をつけてやろう。竹刀を二本、持って来い」

 

 

そう言って六介は道場の中へと消えて行った。

 

 





ってな訳で第二部の序章の終了目前の第五話でした。



翔「やっと旅立つ決意をしたか」



はい。まあ、色々と揺れた結果こうなりました。彼の場合、アシハラノクニで戦う理由と言う物がありますからね。



翔「ワームへの復讐か」



ですね。復讐対象となるワームがアシハラノクニに居る限り、亨夜くんには常に戻る理由を持っている訳です。日常と復讐、二つの狭間でゆれて貰ってます。



では、次回もお楽しみに。
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