IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝   作:龍牙

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序曲 -最終楽章-

「ふっ!」

 

 

「なんの!」

 

 

亨夜の渾身の袈裟斬りを、六介は難なく鍔元で弾き飛ばす。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

「おっ、とっ、とぉっ!」

 

 

その後も亨夜の剣は簡単にあしらわれて、一本も取る事が出来ない。実際、悪霊やワームとの戦いで腕を上げたと思っていたが、まだまだ実力は祖父である六介に及ばない事を実感する。

 

 

(……分かっちゃいるけどな……)

 

 

理解はしているが悔しくないわけがない。ガタックの時と同様の二刀流ならどうかとも思うが、あれは完全に技が素人同然の我流と言う代物なのだ、使った所で結果は変わらないだろう。改めて、人に『達人』と呼ばれている由縁を実感する。

 

 

(……まあ、怪物退治の技と人と戦う為の技は別物か)

 

 

そのまま暫く打ち合っていた二人だが、

 

 

「ふぅ……この辺で良いじゃろ。亨夜、終わりにしよう」

 

 

「はぁ、はぁ……。……ああ、そうだな」

 

 

荒い息を吐きながらその場にへたり込む亨夜に対して六介は殆ど息が乱れていない。攻めていたのが亨夜だからと言う点も有るだろうが、実際亨夜には無駄な動きが多いのだろう。

 

 

「それにしても、爺ちゃん」

 

 

「なんじゃ?」

 

 

「強いよなぁ……。全然敵わねぇ」

 

 

「ふん、バイトばかりで腕も鈍っとると思っておったが、お前も腕を上げたようじゃな」

 

 

「そうかな? 全然歯が立たないのに」

 

 

「相手の強さが分かるのも、強さの内なんじゃよ」

 

 

六介は納屋で何かを探しながら背中でそんな事を答える。

 

 

(『相手の強さが分かるのも、強さの内』か……。オレはどうなんだろうな?)

 

 

怪物退治と言うべきワームとの戦いは例外として、ネノクニでのヘラクスやツクヨミとの一戦を思い出す。

 

 

「これをやろう」

 

 

そう言って六介が亨夜に差し出したのは、一振りの日本刀だった。

 

 

「……居合刀ならもう持ってるぜ」

 

 

「こいつはそんじょそこらのナマクラとは一味違うぞ。この世に二本と無い業物じゃ」

 

 

「へー、そんなに凄いものなのか……」

 

 

亨夜は六介から受け取った刀を試しに抜いてみる。月の光を反射して輝く刀身は素人目にも確かに見事な品だと言う事は分かる。だが、問題は……

 

 

「……って、こいつは真剣じゃねぇか!?」

 

 

それが本物の刀……真剣だと言う事だ。

 

 

「ああ、そうじゃよ。それも巻き藁の三つや四つ、束ねて斬れるくらいの名刀じゃ」

 

 

「あぶなっ!? ……こんな物貰って良いのかよ?」

 

 

少なくとも現代社会に於いて武器であると同時に日本刀は美術品の一種でもある。少なくとも売ればそれなりの価値もあるだろう。持ち歩くのは法律的に問題ありだろうが。だから、流石にそんな高価な代物を貰っていいのかとも思うが。実際、剣の家では代々家に伝わっていたらしい本物の剣を売って金に換えていたし。

 

 

「良いんじゃ。……今のお前なら使い方を間違う事はないじゃろう」

 

 

そう言って笑う六介の目は、優しく暖かで、亨夜にはまるで全てお見通しだというように感じられた。実際、亨夜も時々この祖父にはZECTでの活動の事も知られているのでは無いかと思う事もある。

 

主に毎月生活費として納めている結構な額になるZECTからの給料の大部分を何も聞かずに受け取っている所とか。……まあ、それでもそれなりの金額が貯金されているし、亨夜の場合持っていた所で使う事も少ないが。

 

 

「今までお前には話してなかったんじゃが……」

 

 

空に浮かぶ月を見上げながら、二人、庭石に腰掛けながら話をする。六介は昔を懐かしむ様に遠い目をして、呟いた。

 

 

「お前も、美由紀ちゃんも……本当は、この家で生まれた子では無いんじゃ」

 

 

「……取り敢えず、美由紀の事は兎も角、何を今更。オレが生まれたのは父さん達の家だろ?」

 

 

少なくとも、亨夜の姓は『荒谷』であって『塔馬』ではない。

 

 

「そうではない。まあ、わしの言い方が悪かったかもしれんが……。亨夜、お前は本当はあいつの家で生まれた子供ではないんじゃ」

 

 

「……えっ!?」

 

 

驚きで次の言葉が出せない。六介はそんな亨夜が落ち着くのを待って事の次第を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

―まだ出雲学園があそこに建っていなかった頃の話じゃ……―

 

―洞穴の中に、忘れ去られた小さな祭壇が有ってな―

 

―わしが時々手入れをしていたのだが、あの日、とんでも無い事が起こったのじゃ―

 

 

―そこに有った鏡が一際明るく輝いたかと思うと……―

 

―わしの前に、真っ白い肌、薄青く光る衣を纏った女の幽霊が……現れてな―

 

―呆然としているわしの前に、女は何かを差し出したのじゃ―

 

 

「これを……わしに?」

 

 

―それは純白の薄絹に包まれた、一人の赤ん坊じゃった―

 

―わしはどうしていいか分からんかったが、兎に角女が赤ん坊を押し付けようとする物で、一先ず受け取る事にしたんじゃ―

 

―すると……―

 

 

―女は、わしを外まで導くと、天を仰いで空高く上った月を指差した。そして……―

 

 

「うわっ!」

 

 

―……そのまま、その姿を四つの流れ星に変化させ、バラバラの方向に飛んで行ってしまったんじゃ―

 

―この世ならざる何者かが、わしにこの赤子を託したのだ、と思った―

 

―だからわしは、その赤子を……つまり亨夜、お前を育てる事にしたのじゃ―

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ちょっと待て祖父ちゃん……。幽霊とか色々と突っ込み所は有るけど、これだけは言わせてもらえるか?」

 

 

「なんじゃ?」

 

 

「育ててないんじゃないのか、オレの事?」

 

 

「うむ。その理由はこれから話そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―祭壇の上に学園を建て、合法的にあの土地をわしの物にした―

 

―そして、あの幽霊が飛び去った四つの方向を人を使って調べさせ、何か変わった事が無かったかと調べた―

 

―しばらくして、現れたのがわしの友人の……お前の父親じゃ。あいつが言うには、南に飛び去った星が落ちた辺りで、お前と同じあの日あの夜、身元不明の赤ん坊が発見されて警察に保護されたらしい―

 

 

「わしはその赤ん坊……女の子も引き取って、お前の妹として育てる事にしようとしたんじゃが、あいつに頼まれたんじゃ。あの日に生まれながら命を落とした息子の変わりにお前を育てさせてくれ、とな。つまり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それが、オレと美由紀」

 

 

本来『荒谷亨夜』と名付けられた子供は亨夜ではなく、その命を落とした子供である事、それが一番の驚きだった。

 

 

「そう言う事じゃ。あの時、お前を育てようとしたあいつの必死さは、ただ子供を失った哀しさだけではないと思えてな。仕方なくお前の事をあいつに託す事にしたんじゃ。それから、少しでも妹となるはずだった美由紀ちゃんと一緒に居させてやりたいと思って、今まで以上にあいつの家と懇意にしていた」

 

 

「……父さんが、何かと戦ってた……?」

 

 

「その通り。じゃが、奴が言うには『詮索は止めて置いた方が良い』と言う話らしい。息子を求める必死さや、奴の背後に居る何者か、あいつも何かと必死に戦っているのじゃと思う」

 

 

自分の出生の秘密と実の父親だと思っていた相手の背後にある正体不明の何者かに対して、思わず驚きの余り黙り込んでしまう。

 

 

「お前と美由紀ちゃんは、本当の従兄妹じゃない」

 

 

「………」

 

 

「美由紀ちゃんは頭の良い子じゃからな。何かの拍子に、自分はわしの本当の孫では無い、養子なんだと言う事を知ったんじゃ。それで、色々調べたみたいじゃな……。お前との間に血の繋がりが無いと言う事を知った美由紀ちゃんは、随分悩んでおったようじゃ」

 

 

「………」

 

 

亨夜は改めて思う、真実を知った渚はこんな気持ちだったのだろうかと。父親の背後に居る何者かの事も気になるが、それ以上に今は自分を構成している物が崩れていく事に対する感覚に飲み込まれない様にするだけで必死だった。

 

 

(……全然知らなかった……。オレはずっと……当たり前の様に血の繋がった従兄妹だと思ってた。まあ、従兄妹と他人……その二つの違いは少ないだろう。実際、従兄妹同士で結婚も出来るって聞いた事は有るしな)

 

 

その一点は苦笑してしまう。実際、親兄弟と従兄妹……それは亨夜にとって血の繋がりがある他人と言う程度の認識でしかない。……もっとも、昔から美由紀の事は凛と同じ妹の様に思ってはいたが。

 

 

だが、そんな亨夜の事を、美由紀はそう思ってなかったのかもしれない。

 

 

(……何でだろうな……。足場も無い空中に立っている様な感覚……オレは誰なんだ?)

 

 

亨夜と言う名前さえも己の物でなかった。なら、母や妹の家族の敵として今までワームを憎んで戦って来た意味は……。

 

 

(……何も無い……のか?)

 

 

 

 

―『私の気持ちなんて、何にも気付いてなかったんでしょ?』―

 

 

 

 

何時か美由紀に言われた言葉が思い浮かぶ。あの時の言葉に込められていた感情……それが、今になってやっと、その意味と重さが理解できた。

 

 

「行き成りこんな事を打ち明けられて、びっくりしとるか?」

 

 

「……かなり……」

 

 

六介は曖昧な笑顔を浮べたまま、亨夜の肩にポンっと手を乗せて言った。

 

 

「わしの手で育てられなかったのは残念じゃったが、大きくなったなあ……あの赤ん坊が。あいつに託して正解じゃったのかもしれん」

 

 

「…………」

 

 

ゆっくりと見上げる空に浮かぶ月は、やはり自分の象徴だと思う。闇の中で輝く姿は、孤独である様に見えるが決して孤独ではない。太陽であるカブトと対照的に月だと思っていたが、それは違うだろう。

 

 

「わしには生涯愛すると心に決めた女が居てな。じゃから、他の女とは契る事も無かった」

 

 

「じゃあ……オレの母さんは? 美由紀の両親は?」

 

 

「美由紀ちゃんの両親は生まれて直ぐに死んだと言ったがな、ありゃ嘘じゃ。お前の母親……凛ちゃんの母は養子じゃよ。わしの知人があの子が産まれて直ぐに亡くなってその娘を引き取ったんじゃ。お前の本当の両親の事は、まったく分からん」

 

 

「そっか」

 

 

苦笑を浮べたくもなる。何を悩んでいたのだと。『本当の両親』と言う言葉を聞いて改めて思う。

 

 

「じゃがな、それでも敢えてわしは言うぞ」

 

 

「ああ」

 

 

「亨夜、わしはお前を、大事な大事な家族じゃと思っとる」

 

 

「祖父ちゃん」

 

 

「そして、美由紀ちゃんの事もな」

 

 

「うん…そうだな」

 

 

家族に本当も嘘も無い。少なくとも、顔も知らない本当の両親よりも、今まで一緒に暮らしてきた人達の方が亨夜にとっては、本当の家族だ。それが亨夜の出した結論。だからこそ、凛は亨夜にとっての妹であり、美由紀も大事なもう一人の妹のような従妹。それで良いだろう。

 

 

そして、それと同時に不思議と合点が行く所が幾つも出てくる。

 

 

「……それでな。他の三つの星。これはあいつの協力も有ったが、中々調査が難航したんじゃ。山奥に落ちていたり、海に落ちていたりしてな。それでも、何年か掛けて、わしらは全ての星の行方を調べ上げた。思った通り、それぞれ三人、身元不明の子供が居たよ」

 

 

六介の言葉に思い浮かぶのは七海、綾香、渚の三人の顔。まさかと思いながらも口には出さず、言葉の続きを促す。

 

 

(……ネノクニに美由紀も行っているとすれば……。オレや綾香さん達がネノクニに行ったのは……)

 

 

「わしはその子供達が皆この町に……この出雲学園の側に住める様に、上手く手配した。それが、七海ちゃんに、綾香ちゃんに、渚ちゃんなのじゃ」

 

 

「……やっぱり……」

 

 

亨夜達五人を運んで来たという幽霊。……それが現実の事で、死んだ人間だとすれば、それはネノクニの者で有る事に間違いは無いだろう。亨夜達五人は皆ネノクニで生まれた者だったと言う事だ。

 

 

「まるでそうする事が当たり前で有るかのように、お前達は本当に仲良しになってすくすくと育っていった。まあ、お前は心配な事も多かったがな」

 

 

「ほっといてくれ」

 

 

凛が死んだ時期と、ZECTに入り始めた時期の事だろう。其処を言われてしまうと何も言い返す事が出来ない。

 

 

(アマテラスの言っていた伝承にある救世主、それを護る為の四人と一匹の従者)

 

 

亨夜、七海、綾香、渚、そして美由紀で五人。一匹をガタックゼクターだとすれば……伝説と現実が交差する。

 

 

(全ては最初から定められていた運命だったって事か……)

 

 

 

 

―戦いの神ガタックに選ばれし者 荒谷亨夜―

 

 

 

 

そして、救世主である亨夜がガタックとなりネノクニとは関係のない一匹の従者を得る為の運命だとすれば……。

 

 

(……悪霊、その親玉が誰であれ……倒す理由が出来たな)

 

 

凛が死んだのも、その運命の為の不可欠な欠片だったのかもしれない。そう思うと、復讐者としての亨夜もまだ見ぬ悪霊軍の親玉への敵意が浮かぶ。

 

 

美由紀を助けるだけじゃない。ネノクニの為に戦う理由も出来た。

 

 

「……亨夜、お前が何かを決意している事くらい、わしにも分かる」

 

 

「………」

 

 

「何も聞かん、止めはせん、お前も男じゃ、黙って旅立ちたい時は旅立てば良い」

 

 

「祖父ちゃん」

 

 

「その刀、必ず役に立つ時が来るだろう、持って行け」

 

 

「……ありがとう、祖父ちゃん。恩に着るよ」

 

 

ゆっくりと祖父から渡された刀を握り締めながら簡潔に言葉を告げる。

 

 

「美由紀ちゃんを、頼んだぞ」

 

 

「ああ、分かった」

 

 

そう答えながら再び刀を抜く。これから先命を預ける事になる武器を改めて見ると、其処には銘が彫ってある。

 

 

(……『十拳』か……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガタックゼクター」

 

 

祖父との会話を終えると、すっかり夜も更けていた。亨夜は竹刀袋に包んだ祖父から受け取った刀を手に、ガタックゼクターと共に出雲学園へと向かう。

 

 

………流石にこんな夜中に日本刀をそのまま持って歩くのには抵抗がある。警察に見付かったら拙いし。

 

 

(皆に何も言わずに行くって言うのに抵抗がない、なんて言ったら嘘になるけどな)

 

 

だけど、そうすれば皆も付いてくると言う事は直ぐに分かる。主にライダー側の関係者も、約一名を除いて全員が協力してくれそうな人達ばかりだ。

 

 

(だけど、これはオレと美由紀の問題だ。皆を巻き込むわけには行かない)

 

 

もし、七海達三人がネノクニの生まれだとしても、彼女達には平和な世界の中で平和に暮らして行ってもらいたい。

 

 

(……まさか、オレがそんな事を思うようになるなんてな……。まあ、あの世界に戻るのは……オレ一人で良い)

 

 

自分の変化を自覚すると改めて苦笑してしまう。そもそも亨夜自身、この平和な世界の裏側と言うべき部分で戦士として戦い続けてきた。だからこそ、平和に生きていく側の人間であるべき彼女達をこれ以上、戦いの中に巻き込みたくないとも思う。

 

 

何時もの坂を上って出雲学園へと向かう。その時、

 

 

「うわぁ!」

 

 

行き成り目の前が真っ暗になる。

 

 

「えへへ、亨夜ちゃん、だ~れだっ!?」

 

 

「……はぁ」

 

 

突然の事に驚いた亨夜だが、その声を聞いて安堵と共に溜息を吐く。少なくとも、それほど油断していた心算は無いのだが……

 

 

「綾香さん……」

 

 

「えへへ……」

 

 

振り返ると其処には綾香の姿があった。

 

 

「……あの……」

 

 

何か言おうとしたのだが、言葉が出ない。本来なら、『危険だから、帰ってくれ』と言うべきなのだが……。

 

 

「……綾香さん……」

 

 

「私が気付かないとでも思ったの?」

 

 

「……連れて行けないと思ったんだ」

 

 

「分かってるわ」

 

 

「……本当は一緒に行って欲しかった。けど」

 

 

彼女達は何度もワームとの戦いで死線を潜って来た戦士である亨夜とは違う。

 

 

「そんなこと、言えなかったんだ。綾香さん達はオレとは……」

 

 

「ストップ。それも分かってる」

 

 

「綾香さん」

 

 

ニッコリと微笑みながら亨夜の言葉を遮り、綾香は言葉を続ける。

 

 

「分かってるでしょ、私も、美由紀ちゃんを助けたいのよ」

 

 

「……」

 

 

「それに、幾ら皆を守る正義のヒーローをやっているって言っても、亨夜ちゃんを一人じゃ行かせらんないわ」

 

 

「ありがとう、綾香さん」

 

 

追い返すのは諦めた。寧ろ、そう言って貰えることが嬉しい。それに、一人で行くのは心の何処かで不安に思っていたのだろう。弱くなったと思う。だが……それはそれで良いとも思っている。だからこそ、綾香が来てくれるのは心強いのだ。

 

 

「二人で頑張れば、きっと上手く行くわよ!」

 

 

「……ああ。そうだね」

 

 

「さあ、行きましょう!」

 

 

「うん!」

 

 

綾香と共に出雲学園に着くと校門を潜り、あの祭壇のある地下室へ……

 

 

「先輩! 亨夜先輩!」

 

 

「えっ?」

 

 

向かおうとした時、新たに聞こえてきた声に思わず足を止めてしまう。声の聞こえた先から走ってくるのは……

 

 

「七海、ちゃん!?」

 

 

「亨夜先輩、酷いですっ!」

 

 

「えっ、な、なんで…?」

 

 

七海の抗議の声に思わず慌ててしまう。色んな意味の篭った『なんで?』なのだが、

 

 

「私に黙って行っちゃうなんて……」

 

 

「そ、それは……」

 

 

滅多に見せない七海の怒りの表情に思わず気圧される。彼女が本気で怒っているのが分かるからこそ、亨夜は思わず口篭ってしまう。

 

 

「綾香先生は一緒なのにっ……」

 

 

「い、いや、これは違うから! 元々一人で行く心算だったから……」

 

 

「私は……私は、そんなに……」

 

 

「えっ?」

 

 

七海の瞼の端に光る涙の雫。

 

 

「ぐす………。私はそんなに、頼りになりませんか?」

 

 

「そんな事は……」

 

 

泣き出した七海に思わず戸惑ってしまう亨夜。

 

 

「ごめん! でも、違うんだ」

 

 

胸元に抱きしめて涙を拭う。

 

 

「先輩のバカァ……」

 

 

「だから違うんだって! 本当に、綾香さんは勝手に勘付いて着いて来ただけで、オレは一人で行く心算だったんだ!」

 

 

「それでも、酷いです……」

 

 

「……」

 

 

「そう言うの、私が一番傷付くって、知ってるはずじゃないですか、先輩……」

 

 

「……ごめん」

 

 

そう、それを知っていた。知っていたというのに、彼女には何も知らせずに向かう事を選んだ。

 

 

「何でも相談して欲しかったです。だって私、先輩のこと……」

 

 

「危険だと思ったからだ。君を巻き込みたくない、そう思ったから……」

 

 

「何でも話して欲しかったです。たとえそれで私が危険な目にあうとしても、恨んだりしません……」

 

 

「……」

 

 

「だって、それが友達じゃないですか……」

 

 

「ごめん、七海ちゃん」

 

 

亨夜は七海の髪を優しく撫でて謝る。

 

 

「……ぐすっ、先輩……私も、連れてって下さい」

 

 

「……」

 

 

亨夜は七海の懇願に綾香の方を見るが、当の綾香は優しい笑みを浮かべながら首を横に振る。

 

 

「そうだな。今から帰れと言っても、聞かないよな」

 

 

「当たり前です!」

 

 

「分かった、一緒に行こう!」

 

 

「……ほんとに良いんですか?」

 

 

「ああ。行こう。一緒に頑張ろう」

 

 

「……はいっ! 頑張ります!」

 

 

嬉しそうな七海を他所に、亨夜は心の中で思わず溜息を吐く。

 

 

(やれやれ、結局二人とも着いて来ちゃったか)

 

 

何となくもう一人も着いて来そうな予感は有るが、今度こそ二人と共に祭壇の間へと向かおうとする。

 

 

「ま、待ってぇ~っ……」

 

 

予想通り渚の声が聞こえてきた。その声に振り向くと、

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「はぁ……」

 

 

思わずコメントに困る三人だった。

 

 

「ま、待ってよぉ! あんた達、あたしを置いてく気!?」

 

 

内心、頷きたい気分な亨夜だった。渚は馬鹿でかい鞄一杯に詰め込んだ荷物を引きずりながら、叫び声を上げながら此方に向かってきている。

 

 

「あー、もう待ってるから叫ぶな! 人に見付かるだろ!」

 

 

「だ、だって、先々行こうとするんだもん」

 

 

「大体、何だよその荷物は、遊びに行くつもりか!?」

 

 

「折角だから色々持ってこうと思ったら、こうなっちゃったのよ」

 

 

少なくとも、その大半の荷物が不要になる事だろう。

 

 

「はぁ……とにかく、渚ちゃん。それじゃかさばるから、せめて半分くらいは保健室に置いて行きなさい」

 

 

「ええ~、そんな~」

 

 

綾香の言葉に不服の声を上げる渚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、渚の荷物を保健室に置いてから目的の地下室のある教室へと向かう一同……

 

 

「みんな、結構色々と持ってきたんだな。準備万端って感じだ」

 

 

「はい、色々持ってきました。使えそうな武器とか……」

 

 

七海の中々頼もしい言葉。七海は弓を、渚はレイピアを、綾香は改造済みと思われるモデルガンを持ってきていた。亨夜もガタックゼクターとベルトの他に祖父から貰った刀も有るし、これで準備は万全だろう。流石に防刃ジャケットやガタックエクステンダーも持って行きたい所だが、両方とも手元に無い為に諦めたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が祭壇の間に集合する。

 

 

「まったく……結局全員揃うんだからな」

 

 

「えへへ……」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「でも、何で分かったんだ? 秘密にしてたのに」

 

 

一人でこっそりと行く心算だったのだが、どうして全員揃ってしまったのか?

 

 

「それは……ねぇ?」

 

 

「うふふ……」

 

 

「亨夜、あんたって単純だから、分かり易い所多いのよ」

 

 

「な、なんだと」

 

 

「あはは。もう、何年つるんでると思ってるのよ」

 

 

「……なんだよ、人が色々悩んだのに……」

 

 

改めてバカだったと思う。

 

 

「そうだよな、答えなんて最初から出てる。道は前にしかない」

 

 

道を勝手に作りそうな奴もいるが、そう言うヤツラに限って前しか進んでいない。だからこそ、悩んで立ち止まるよりも、前に進んだ方が良いに決まっている。

 

 

「美由紀ちゃんを助けに行くのよ。決まってるじゃない」

 

 

「それに、アマテラスさんの事も……あのまま放っておけないです」

 

 

「乗りかかった船だからね。私達がすっきりこっちの世界に戻って来る為にも、全てのケリをつけなくちゃいけないわ」

 

 

祭壇に手を添える四人。

 

 

「そう言えば、亨夜ちゃんのお友達は?」

 

 

「……ああ、あいつ等……って言うか龍牙なら、多分向かいたい世界は別だろうから」

 

 

「別?」

 

 

亨夜の言葉に渚が疑問の声を上げる。

 

 

「あいつの事はどうだって良い。あいつにはあいつの目的が有るんだからな……」

 

 

そう、龍牙が向かおうとしていたのは皆既日食の世界だ。そう言って会話を切り止めると、眼を閉じてネノクニに居るアマテラスの事を思う。

 

 

「強く思い、願う事は、実現する……それが、夢を紡ぐ力」

 

 

アマテラスの言葉を思い出す。

 

 

「オレは……美由紀を連れ戻す。今度こそ、皆で戻るんだ……オレ達の世界へ」

 

 

大切な日常の光景。確かにワームと戦うライダーとしての日々は帰って来ていた。だが、日常の中には大事な一部分が欠けている。

 

 

「鏡よ!!!」

 

 

亨夜の叫びに呼応するように、鏡は一団と眩い光を放ち、祭壇をその光で白く染め上げる。

 

 

「もう一度、オレ達をネノクニへ、導け!」

 

 

視界が白く染まると、肉体と精神が多重化する。己と世界との輪郭がぶれていく感覚。

 

 

「行ける…」

 

 

亨夜達の魂は肉体を抜け出して夜空を貫く一条の光となって、遠く遠く、天空に浮かぶ月の向こう側にある世界……ネノクニへと再び、今度は自身の意思で旅立っていく。

 

 

 

 

 

 

 

つづく…







ってな訳で第二部の序章の終了です。出生の秘密と集う仲間たち、そして再びのネノクニへ。



翔「随分と悩みが解決したな」



まあ、どちらかと言えば顔も知らない実の両親よりも、育ててくれた家族と言う所ですね。実際、本当の両親と出会えば変わるかもしれませんが。では、次回もお楽しみに。
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