IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
携帯の着信音が鳴った事に気がつくと、ディスプレイで掛けてきた相手を確認する。
「七海ちゃんか。」
電話の相手を確認すると亨夜は迷う事無く通話ボタンを押して、スピーカーに耳を当てる。
「もしもし。」
『あっ、先輩……あの、夜分遅くすいません。』
そう言われて時計を確認すると、時間は11時半を指していた。確かに、遅い時間では有るが、それ以上に電話の向こうの七海の声が沈んでいる様に感じてしまう。
「いや、気にしなくていいけど。………どうしたの?」
『……あの……美由紀ちゃんの事なんですけど。』
「どうしたの?」
声色から考えてそれは吉報とは呼べない物で有る事は容易に想像できる。
『ごめんなさい、なんだか……うまくいかなくて。』
「いや、いいんだ。元々無理言ったのはオレだからさ。」
『あの……美由紀ちゃん、放課後に先輩と私が立ち話してるの、どうも何処かで覗いてたみたいなんです。』
「…そうなのか…?」
思わず心の中で溜息をついてしまう。ひょっとしたら、あの時、美由紀も七海に相談に行ったのかもしれない。そう考えてしまうと、七海に会わずに帰っていれば、美由紀は相談できていたかもしれないのだ。自分の判断の甘さを悔やむしかない。
(…そうだとしたら、オレの責任だな…。)
『……さっき電話してそれとなく今日の事聞こうとしたんですけど……すごく怒ってて、『お兄ちゃんに言われたんでしょ、スパイみたいな事しないで!』って。』
「…ごめん、七海ちゃん。オレのせいで…。気を悪くしないでくれ。」
『ううん…いえ、ちょっとびっくりしたけど…なんか美由紀ちゃん、すごく意固地になってるみたいで、私が何を言っても聞いてくれなくて。』
『美由紀がそんな事を言ったのか?』と考えながら思わず頭を抱えてしまう。思わず自分と美由紀が奇しくも言葉と行動の違いこそ有れ、そんな似たような事をしていたのを聞き、思わず頭を抱えてしまう。
(…育った環境が近いと行動も似るものか…?)「本当にごめん。あいつがそんな八つ当たりみたいな事を……。」
『ううん、ほんとにこれくらいなんでもないんです…。…ただ、先輩の御力になれなかったのが、残念です。』
「いや、いいんだ。七海ちゃんがあいつの為に骨折ってくれたのは嬉しいから。」
『いえ、……美由紀ちゃんは、大事な友達ですから。』
亨夜は七海の言葉に自然と笑顔を浮かべる。
(ほんと、美由紀も良い友達を持ってるな…。オレにも…態々心配してオレの為に骨を折ってくれた人達もいるんだからな。)
自分にも美由紀にも本当に助けになってくれる良い友達が、仲間が居る事に心から安心していた。だが、同時にある不安も生まれてきていたのも事実なのだ。
「あいつの事が心配だな、このままじゃ、友達をなくしてしまうんじゃないかって。」
『留美ちゃんのことですか……?』
「…知ってるの…?」
『いえ、全然事情は分からないんですけど、美由紀ちゃんがブツブツ言ってて……留美ちゃんもグルだとかなんだとか。』
「………はぁ。何だそれは…言ってる事がメチャクチャだ。」
必要以上に頭に昇った血が暴れた事で落ち着いたのか、亨夜は何処か冷めた頭の中でそんな事を考えてしまう。それは、はっきり言って身勝手にもほどがある。
『……先輩、教えてください。何があったんですか?』
「………。」
真剣な七海の言葉に思わず言葉に詰まってしまう。ここで自分の知っている事を言うべきか言わざるべきか悩む。
『終礼の時に留美ちゃんと美由紀ちゃんの態度がちょっとおかしかったんで気になってたんですけど……もしかして、先輩と何か有ったんですか?』
七海はまだこの一件の事は細かい事までは知らないのだろう。当事者ではないのだから、当然と言ってしまえば当然なのだが。だからこそ、もう一人の当事者である留美の事を考えて、ここで七海に話すべきか迷ってしまう。
「…ごめん…これは…オレと美由紀だけの問題じゃないんだ。だから、詳しい事はちょっと言えない。」
『………。』
電話の向こうの七海の返事が数秒ほど空く。
『そうですか……うん、しょうがないですよね。』
「ごめん。」
『いえ、先輩のそう言う気配りって、優しさだと思います。』
「…そんなものじゃないと思うけど…。」
『ううん。先輩のそう言うとこ、好きです。だから、これ以上聞きません。』
「………そうか………。ありがとう。」
真面目な話しをしている時に不謹慎だが、好きだと言われて思わず『ドキ!』としてしまう。
『美由紀ちゃん、たいぶ怒っていたから、明日はあんまりうまく話せないかもしれないけど、私は私なりにがんばりますね?』
「ごめん。面倒をかけて。」
『なに言ってるんですか、水臭いなあ。先輩も、美由紀ちゃんも、私にとって大事な大事なお友達なんですから。』
「ああ…。そう言って貰えると嬉しいよ。」
『それじゃあ、もう遅いですし、切りますね。おやすみなさい、先輩。』
「ああ。おやすみ、七海ちゃん。」
電話が切れる音が聞こえる。
「はぁ。………まったく、美由紀の奴………。」
怒りを感じても今から彼女の所に怒鳴りに行く気はない。相手がワームとは言え八つ当たりは自分もしてしまった事なのだから。
そんな複雑な心境と自分を心配してくれた仲間達への感謝を思いながら、部屋の電気を消してベッドに横になる。
(…ここ数日、連続で見ているあの夢…まさか今日も…。勘弁してくれ、夢の中くらい今日は安らかで居たい気分なんだ。)
少しでも良い夢が見れるようにと思いながら眠りにつく。
「………これは何の呪いだ……?」
三度目の同じ夢、また泉の傍らに立っている亨夜はそう呟く。流石に三度目ともなると、これが例によって夢だと言う事は流石に簡単に理解する。
「…パターンなら、この辺で『救世主』とか呼ばれるんだろうが…?」
そんな事を考えていると亨夜の視界が白く染まっていく。『何だ?』と考えた時、視界は開けていく。
「ここは……通学路か?」
そんな呟きが零れる。今、亨夜が立っているのは通いなれた道…出雲学園への通学路だった。
「…三回目は少しは違う展開が楽しめるか…? 折角の夢だ、少しは楽しませてもらおうか。」
半ば自分に言い聞かせるようにそんな事を口に出していると、巫女の服装をした女性が視界の中に入ってくる。
以前の夢に見た女の子かとも思ったが、服装のデザインが違い、外見も大人びた感じがする。服装の差も恐らくは目の前の女性の物がどちらかと言えば正式な物なのだろう。
さて、それだけならまだ良いのだが…青白い燐光を纏って向こう側の景色が微かに透けて見える。いや、彼女が半透明なのだろう。ご丁寧な事に足の方も見えない。…それはつまり、
「まさか……貴様、ワームか!? ガタックゼクター!!!」
いや、亨夜よ、違うから。いくらワームでも、普通は半透明になんてならないから! どうでも良いが亨夜の宣言に巫女装束の女性もズッコケている。
「軽い冗談だ。……………。…まさか……立体映像か? どこに投影機があるんだ?」
って、今度は現実的過ぎるぞ亨夜!!! 見れば、巫女装束の女性も顔面から地面にダイブしている。
「冗談だ。」
いや、亨夜よ…頼むから真面目にやってくれ。
「分かってる、作者。いや、そっちのアンタもそんなに怒るな。」
…では、気を取りなおして…
「…幽……霊…?」
警戒心を露にする亨夜を見て、満足する様に亨夜の方へと振り向く。暗い事も有り、顔は良く見えず、その様は『こちらに来い』と言っているようにも見える。
「…どう言うつもりだ?」
警戒心を露に目の前の女性を観察していると、彼女はその腕を持ち上げて、学園の方を指差す。
「…あっちに行け…そう言う事か?」
肯定とも否定とも取れない固まったままの女性。だが、それは不思議と肯定の意思を感じさせている。
「…学園に行け…と言う事なのか?」
その言葉に肯定の意思を示すように女性は亨夜を振りかえる。
「そうか、だったら…行って見ようじゃないか。」
女性に先導されながら、亨夜は坂道を上り始める。相手に害意がないのだし、夢の中ではガタックゼクターも呼べないのだ。無駄な事はせず大人しく女性の後を着いていく。相手に敵意が感じられないとは言え、こうまで簡単に着いていくのは後になって考え見ると、自分でも不思議だったと亨夜は後ほど語っている。
(…気のせいか…どこかで見覚えが有るような気がするのは…?)
時々亨夜の方を振りかえりながら歩いている女性に対して持つそんな疑問。それに対する答えは持っていなかった。
「出雲学園…それも旧校舎か?」
何時の間にか旧校舎の入り口である石段の所に立っている女性を眺めながら、そう呟く。彼女に連れて来られたのは通いなれた出雲学園なのだ。彼女自身の目的地は旧校舎の様だが、何の意図が有って亨夜をここに連れてきたのかはまだ分からない。
更に亨夜を誘う様に入り口に立ったまま彼の方を振り向いているのだ。
「面白い…こっちに来いと言う事か?」
冷たい笑みを浮かべながら近づいていく。あと数十メートルと言う所でドアをすり抜けて校舎の中へと姿を消していく。それに少し遅れながら、亨夜の校舎の中へと足を踏み入れた。
「今度はそっちか。」
今度は亨夜を待っていたのか、廊下の少し先でたたずんでいたが、亨夜を確認すると再び動き出す。
(…何の用だ? この幽霊。死体が埋まっていると言うオチは御免だぞ。)
よく有るパターンを思い出しながら、後を突いていく。そして、今は使われていない空き教室の前で停止する。
「…入れ…そう言う事か?」
無愛想な態度で亨夜を振りかえる。一応、それは『YES』と言う事なのだろう。
「………。」
直接ドアの前には立たず油断なく横から様子を覗いながら一気に開き、そのまま床を蹴って距離を取る。何かが出てくる様子はない。待ち伏せや罠の類は何もないのだろう。
それでも、慎重に教室の中に入っていくが本当に何もなかった。部屋の広さは数メートル四方と言う所。教室としては狭すぎる上に窓もない。机でも置いて生活指導室(通称:説教部屋)だったのだろうと勝手に予想する。
「ホントに、何もない部屋だな。ここに何の用が有るって言うんだ?」
四方を囲んでいるのは雨漏りが酷く腐りかけている板張りの床と、窓一つ…塗装もされていない四方を囲むコンクリート壁。何の目的でこんな部屋に連れてきたのだろうと考えて、女性の方を振りかえる。
「……。」
彼女は無言のまま指だけを下に向けている。その先にあるのは…当然ながら、板張りの床。
「…ここ掘れ…ってか?」
「………。」
亨夜の言葉に対する無言の肯定。さっさと開放されたい亨夜としては、その言葉に従って注意深く指示された場所を確認して見る。
「ん?」
何故か地面の下から聞こえてくる『ピピピ…』と言う音。
「目覚ましか…やれやれ…結局、朝までこんな夢か…。」
意識が覚醒へと向かっていくのを感じながら、亨夜はそんな事を呟くのだった…。