IZUMO ~蒼き戦士の戦記~ ~赤の英雄、蒼の復讐者~外伝 作:龍牙
美由紀を追い掛けて亨夜は廊下を全力疾走する。
「美由紀!」
前を走る美由紀に追い着くと、肩を捕まえて、抱え込む様にその場に立ち止まらせる。
「美由紀、お前、ちょっと落ち着け!」
亨夜は厳しい声で美由紀を怒鳴る。それは以前感じ、暴走の原因となった『怒り』とは別の感情。言うなれば、『恐怖』だろう。彼女が自分のせいでこんな風に友達を無くしてしまう事への…。
「お前は何を考えているんだ!? あんないい友達に酷い事を言って!?」
「うるさいっ! お兄ちゃんには関係ないでしょっ!?」
「…お前、少しおかしいぞ!?」
「おかしくないよ! 私、何時でもこうだもの。お兄ちゃんは知らなかっただけでしょ!?」
「………っ!」
美由紀にそう言われて思わず言葉に詰まってしまう。そう、自分は本来、兄妹同然に育ったとは言え、彼女とは単なる従兄妹と言う関係であり、それ以上にここ最近ではZECTでの活動の為に知っていると言うほど一緒に居た事はないのだから。
誰も居ない廊下で言葉に詰まる亨夜の心境を知ってか知らずか、酷く自嘲的な口調で喋りつづける。
「私の気持ちなんて、何も気付いてなかったんでしょ?」
「……。」
「お兄ちゃんなんて、私の事何も知らないくせにっ!」
そう…本当に亨夜は彼女の事は何も知らなかった。結局、今まで、彼自身、自分自身の復讐の為に生きてきたのだから、他人の気持ち等考えた事などなかった。
黒く染まった闘志を誰かに利用されても構わなかった。それが、邪魔にさえならないのならば…。邪魔をするなら、誰であっても排除していく…組織の中の歯車になっても、自分は結局、復讐者…歯車で有る事が復讐の妨げになるのなら、何時でも全てを捨て去る覚悟は…全てを破壊する覚悟は出来ていた。
だが、ここ数日の出来事で、矢車や剣、綾香の言葉でその自分の愚かさを自覚し始めていた…。だから、この美由紀の言葉は深く心に突き刺さる。
いつでも、そばに居たのに…今までの自分はそんな家族のことも何一つ理解し様としていなかったのだ。彼女が抱えている心の闇さえも…。
瞳一杯に涙を浮かべる美由紀。
「お兄ちゃん、私の事、嫌いになったでしょ? 怖くなったでしょ?」
「………。」
「えへへ、いいのよ別に。だって、私もこんな私が嫌いだもん、怖いもんっ。最低、最低最低、私なんて最低だよッ!」
美由紀の纏っていた悪魔的な虚勢が、ぽろぽろと綻び、崩れていく。
「そうやって、私の事なんか忘れて誰かと仲良くしてればいいんだよっ!」
「……美由紀……。」
彼女の言葉は亨夜の纏っていた『復讐者』の鎧の隙間から心へと次々と不覚突き刺さっていく。
「知らないっ! もう何も聞きたくないっ! ほっといてよ!」
そう叫び、亨夜を突き飛ばし、美由紀は学園の外へと走り去っていく。
「………痛いな………。」
その痛みは身体の痛みではなく心の痛みだ。これが自分が復讐者と普段の仮面を被って生きてきた事への代償なのかと思うと余計に痛くなる。
「……最低なのは…オレの方だろう…。」
気付く事も…気付こうとする事も…知ろうとする事もなかった。それ故に周りの者を傷つけてしまった。最初は美由紀を…そして、自分や彼女の周りの者までも…。
「ガタックゼクター。」
彼が呼ぶとガタックゼクターはすぐに掌の上に現れる。
「…いいのか…オレが…ガタックで有りつづけて…このままじゃ…オレは……オレは!!!」
そんな時に昼休みが終わるチャイムが鳴る。
「………追い掛ける…資格なんて無いよな…オレに。」
結局、最初から自分は間違っていたのかもしれない…。今までも…今も…これからも…。
「…渡し損ねたよな…カニコロパン。」
結局、上の空のまま授業は終わりを迎えた。
「…帰るか…。」
家に帰って美由紀と会うのは怖い。自分の犯してしまった罪と向き合うのは恐ろしい。せめて時間つぶしに何か無いかと思うと…
「そう言えば、調べたい事があった…。」
例の夢に出てきたあの教室、あれを調べ様と思っていた事を思い出した。夢の中の出来事を本気にしてはいないが、今は家に帰らない口実が欲しい。ZECTの謹慎が無ければ…長期の任務の一つや二つ引き受けたい所だと言うのに…上司の心遣いが今は憎く感じてしまう。
「行って見るか。」
「さて…。」
玄関に出た後、今朝の夢に従って校舎の廊下を進んでいく。
「…ここまでは、本当に夢のままだな。」
学生と言えど学園の隅々までは知っていない。教職員専用の部屋や現在は使われていない部屋等、普通に生活する分には縁が無い部屋も多いのだ。故に知らない教室があっても不思議ではないが、それが夢の内容と一致するのは不思議以外の何者でもない。
「…どう言う事だ…?」
まるで現実と記憶の境界線が消えているとも感じてしまう。
「面白い…鬼が出るか、蛇が出るか…ワームが出るか? 楽しみだな。ガタックゼクター。」
そう呟くとガタックゼクターが亨夜の肩に現れる。鬼が出てもワームが出ても、この相棒が…ガタックゼクターが居れば恐れる物は何も無いのだ。
そして、問題の教室の前へと到着する。そして、今朝の夢の様に警戒しながら、ドアを開き、唯一の相違点ガタックゼクターを掴み、何時でもガタックベルトへと指し込み変身できる様な体勢をとる。
(…考え過ぎだったか…?)「って、拙い…これ、鍵が古くなってたのか?」
床に落ちた金具…なにぶん、理事長は身内なのだ…ばれたら間違い無く、自分へと振りかかってくる。
「…まあいいか。勝手に古くなって落ちただけだ。」
深く考えない事にすると開かずの教室の中へと入っていく。
(…ここまで一緒とはな。)
部屋の広さは数メートル四方、教室にしては狭すぎる。
「…何も無いし、まあ、これだけ古い教室だ…似て居ても不思議は無いか…。」
雨漏りが酷く腐りかけている板張りの床、塗装どころか窓一つ無い、ただ四方を固めただけのコンクリートの壁、閉め切っている筈なのに部屋の湿気は酷い。本当に幽霊でも出そうな雰囲気である。
「ここか?」
夢の中で最後に立った場所にしゃがみ床に触れる。夢の中の女性はここを掘れと言いたかった様だが…。
ゴン!
一度叩いて強度を確認する。腐りかけとは言えちゃんとした木の床は簡単には壊せないだろう。だが、
「変身!」
《HEN-SHIN》
ガタックゼクターをベルトへと指し込み、『仮面ライダーガタック マスクドフォーム』へと変身する。人間の力では簡単に壊せなくても、所詮は木の床、コンクリートの壁さえも打ち破るライダーのパワーなら、簡単に壊す事は出きる。
「よし…ん?」
強化された視力が今までは見えにくかった部分を映し出す。女性の指し示した部分を中心にして、床板と床板の境界とは明らかに違う不自然な正方形の溝がある。
(…もしかして…。)
溝に片手を指し込んで、ガタックはゆっくりと軽く力をこめて、手前に引っ張っていく。掛け金が外れる音と共に床板がスライドし、簡単に隠し扉は開いていく。
「本当にあったのか?」
半信半疑だったが、現実に目の前に現れると真実だと言う事が理解できる。それは人一人が通れる位の地下室への入り口だった。
コンクリートで作られた、角の落とされていない無骨で粗末な階段がずっと下のほうまで続いている。学園に思っても見なかった隠し部屋の存在に驚きを隠せずに居た。今朝のあの夢はこれの存在を教える為の物だったと言われても、もはや疑問さえ出てこない。
(……。)
床板を壊す為に変身したままだったが、懐中電灯も要らずに暗い部屋の中を正確に見る事が出きるので、態々変身解除はしない。そして、木刀の入った袋を持ってガタックは謎の地下室へと向かって階段を降りていく。
「段々天井が低くなってきているな。」
上から出っ張っている岩を避けて前かがみになりながら、階段を進んでいく。塗装もされていない階段や横壁は意外としっかりとした作りになっているのが分かる。
「おっ。」
三十秒ほどの距離を慎重に一分ほど時間をかけて進んでいくと、目の前に明らかにコンクリートとは違う天然の岩石を削って作られた会わせ扉が現れた。よく昔話に出てくる『岩戸』と言う奴だろう。
岩戸の中心で左右の岩が重なって、固く閉じられているのが分かる。表面に少しだけくぼんでいる部分があり、丁度親指と小指の部分が窪みの中に固定されるのだろうがガタックに変身した状態ではサイズが合わないと考える。
「まあ良いか。」
だが、今のガタックはパワーはライダーフォームを上回るマスクドフォームなのだ、そんな物に手を入れなくても大丈夫だろうと判断して、指先だけを僅かに窪みに入れる。
だが、何故かそれはライダーの状態の手にぴったりと嵌っていた。
「まさか!?」
反対側にも同じものがあり、同様にぴったりと指が入る。そして、両腕に力を込め、岩戸を開いていく。完全に岩戸を開くとゆっくりとその中へと入っていく。
「なんだ…これ?」
目の前には自分が居るのが学園の地下で自分が科学の粋を結集して作られたライダーシステムを纏っている事を忘れさせる光景が広がっていた。
日本風の祭壇が目の前には存在していた。そして、ガタックは祭壇に祭られている古鏡の前に立つと、一つの物に気がつく。
「これは…数字とZの文字か?」
『03』『Z』と書かれた金属片、オーパーツというべきだろうか。後で調べて見ようと思って、今度は、古鏡へと視線を向ける。
「鏡か? 映るかな?」
銅を磨いて作られた『銅鏡』と言うべきそれの前に立ち、指先でそっと鏡面に触れる。その瞬間、
「なんだ!?」
触れた瞬間、空を引き裂くような怪音と共に銅鏡の鏡面が行き成り黄金に輝き始める。
「うわぁ!」
そして、突然、大地が揺れ始め、行き成り目の前に冷蔵庫ほどの大きさの鍾乳石が落下した。
「落盤だと!? 拙い!?」
強力な装甲に守られたマスクドフォームだが、生き埋めになったらどこまで持つか分かったものではない。少しでも地上へと近づく為に来た道を急いで戻っていく。
「なんで、こんな時に地震が!?」
岩戸から出ようとした瞬間…
「うわぁ!」
すぐ真後ろで打ち上げ花火が何十個も爆発したような炸裂音。閉じた瞼と慌てて覆った腕まで真っ白に焼きつきそうな閃光に、ただ立ち尽くす事しか出来なかった。
そして、視覚・聴覚両方同時に強力なショックに襲われ、意識が闇の向こうへとフェードアウトしていく。自身の悲鳴が、洞穴の崩れていく轟音と共に段々と小さく…聞こえなくなっていくのだった…。